このページでは、GMウォーロックVOL.2 P52-57に掲載された、FFソロアドベンチャー ファイティング・ファンタジースペシャル『火吹山 1.5 ~火吹山ひとたび半の冒険』の、謎解きと解説を掲載しております。
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謎解きと解説:藤浪智之
本記事『火吹山1.5』は、『火吹山の魔法使い』をはじめとする〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズの雰囲気を体験していただくという狙いも含めて制作しました。『火吹山』や〈ファイティング・ファンタジー〉の「名前を聞いたことぐらいはある」という方もぜひ挑戦してみてください。
『火吹山の魔法使い』を含む〈ファイティング・ファンタジー〉は、本書に対して以下の点が異なります。
・パラグラフ数は400。ずっと長い冒険となります。
・戦闘システムは、敵味方ともサイコロを振って判定。戦闘中の〈運だめし〉という選択もあり、より複雑で行動の幅が大きくなっています。
・一定量の食料と、(冒険の開始時に1つを選択する)回復薬を携帯して冒険に出発。冒険中の「食事を伴う休息」がルール化されています。
冒険のなかの戦闘や危険もより多く、途中何度も回復をしながら、長い冒険に挑むことになります。
カギが見つかる場所と記された番号は、『火吹山の魔法使い』のそれと、同じ内容になっています。
この冒険を達成した方への「ボーナス情報」でもあります。もし、あなたがゲームブック『火吹山の魔法使い』にこれから挑み、自分の力だけで謎を解きたいというのでしたら、この『火吹山1.5』は後回しにしたほうがよいかもしれません。
※以下は『火吹山1.5』の解説です。冒険を終えたあとでどうぞ。
一部『火吹山の魔法使い』と『火吹山の魔法使いふたたび』に関わる内容もありますので「事前情報は知らずに冒険したい」という方は、それらの冒険を終えてからご覧になるのがよいでしょう。
「きみ」:「きみ」と二人称で読者に対して呼びかけるような文体は、『火吹山の魔法使い』をはじめ、多くのゲームブック作品の特徴です。原文では「You」。
(英語は文法上、主語を省略しないため、日本語よりも二人称が多用されます。日本語に訳するさい、省くこともありますが、ことゲームブックの場合は「きみ」や「あなた」と略さず語るのが、ふさわしいように思えます)
「三十年近く」:オリジナル版『火吹山の魔法使いふたたび(Return to Firetop Mountain)』は1992 年に刊行されました。これは『火吹山の魔法使い』(オリジナル版は1982 年刊行)から10 周年目の記念でもありました。しかし本邦ではその頃、シリーズの日本語翻訳も途絶えてしまっており、正規の日本語版は刊行されませんでした。
今回『ファイティング・ファンタジー・コレクション』として刊行され、日本の読者がふたたび「火吹山」に戻るまで、さらに30 年近くを待つことになったのです。
アンヴィルの村は『火吹山の魔法使いふたたび』に登場します。『火吹山の魔法使い』に登場する「近くの村」も同じ村かもしれません。〈二つの月亭〉に行けば、バーテンのムースが、また助けてくれることでしょう。
『見るほど確かなことはない』とは、この地方の慣用句でしょうか。迷宮探検における冒険者の心得にも通じそうです。『火吹山の魔法使いふたたび』においても、この言葉は心に刻みつけておいて損はないでしょう。機会があったときは、よく見るための道具を用意しておいたほうがよいかもしれません。
ここでの描写は、『火吹山の魔法使い』の冒頭、パラグラフ1に準じています。「火吹山」は、長い年月を経ても変わらない姿をきっと見せていることでしょう。
『火吹山の魔法使い』で、この凶悪なワナにかかってしまった冒険者もいることでしょう。完全な状態のときは、さらに深刻なダメージを与えるものですが、長年の放置で劣化してしまったようです。
『火吹山の魔法使い』でおなじみだったこの部屋ですが、『火吹山の魔法使いふたたび』では登場しません。きっとここで埋まってしまったのでしょう。
『火吹山の魔法使い』で最初に出会う敵です。ただちに戦闘になるのではなく、やり過ごす選択もあるところが、これから始まる長い冒険の魅力と、手応えを感じさせてくれました。
本作のここでの選択肢は、それに対してのオマージュでもあります。
なお、この怪物の歩哨は『火吹山の魔法使いふたたび』にも「登場」します。
「14」といえば、ゲームブックにおいて「死のパラグラフ」として知られていますが、それは、J・H・ブレナン著のゲームブック〈グレイルクエスト〉シリーズ(1980 年代は「ドラゴン・ファンタジー」シリーズとして邦訳)を起源とし、そのファンやフォロワーが広めた文化です。〈ファイティング・ファンタジー〉で14 という数字に特別の意味はなく、デッドエンドは、様々な形で多数配置されています。
実は、当初はそれを踏まえてリスペクトの意図から「パラグラフ14」を用意してありました。ボツになったものですが、ここに披露しましょう。
(パラグラフ構造自体が完成版とは異なり「どことも繋がらない」ダミーパラグラフです)
14
「こら。場所を間違えておるぞ。ここは“戦う幻想”の世界じゃ」迷宮師は、きみを部屋から放りだす。
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なおボツにした理由ですが、単純にダミーのパラグラフを入れるような余裕がなかったためです。
『火吹山の魔法使い』にも登場した4人のドワーフです。敵対するモンスターだけではなく、地下迷宮にこんな存在もいることが〈ファイティング・ファンタジー〉の魅力でした。
地下迷宮でエールをどこから注いでいるかって?
