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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 『ネアラ1 記憶をなくした少女と光の竜』(2005年10月)
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『ネアラ1 記憶をなくした少女と光の竜』
柘植めぐみ


 まだまだ冷めない翻訳ファンタジー・ブーム。本屋さんには、児童向けファンタジー専用棚がどーんと置かれ、数々の作品がビッシリ並んでいます。
 今回は、近々、その棚に並ぶ期待の新シリーズの紹介しましょう。
 10月28日発売、ネアラ1 記憶をなくした少女と光の竜(エンターブレイン刊)!
 グループSNEで多く翻訳されている、あのドラゴンランスシリーズと舞台を同じくする、新作ファンタジーです。訳者は、我らがボスこと安田均。そして柘植めぐみの強力タッグ!
 今日は、本作の訳者の一人――ドラゴンランスシリーズ、ダークエルフ物語シリーズなど、数々の翻訳シリーズを手がける柘植めぐみさんにお話を聞いてまいりました。
 聞き手は、私、駆け出し児童書読みの、藤澤さなえです。しばらくのお付き合い、よろしくお願いいたします。
(なお、インタビューの最後には、同じくこの秋に発売された『ドラゴンランス 魂の戦争』と『ルーンロード』の新刊情報もあります。お見逃しなく!)
2005年10月 発行
記事作成 藤澤さなえ


藤澤:  というわけで、今日はいろいろ聞かせてください!
柘植:  はい。よろしくお願いします。
藤澤:  早速ですが……実はわたし、翻訳ファンタジー小説も児童向けファンタジーも最近あんまり読んでないのです。
柘植:  え、そうなの?
藤澤:  はい……。このインタビューのために読んだ『ネアラ』は、めちゃくちゃ久しぶりなんです。時代に乗り遅れてわからないところもあると思いますので、いろいろ教えてください。
柘植:  じゃあ、この柘植めぐみが『ネアラ』の見所。そして、そこから次を読みたくなってしまうポイントを教えましょう。
藤澤:  先生、よろしくお願いします!


『ネアラ』との出会い

 『ネアラ1 記憶をなくした少女と光の竜』の原書Temple of the Dragonslayerは、ドラゴンランスシリーズでおなじみのウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が贈る、新ジャンルのシェアード・ワールド・ノベル
 アメリカでは人気大爆発で、現在もつぎつぎに続刊が刊行されています。その人気小説が、ついに日本上陸です!

藤澤:  まずは、この『ネアラ』シリーズを翻訳することになったきっかけを聞かせてください。『ネアラ』とは、どういう経緯で出会ったのですか?
柘植:  グループSNEでは、ボスこと安田均がずっとドラゴンランスシリーズを翻訳してきました。これはさすがに知ってるね?
藤澤:  はい。ダンジョン&ドラゴンズ(以下D&D)というTRPGの世界を舞台に書かれた、超大作ファンタジー小説ですよね。
柘植:  そう。マーガレット・ワイストレイシー・ヒックマンが20年以上も書き続けている、大人気シリーズ。そのドラゴンランスを手がけているウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が、去年から新たなジャンルに乗り出しました。その第一作目が、この『ネアラ』なのです。
藤澤:  なるほど。じゃあ、まだ原書が出て間もないシリーズなんですね。
 ところで、新しいジャンルということですが、以前とはどうちがうのですか?
柘植:  それは対象年齢が違うこと。今、世界中で「ハリー・ポッター」シリーズを始めとするヤングアダルトというジャンルが流行ってるよね。日本でもすごいけれど、アメリカでもかなりなブームになってるのです。
藤澤:  それは去年、アメリカに行った時に感じました。本屋にひろーいヤングアダルト棚スペースがあるのを見ましたよ。
柘植:  そうそう。だから、小学生たちが次々に新しいファンタジー小説を読んでいってる。ところが、ドラゴンランスシリーズは、どちらかと言うと大人向けの作品。
藤澤:  そこで、小学生たちも気軽に手に取ってもらえる本を出すことにしたんですね。
柘植:  その通り。この『ネアラ』のシリーズは、ドラゴンランスと同じD&D世界を舞台にした、10歳から読めるファンタジーとして出版された本なのだよ。
藤澤:  なるほど〜。
柘植:  しかも、毎回書き手が違う、シェアード・ワールド・ノベル形式
藤澤:  そうそう、1冊ずつ作者が違うんですよね。今回の1巻はティム・ワゴナー(Tim Waggoner)作だけれども、2巻はスティーヴン・サリヴァン(Stephen D.Sullivan)作。ってかんじで。
柘植:  気になる作品だったから、アメリカから取り寄せて読んでみたのだけど、これがとても面白かった。最初は「子供向けに書いてあるだけのものかな〜」っと思っていたんだけれども、ちゃんとドラゴンランスの雰囲気があったし、一個のファンタジーとして読み応えのある作品だった。
藤澤:  たしかに。一足先に翻訳版を読ませていただきましたけれど、子供だけじゃなく大人もじゅうぶんに楽しめる内容だと思いました。
柘植:  こんなに面白い本なんだから、日本の子供たちにも読んでほしい! そう思ってこちらからアスキーさんの方に話を持っていったところ、「ぜひ出しましょう」と言っていただけて。こうして発売される運びとなったのです。

