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日々つれづれ 10年12月
テーマ 「 贈り物 」 |
【10年12月27日 河野裕】 |
どもっ! 河野裕と申します。
早速ですがプレゼント選びが苦手です。なんかもう壊滅的に苦手です。
例えば以前、知人への誕生日プレゼントを探して、商店街を七往復したことがあります。最終的には花柄の帽子を買いました。なんかハワイっぽいのに防寒性能ばっちりの奴です。
いつ・どこで・誰がかぶるんだよ! たまに自分の判断力を信じられなくなります。
ところで贈り物と聞いて、まず思い出すエピソードがあります。
あれはまだ私が大学生だった頃のことでした。風の強い冬の夜、私は友人に呼び出され、彼が暮らすアパートを尋ねました。
チャイムもないような古いアパートです。手袋を外して扉をノックしたのを覚えています。もこもこの手袋をしたままでは、ノックの音がしないと思ったのです。
しかし友人はなかなか出てきません。耳を澄ませば中から彼と、女性の声が聞こえてきます。何か怒鳴り合っているような感じ。
あー、なんか面倒臭そうだなー。よし、お腹が痛くなったことにして帰ろう! と私が決断した頃、ふいに扉が開きました。
友人「悪い。今日は帰ってくれ」
いきなりの門前払い。ですが私も、元々そうするつもりでしたので、一安心です。
友人「あと、これやる」
え?
友人「じゃあな」
ばたん、と締まる扉。
友人が差し出した何かを咄嗟に受け取っていた私は、そっとそちらに視線を落とします。
その正体は一目でわかりました。
プリンです。プッチンプリンです。
こともあろうに、もうすでにプッチン済みでした。
白い紙皿の上で、べろんと広がっています。
いやいや。いやいやいやいやいや。
冬の夜に! 紙皿にのせたプリンを! 持って帰れというのか!?
せめてスプーンをつけてくれれば、その場で食べることができたのに……。
しかし部屋の中では、怒鳴り合いが再開された様子です。正直、もう一度友人を呼び出し、「スプーンもくれ」と言える雰囲気ではありません。
持って帰りましたよ、自宅まで。
両手で紙皿を支えて、背中を丸めて俯き気味に、すれ違う人々にちろちろ横目で見られたりしながら!
ちょっと両手で皿を持つポーズをとってみてください。ほら、親指が完全に孤立してますよね? 表面積がフルオープンな感じになってます。
だから親指、めちゃくちゃ寒い。冷たいっていうか痛い。
信号待ちの間になんとか片手で皿を持ち、口を使って手袋をはめようとしたけど無理! バランスが崩れると、プリンがついーっと紙皿を滑ります。必死に持ち直すとこちらを馬鹿にしたようにぷるんぷるん震えます。
冬の夜、信号機の下でプリンをぷるんぷるんさせる謎の男。
都市伝説になってもおかしくない光景です。
たぶん「私のスプーンを知りませんか?」と尋ねられて、答えられなければ気管にプリンを詰められ窒息死とか、そんな噂だと思います。「痴話喧嘩」と3回唱えると逃げていきます。
と、想像に逃避しながら、私は寒さと羞恥心に耐え帰宅したのでした。
そんな、ある冬の夜に私が受け取った、甘いはずなのにほろ苦く、少しミステリアスな贈り物の思い出。
ちなみになぜ、友人が私にプリンを押し付けることになったのか、後日聞いてみたところ――
友人「3個パックのを買って、1つお前のぶんだったから」
優しく誠実で公平な友人を持ち、私は幸せです。 |
【10年12月16日 笠井道子】 |
"通勤"と"贈り物"
先月のエッセイ、お題は「通勤」でしたね。
筆者は20年以上、2時間かけて神戸まで通ってきました。
「大変ですね」とよく言われます。
いいえ、まったく。
通勤ラッシュさえ避けられれば、乗り物、大好きです。
惰眠を貪り、読書に勤しみ、なにも考えずぼんやりと過ごす大切な時間。
決して奪われたくはない宝物です。
そんなわたしの「乗り物愛」を尻目に、新幹線の所要時間はどんどん短縮され、いまや京都から東京まで2時間ちょっと。
早すぎる……
寝たと思ったら、すぐに起きなきゃいけないじゃないのよ。
寝付き悪いのよ、わたし。
それじゃ、ゆっくり珈琲、楽しむ時間もないじゃないのよ。
世界に冠たる日本の新幹線、せめて3時間半は楽しみたいものです。
ただ「のんびり乗り物旅」には、大きな欠点がありました。
本代がやたら嵩むこと。
毎日ばくばくと雑誌、コミック、文庫本を喰いちらかしてきました。
わたしの「諭吉どん」は、そのために存在してたようなもんです。
いったい富士山何個分の雑誌を廃棄してきたことでしょうか。
そんなある日、勤続20年のご褒美として、グループSNEのボス・安田均からiPadを「贈られ」ました。
たった一つのタブレット型デバイスを下賜されたことで、長年の悩みの80%が解消されたのだからすごい。
これからも出版業界の隆盛を一手に担う覚悟でいたのに、iPadさまの威力や、恐るべし。
無料のお試し版ゲームをダウンロードし、気に入ったら数百円で購入し、あとはやりたい放題、遊び放題。
電子書籍だって、思ってたよりは読みやすい。
時間つぶしに困ることはありません。
iPadさま、ばんざ〜〜い。
iPadさま、最高!