『火吹山の魔法使い』の挿絵には、ちゃんとテーブル下に大きな容れ物が描かれています。
『火吹山の魔法使い』には、ダンジョン内のこの地点からはじまる本格的な「迷路」が用意されていました。しっかりマッピングしながら進まないと攻略はままならず、ワンダリング・モンスターも発生する凝ったものでした。
本作のこの箇所は、その「迷路」をオマージュしつつ、大胆に省略化したものです。白髪白髭の老人は『火吹山の魔法使い』において、迷宮のなかに登場します。
そちらでは立派な個室も持っていたのですが、ザゴールが滅びた状態の地下迷宮では、力も衰えてしまっていると考えました。
ところで「2つの部屋のうち、どちらかを選ぶ(どちらかしか行けない)」という選択は、『火吹山の魔法使いふたたび』の地下迷宮においても発生します。どちらを選ぶかが重要となるので、これから挑む方は正しき選択をされますよう。情報が大切です。
『火吹山の魔法使い』にも登場したベンチです。
そこでは札に「ここにて休め、疲れし旅人よ」と記されていました。それが古びてかすれ「……休め、……し…人…」だけ残った、という状況です。
(日本語訳は、『ファイティング・ファンタジー・コレクション』の新訳に準じています)
ところで、こういった「抜けのある文章」は、海外ゲームブック作品に時折り登場します(〈ソーサリー!〉における、かの恐ろしきミートボールなど)が、元の言語を直訳するだけでは意味が不明になったり、意図が伝わらないため、翻訳者の方々はさまざまな工夫をこらしておられるようです。
本作品に「オリジナルの英語版」があるわけではありませんが、リスペクト元の『火吹山の魔法使い』と『火吹山の魔法使いふたたび』には「英語版」がありますし、執筆中は「英語ではどうだったのか」も想像したりもしていました。
『火吹山の魔法使い』におけるベンチの札の文章は、英語だとこうです。「Rest Ye Here Weary Traveller.」
部分的にかすれて、何か怪しげな別の意味に読めてしまいそうな文章となると……
「Rest … W…ary Tr…ll….」すなわち、「止まれ。ト…ールに気…をつけろ」というような意味に読める文章だった、というのはどうでしょう。……ちょっと苦しいでしょうか?
「一つ目小僧」は、本作のオリジナル設定です。
『火吹山の魔法使い』に登場する「一つ目巨人(サイクロプス)」はかなりの強敵モンスターの一体でしたが、それが冒険者に倒され(あるいはザゴール亡き地下迷宮で劣化し)、バラバラになった破片を組み合わせて、再利用されたモンスター、というところでしょうか。
「Faulty Cyclops」は直訳すれば「不完全なサイクロプス」という意味ですが、〈ファイティング・ファンタジー〉風の「訳語」を考えてみました。
『火吹山の魔法使い』にも登場する、地下川の渡し場と渡し守です。この場所と人物に対しては、さまざまな行動をとることができるため、印象に残っている冒険者も多いでしょう。
なお、この場所と渡し守は『火吹山の魔法使いふたたび』に登場し、同じような図太さをみせます。
ふたつの『火吹山』のあいだの、ザゴール亡き地迷宮においても、こうしてしぶとく活動していたかもしれません。
この拷問室は『火吹山の魔法使い』にも登場します。そこではドワーフを助けようとすることも、逆に拷問に加担しゴブリンたちに取り入ろうとすることもできました(『火吹山の魔法使い』において、「きみ」は、正義の行動を取る必要はないのです!)。
本作では『火吹山の魔法使い』において実行できなかった、ひとつの結果を加えてみました。
火吹山の魔法使い、ザゴールの部屋です。
「Y字の棒」:以前ここに訪れた冒険者が落としていったものでしょう。どうして叩き折られているかは『火吹山の魔法使い』において、実際に使った冒険者ならば知っていることでしょう。
「カード」:『火吹山の魔法使い』でも、ザゴールはこの場所でカードを広げて何かを行っていました。この魔術師がカードで具体的に何を行っていたか、詳細は明かされていません。その一方で彼にとってカードは魔術的に重要な存在であったことが語られています。
ここでのセリフは、本作における「解釈」ですが、ザゴールが地下迷宮のあるじ、すなわち「ダンジョンマスター」でもあることから考えると、それほど外れてはいないのではないかと思います。
『火吹山の魔法使い』の序盤に登場するトラップ。驚いた冒険者も多いのではないでしょうか。
