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【12年03月28日 秋口ぎぐる】 |
しばらく前に水泳を始めた。理由は苦手だからだ。おれは昔からクロールがまったくできなかった。それがコンプレックスになっていた。そうしたコンプレックスと運動不足を同時に解消できる。まさに一石二鳥! ――そう考えたわけだ。
いざ挑戦してみると、意外と楽しかった。最初は二五メートルで息が切れていたのだが、次第に長く泳げるようになっていった。それが快感だった。ロールプレイングゲームでレベル上げをしているような感覚、と言えばいいだろうか。
とはいえ、問題もあった。
おれはいつも休憩をはさみつつ一キロほど泳ぐのだが、八百メートルを過ぎた頃になると、なぜかいつも尿意をもよおすのだ。
おしっこがしたい! だがあと二百メートルを泳ぎきりたい! おれは小学生ではないのだ。大人なのだ。さすがに「ええい、そのまま出してしまえ!」というわけにはいかない……!
尿意をこらえつつのクロール。これは、もはや拷問に等しかった。あまりの辛さにほぼ必ず太ももが攣った。
なぜだ。なぜいつも八百メートルのあたりで尿意をもよおすのだ。偶然何度かそのタイミングでもよおしたために、パブロフの犬状態になってしまったのか?
そんな馬鹿な。
泳ぐ前は必ず――たとえ行きたくなくても――トイレへ行くようにしてみた。泳ぐ前の数時間は水分を控えるようにもしてみた。
だが無駄だった。
八百メートル。そこに、尿意の魔物がいる……!
おれはこうした拷問に耐えながらも、ひたすらジムに通いつづけた。
そして、あるとき唐突に悟った。
おれはあまりにもクロールが下手だ。そのため、泳いでいる間に大量の水を飲んでしまう。プールの、塩素と他人の垢と汗と雑菌まみれの、恐ろしく不潔な水を……。
これが尿意の原因だったのだ!
おれは、知らず知らずのうちに、大量の水分を摂取していたのだ!
疑問が解消されてからは、拷問は拷問でなくなった。おれは底抜けにポジティブなのだ。尿意はおれがプールの不潔な水を飲んでいることの証。これはつまり、筋肉だけでなく消化器官までもが鍛えられている、ということを意味している!
――それって上達してないってことなんじゃ? というツッコミは、どうかご遠慮いただきたい。
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【12年03月19日 篠谷志乃】 |
私の家には、白桃の木が1本ありました。
春には桜より濃い綺麗なピンク色の花をつける、我が家のシンボルツリー的な存在。
私が子供のころは木も元気で、初秋になるといつも甘い白桃をたわわに実らせてくれました。
しかし、この白桃。なかなかな困ったちゃんでした。
果実をつける木のそばで暮らしていらっしゃる方はご存知かと思うのですが、甘い実のなる木って基本的に世話が面倒なんですよね。
特に白桃みたいに花も立派で甘い果実をつける場合、まず蜜を求めて小鳥が来ます。ミツバチも来ます。蝶はやって来るだけでなく卵も産むので、当然山盛り毛虫だらけ。
それだけではありません。
実がなると小型の昆虫がいろいろ来ます。またそれらを狙って中型の鳥が来ます。そして……アシナガバチやスズメバチが来ます。巣だって作っちゃうぞ? 一度や二度じゃないぞ?(涙)
それでも、花と実の恩恵が充分だったころは気にはなりませんでした。
けれどいつしか弱った根にシロアリがすみつくようになり、世話の方が大変になったころ。ある日、学校から帰ると白桃の木は根元近くを残して姿を消していました。
「父か母のどちらかが切ったんだな」
そう思って少し悲しくなりましたが、世話が本当に大変だったことや落ち葉や虫のことでご近所さんから苦情が来ていたのを知っていたこともあって、「まあ、しかたがないか」と子供心ながら納得しました。
ふと、横を見ると仕事から帰ってきた姉が呆然と庭を見ています。
私より人間のできている姉のことだからすっぱり割り切るだろうと思っていただけに意外で、「どうしたの?」と声をかけたところ、私の知らなかった事実が。
「あの白桃の木、私の誕生記念に植えたって聞いてたんだけど……」
――みなさん。何かの記念に植える樹は、あまり手のかからない木にしましょう。
(蛇足ですが、この後、私はおいしい白桃が高価なものであることを知り、大変なショックを受けました。もう白桃をたらふく食べられない……涙) |
【12年03月16日 藤澤さなえ】 |
もも。桃色。ピンク。
藤澤はピンク色が大好きです。うっかりすると、身の周りのものが全てピンクになってしまうくらい好きです。
数年前、帰宅してピンクのマフラーを外し、ピンクのダウンジャケットを脱いで、ポケットからピンク色のケータイと、ピンクのケースに入ったipodと、ピンク色のキーホルダーが付いた自宅の鍵を取り出した時、「あ、次のケータイはピンク以外にしよう」と思いました。実際、次は緑色のケータイを買いましたけど……今はまたピンクのケータイを使ってます。
さて。
そんなピンク好きのわたしは、昨年秋、デジタル一眼カメラを購入しました!
