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日々つれづれ 11年10月
テーマ 「 なぞ 」

【11年11月18日 秋口ぎぐる】

 台湾を観光してきた。
 初日の夜、ホテルのバスルームに入り、秋口は吹いた。便器の隣に「トイレットペーパーをトイレに流さないでください」と中国語、英語、日本語の三か国語で書かれていたからだ。
 当然、書き間違いだと思った。日本のトイレにもよく「ティッシュペーパーやガムなどを流さないでください」といった注意書きが貼られている。同じような意図だろう。
 ――と思ったが、英文も「トイレットペーパーを流すな」と書かれているように読めた。
 首をかしげた。
 激安ツアーにセットされた中流ホテルではあるが、中はそれなりに清潔で、サービスも行き届いている。そんなホテルで紙を流せない、などということがあるだろうか。だとしたら、使い終えたトイレットペーパーはどうすればいいのか
 ふと見ると、便器の横にくずかごが置かれていた。まさかここに捨てるのか。たしかにビニル袋がセットされてはいるが……。
 ひとまず真相の究明は先送りにし、その日は布団に入った。
 翌日、さまざまな観光施設をまわった。
 そこで驚愕した。
 あらゆる施設のトイレに「トイレットペーパーを流すな」という注意書きが貼られていた。寺院地下鉄の駅はもちろん、高級ブランドの入るショッピングモールのトイレにも、外資系のスーパーのトイレにも、近代美術館のトイレにも貼られていた。文字は基本的に中国語プラス英語だった。
 トイレにトイレットペーパーを流すな――。
 信じられない。これまで中国や香港、タイにも行ったが、こんな不便な経験をしたことは一度もない。台湾はアジアの中でも特に近代的だと思っていたのに。実際、街並みはそう見えるというのに!
 トイレの個室には必ず蓋つきのくずかごが置かれていた。つまり使用後の紙はこそこに捨てろ、ということだろう。
 ということは、つまり、あのくずかごの中にはうんこまみれのトイレットペーパーが詰まっている、ということか。
 恐ろしかった。蓋を開けるのが怖かった。いったいどんなビジュアルが広がっているのか、考えただけで鳥肌が立った。
 どうしてもあのくずかごの蓋を開けたくない。ホテルのバスルームにうんこまみれのトイレットペーパーを捨てるのも嫌だ……。
 苦悩した秋口が下した結論。それは、便意をこらえる、というものだった。
 三泊四日の旅行中、秋口はひたすらうんこをがまんした。
 帰国後、体重を量ってみると、三キロほど増えていた。
 もちろん連日連夜、小籠包や魯肉飯らを食べまくったことは事実だが、体重が増えた最大の原因は、ここには書かない。


【11年11月 1日 石在神明】

サンタクロースなんて本当はいない。
サンタクロースは、お父さんなのだ。
そんなこと、とっくに知っていた。

――あの日まで、ぼくは、そう信じていた。


もう何年も前の話。
小学生のぼくは、12月23日から5日間、家族旅行をすることになっていた。
出発の日、ぼくは誰よりも最後に家をでた。
もちろん、気を利かせた「サンタさん」がまさか1日早いプレゼントを枕元に置いてないか、確認していたのだ。
やはり、プレゼントは25日の朝、枕元で受け取りたい。
たとえサンタクロースがお父さんだとしても、それがロマンじゃないか。

だから、12月25日の朝、ホテルのベッドで目覚めたときに、枕元に何も置かれていないことに気づくと、ぼくは結構落胆した。
だけど、そのことを口にするのは、ぼくの中の「大人のプライド」が許さなかった。
(サンタクロースのクリスマスプレゼントなんて、別に欲しくなんかないし)
でも、それも口にできなかった。
だって、本当はプレゼントほしいんだもん!

そこでぼくは一計を案じた。
「ぼくは平気だけどさ、妹がサンタさんのプレゼントもらえないのはかわいそうだよ」
おお、ぼくって天才じゃないかしらん。
ぼくは平気だ、って大人のプライドが保てるし、妹思いの兄って顔もできる。
それに、ぼくのお父さんは、妹にだけプレゼントあげるようなことはしないんだ。
ほんと、なんて天才的な一言!

そんなぼくの会心の一言を、お父さんは軽くいなすのだった。
「まあサンタさんに旅行してること言い忘れてたからなぁ」
なんだよ、その言い方! サンタさんはお父さんのくせに!

家族旅行は、サンタクロースの件以外は、とっても楽しかった。
妹とけんかして、お父さんに怒られたことは、忘れておこう。
帰りの特急ではポリ容器の緑茶をひっくり返して大騒ぎしたりした。
そうして、冬休みの思い出の一つが終わった。

家に帰ると、ぼくのベッドの枕元に、プレゼントが置いてあった。
お父さんは「旅行してるの知らなかったから、サンタさんが家に置いていってくれたんだね」なんて言ってる。
中身は、ぼくのほしかったプラモデルだった。