『ネアラ』の魅力的なキャラクターたち

 少女は目を覚ますと、自分は何の記憶も持っていないことに気付く……
 目の前にあるのは、緑の葉をつけた木々。なめらかな土の小道。そして、3匹のゴブリンだった!
 その危機から助けてくれたのは、野伏せりの少年と白いローブの魔術師。2人に連れられ、少女ネアラは記憶を取り戻すため、旅に出る――!
 不思議なできごと、たくさんの種族、心優しい仲間と出会う、ワクワク痛快ファンタジー『ネアラ』。その中身をちょっとだけ教えちゃいます。

藤澤:  続いて、『ネアラ』のストーリーについて話をお聞きしたいのですが。
 まず、このネアラというシリーズ・タイトル。とても不思議な音でインパクトあるな〜って思ってたら、なんとヒロインの名前でした。
柘植:  そうそう。原題では『スペルバインダー(Spellbinder)』シリーズだったのだけど、こっちの方がわかりやすくて覚えやすいと思ったから。で、ストーリーはその記憶をなくした主人公・ネアラが、記憶を取り戻すために旅に出るのだけれども……
藤澤:  それ以上の解説は難しいですね……。
柘植:  うん(笑)。何を話してもネタバレになるからね〜。
藤澤:  物語は最初から伏線に次ぐ伏線! ってかんじで、読み進めれば読み進めるほど謎が現れて、その謎が解けて……の繰り返し。私は読んでてジェットコースターに乗ってるみたいな気分でした。気持ちよーく走ってると思ったら、急にグリンと曲がってビックリする、みたいな(笑)。
柘植:  物語にはたくさんの謎が散りばめてあって、それが後から意味を持って再登場したり、ここぞってタイミングで謎が解けたり。絡み合う伏線がじょじょにほどけていくような書き方は、本当に上手いし、面白いよね。
藤澤:  正直、読む前までは「児童書だしー」って思っていたんですけども、読後はなめてた自分を恥じましたよ〜。
柘植:  私も原書を初めて読んで感じたのは、中だるみしない面白さがあるってこと。常に何かの事件が起こり続けて、最後まで飽きさせないストーリーになっているんだよね。
藤澤:  だから、「こんなストーリーですよ〜」って紹介できないんです(笑)。
柘植:  読者さんには全部の事件を楽しんでもらいたいからね。
藤澤:  だからって、内容紹介がこれだけだと寂しいですので、せめてキャラクター紹介だけでも(笑)。
 登場人物はいっぱいいますけれど、私が読んで一番可愛いと思ったのは主人公ネアラですね〜。記憶がないことにも負けず、前向きで頑張り屋さんだから、見ていて応援せずにはいられないですよ。
柘植:  うん。ネアラももちろんそうだけど、出てくるキャラクターが全員ありあまる個性があって魅力的だよね。
藤澤:  ネアラのひたむきさにドキドキしてるレンジャー少年ダヴィンとか、騎士に憧れるみんなのお姉さんなカトリオーナとか。
柘植:  それから、何と言ってもケンダー族なのに魔術師のシンドリ。こんな設定のキャラクターは初めてみたよ。
藤澤:  作中で不思議な魔法をいっぱい使ってましたね(笑)。
柘植:  あと、僧侶に憧れるミノタウロスの戦士とかも珍しいよね。
藤澤:  悪役にもそれぞれにちゃんと性格がついてるんですよね。最初に出てくるゴブリン三人組も、それぞれが性格が違うのが面白くて。それがまた後々、物語の面白い要素になっていってますし。
柘植:  そんな悪役たちも、2巻以降もずっと出てくるよ。
藤澤:  この『ネアラ』シリーズはまだまだ続きがあるんですよね。続刊情報についても、また後ほど聞かせてください。
柘植:  うん。わたしは原書で続きも読み進めているけれど、こんな十代の子供たちがクリンを旅してるんだな〜ってだけで、なんだかじーんときてしまう……
藤澤:  そうそう、クリン! それについても話を聞かせてください!