色はもちろんピンクです! 重さ、性能……カメラを選ぶポイントはいろいろあると思いますが、わたしはデザイン……てか、色。ピンク色のデジ一を買いました。周囲から「それでいいのか?」と言われましたけど、気に入ったデザインを持ち歩いて、ずっとずーっと愛せるなら、それは最高の幸せじゃないですか!!!(力説)
そんなわけで、実用兼見せびらかし(笑)のためにピンクのデジ一を持ち歩く毎日が始まりました。遠出の時はもちろん、ちょいとカフェに行く時でも、近所のスーパーまで行く時でもデジ一を持ち歩くようになりました。そしてどうでもいい道端の草とか、何気ない空とかを撮りまくり、なんちゃってカメラ女子ライフを楽しんでいたのです。あ、もちろんヘタです。全然上手に撮れません。でも、それでいいのです。わたしは楽しいから(笑)。
……が、デジ一を持ち歩くには大きな大きな弊害があることがすぐに判明しました。
それは、通りすがりの人にカメラを託され「写真撮ってもらえますかー?」て頼まれる率がめっちゃ高いこと! 通りにどれだけ人が歩いていようとも、デジ一を下げているわたしが頼まれます。そりゃ、わたしだって旅先で誰かに写真を撮ってもらうなら、上手に撮ってくれる人がいい。そう、本格的なカメラを持っているような人。……て、気持ちはわかるけれども、わたしは何の勉強もしてない自己満足カメラマンでしかないわけで、過剰な期待をされても困りますよ。プロじゃないことくらいわかるでしょ? ……と言いたい。
ある時、ショッピングモールの屋上ガーデンで、「あのー写真撮ってもらえますか?」と声をかけられました。
「またか」と思いつつ「いいですよー」と言って振りかえると、そこには親族一同集合!的なかんじでずらりと並ぶ人々が。そしてその真ん中には、小さい赤ちゃんを抱く車いすに座ったお爺さん。
「くれぐれもよろしくお願いいたします」と、お婆さんからデジタルカメラを渡された時、「ああ、必要以上にカメラは持ち歩くまい」と思いました。
だってなんか責任重大すぎたんだもん!!!
皆さんも誰かに写真を頼む時は、過剰に期待しすぎないようにしてくださいね! ね! |
【12年03月09日 石在神明】 |
もう何年も前、ぼくには少し気になる、仲のいい女の子がいた。
特別美人というわけではなかったけど、笑顔が驚くほどかわいい女の子だった。
ぼくらは友達以上恋人未満……なんてステキな関係ではまったくなくて。
本当にただの友達だった。
2月14日、そんな彼女にチョコレートをもらった。
市販のチョコレートだったけど、中に手紙が入っていた。
「いつも話聞いてくれてありがとね。お仕事応援してるよ。がんばって!」
ぼくにはまったく心当たりがなかったけど、なんだか感謝のメッセージが書かれていた。
なんかお返しをしなくちゃな−、とぼんやりと考えたりした。
10日ほどたったある日、彼女を食事に誘った。
女の子を連れて行くようなこじゃれた店ではなく、安くて、美味くて、小汚い焼肉屋。
ぼくと彼女が、はじめて二人で出かけたときに入った店だ。
そこで、彼女に「好きなフルーツとかあるの?」と聞いた。
「ドライピーチかな。生の桃はダメないんだけど、ドライピーチは大好き!」
「へえー、そうなんだ」と軽く相づちを打ちながら、ホワイトデーにドライピーチのお菓子をあげようと思った。
でも、当時ぼくのまわりでドライピーチを売っていなかった。
だから、ドライピーチを作るところから始めた。
シロップ漬けの桃缶をスライスして、オーブンに並べて100度で3時間。
初めてにしてはなかなか美味しくできた。
それをナッツと合わせて細かく刻む。
溶かしたホワイトチョコをラップの上にスプーンで垂らし、ビターチョコを同じように重ねて垂らす。
うまく重なったら、爪楊枝で軽く渦を巻くようにまぜ、マーブル模様になったところで、さっきのナッツとドライピーチを上からぱらり。
チョコレートが固まったら、ひとつずつ小さなラッピングバッグに入れて、リボンで結んで、箱詰めして完成!
後日、味の感想を聞いたら、いつものドキッとするような笑顔で彼女は答えた。
「すごく美味しかったよ! うちの息子も喜んでた! ありがとね!」
え、息子? |
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