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TOP > ユーザーコンテンツ > エッセイ > 安田均の「ゲーム日記」第4回
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安田均の「ゲーム日記」 第4回 (1998年6月30日版)


 余談はともかく。さて、いよいよドイツゲーム大賞が近づいてきた。
 今年で20年を迎えるという同賞。
 この頃は評価も高くなってきて、大賞決定前からあれやこれやと言われる。このコラムでは、去年、候補作段階からコメントをつけて「大賞を予想する」をやったので、今回もそれで行ってみよう。




BASARI
 まず、「バザーリ」BASARI
(R・シュタウペ作/F・X・シュミット社/3〜4人用/45分)。

 電撃アドベンチャーズ誌上でも書いてあるけれど、一周レースと宝石集め、それに宝石の交渉を扱った小振りなボードゲームだ。

 でも、その短時間で目一杯遊べるところは、非常にグー。また、テーマもバザールの商人ということで、ぴったり。センスの良さが光る。作者のシュタウペは、おそらくドイツゲーム界のビッグ3(トイバー、クラマー、クニーツア)をつぐ期待の若手ナンバー1だろう。これまではカードゲームが中心で注目はされていたものの、ボードゲームはこれが初めて。それでこれだけ切れ味が鋭いとなると、末恐ろしい。




CAESAR&CLEOPATRA

「シーザーとクレオパトラ」CAESAR & CLEOPATRA
(W・リュートケ作/コスモス社/2人用/40分)はユニークな作品。

 2人用のカードゲーム、とは言っても、TCGじゃない。ドイツでは、去年の「カタンの開拓カードゲーム」から、こうした2人用のカードゲームが人気を得はじめている。TCGに対抗して、独特なものをということだろう。

 絵柄にはクセがあるが、長細いカードは美しい。ゲームはちょっと頭をひねるタイプだが、うまくバランスを取ってあって、2人でちょっと時間つぶしというには最適。もう少し、ユーモアのセンスか、息抜きが欲しいところだが(このままでは2人用ボードゲームのカード版という気もする)、ストレートでマジな作りはかえって新鮮でもある。大賞は無理だろうけどね。




CANYON

「キャニオン」CANYON
(F・ヘルシュラー/アバカス社/3〜6人用/45分)は、70年代に出たアメリカゲームのリメイク。

 いまさらという気もするが、ゲーム自体はおもしろい。ゲームごとに配る枚数を減らして、それから増やしていくトリックテイキングゲーム。で、取ったトリック数で、レースをする。トリックテイキングゲームだけに、プレイヤーのレベルが近くないと、ちょっとつまらない。気軽に遊べるところは、とてもいいけれど。





DAVID&GOLIATH
 おつぎは、またもシュタウペの「ダビデとゴリアテ」DAVID & GOLIATH
(R・シュタウペ作/ベルリナー社/3〜6人用/20分)だが、これもぼくは高く評価している。

 どちらかというと、「バザーリ」よりも好きなくらい。こちらもトリックテイキングゲームだが、枚数だけをとる普通の作戦(高い札)と、取らない作戦(中くらいの札)と、取るけれども最高の1枚だけ(低い札)という3つの狙いが混在している。そのアイデアがいい。ひねりすぎと見る向きもあるが、わりと論理的にスッキリしているので、マニアックな感じはない。

 低い札少数と中くらいの札多数がくれば、そりゃ有利だが、いつもいつもそうはいかない。中くらいの札ばかりになってなんとかしてくれと言いたくなったり、高い札と低い札が同時に来て、さあどうするといったジレンマがたまらない。ネーミングもぴったりだし、カードゲームを作らせたら、この人は名手だろう。



DIE MACHER

 選挙ゲームの名作と呼ばれた作品のリメイクが、「ディー・マッハー」DIE MACHER
(K・H・シュミール作/ハンス・イン・グリュック社/4〜5人用/4時間)だ。

 凝ったゲームで、かなりゲーム好きな人向けに作ってある。ただ、一度手順に慣れてしまえば、そんなに面倒ではない。

 日本ではドイツの選挙となると、各地方の特徴などがわからないので、いま一つピンとこない部分はしかたない。ただ、メディアの利用や、党員集会の活用、党会議の変更、人気取り政策など、日本によくあるようなアクの強さで勝負する冗談ゲームではなく、じっさいのゲームメカニズムや対抗策でゲームが動くようになっているのは、さすが。