やりすぎるとフリーズするし、「1ゲーム115円だからいいや」「350円くらい、しれてるよね」と、そこには悪魔の落とし穴もなくはないですが。
1ヶ月後、結構な額の請求が来ても、これまでの本代に比べれば微々たるものです。
しかし、お金を出して買ったゲームほど、つまらないのはなぜだろう。
かといって、やっぱり無料のゲームは無料なり、115円のゲームは115円なりの内容。
有象無象のアプリのなかから本当に好みに合うものを見つけだすのは至難の技ですが、それもまた楽し。
ただね、事務所の昼休み、iPad持ちのメンバー(筆者含む)が会話に加わらず、黙々とゲームをやりつづけるのは良くないと思うの……
っていうか、iPadってゲーム専用機じゃないよね……
追記:
*安田均のお勧めゲーム "Puzzle Quest"
*筆者のお薦めゲーム "DRAWN" "COLOR CROSS HD"
ご参考までに。 |
【10年12月13日 ベーテ・有理・黒崎】 |
唐突だが、俺には妹がいる。
兄妹仲は……どうなんだろう? よくもなく悪くもなく、といった感じだろうか。
しかし、昔は違った。
妹は本ばかり読んでいるデブでオタクでギークな俺を、汚物を見るような目で見ていたし、俺は俺でファッションや男にうつつを抜かす妹を、やっかみ半分で「普通なやつ」と見下していた。
状況が変わったのは俺が高校生になり、寮制の学校に入ってからだ。
おたがいの悪い部分を直視しなくてよくなったためか、段々たがいに対する態度が軟化していったのだ。
今では滅多に顔を合わせることはないが、頼みごとをすれば文句をいいながらも応えてやる位には持ち直している。
そんな俺と妹の間には、5年前からある儀式が存在する。
仲が比較的険悪だった頃から、しかし俺達はたがいに誕生日、クリスマスのプレゼントを欠かしたことはなかった。
誤解しないで欲しいのだが、これは単に「相手にあげないと自分も貰えない」という利己的な考えから出たものだ。
しかし、仲が改善されていく内に、このプレゼントを贈るという行為が俺の中で楽しくなっていったのだ。
家族以外にそういう相手があんまり居なかった、という悲しい理由もあるのだが(苦笑)。
そして、5年前、俺は20歳で、妹は18歳になろうとしていた……
プレゼントを既に選び終わっていた俺は、実家に電話した折りに偶然妹と直に話すことになった。その時、彼女が言ったのだ。
「なんか、17歳やなくなるのがめっちゃ嫌で、鬱やわあ……」
いや、なに言ってんだおまえ。バカか?
確か、そんな反応だったと思う(笑)。
しかし、なんたる偶然か、その時俺は論文に詰まっていて……そしてそういう時ほど、俺は詩が浮かび上がってくるのだ。
ちょうどよかったので、息抜きに「18歳の誕生日おめでとう。18歳も中々オツなもんだぜ?」という内容を脚韻を踏む定型詩の形で書いてプレゼントと一緒に贈った。
当然、英語で。
妹は俺と違い、当時はまだ英語がそこまで得意ではなかったので、「知らん言葉が多すぎてよくわからん」と不評だったが、以来この誕生日の詩を作ることは毎年行われる儀式になった。
母曰く、「血筋かしらねえ? あなたの曾お爺さんもみんなの誕生日に際して詩を贈っていたのよ」とのこと。
いやはいや、血は水よりも濃しとは、こういうことなのだろうか? |
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