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【10年08月30日 力造】 |
オレは焼いたレバーが 「苦手」 だ。
牛、豚、鳥は言うに及ばず、もし、それ以外の生き物のレバー料理を食うことになった場合、かなりイヤな顔をするだろう。
「そのレバーを焼いて食うなんてとんでもない!」
でも……食べられないほどではない。
さて、今回のテーマは 「かさ」 だ。
テーマが 「かさ」 なのに、なぜ好き嫌いの話をするかというと、「かさ」 から、過去の出来事を思い出したからだ。
その出来事にまつわるものとは……ずばり、 「しいたけ」 。
あの、デケエ 「かさ」 を持つ、きのこ界の真剣師。
そして、その裏側には狂気をもたらす無限のひだひだを隠し持つ――三千きのこ世界に終末を呼ぶ、黙示録の騎士である。
人には、1つや2つくらいダメな食べ物があるはずだ。
そして、オレの先輩には 「しいたけ」 がこれでもかというほどムリな人がいる。
「苦手」 ではない…… 「ムリ」 なのだ。
それは、先輩がオレの実家に泊まりにきた時のことだ。
とある夏休み――オレと先輩、そして複数の友人たちは休みを利用して、夜遅くまでオレの実家でTRPGを遊んでいた。
そして、次の日の朝。オレたちは気絶状態から復帰し、何事もなくリビングへと出ていった。
すると、オレの母が食事を用意してくれていた。夏の定番、そうめんである。
夜遅くまで騒いでいたというのに、ありがたいことだ。
オレたちは感謝しながら食卓につき、そうめんをいただくことにした。
ガラスの器に盛られた白い絹糸の如きたちは、その身を氷のなかで引き締めている。器のなかには細く切られたきゅうり、たまご、ハム、シロップ漬けのみかんとさくらんぼうなどが盛り付けられていた。
……どうでもいいが、なぜ、そうめんの中にはみかんやさくらんぼうが入っているのだろう。
酢豚に入ったパイナップル。あれはわかる。
酢豚は絶妙な甘酸っぱさこそが命。ゆえに、その甘酸っぱさを出すために、あの南国育ちの憎いヤツが入っているという理由を理解している。
だが、そうめんにみかんやさくらんぼうを入れる理由はなぜだ?
別にそうめんは甘酸っぱくする必要はないだろう。
それに、みかんやさくらんぼうをメンツユにつけて食べる風習や掟は、我が日本には無い……はず。
あれか、濃いメンツユで口の中が辛くなった時、口直しをするためか?
それともあれか? 涼か? 「ガラスに盛られた白く美しいそうめん……だが、それだけでは花がない。やはり白を際立たせるために、黄色や赤をそえなければ」
とか、そういうことなのか!?
そして、そうめんと冷やし中華には、なぜさくらんぼうが乗ってるの!?
結局、色合いの関係なのだろうが、現在と変わらず無知で無教養な当時のオレは、食卓につきながらそんな病的かつアナーキーな妄想を展開していた。
そして、オレたちは貴重な糧を得たことに手を合わせ、ガラスの中に存在する麗しい絹糸たちを、昨夜演技した野盗と変わらぬ冒険者のように蹂躙し、口のなかへと運んでいった……その時である。
「――げおるぐッ☆」
先輩が、奇声と共にそうめんとツユを食卓に噴出した。
実に、よい悲鳴であった。
時が止まったかのようだった。
催眠術や超スピードではない。なにを言っているかわからないかも知れないが、本当のことなのである。
それを見た我々は、思わず驚愕した。「いったい何が起こったのか」 と。
そして、その答えは……メンツユの中にあった。
……メンツユの中に、水で戻した 「しいたけ」 が刻んで入っていたのだ。
そして、我々は先輩の弱点が 「しいたけ」 であることを知っていた。
「なぜ、そんなものが入っているだ? もはや、テロではないか」 と考えたオレは、もっとも犯人と思しき人物に問いかけた。
「母上……」
「なんぞ?」
「なぜ、メンツユの中に刻んだしいたけが入っているのでござるか?」
「……炭水化物ばっかだと、ほらアレじゃん」
どれだ。
「母上、実は先輩氏は、しいたけがダメなのでござる」
「知らん」
ですよね。
「母上……しかし」
「喰えよ」
「……は?」
「他人の家で出された食い物を吐き出すなど、もってのほかじゃ。いいから喰えよ」
「しかし、先輩氏はしいたけが……」
「そんなもん、極限状態なら喰える。なら、ここを戦場だと思って……喰え!!」
今でも、あの恐怖と絶望の表情を忘れることができない。
こうして、先輩は泣いて侘びを入れることになった。
一時間ほどのやり取りがあったが結局、全ての片づけを先輩がするということで、喰うこと自体は許してもらえた。
オレはその日以来、夏を迎え、刻まれたしいたけを見るたびに思い出すのだ。
「苦手なものは、水で流し込めば喰えるが……しょせん、ムリなものはどれだけがんばっても、己の肉体が全力で拒否する」 のだと。
皆さんも、できるのなら 「ムリ」 な食べ物を、せめて 「苦手」 レベルまで克服しておくことをお勧めする。
さもないと……いつ、なにがきっかけで、ムリに喰わされるか、わからないからだ。
願わくば、そのような状況がこないことを、心からお祈する。
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【10年08月23日 田中公侍】 |
「チューブじゃなくて、缶のほうがオススメ」
手が荒れる。
夏も冬もだ。夏は暑すぎれば指の間に水泡ができ、冬はアカギレがひどい。
今年の夏は猛暑ゆえ、もうすでに何度か水泡が破けている。
なにせ痒い。仕事でキーボードなど叩いている場合ではない。
薬などを塗って対処するが、まだ有効な市販品を見つけていない。
間違ってムヒなぞ塗ってしまったときは、あまりの痛さに手足を凍らせてしまいたくなった。
……聞いてて気持ちのイイ話ではない気がしてきたぞ。いいのか?
