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【12月26日 片山泰宏】 |
押し迫って参りました。
今年もあと数日。
大学生や社会人の諸氏の中には、そろそろ帰省の準備などされている方も少なくないはず。
片山も毎年、静岡の実家へと帰っているわけですが、そうした中の、ある年のお話。
当時大学生だった片山は、大晦日の朝まで友人とセッション。酒も入って、らんちき騒ぎも同様でした。
それが終わり、友人たちも帰りました。
片山は昼くらいまで、ちょっと仮眠をと思ってそのままグッスリ。
気がつけば……
片山「……ハッッ!? な、なんで陽が傾いてんの!?」
時計を見れば、ウキウキウォッチングの時間を遥か過ぎ、そろそろ午後のおやつの時間。
周囲には荒れ果てた部屋と、寝る前に引っ張り出した旅行カバンがポツンと。中身は空っぽ。
片山「こ、これは一体……! まさか、何者かの仕業!?」
(※専門用語で自業自得と言います)
ヤベェ。
実家は静岡。
午後4時がデッドラインです。
遅れれば、晩飯抜き&家族から怒りのベアハッグを受けること必定。
慌てて荷物を詰め込み、一路京都へ。
京都から新幹線へと乗り換えるため、乗車券を購入。学生割引した、もちろん自由席。
券売機の処理時間を待つのももどかしく、ダッシュでホームへ。
そこでは、今まさに出んとする流線型のニクいアイツが!
片山「ちょっと待ったぁッ!」
車内に飛び込んで、滑り込みセーフ。
〜駆け込み乗車は、おやめ下さい〜
はっはっは、聞こえんなぁ。乗り込んでしまえばこっちのものよ(※ダメです)
〜では、東京行きのぞみ、発車致します〜
はっはっは……聞こえ……え?
片山「の、のぞみ……っすか?(※当時、新幹線のぞみ号は全席が指定席でした)」
思わず肩からバッグを落としたその時。
ガシィ! と、背後から肩を掴む誰か。
車掌「お客さァ〜ん……乗車券を……拝見できますかな……?」
片山「ひっ、ヒィ!?」
車掌「あァん? まさか自由席の券しかないとか……そんなんじゃあねえだろうなッ!?(※この車掌さんはイメージです)」
財布の中には改めて指定席を買うお金もなく(ATMで下ろすヒマがなかったのです)。
結局、車掌さんに謝って、途中の名古屋まで乗せてもらってから乗り換えて静岡へ。
冬にも関わらず、焦りと冷や汗で汗だくの一日でした。
皆さんも行(ゆ)き先、行(ゆ)き道は注意しましょう、というお話でした。 |
【12月22日 番棚葵】 |
番棚にも高校時代という、人生の中で大変美味な時代がありまして。当時は色々と痛々しいこともしていたので思わず記憶の壺に封印したくなる出来事も多々あるのですが。それでも二度と帰らない甘酸っぱい青春時代に思いを馳せると、懐かしくてはらはらと涙を流したくなります。
ちなみに、この後に「ああ、高校時代ってもう10年以上も前だっけ」と考えると、違う意味ではらはらと涙が出てきます。
で、今回のエッセイのテーマは「ゆき」なわけですが。
その「ゆき」……というか「雪」を語る前にどうして高校時代の話を持ち出したかというと、その高校時代に僕は雪で痛い思いをしたことがあるのです。
その頃の僕は、情報処理部というパソコンを扱うクラブの部長を務めていました。
ある日、そのクラブの後輩達と一緒に自転車で帰宅していたのですが、その時降り積もっていた雪のせいで車輪を取られてしまい、すってんころりと転んで、頭をしたたかに打ち付け、気絶したことがあるのです。
幸い、後輩達が一緒にいたので、すぐに救急車を呼んでもらいことなきを得ました。僕は彼らに厚く礼を述べ、「こんな後輩達がいてくれて自分はなんて幸せ者なんだ」と涙ぐみました。
ところが、です。後日、クラブ活動の時にその後輩の内一人が僕のところに来て、にやにや笑いながらこんなことを言うではありませんか。
「ところで部長、気絶した時にうわごと言ってたんだけど、何て言ってたか覚えてます?」
えっ?
うわごとって何っ? 僕何か言った?
当然ながら気絶している時は意識がないわけで、何を言ってもおかしくないわけです。
例えばうわごとで親を呼び続けたとか、そういう思春期の人間にとって恥ずかしいことをしたんじゃないかと思い、僕は狼狽しながらその後輩に尋ねました。
「残念ながら覚えてないんだ。よかったら、そのうわごとの内容を教えてくれないかな?」
「いやぁ、そんなに大した内容じゃないですよ。面白かったけど」
何をさらりと付け加えているかっ!
