ボードゲーム・ジャンクション特別版改め SNEゲーム・ジャンクション(1) 二人用ボードゲーム――『タルギ』と『アサンテ』 |
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2014年09月 発行 記事作成 安田 均 |
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グループSNEがcosaicさんとボードゲームやカードゲームを自社生産しはじめて、そろそろ1年が経過する。おかげさまでどの作品も好調で、ほぼすべて増刷がかかった。『タルギ』のみ品切れになっていて、いつ増刷しようかとタイミングを図っているのだが、近々そうなるはず(なにせ刷るときはどれも1500個以上なので、タイミング判断が必要)。お望みの人は、申し訳ないがもう少しお待ちください。 いや、実際『タルギ』はおもしろい。 名作だと思う。時間がかかり、遊んで理解するのにも手間のかかりやすいワーカープレイスメントを、ここまで2人用でコンパクトに遊びやすくまとめたのはすばらしい。ワープレ入門用には最適ではないだろうか。これだけおもしろいと、ほかの国なら、すぐに続編とか、もっと多人数で遊べるバージョンが出ても不思議はないのだが、作者のシュタイガーに聞くと、ドイツではそんなに甘くはないらしい。なにせ年間500以上の新作が出る競争の激しい国。しかも「いくつもある伝統の大手メーカー基準をクリアして出さねばならない」のは、かなりのネックだと言う。そうした関門を経て、これまでのドイツゲームがこのレベルに達したのかと思うと(緻密なゲームシステムとしてだよ。パーティゲームとか各国のお国ぶりとかはまた別)、なるほどという気がする。 しかもこれ、2人用のボードゲームということでも、いかにもドイツ的だ。ガチで遊ぶこの種のゲームは、日本やアメリカではトレーディング・カードゲームがほとんどだし、他の国なら将棋や囲碁的なアブストラクトゲーム(抽象ゲーム)になるしかない。 ところがドイツでは(特に『タルギ』のコスモス社)、ボードゲーム/カードゲームの発展を2人用のゲームにも取り込んで成功した。それはアブストラクトゲームの系譜を踏むけれども、もっと具象的で、運やコミュニケーションも絡む楽しいものだった。 |
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最初にお目見えしたのは1996年‘カタン’のクラウス・トイバーが作った『カタン・カードゲーム』。これがかなりのヒットをしたので、コスモス社は2人用のボードゲームをシリーズ化した。さすがトイバーだ。 その後も優れたデザイナーが優れた作品を出し続けたので、このシリーズはブランド化した。シュタイガーと話したとき、ドイツでも2人用ゲームはそれほど売れないが‘コスモス社’のものは別格のブランドイメージがあるから、そこで出せたのは嬉しかった、と言っている。 クニツィーアの『ロストシティ』、『アグリコラ』や『ボーナンザ』で有名なローゼエンベルクの『バベル』、あの『大聖堂』『王宮のささやき』のリーネックの処女作『ドルイドのワルツ』や第2作『ドラキュラ』もこのコスモス2人用シリーズだ。 そして、今回紹介するリュディガー・ドルンも、ここで『ジャンボ』という、ある意味画期的な2人用ゲームで高く評価された。 実は、今年11月にグループSNE/cosaicで刊行予定の『アサンテ』は、この人気が出て続編もいくつか作られた『ジャンボ』の改良決定版として、2013年に出たほやほやの作品なのである。作者のドルンは同じ2013年にはダイスゲームの傑作『ベガス』で話題になり、今年2014年には『イスタンブール』で念願のドイツゲーム大賞を上級部門で受けたばかり。いわば、いまもっとも勢いのあるゲームデザイナー。そうした彼のゲームのおもしろさを、ここはぜひ感じ取ってもらいたい。 |
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「アサンテ」はスワヒリ語で「ありがとう」という意味。つまり、これはアフリカ商人の交易ゲームだ。向かい合ったプレイヤー2人はこうした商人で、自分の手番に、それぞれの小さな交易ボード(屋台タイル)に「商品カード」で商品チットを6つまで載せ、それをまた「商品カード」で売っては稼いでいく。ときにはそうした行為をやりやすくするため、「秘宝カード」や「人物カード」「聖地カード」を活用したり、「動物カード」で相手に嫌がらせをしたりする。
