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日々つれづれ 08年02月
テーマ 「 剣 (sword) 」

【02月29日 河野裕】

 ソード認定会は、慣例として、毎月4週目の土曜日に開かれる。土曜日なのは、ソードに認定された人たちが、翌日の日曜日にゆっくり祝杯をあげられるようにという配慮だった。なぜ4週目なのかは誰も知らない。あまり気にする者もいない。
 ソード認定委員であるカッターは、面接室の、一番窓に近い席に座っていた。そしてぽつんと椅子に座る、ソード認定志願者の姿を見ていた。
 今までも様々な種類のものがソードの認定を受けてきた。前回面接を行ったのはピアノだった。ケンの名がつく部分を持ち、使い手によっては斬れ味と破壊力を兼ね備える……というのがピアノの主張だった。両手を使っても上手く振れないことが問題になったが、一通りもめてから結局認定がおりるのもいつものことだった。
 今回の志願者はだ。認定は難しいかもしれないな、とカッターは思った。生き物が認定された事例は小ない。つまりは生き物の志願者が少ないということだが、前例がないというのはそれだけで問題になる。
 見たところ、蚊は酷く緊張している様子だった。
「何も難しいことをしようというのではないから、気を楽にしてください」とカッターは言った。
「ええ、はい。でも、あのカッターさんにお会いできたんだと思うと」と蚊は答えた。それでカッターは、この蚊があまりソード業界に詳しくないのだと気づいた。緊張しているのも、自分の無知が露呈するのを恐れてだろう。
 ソード認定協会では、確かにカッターが最古参だった。世界で最も最初に、ソードに認定されたのはカッターだ。もちろん本物の剣を除いてだが。プレスリーがプレスリーのものまねコンテストに出場しないように、本物の剣がソード認定協会なんかに関わる理由もない。
 しかしカッターが最古参であるとはいえ、あまりストレートに取り入ろうとするべきではない。審査員には包丁も混じっているのだ。
 包丁は自分が一番初めに認定を受けなかったことを僻んでいた。だから今回も小さく舌打ちしてから、「ほう、やはりカッターともなると、生き物連中にも名が知られているようで」と言った。
 カッターは曖昧に首を動かした。見ようによっては頷いてるようにも、否定しているようにもみえ。最古参だといっても、カッターにだって悩みはあるのだ。もう刃はさびついている。しかしソードに認定された者が、文房具屋で買ってきた替え刃を取り付けるわけにはいかない。錆びついた刃に嘆きながら、カッターを鍛える伝説の職人を探しているのが現状だった。
 思わず溜息が漏れそうになったが、それは飲み込む。それから咳払いをして気を取り直し、今回の面接に意識を集中することに決めた。
「蚊くんだったね。ソード認定を志願した理由は?」認定員の一人であるハサミが、ふんぞりかえって書類を覗き込みながら訪ねた。
「は、はい。やはり剣というのは、誰もの憧れですので」上ずった声で蚊は答えた。
「でも、君には刃がない」
 包丁が指摘すると、蚊は少し興奮したように反論する。
「でも、私にはこの尖った口があります。斬ることができなくても、刺すことはできます」
 上手い答えだな、とカッターは思った。偶然にせよ、いい所をついている。
 包丁がカッターよりも認定が遅れたのは、彼を武器として使う場合、斬るようも刺すようで使われるからだった。少なくとも包丁自身は、そうに違いないと主張している。
 包丁は重々しく頷く。
「確かに。歴史的にもレイピアなど、刺すことに特化した剣はたくさんある」
 それに反論したのはハサミだった。彼はソードに対して、深い誇りを持っている。
「しかし蚊は食事の為に刺すといいます。ソードは、自身の利益のために使われるべきではない」
「でも、私だって命がけで戦っているんです」と蚊は言った。「血を吸わなければ、死んでしまう」
「野生動物というのは誰もがそういうものではないんですか?」とハサミは答えた。確かに命がけだからという理由で認めてしまえば、野生動物は全てソードだということになってしまう。
 反論が思いつかなかったのか、蚊はうつむいて黙り込んだ。
「あなたが本当に、ソードになりたい理由はなんですか?」と、カッターは尋ねた。ソードは今の世の中で、必ずしもみんなの憧れではないことを、カッターは理解していた。
 蚊は自身が追い込まれたことに気づいていたのだろう、諦めるようにゆっくりと話しはじめた。
「……私には子供がいるんです。元気な男の子です。でも、反抗期なんでしょうね。蚊の子供なんて嫌だと言い始めて。もっと恰好がいい、剣の子供なんかがいいっていうんですよ」
「つまりは、子供のためなんですね?」とハサミは確認する。
「はい。そうです。ごめんなさい」蚊は身を縮めて頷く。
 ハサミはゆっくり頷いて、
「わかりました。僕は貴方の認定を支持しましょう」と答えた。彼は子供など、非力な者のためという言葉に弱いのだ。
「オレははじめから支持している」と包丁。
「なら、認めない理由はありませんね」とカッターは続けた。
 蚊は認定番号がクレジットされた証明書を受け取り、何度も何度も頭を下げた。
「ところで」カッターは言った。「どうして認定会が、4週目に行われるか知っていますか?」
 訊ねると、蚊は怪訝そうに首を振る。
「どうしてですか?」
 それはカッターも知らなかった。今回もただ、話の材料に利用しただけだ。
「すぐに月が変わるようにですよ。心を改めるように。ソードになったからといって、あなたが今まで以上に強くなるわけではない。くれぐれも無理をしないように」
 ハサミが睨みつけているのに気づいたが、カッターは気づかないふりをした。
 命がけで斬りあっても意味はない。ソードなんて、子供に自慢するくらいで丁度いいのだ。


