藤澤: |
まずは、この『ネアラ』シリーズを翻訳することになったきっかけを聞かせてください。『ネアラ』とは、どういう経緯で出会ったのですか? |
柘植: |
グループSNEでは、ボスこと安田均がずっとドラゴンランスシリーズを翻訳してきました。これはさすがに知ってるね? |
藤澤: |
はい。ダンジョン&ドラゴンズ(以下D&D)というTRPGの世界を舞台に書かれた、超大作ファンタジー小説ですよね。 |
柘植: |
そう。マーガレット・ワイスとトレイシー・ヒックマンが20年以上も書き続けている、大人気シリーズ。そのドラゴンランスを手がけているウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が、去年から新たなジャンルに乗り出しました。その第一作目が、この『ネアラ』なのです。 |
藤澤: |
なるほど。じゃあ、まだ原書が出て間もないシリーズなんですね。
ところで、新しいジャンルということですが、以前とはどうちがうのですか? |
柘植: |
それは対象年齢が違うこと。今、世界中で「ハリー・ポッター」シリーズを始めとするヤングアダルトというジャンルが流行ってるよね。日本でもすごいけれど、アメリカでもかなりなブームになってるのです。 |
藤澤: |
それは去年、アメリカに行った時に感じました。本屋にひろーいヤングアダルト棚スペースがあるのを見ましたよ。 |
柘植: |
そうそう。だから、小学生たちが次々に新しいファンタジー小説を読んでいってる。ところが、ドラゴンランスシリーズは、どちらかと言うと大人向けの作品。 |
藤澤: |
そこで、小学生たちも気軽に手に取ってもらえる本を出すことにしたんですね。 |
柘植: |
その通り。この『ネアラ』のシリーズは、ドラゴンランスと同じD&D世界を舞台にした、10歳から読めるファンタジーとして出版された本なのだよ。 |
藤澤: |
なるほど〜。 |
柘植: |
しかも、毎回書き手が違う、シェアード・ワールド・ノベル形式。 |
藤澤: |
そうそう、1冊ずつ作者が違うんですよね。今回の1巻はティム・ワゴナー(Tim
Waggoner)作だけれども、2巻はスティーヴン・サリヴァン(Stephen
D.Sullivan)作。ってかんじで。 |
柘植: |
気になる作品だったから、アメリカから取り寄せて読んでみたのだけど、これがとても面白かった。最初は「子供向けに書いてあるだけのものかな〜」っと思っていたんだけれども、ちゃんとドラゴンランスの雰囲気があったし、一個のファンタジーとして読み応えのある作品だった。 |
藤澤: |
たしかに。一足先に翻訳版を読ませていただきましたけれど、子供だけじゃなく大人もじゅうぶんに楽しめる内容だと思いました。 |
柘植: |
こんなに面白い本なんだから、日本の子供たちにも読んでほしい! そう思ってこちらからアスキーさんの方に話を持っていったところ、「ぜひ出しましょう」と言っていただけて。こうして発売される運びとなったのです。 |
藤澤: |
続いて、『ネアラ』のストーリーについて話をお聞きしたいのですが。
まず、この『ネアラ』というシリーズ・タイトル。とても不思議な音でインパクトあるな〜って思ってたら、なんとヒロインの名前でした。 |
柘植: |
そうそう。原題では『スペルバインダー(Spellbinder)』シリーズだったのだけど、こっちの方がわかりやすくて覚えやすいと思ったから。で、ストーリーはその記憶をなくした主人公・ネアラが、記憶を取り戻すために旅に出るのだけれども…… |
藤澤: |
それ以上の解説は難しいですね……。 |
柘植: |
うん(笑)。何を話してもネタバレになるからね〜。 |
藤澤: |
物語は最初から伏線に次ぐ伏線! ってかんじで、読み進めれば読み進めるほど謎が現れて、その謎が解けて……の繰り返し。私は読んでてジェットコースターに乗ってるみたいな気分でした。気持ちよーく走ってると思ったら、急にグリンと曲がってビックリする、みたいな(笑)。 |
柘植: |
物語にはたくさんの謎が散りばめてあって、それが後から意味を持って再登場したり、ここぞってタイミングで謎が解けたり。絡み合う伏線がじょじょにほどけていくような書き方は、本当に上手いし、面白いよね。 |
藤澤: |
正直、読む前までは「児童書だしー」って思っていたんですけども、読後はなめてた自分を恥じましたよ〜。 |
柘植: |
私も原書を初めて読んで感じたのは、中だるみしない面白さがあるってこと。常に何かの事件が起こり続けて、最後まで飽きさせないストーリーになっているんだよね。 |