でも、おかしいな。
最後に家を出たのはぼくで、最初に家に入ったのもぼく
お父さんはプレゼントをいつ置いたっていうんだろう。
それとも、もしかして……

20年たった今でも時々思い出す、サンタクロースにまつわる「
なぞのお話。


【11年10月31日 秋田みやび】

 なぞ、といえば「
」なわけですが。
 じつに穏やかにして心安らかな日々を送っているので、そういう不穏なものは推理小説の中だけで充分です。謎に心がときめくのは、平穏に身を浸しているからこそです。遠くから眺めて愉しみたいのですよ。謎とか、わけのわかんないものとか、超常現象とか、心霊現象とか。
 とはいえ、これが心に潤いのない戯言だというのはわかっていますので、毎日の中のささやかな謎を追い求めることにいたします。
 ふむ。
 そういえば、謎というほど神秘的なものではないのですが、秋田はどうやら
迷子鳥を見つける確率が結構高いようです。
 最近は2年に一回ペースくらいで、迷子の鳥を拾います。
 思い出すと、お引越し前のアパートの網戸に引っかかって切なげな顔をしていた青いボタンインコとか(救出して養子に行きました)。
 疲れ切った様子で、茂みの中で蹲っていた白文鳥の男の子とか(うちの子になりました。去年癌で逝きました)。
 野良猫の多い地帯をよてよてと転がるように飛んでいて、慌てて保護した白文鳥の中雛の女の子とか(うちの子になりました)。
 全部、一応警察に届けていますが。飼い主は現れませんでした。
 もしも、飼鳥さんを不注意で逃がしてしまった時には、お近くの警察に問い合わせてあげてください。外では、まず間違いなく飼鳥は長くは生きていけませんが、こういう酔狂が大慌てで保護してる場合もあるのです。
 あ、そういえば、何故かうちのベランダに落っこちてた雀の子もいましたっけ(餌を上げて温めて、元気になってから逃がしました。人間すげー怖がるし)。
 これが、頻繁なのかどうかは自分でははかりかねるところです。
 一番最近拾った、というか保護した白文鳥の雛は、一ヶ月ほどして我が家で「きりたんぽ」と名付けました。愛称はきりたん。え、なぜきりたんぽかって? それはもう、
白くて「秋田」の名産だからです。保護中だというのに、いらん所有権を主張してみました。
 ほわほわの、人懐っこい美人さんです。まだ飛ぶ訓練中くらいで、とても人馴れしているので、手乗り文鳥として育てられて、愛されていたのだと思います。
 そうそう、謎でした。
 その、きりたんぽ、愛称きりたんが。美人で可愛くて人懐っこいきりたんが。

 
我が家の王子にめろめろです。

 王子というのは、秋田の家に飼われている
どうしようもないヘタレ文鳥です。でもかわいい。
 年齢としてはもう、中年もいいところなのですが。もちろんかわいいんですよ。
 女の子同士のカップルに割り込もうとして飛び蹴りされるわ、無理矢理言い寄ろうと、求愛の歌も歌わず、いきなり女の子の背中に無理やり乗ろうとしたりとか。でもかわいくてねえ。
 あまりに女の子たちの復讐が激しくなりすぎて、ついに飼い主に求愛しはじめたりとか。かわいくてどうしようもないわけで。

 それが、きりたんと一つの壺巣に並んで入って、いちゃいちゃしている。
 王子がどうやってこんな器量よしのきりたんを射止めることができたのか。
 ロマンスグレー的な魅力でも見出したのか。

 拾い鳥の頻度よりもなによりも、これが現在の秋田家最大の謎です。


【11年10月11日 笠井道子】

 これを書くにあたって、2011年5月に書いた自分のエッセイを読みなおしました。そこでネタになっていた、壊れたオーブンレンジはいまも壊れたままです。
 安ければ1万円代であるレンジを、なぜ半年近くも買い換えないのか。
 強引にそれをひとつの「ナゾ」として今回のエッセイは終了--としてもいいんですが(よくないか)、以前からずっとずっとふしぎに思ってたことがあります。
 本日はその話題を少々。

 長年、京都から神戸のSNE事務所に通いつづけてるんですが、私が使う路線は本当によくダイヤが乱れます。
 その理由というのが「踏みきりの遮断棒が折られていた」とか「線路内に人の立ち入りがあった」とか「お客さま同士のトラブルがあった」とか。
 まるで「
このダイヤの乱れは、決して我が社のせいではありませんよ」と言わんばかりのアナウンスがくり返されます。
 なにせ「遮断棒が折れていた」ではなく、わざわざ「折
られていた」って言いますもん。
 そのくせ「信号機が故障した」ではなく「信号機に
異常が発見されたため」って言いますもん。
人身事故の影響で」ってのもよくありますが、翌日新聞で調べても、事故の記事はまず見つかりません。

 なかでも電車遅延の原因として多いのが「
急病人の救護手配」。
 一、二週間に一度はそのアナウンスを聞きます。
 これってほかの鉄道会社でも、ひんぱんに起こることなんでしょうか。
 私自身は20年以上、同じ路線を利用してますが、じっさいに車内で「急病人」に遭遇したのは一回きり。

 
ほんまに、そんなしょっちゅう急病人が出るん?
 それどんな人? 急病ってなんなん? その後どうなったん?
 面倒くさいから、適当にその言い訳使うてるだけちゃうん?


 どうせなら「本日午前○時○分ころ△△駅にて、推定年齢30代の女性が突然腹痛を訴え、救護手配を行いました」「先ほどの腹痛は陣痛だったことが判明。女性は救急車で1キロ先の病院に運ばれ、無事に女児を出産。体重は少々軽めの2430グラムでした。みなさまのご理解とご協力、ありがとうございました」くらいは言ってほしいものだ。

先ほど車内で30代男性と20代男性(年齢:推定)にトラブルが発生いたしました」「乗車のさいの『押したの突いたの』がきっかけでしたが、両名から多量のアルコールが検出されました」「反省の色が認められたので、厳重注意に留めました。ご迷惑をおかけいたしました」とか、どう?

 ミーハーとも野次馬根性ともちがうんです。なにが起こったか、もうちょっと知りたいだけなんです。「事故だ」「急病だ」「揉め事だ」ばっかり1時間も聞かされると、「その後」が聞きたくてしょうがなくなるんです。
 そんなもやもやした気分をかかえたまま出勤したくない、それだけなんです。
 なんとかこの「
続報アナウンスシステム」を各鉄道会社に普及させる方法、ありませんかね?


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