 ……みたいなことを、ぼんやり考えているとのんびりした気分になっていい感じです。
 それでは、河野でした。

【02月27日 北沢慶】

 今月のエッセイのテーマは「剣」
 ということで、ちょいと剣についてのお話を。

 実は北沢家には、ひと振りのバスタードソードがあります。
 残念ながら(?)本物ではありませんが、総金属製の、すこぶるがっしりした作りの模造品です。北沢の筋力では、片手で振り回すのはちょっと難しいカンジ。両手でぴったりってとこです。

 もちろん、資料として買い込んだものですが、これをゲットしたいきさつが面白かった。

 もう8年か9年ぐらい前になりますが、取材と観光を兼ねて鎌倉をぶらぶらしていたときです。鎌倉の大仏さんを見に行くべく、土産物屋が建ち並ぶ通りを歩いていました。

 いわゆる古式ゆかしい日本の土産物屋がたくさん並んでいて、ショーウィンドウにはベタに日本刀とかも展示されているわけです。地元京都の土産物屋でも、まあ似たようなものですね。

 もちろん武器とか大好きな男子ですから、そんなのを楽しく覗きながら歩いておりました。
 いろんな日本刀が並んでいる中、ある店の前でふと北沢の足は止まります。

「虎徹、菊一文字……グレートソード?」

 有名な日本刀のレプリカに混ざって、なんか見慣れない……いやある意味見慣れた剣が展示されてるじゃありませんか。
 名前の並びだけだと、一瞬ファ○ナルファ○タジーかと思ってしまいますが(笑)。

 店構えは、いわゆる古式ゆかしい木造の土産物屋。
 なのにショーウィンドウにはいかついグレートソード。

 たまらず興味を引かれて店に入ってまず目に入ったのは、「特価、ハルバード2万円」の張り紙。

 人生でいろんな特価品を見てきましたが、生涯でも初めてです、特価品のハルバード。

 そこでぐるりと店内を見回してみると、あるわあるわ妖しげな武器の数々(笑)。
 天井からモーニングスターが吊してあったり(しかも「完売」の札が!)、バケットメットやヒーターシールドが展示してあったり。
 ガラスのショーケースに並ぶのは、フリントロックピストルやウィンチェスターライフル。
 そして一番奥のカウンターの壁には、ずらりと近接武器が並んでるよ!

 バスタードソード、グレートソード、レイピア、ショートソード、グラディウス、ドレスソード、サーベル、ハンドアックス、バトルアックス、メイス、フレイル、ハルバード、ロングスピア……。

 いやもう、まるっきり武器屋です。
 古式ゆかしい木造の建物が、むしろ本物っぽい雰囲気を演出してます。

 そりゃもう、北沢がキャッキャして物色していたら、店員のおばちゃんが「なんでしたら、手に取ってもらっていいですよ」なんて言うもんだから! 次から次へと手に取ります。

 またこのおばちゃんが面白くて(笑)。
 ちょうどそのときのメンツは男女入り交じっていたこともあって、「お兄さんは体格もいいし、こっちのグレートソードとかお似合いですよー」とか「お嬢さんだったら、こっちのハンドアックスが振り回しがよくて使い勝手もバツグン!」とかってオススメしてくれる!