「面白かった」ってなんだ、僕にとってそれは大した内容だろう!
しかしこっちは先輩です。大人げなく怒鳴るのも示しがつかないってものです。ここは務めて平静に情報を聞き出さなければなりません。
「い、一応、聞かせてよ。何かの話の種になるかもしれないしね。はははは(乾いた笑い)」
「……それより今日の部活動なんですけど」
「いいから内容を教えろおおおおっ!」
自分で話を振っておいて、いきなり話題を変えるんじゃねぇっ!
憤りと動揺に震える僕の肩をぽんぽん叩きながら、後輩はシニカルな表情でワイングラスをくゆらせつつ(当時の僕にはそう見えました)、おもむろに答えるのでした。
「じゃぁ、教えてあげましょう。部長はあの時はっきり確かにこう言ったのです」
「(ごくりっ)」
「ガ、ガンダムぅ〜っ! と」
「……………………はい?」
僕の青春、色々な意味で終了。
うわごとの内容は、想像の斜め上をいっていました。
よりにもよって「ガンダム」かよ!
実際、当時はGだのWだのXだの、色々とガンダムの番組が放映されていて、僕も楽しみにしていたものですが。ハマりにハマって見続けていたものですが。
それにしたって、青春真っ盛りの高校生が、うわごとにまで「ガンダム」をつぶやいていたわけで。
痛い、これは痛すぎる! 親を呼んでいたほうがよっぽどマシだった!
ふと気づけば、周囲の冷めた目線が僕に注がれてきます。まぁ、この時点で部長がガンダムマニアという事実は確定なので、無理もありません。
そんな部員達の、雪よりも冷たい視線を受けながら、自分の先「ゆき」は本当どうなるのだろうと、高校生の僕は大いに不安を感じたものでした。 |
【12月16日 篠谷志乃】 |
「ゆき」と聞いて、この時期に思い浮かべるものといえば、やはり「雪」でしょうか。
最近、私の周りではめっきり雪が降らなくなりました。
もともとあまり雪の降らない地方ではありますが、私が子供のころは、それでもかき集めて、手のひらサイズの小さい雪だるまを作れるほどは降る……こともありました(それも稀なことに気がついた。本当に降らないなあ(笑))。
10cm近く積もったときは、誰かが校庭で、土で茶色く染まっている雪だるまを作っていたこともありましたっけ。
今では、そんなこともなく、朝に霜が降りているのを楽しむぐらい。とりおり空を豪快に雪が舞うこともありますが、積もることはめったにないです。
そんな土地柄ですから、雪の積もった風景というのは、とても珍しいのですが……。
学生時代、今は世界遺産になっている某お城のおみやげ屋さんで、短期のアルバイトをしていたときのことです。今でも思い出す、あるできごとがありました。
おみやげ屋さんに、ときどき「四季折々の風景を映した品々」ってありません? 写真集だったり、ポストカードセットだったりするヤツです。
アレが某お城のそばのおみやげ屋さんにもおいてありまして、中でも、お城を被写体に、「春は桜」「夏は遠雷」「秋は紅葉」「冬は雪」っていう、四枚構成のものが人気があったんです。手軽なお値段だし、持ち運びがしやすいものでしたから、よく勧めましたしね。
で、そんな風に、忙しくも楽しいアルバイトをしていた、ある日のこと。
旅慣れた感じのおじさまが、カメラを片手におみやげやさんに現れました。そして、例の四枚組みのポストカードセットを手に取って、四枚目の「雪をかぶり、白く霞むお城」の写真を指差しながら、こうおっしゃったのです。
「コレって、合成?」
へ?
一瞬、何を言われたのかわからなくてポカンとする私。慌てて――。
「い、いえ、違います。以前はこんな風に、雪が降ったこともあったんです」
「あ、そうなんだ。へー」
相槌を打ちながら、ポストカードセットを購入し、おじさまは去って行かれました。そんなおじさまを見送りながら、やや呆然。
……。
加工ではなく、合成か。
いや、今は、そこをツッコむべきじゃないんだろうけど。
うう〜ん、そこまで雪が降らないと思われているのか(笑)。
ちょっと驚き、「地球温暖化の波は、こんなところにも影響をおよぼしたのかも?」と考えた、ある夏の昼下がりのできごとでした。 |
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