 ただ、ぼくはオリジナルにあった、もう少し制限の強いルールの方が、微妙でおもしろかったように思えた。

 作者のK・H・シュミールは、ドイツゲーム界の怪人。前衛的で独創性豊かなメタゲームをつぎからつぎへと作っている(フライパンでの料理ゲーム、ルールを作るゲーム、引っ越しのゲームなどなど)。



DURCH DIE WURSTE

「砂漠を抜けて」DURCH DIE WURSTE
(ライナー・クニーツア/コスモス社/2〜5人用/45分)は、かなりよくできた作品。これが大賞を取っても、ぼくは文句はない(でも、クニーツアはチグリスがあるから無理だろうけど)。

 ひとことで言って、多人数囲碁。砂漠のキャラバン隊でオアシスや泉など地形を囲ってしまおうというゲーム。こう書くと、なあんだと言うことになってしまうが、ラクダやヤシなどのギミックはすばらしい。そして、そんなに考えずとも、短時間で決着がつくところがすごい。逆に言うと、これは多人数という人間が乱数のゲームなのだ。だから、あまりに考える人には時間制限を課した方がいいだろう(これは囲碁ではないし、ボードゲームはコンピュータゲームじゃないんだぜ)。

 やはり、先手が若干有利なので、配置と行動順は逆回りにした方がいいとは思うけれど、終わってからつい‘もう1回!’と叫んでしまうのは、良いゲームの証拠だ。さすがだね、ライナー・クニーツア。




ELFENLAND

「エルフェンランド」ELFENLAND(A・ムーン作/アミーゴ社/2〜6人用/60分)
は大好きなゲームなので、これが大賞を取ってほしいんだけれど、まあ、物事はそうも簡単じゃないだろう。
 ゲーム内容は電撃アドベンチャーズ誌に書いたとおり。エルフの国でのオリエンテーリングゲーム。簡単なのに、なんだか味がある。
 じつはこの作品、元は「エルフェンロード」といって、6年前に出た。そちらはそちらで、凝った作りの(実はもっと)おもしろい作品。でも、遊ぶのに2〜3時間はかかった。
 今回は、ゲームシステムをかなりすっきりさせて、交渉ゲーム系からソロゲーム系へと切り換えてある。A・ムーンという人は、アメリカのアバロンヒル社から、ドイツゲームの魅力に目覚めて、いまやその宣伝部長みたいになっている。おもしろいゲームを作るが、他人のゲームの換骨奪胎がうまいだけという評価もこれまであった。でも、この作品はオリジナリティ豊かだし、すばらしく見事だと思う。



EUPHAT&TIGRIS

 そして、話題作「チグリス・ユーフラテス」EUPHRAT & TIGRIS
(ライナー・クニーツア作/ハンス・イン・グリュック社/2〜4人用/90分)。
 期待させるものは大いにあった。そして、テーマもぼくの好きな陣取りタイプ。それだけに、どうしても点が辛くなってしまった。いちばん残念なのは、どこが‘チグリス・ユーフラテス’なんじゃい、というところ。そりゃ、ピラミッドを建てた(文明を進化させた)方が有利なのはわかるけれど、あまりに抽象くさい。
 もっとも、好きな人に言わせると、戦争(もしくは進化)ゲームをアブストラクトゲーム風に、これだけ簡略化したのは見事だということらしい。
 ぼくも遊ぼうと誘われるのなら、好きなものだけに喜んでプレイするが、これまでのクニーツア・タイプに比べると、ちょっと大規模で、センスのいい小回りの利くところが弱くなっているような気がする。
 でも、ドイツやアメリカでは人気が高いんだよね。いまのところは、これが大賞の本命だと思うが、どうなんだろう……。



GIPF

「ギプフ」GIPF
(K・ブルム作/シュミット社/2人用/30分) これだけは、まだ遊んでいない。ただ少し前に、ありとあらゆるゲームの目利きである草場純さんが、‘アバローンよりもおもしろい!’と言っていたので、まちがいない作品だろう。見た目はアブストラクト・ゲーム。そのうち届いたら、遊びたいと思っている。