そもそも、どうやら砂アレルギーという奴らしい。
砂に含まれる塩分や鉄分がまずいらしいのだ。
まったく気にしたことはなく、自覚したのは成人してからだった。
幼稚園児の頃、毎日砂場で遊んで来ては、謎の痒みや痛みと戦っていた。
主に掻いて。ダメダメだね。
夏も冬も拳を握ると血が滲み出し、白い靴下は家に帰ると赤茶色になっている。
自分の所有物などは構わなかったが、さすがにバイトを始めた頃に 「これは見た目にまずい」 となった。
いろいろ試した結果、寝ている間に「NI○EA」のハンドクリームに綿の手袋と靴下をしておく、というのが良かった。
それまでの痛みも消え、しばらくの間症状がまったく出なくなる。すばらしい。
が、しかし。出費がかさむ。
ハンドクリームを両足にも塗るものだから、消費量が半端ない。さらに、手袋と靴下も一夏、一冬で4〜5回替える。
手足が潤った代わりに、財布が 「カサカサ」 になったという話。
今回は苦しいな……。
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【10年08月18日 龍口明眞】 |
本人の意志により削除しました。
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【10年08月12日 大井雄紀】 |
友人のメッセンジャーのコメント。
「ラベルは衣服、キャップは眼鏡に脳内変換してペットボトルの分別をする」
天才かと思いました。
お久しぶりです。大井雄紀です。
さて、今回のエッセイのテーマは 『かさ』 だそうです。
というわけで、先日の出来事をつらつらと書き綴っていきます。
先日、僕は14時ごろSNE近くのJR三ノ宮駅に降り立ちました。
この日は夕方からセッションがあるだけで、17時に出社すればよかったので3時間ほど余裕があります。
僕は本屋やゲームショップを渡り歩くため、あえて早く到着するよう計画を立てていました。
朝早くに準備を済ませ、サイコロとルールブックを鞄に詰め込んでいます。
もちろん、本やゲームを買ったとき用に、鞄にスペースを空けておくことも忘れていません。
僕 「ふっ、計画通り……」
完璧に思えた計画ですが、一点だけミスがありました。
三ノ宮駅から見上げた空は灰色で、ときおり僕の頬に水滴が触れます。
この日は、雨だったのです。
僕 「なん、だと……」
僕は戦慄します。
この日の僕は、傘を持っていなかったのです。
銃を持たず戦場へときてしまった新兵のような心境です。
僕 「現地調達しかないか……」
歴戦の戦士のごとくさっそうと駅を駆け、僕はコンビニへと突入。
武器(傘)を手に取ったところで、525円という本が一冊買える値段に驚愕します。
ですが、武器を持たないことには戦いは始まりません。
コンビニ店員さんの 「この人傘持ってこなかったんだ……プッ」 という生暖かい目(被害妄想)に見送られ、僕はコンビニを出ました。
――バッ。
雨の降る空に向かい、買ったばかりの傘を広げます。
「あなたのことを守るわ」 そんな傘の声が聞こえてきた気がします。
すると、僕の脳内では傘が瞬時に美少女へと変貌します。
僕 「ふっ。よろしくな、カトリーヌ」
名前をつけたことで、僕と傘はもはや長年連れ添ったカップルの気分。
僕とカトリーヌは戦場という名の本屋へ旅立ちました。
一時間後の15時30分。
激戦を終えた僕はコーヒーショップへと入ろうとします。
出社までにはまだ時間があったので、コーヒーを飲みつつ戦利品を確認しようとしたのです。
店に入る前に、店先にあったビニールでカトリーヌを包みます。雨の日の本屋さんなどでよく見かける、濡れた傘を包むあれです。
僕 「カトリーヌ、おめかししようか」
カトリーヌ 「これ、透けてて恥ずかしいわ」
僕 「はっはっは、それがいいんじゃないか」
と脳内でまったくどうでもいい妄想しつつ入店。
三十分ほど本を読み、僕はSNEに向かうため席を立ちました。
僕 「カトリーヌ。僕を導いてくれ」
――バッ。
カトリーヌは返事代わりに、地面に向かってビニールを広げます。
ふと、そのとき気づいてしまいました。
雨が……止んでいる。
周りを見渡してみれば、誰も傘をさしていません。
天を見上げてみれば、灰色の雲よりも青色のほうが多くの面積を占めています。
間抜けなぐらいの青空は、世界の広さを伝えてくれます。
まるで自分がちっぽけな存在なことを教えてくれるようです。
僕の口が、自然と歌を紡ぎだします。
僕 「さわやか三組〜♪」
あれ、なんでだろう。
さわやかな午後だというのに、視界が滲むよママン……。
手に持つカトリーヌの質感が、やけに冷たく感じます。
――カチ。
僕は、カトリーヌを閉じました。
涙をこらえて、僕は歩き出します。
その後、僕は会社へ行く途中に立ち寄ったコンビニで、カトリーヌと別れました。
悲しいことですが、所詮一時の女だったのです。
あんなに愛していたのに、気持ちが冷めてしまったのです。
……ぶっちゃけ、入り口の傘さしに忘れてきてしまいました。
僕 「ごめん、カトリーヌ」
会社に到着し、カトリーヌがいないことに気づいた僕はそう呟きました。
もう、なんど同じこと(コンビニに傘を忘れてくること)を繰り返したのかわかりません。
僕 「こんな悲しいこと、二度と起こっちゃいけない! 財布の中身的な意味で!」
カトリーヌ(『傘』)との別れを経て、僕は『重ねて』そう思うのでした。
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