 現代日本で女子がハンドアックスをどう使うってんだ!(爆笑)

 やがて店主らしきおっちゃんも出てきて、武器談義。
 そして買うかどうか悩んでいたときの、おっちゃんの一言で北沢はバスタードソードの購入を決めてしまったのです。
 その言葉とは……

「兄さん、女の子は指輪とか貴金属に何万も払うでしょ? 武器はね、男にとって女の子の貴金属みたいなもの。指輪を3万も4万も出して買うわけだから、剣に2万円ぐらい普通ですよ」

 ……そうか、普通か。そうだよな。男なら剣の1本ぐらい持ってないとな……。

 そして気がついたら、1本2万円のバスタードソードを通販していたわけです(さすがにぶら下げて新幹線には乗れないので(笑))。

 おかげさまで、引っ越すたびに引っ越し屋に奇異な目で見られながらも、バスタードソードはいまの我が家にも存在しております。
 おかげさまで、剣を振り回すときの描写にリアルさが増した……と思ってるんですがどうでしょう(苦笑)。

 ちなみにお店の名前は「山海堂」さん。
 最近は結構有名みたいですね。北沢はまったく知らずに迷い込んだわけですが(笑)。

 みなさんも、鎌倉に観光に行った際は、ぜひ武器屋さんにも寄ってみてください。面白いよー(笑)。

【02月25日 秋田みやび】

 さて、二月のエッセイのお題はソードです。
 ソード。
 剣ですよ。

 ……さて、ここからどう、秋田エッセイ名物(?)けもけもネタに繋げようかと考えて、SNEメンバーから一斉に「繋げるな」と、つっこみが入ったりもしました。
 ですので、まともにソードについて……と。

 ソード。剣です。
 ちなみに、まともに触ったことがありません。
 我が家にある、似た印象のものといえば……包丁でしょうか。
 どっちも振り回すと脅威という辺りは、大変よく似ています。
 
 あとは…鉛筆削り
 あ、鉛筆差し込んで、ごごごごご、というものではなく、ナイフの鉛筆削りです。
 秋田の家では、機械の鉛筆削りがなぜか禁止でした。
 なので、自宅では必ずナイフの鉛筆削りで、鉛筆を削っていたのですが……。
 ごりごり、と細かくでこぼこに削れる、鉛筆。
 それに対して、母親の削ってくる鉛筆は、すらっと長く綺麗な削り面です。
 一度刃を当てると、力が入っていないかのように、するりと鉛筆の木の面が浮き上がり、落ちていきます。六つ角に、上手に一度ずつナイフを当てて、芯を綺麗に残して削り、あとで、芯だけをコリコリと尖らせて。
 自分の削った鉛筆の不細工さに、わざとその芯を折って、母に削ってとおねだりしたこともありました。
 
 今は、なんとかそう不細工ではない形で削れるようになった鉛筆ですが、思い出の中にある母の鉛筆には、なかなか追いつけません。
 ふと、そんなことを思い出せば、ちょっと悔しくも感じ、これからしばらく家シャープペンではなく、鉛筆を削ろうと思いたち、二本ほど削ってみたはいいものの……。

 我が家には悪魔が存在しました、3羽ほど。

 なになに、なにー? とばかりに、舞い降りる文鳥たち。
 その羽ばたきで、木片と黒粉がぼわっと部屋中に舞散る始末。

 ぎゃー! やめてー!!

 泣く泣く掃除機をかけ、鉛筆使用を断念したのでした。
 いや、ケージにいる時間に、鉛筆削ればいいだけなんですけれど。

 鉛筆を削るついでに、も鉛筆削りで切ったりします。
 珍しがられるんですけれど、皆さんやったりしませんか?
 ふと、鉛筆削りのカスの中に、三日月形の爪が混じっていたりもして、ふと、冒険者もこんな風に爪を切ったりしているのかもしれないと、脈絡もなく思う時間。

 冒険者といえば、ソード・ワールド2,0ルールブック、および、リプレイ「新米女神の勇者たち@」4月19日発売ですので、よろしくお願いいたします。

 ふぅ、ソードに繋がった。無理矢理。



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