最初に手元にある20ゴールドが先に60ゴールドに達したら、ゲームはほぼ終了する。相手側がさらにまるまる手番を最後までして、その結果ゴールドの多いほうが勝ち。60ゴールドに先に達したからといって、勝ちとは限らない。このようにルールはとってもわかりやすい。 先にも書いたように、これはいくつかある種類のカードを操作して、その組み合わせ(コンボなど)を楽しむゲームだ。それぞれの手番には5回まで手番行為がある。5回が終わると、手番は相手に移る。それまでにどううまく稼ぐか。邪魔が入ったり、コンボが炸裂したりして、とにかく楽しいゲームだ。 |
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まず全カードのうち「聖地カード」以外の、「商品カード」「秘宝カード」「人物カード」「動物カード」を全部まとめてよくシャッフルし、裏向けに山にしておく。ここから最初の手札5枚や、毎手番のカードを引いてくるのだ。だから、この山はとっても大事。 「聖地カード」はゲームの開始時に、前に3枚横並びにしておく。「聖地カード」が何かというと、これは2人がその前に「秘宝カード」を置いていく場所だが、そのさい、強力な「秘宝カード」を置いた相手に対して、‘補償’としてもらえる‘ちょっと役に立つカード’なのである。4種類あって、手札や商品、ゴールドが1つもらえたり、手番行為を1回増やしたりできる。「聖地カード」は使い捨てだが、手番行為を消費しないのでありがたい。他にも細かいルールがちょっとあるが、つまりは‘少しだけお得な行為カード’と考えておけばよい。 (参考までに書くと、前作『ジャンボ』が今回の『アサンテ』になったさい、付け加わったルールは主にこの「聖地カード」くらいだ。逆に‘交易ボード’は1枚だけになって、追加ボードはなくなっている。他はカード内容以外ほぼ同じ。ただしカード内容はまったく異なっている。だから『ジャンボ』と『アサンテ』はカードは相互交換可能で、両者は混ぜて使えるのだ) |
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さて、ゲームは「聖地カード」を前に3枚並べ、それぞれが手札5枚と20ゴールドを持ち、ポケットに小銭を多く持っているプレイヤーからはじめる。そのプレイヤーの手番消費行為は5回。 これをどう消費するかが重要だけど、まずどうするか判断に悩む。 というのは、手番消費行為は大きく2つに分かれるからだ。「カードを1枚、山から手札に加える」「カードをプレイする(手札から公開する、あるいは前に並べた「秘宝カード」を使用する)」の2つの組み合わせ。ちなみに獲得している「聖地カード」の使用は手番に1枚だけだが、いつでも可能で手番は消費しない。 このうち「カードを1枚、山から手札に加える」は、「カードをプレイする」よりも必ず先で、回数は自由だが(なんなら5回ともこれをしてよい)、するかしないかは最初に決めないといけない。 しかも、「カードを1枚手札に加える」はそのターン実質1枚だけで、複数回手番を行っても最後の1枚を加えるだけ――つまり、最後の好きな1枚が来るまで、捨てて引くのを繰り返す、ということなのだ。それまでの山から引いたカードは捨てていかないといけない。 要は、それだけこのゲームでは「手札」が重要ということ。少なくとも、いつも2枚くらいは手に残して選択や機会をうかがうようにしないと、手札を使い切ってしまったら不利益を被ることはまちがいないので注意することだ。 そうは言っても、カードのなかでも「商品カード」と「秘宝カード」は重要だ。これらはあるとついたくさん使いたくなるし、それらを引いてこないとゲームには‘勝てない’のもまた事実。 かくして「カードを1枚、山から手札に加える」に毎回とっても悩むが、1枚は手札に加えるよう努力するべきだろう。 |
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ということで、これが済めば、後はこのゲームの肝「カードをプレイする」だ。こいつはとっても楽しいが、だいたい3~4手番消費なんて、あっというまに終わってしまうから、これはこれで悩ましい。少なくとも勝ちにつながる「商品を交易ボードに買う」と「商品を交易ボードから売る」は、一度にできることなど珍しいので、しばしばターンをまたぐのを我慢しなければならない。何より、こうした行為の元になる「商品カード」はカード全体の4割もないし、6種類の商品内容が重なること(それだと売り買いしやすい)もそうそうないからだ。現実の商人がそうであるように、売買のための商品揃えはまさにやりくりが大変。 また、一度減ってしまった手札は、基本手番に1枚しか獲得できないし、それを手番で使うと元の木阿弥なので、手札カードの数を減らないように持っていくのも大変だ。 そこで――こうした事態を救うのが「秘宝カード」と「人物カード」だ(「聖地カード」もちょっぴり)。この2種類には、手札枚数と商品取り揃えやゴールド獲得が楽になるようなカードがまさに山と眠っている。 |