MINSTER

 見た目はもう一つなのに、遊んだらおもしろかったのが、「ミニスター」MINISTER
(R・ホフマン作/TMシュピール社/3〜4人用/60分)だ。
 選挙ゲームと言うことだが、それは形だけという感じ。サイコロを振って、4つのコマを進める。その途中で、いかに自分の議員コマで議会を占拠するかを狙うゲーム。
 このコマの進め方にいくつかの戦術があって、うまく進めればコンボ風に連係プレイが決まる。バックギャモンみたいなところもあるけれど、もっと気楽に、しかも、このひと振りに賭けるといったやり方もできて、場の盛り上がること、盛り上がること。
 何回も続けて遊ぶゲームではないけれど、たまに遊ぶとそのたびにおもしろいと言われそうなタイプだ。
 作者のホフマンは「ドラダ」や「カフェ・インターナショナル」といった名作を作っているベテラン。外さずに作るところはさすがだ。




TONGA BONGA

「トンガボンガ」TONGA BONGA(S・ドーラ作/ラベンスバーガー社/3〜4人用/45分)
 いいっすねえ。特にサイコロが。相手の船に出た目のサイコロ船員を置くところがニクい。しかも、事前にいい船員が来てくれるように雇い賃を払っておくというのも、グーなアイデアだ。
 ただ、このサイコロのアイデアに比べると、トンガボンガ諸島を回るレース自体は平凡。よくあるように、邪魔し、邪魔されて、結局はダンゴレースになってしまう。その辺りで、ちょっとマイナス点かな。レースの部分がありふれてるんですよ。
 作者のドーラのゲームデザインは、いま書いたように、アイデアはいいんだけれども、どこか詰めが甘い。「1号線」という線路ゲームでも、最初の線路ひきのよさが、最後のレースでだいなしになっていた。「オリンピア2000」の不具の選手の使い方も、アイデア倒れで全然利いてないしなあ。「セイフナッカー」や「マラキャッシュ」は好きなんだけどね。こうしたムラが、期待したい若手なんだけれども、いまいちなところ。
 でも、この「トンガボンガ」はいいですよ。




TYCOON

 じつは最後になったけれども、いちばんワクワク度が高いんじゃないかと思うのが、このゲーム「タイクーン」TYCOON
(W・クラマー&H・R・レズナー作/ジャンボ社/2〜4人用/1時間45分)。
 これまでにも、経済ゲームには「アクワイア」をはじめ、名作は多かった。一方、交通ゲームも「レイルウエイ・ライバルズ」や「エアバロン」みたいに、おもしろいものは目白押し。
 で、この「タイクーン」は、それらすべてを統合したようなゲームといえば、こりゃ、いいゲームになるのは決まっている。
 おもしろいです、ぜひ、遊んでください、と書いておこう。
 少なくとも、ぼくはこれを立て続けに5回遊んだけれども、どれもちがうパターンの勝者が出た。それだけ、システムに選択肢が多いし、べつにそれが面倒でもない。バランスもうまく取れている。借金をせざるを得ないところがじつに微妙に利いていて、勝てなくても、それをなんとか返せてゲームから脱落していなければ、充分遊んだ気になる。
 やっぱりビッグ3の一角、中でもいちばんのベテラン、クラマーの作るものだけある。
 プレイ時間が1時間45分くらいと、ドイツゲームにしては少しかかるんだけれども、それだけ夢中になれるおもしろさはまちがいなく備えている。 しかし、アクワイア+エンパイア・ビルダー(アウフ・アクゼ)か、そりゃ、参るぜ。




 ということで、今年は候補作12作。いつもより多いし、じっさいにおもしろい作品だらけで、バラエティにも富んでいる。
 向こうでの評価も、‘今年の審査員はよくやった’という声が高い。
 あとは、どれが大賞かということだが、これはまあ……わかりませんね。
 一般的には、「チグリス・ユーフラテス」と「エルフェンランド」の争いということらしいけど、ぼくの選んだベスト5は「タイクーン」「エルフェンランド」「砂漠を抜けて」「ダビデとゴリアテ」「バザーリ」。まあ、他にも「ミニスター」「トンガボンガ」なんかもいいし、「チグリス〜」だって、もちろんすぐれたゲームだ。
 そもそも、候補にならなかったけれど、「ウルズッペ」や「カッツェンジャマー・ブルース」なんかもいいゲームだし。
 こんなにすぐれものが多いと、別に大賞自体は気にならなくなってきた。
 なんだかタイトルばかりが並んで、読みにくいコラムになったかもしれないけれど、ゲームの好きな人は、いまいちばんおいしい時期にある、これらドイツボードゲームをぜひお試しあれ。
 ゲームはもともとは、こうした多人数で楽しむものだったんだから。

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