『ネアラ』と『ドラゴンランス』の関係

 ドラゴンランスシリーズの舞台は、たくさんの種族とさまざまな魔法が登場するファンタジー世界・クリン。今回紹介しているネアラシリーズもまた、クリンで冒険しています。
 <竜槍戦争>が終わり、ドラゴンと癒しの奇跡が帰ってきた時代、ネアラたちは旅に出たのです。

藤澤:  えーっと……ごめんなさい。私はドラゴンランスシリーズについての知識が全然ないのですけれども……
柘植:  でも、読めたでしょう? このネアラシリーズは、初めて手にとった人でも読めるように工夫して書かれているから。
藤澤:  はい、ちっとも気にせずに読めました。
柘植:  <竜槍戦争>とかのクリンの設定は、主人公のネアラも記憶がなくてわからない。だから、周りのキャラクターがとても丁寧に優しく話して教えてくれるんだよね。
藤澤:  そう。読者の私も、その説明を聞いてる気分でするするっと頭に入ってきました。
柘植:  ドラゴンランスは長い物語だからたくさんの世界設定があって、それを全部説明口調で書いていると重くなっちゃうけれど、どれもキャラクターが語ってくれるから読んでて飽きない。
藤澤:  飽きませんでした。ドラゴンランスの話題が出ても、「これって何のこと? イライラ〜」なんて思わなくて、むしろ「これって詳しくはどんな話だろう? どきどき〜」ってかんじで、興味を持ちました。
柘植:  そう思ってくれた人には、ドラゴンランスシリーズもどうぞ(笑)。
藤澤:  ちなみに、このネアラは、ドラゴンランスシリーズで言うと、どのあたりの年代なんですか?
柘植:  長大シリーズの最初の作品・『ドラゴンランス』三部作で描かれている時代の、次の時代にネアラたちがいることになるね。ちょうど『ドラゴンランス』と『ドラゴンランス伝説』の間くらい。だから、『ネアラ』の中には『ドラゴンランス』で登場したキャラクターの名前もぽこぽこ出てきたりするの。
藤澤:  カトリオーナが憧れるソラムニア騎士団のアノ人とか、シンドリに古いお話を聞かせてくれたアノ魔術師とかですね?
柘植:  そうそう。だから、ドラゴンランスを読んだことがある人には、舞台だけじゃなくて、歴史や人のつながりでもニヤリとしてもらえるはず。
藤澤:  なるほど〜。
柘植:  もちろん、ドラゴンランスらしい雰囲気もじゅうぶんに残ってます。個性的なドラゴンがいっぱい出てくるところとか。
藤澤:  グリーン・ドラゴンのスレアンが可愛かったです〜!
柘植:  あと、キャラクターがちゃんとD&Dのルールを意識してつくられてるところとか。
藤澤:  当たり前って言えば、当たり前ですけど、キャラクターによって戦い方や仕事がきちんとかき分けられているのには目をひかれました。
柘植:  とてもわかりやすく書かれているから、各キャラクターとそのクラスの雰囲気がよく出てるよね。
藤澤:  それから、「旅の仲間」って言葉がよく出てるのにもゲームっぽさを感じました。
柘植:  元の単語のコンパニオン(companion)は、原書でもよく出ていて、意識して書いたんだろうなーって思ったよ。
藤澤:  TRPGでいうところのパーティですよね〜。
柘植:  そう思ってくれた人には、D&Dもどうぞ(笑)。


これからの『ネアラ』

 第1巻は10月28日発売! 気になる続刊の情報は……?