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たとえば、「人物カード」では「入植者」=「相手プレイヤーが持っている商品があなたより少ないなら、あなたは好きな商品1個を得る。相手プレイヤーが持っている手札があなたより少ないなら、あなたはカードを2枚引く。相手プレイヤーが持っているゴールドがあなたより少ないなら、あなたは3ゴールドを得る(あてはまるものはすべて実行)」みたいな、強者無双のカードもあれば、さらにこれを「木彫り師」=「あなたが相手プレイヤーより多く持っている商品の種類を数える。その数に等しい枚数のカードを引く」で強化してもよい。もっとも、こうした連続手札使用が手札の減る原因になるので、「木彫り師」や「角笛吹き」=「カードの捨て山と山札を合わせてシャッフルする。カードを2枚引く」、もしくは「動物カード」の「ミーアキャット」=「相手プレイヤーの手番にのみ有効。相手プレイヤーが「カードを引く」フェイズ以外でカードを引いた直後に使用。カードを4枚引く」は、単独で手札の減るいざというときのために取っておいてもよい。こうした‘どこでカードを一気呵成に使うのか、逆に我慢して貯めるのか’の判断は、このゲームの魅力そのものだろう。 |
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「秘宝カード」の方は、使い捨ての「人物カード」に対して、公開すれば毎ターン1回使えるという便利カードだ。しかも、強力なものも多いので、とにかく引いてきてほしいカードでもある。たとえば、これ「陶器」=「あなたの屋台タイル(交易ボード)から、異なる種類の商品を1/2/3/4/5/6個戻す。戻した個数に応じて、1/3/6/10/15/20ゴールドを得る」。一見大したことがないように見えるが、しばらく我慢して商品の種類を増やせば、あっという間に勝利に近づく強力カードだ。なにしろ売るのに「商品カード」がいらないんだからね。並んだ商品が5種類を超えたなら、こっちの方がお得だ。 | |||||
で、こうした「秘宝カード」の威力を減じようというのが、主に「動物カード」の役目だ。これは直接相手プレイヤーへの妨害。さっきの「陶器」などに対して、「ケープ・バッファロー」=「公開されている秘宝カードを1枚選び、それを捨て山に置く。あなたは即座に1回だけ、手番行為を消費することなくその秘宝カードを使用できる」の使用は強力。相手の秘宝カードを捨てさせた上、自分がそれを1回使えるのだ。 こうした「動物カード」が直接相手への嫌がらせのように見えて、それを嫌うプレイヤーもいるかもしれない。でも、実際に遊んでみるとお互い様だし、そうした行為が起こるとわかっていれば、対処法もあることだし(「動物の友」という無効カードが結構ある)、それほど気にならない。 |
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とにかく、こうしたタイミングを読んでの、丁々発止のカードのやりあいこそが『アサンテ』の魅力だし、勝ったと思っても結果での逆転はときどき起こるので、非常によくできた2人用カードゲームだと思う。 とにかく40分ほどでひと勝負がつくのはありがたいし、勝ち方のパターンも実にさまざまあることには感心するだろう。対戦型カードゲームに慣れている人にはもちろんお勧めだが、普通に交易ゲームの好きな人も大いに楽しめる作品だ。 もちろん、アフリカ好きの人にもぴったり。 箱絵はファンタジックな絵柄ならこの人、米田仁士さん。じつに魅力的な色遣いで描いていただいた。 そして、カードイラストは『アンドールの伝説』のゲームデザイナー、ミヒャエル・メンツェル。実はこの人、イラストが本業でゲームデザインでも有名なのだ。その筆の冴えもぜひごらんいただきたい。
『アサンテ』は『タルギ』とはまた異なった2人用ゲームの楽しみを存分に見せてくれる快作だ。11月には登場するので、こちらもぜひ楽しんでください。 |
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