この箱は『火吹山の魔法使いふたたび』にも登場します。
これは『火吹山の魔法使い』の最終到達点である「パラグラフ400」のオマージュです。
(400 の10 分の1で「40」というわけです)
『火吹山の魔法使い』の結末……実際に、財宝をどうするかは、冒険者に委ねられていたわけですが、冒険者自身が「新しいザゴール」に成り代わることもほのめかされていました。あなたが戦った「ザゴール」も、ひょっとしたら「元冒険者」だったかもしれません。
「ディ・マジオ」は『火吹山の魔法使い』に登場する、ドラゴンに対抗するための呪文です。地下迷宮内でそれを得れば、強敵であるドラゴンとの戦いがきわめて有利になります。
共に強力な存在だったため、この場所にいたドラゴンも、呪文が詠唱された瞬間も、魔術的な記憶として残っていたのでは、と考えました。
「ジブ・ジブ」:ゲームブック〈ソーサリー!〉シリーズに登場するモンスターで、『モンスター事典―奈落の底から―』にも登場します。毛むくじゃらの丸い頭から足が生えている姿で、「最弱モンスター」として知られています。
「50」という数字は、『火吹山の魔法使いふたたび』のシリーズナンバーでもあります。
『火吹山の魔法使い』を1作目とする〈ファイティング・ファンタジー〉は、当時ちょうど10 年目を迎え、イアン・リビングストン氏は、この50 作目にあたる作品を「シリーズ最終巻」にするつもりで執筆したそうです。ところがいざ刊行してみると予想外の人気となり、結果〈ファイティング・ファンタジー〉はその後も続刊することになりました。
ザゴールの復活は、作品シリーズそのものを蘇らせたのです。現在も英国では新装版シリーズが健在で、新作も刊行される一方、『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー第2版』(TRPG、グループSNEから発売中)をはじめ、関連作品の展開も続いているのも、そのおかげだったかもしれません。
『火吹山の魔法使い』においてサイクロプスから入手できる宝石は、魔術師ザゴールに対する強力な武器になります。小説『トロール牙峠戦争』にも登場し、ザゴールを恐れさせていました。
本作においては「欠片」だけしか入手できませんが、それでもある程度の効果があると考えました。
「貴様(YOU)」:オリジナル版(英語)の〈ファイティング・ファンタジー〉においては、悪役を含め、その世界の登場人物たちは、主人公のことを「You」と呼びます。地の文の主人公に対する呼びかけ「You」と同じであるため、ときに不思議な感覚を覚えることがあります。はたして呼びかけてきているのは目の前の魔術師なのか、それとも本そのもの(あるいはゲームマスターたる作者?)なのか。呼びかけられているのは主人公なのか、それとも読者の自分なのか……。
二人称が状況に応じて多彩に存在する日本語においてはわかりにくい感覚ですが、そのあたりが伝わるような表現を、ここでは試みてみました。
この「牢獄」は、『火吹山の魔法使い』に登場します。そこでの囚人がどうなったかは……挑んだ冒険者である「きみ」が知っていることでしょう。
そして、『火吹山の魔法使いふたたび』にも、「牢獄跡」として再登場します。囚われた者は既にいませんが、部屋のなかを調べることもできます。
ここでのザゴールの言葉と、復活にいたる魔術ですが、これは『火吹山の魔法使いふたたび』における描写と(全く矛盾するわけではないものの)異なる内容です。
しかし一方で、タイタン世界創造の一神たるイアン・リビングストン氏が『火吹山の魔法使いふたたび』を執筆した理由という点から考えるならば……多くの「冒険者」が「火吹山」においてザゴールと戦い、その記憶が強く刻まれ、繰り返されたからこそ、その復活という主題を選んだ、という理由もあったはずです。
これは、ひとつのメタな視点からの「解釈」ですが……地下迷宮の奥の幻のような(一筋縄ではいかない冒険者だけが到達できる)、隠しパラグラフであるこの場所で語る内容、ということで、どうかお許し願いたいと考えております。
私見ではありますが、本のページをめくる「冒険者」たちが大勢いたからこそ、『火吹山の魔法使いふたたび』が生まれ、〈ファイティング・ファンタジー〉は滅びず、こうして現在日本においても『ファイティング・ファンタジー・コレクション』が刊行され――いまも、ずっと冒険は続いているのではないでしょうか。
(文:藤浪智之)