藤澤:  さて。最後にネアラの今後についてお伺いしたいのですが。
 実は第2巻滅びゆく王国(仮)も、もうすぐ発売されるんですよね。
柘植:  はい。間をおかず、この冬に発売予定です。
藤澤:  ネアラたちは元気に冒険してますか?
柘植:  詳しい内容は内緒だけど、1巻と変わらず頑張ってるよ(笑)。また、ちょっとした物語もあったりして……
藤澤:  うっ、それは気になる。早く続きが読みたいです。このネアラシリーズ、もう8冊も出てるんですよね。
柘植:  去年から2ヶ月1冊ペースを保って出版されているからね。これも作者持ち回りのシェアード・ワールド・ノベルだからこそできることだと思うけど。
藤澤:  やっぱり、1巻と2巻では作者が違うことで雰囲気が変わってたりしましたか?
柘植:  うん。結構ノリが違っていて、原書を読んだ時はちょっと戸惑った面もあったけど。日本語版は、これからもわたしとボスが訳していく予定なので、そのあたりは上手にならしていきたいですね。
藤澤:  1巻の終わりで、一端区切りがついていますけど、それでもネアラたちの冒険はまだ始まったばかり。続きが気になるので、頑張ってください!
柘植:  ひとまず最初の4冊で一つの流れに区切りがつくので、そこまでは3ヶ月おきくらいでお届けできるよう頑張ります。わたしもネアラたちのことは気がかりだし……。キャラクターたちはみんな子供だから、ついお母さん的な立場で見てしまうの。「頑張りなさいね」って(笑)。
藤澤:  私もそうでした。一緒に冒険してる気分っていうよりは、応援したかんじです。
柘植:  でも、小・中学生の読者さんならきっとネアラたちと共に大冒険に出るような気分で楽しんでもらえるはず。で、これを読んだら「今度はドラゴンランスを読もう!」って思ってもらえたらいいなぁ、と。
藤澤:  大きな字で、読みやすいつくりになってますから、小・中学生でも手にとりやすいと思います。
柘植:  あと、末弥純さんの綺麗な表紙も必見。ドラゴンランスシリーズは原書のイラストが載っていたけれども、今回のネアラは書き下ろし中の挿絵も書き下ろしと、ものすごく豪華なつくりになってます。
藤澤:  はい、とっても凝ってますよね。
柘植:  わたしも見てビックリした(笑)。
藤澤:  このステキな本を、ぜひぜひ手に取ってみてください。
柘植:  もうすぐ発売の2巻もよろしくお願いします(ぺこり)。
藤澤:  本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


 というわけで、この秋は海外ファンタジーの新刊ラッシュ! シリーズ待望の続編が次々と刊行されています。それらを紹介していきましょう。

 まずは9月に発売されたドラゴンランス魂の戦争 第一部墜ちた太陽の竜〈下〉(エンターブレイン刊)。おなじみ、トレイシー・ヒックマンとマーガレット・ワイスによる人気シリーズ第一部の完結編です。
 『ネアラ』の時代から半世紀がすぎたクリン世界を舞台にした壮大なストーリーも、ひとつの区切りを迎えます。物語の中心となるのは、謎の少女騎士ミーナと、シルヴァネスティの若き王となったシルヴァノシェイ。この二人が運命の出会いをとげたとき、時代は大きく変化します。かつて〈竜槍の英雄〉であった僧侶ゴールドムーンの身に起きた奇跡とは? 魔法喪失の原因を突き止めようとするパリンが見たものは? そして物語の最後には、目玉が飛び出るくらい驚くことまちがいなしの事実が明らかになります。
 読んだあとにため息が出るほどの満足感。よくできた物語とはこういうものだと思わせてくれます。第一部完結ということで、まだ既刊をお読みでない方にもまとめて手に入れていただくよい機会だと思います。ぜひ最高のファンタジーに触れてください!

 続いて、10月下旬発売のルーンロード2 〈狼の絆〉上(富士見書房刊)を紹介しましょう。
 『ルーンロード1 〈大地の王の再来〉』の上下巻が発売になったのが今年の3月ですから、半年ぶりに続編の登場です。
 第1巻で〈大地の王〉たることが判明した若き王子グボーン。彼らは南方よりの侵略者アーテン大王を、傷つきながらも敗走させることに成功しました。世界はつかの間、落ち着きを取り戻したようにも見えましたが……
 さらに強大な敵が、から、そして地下からやってきます。グボーンが救わなくてはならないのは北方の民だけではなく、「人類」そのものなのです……
 この第2巻には、新しいキャラクターも数多く登場します。たとえば、グボーンの祖国ミスタリア竜鳥(グアアク)に乗る訓練を受けた飛空師の少女アヴェラン。彼女はある人物たち――グボーンの護衛ボレンソンに酷似した若者と、空から降ってきた美少女――に出会い、物語の鍵を握る存在になっていきます。また重い責務に苦悩するグボーンのもとに、各国から力強い増援が送られてきます。しかし復讐に燃えるアーテン大王の侵略の手がゆるむことはなく、ある奇策のためにボレンソンはアーテン大王の愛妾たちが住む宮殿へと向かうのですが……
 物語はいよいよスケールを増し、とても太刀打ちできそうにない難題が、登場人物たちにふりかかります。彼らはいかにして困難を乗り越えていくのでしょうか……。
 手に汗にぎる壮大なファンタジーを、ぜひ体感してください。

 秋の夜長、海外ファンタジーで異国の地に思いをはせてはいかがですか?


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