藤澤: |
だから、「こんなストーリーですよ〜」って紹介できないんです(笑)。 |
柘植: |
読者さんには全部の事件を楽しんでもらいたいからね。 |
藤澤: |
だからって、内容紹介がこれだけだと寂しいですので、せめてキャラクター紹介だけでも(笑)。
登場人物はいっぱいいますけれど、私が読んで一番可愛いと思ったのは主人公ネアラですね〜。記憶がないことにも負けず、前向きで頑張り屋さんだから、見ていて応援せずにはいられないですよ。 |
柘植: |
うん。ネアラももちろんそうだけど、出てくるキャラクターが全員ありあまる個性があって魅力的だよね。 |
藤澤: |
ネアラのひたむきさにドキドキしてるレンジャー少年ダヴィンとか、騎士に憧れるみんなのお姉さんなカトリオーナとか。 |
柘植: |
それから、何と言ってもケンダー族なのに魔術師のシンドリ。こんな設定のキャラクターは初めてみたよ。 |
藤澤: |
作中で不思議な魔法をいっぱい使ってましたね(笑)。 |
柘植: |
あと、僧侶に憧れるミノタウロスの戦士とかも珍しいよね。 |
藤澤: |
悪役にもそれぞれにちゃんと性格がついてるんですよね。最初に出てくるゴブリン三人組も、それぞれが性格が違うのが面白くて。それがまた後々、物語の面白い要素になっていってますし。 |
柘植: |
そんな悪役たちも、2巻以降もずっと出てくるよ。 |
藤澤: |
この『ネアラ』シリーズはまだまだ続きがあるんですよね。続刊情報についても、また後ほど聞かせてください。 |
柘植: |
うん。わたしは原書で続きも読み進めているけれど、こんな十代の子供たちがクリンを旅してるんだな〜ってだけで、なんだかじーんときてしまう…… |
藤澤: |
そうそう、クリン! それについても話を聞かせてください! |
藤澤: |
えーっと……ごめんなさい。私はドラゴンランスシリーズについての知識が全然ないのですけれども…… |
柘植: |
でも、読めたでしょう? このネアラシリーズは、初めて手にとった人でも読めるように工夫して書かれているから。 |
藤澤: |
はい、ちっとも気にせずに読めました。 |
柘植: |
<竜槍戦争>とかのクリンの設定は、主人公のネアラも記憶がなくてわからない。だから、周りのキャラクターがとても丁寧に優しく話して教えてくれるんだよね。 |
藤澤: |
そう。読者の私も、その説明を聞いてる気分でするするっと頭に入ってきました。 |
柘植: |
ドラゴンランスは長い物語だからたくさんの世界設定があって、それを全部説明口調で書いていると重くなっちゃうけれど、どれもキャラクターが語ってくれるから読んでて飽きない。 |
藤澤: |
飽きませんでした。ドラゴンランスの話題が出ても、「これって何のこと? イライラ〜」なんて思わなくて、むしろ「これって詳しくはどんな話だろう? どきどき〜」ってかんじで、興味を持ちました。 |
柘植: |
そう思ってくれた人には、ドラゴンランスシリーズもどうぞ(笑)。 |
藤澤: |
ちなみに、このネアラは、ドラゴンランスシリーズで言うと、どのあたりの年代なんですか? |
柘植: |
長大シリーズの最初の作品・『ドラゴンランス』三部作で描かれている時代の、次の時代にネアラたちがいることになるね。ちょうど『ドラゴンランス』と『ドラゴンランス伝説』の間くらい。だから、『ネアラ』の中には『ドラゴンランス』で登場したキャラクターの名前もぽこぽこ出てきたりするの。 |
藤澤: |
カトリオーナが憧れるソラムニア騎士団のアノ人とか、シンドリに古いお話を聞かせてくれたアノ魔術師とかですね? |
柘植: |
そうそう。だから、ドラゴンランスを読んだことがある人には、舞台だけじゃなくて、歴史や人のつながりでもニヤリとしてもらえるはず。 |
藤澤: |
なるほど〜。 |
柘植: |
もちろん、ドラゴンランスらしい雰囲気もじゅうぶんに残ってます。個性的なドラゴンがいっぱい出てくるところとか。 |
藤澤: |
グリーン・ドラゴンのスレアンが可愛かったです〜! |
柘植: |
あと、キャラクターがちゃんとD&Dのルールを意識してつくられてるところとか。 |
藤澤: |
当たり前って言えば、当たり前ですけど、キャラクターによって戦い方や仕事がきちんとかき分けられているのには目をひかれました。 |
柘植: |
とてもわかりやすく書かれているから、各キャラクターとそのクラスの雰囲気がよく出てるよね。 |
藤澤: |
それから、「旅の仲間」って言葉がよく出てるのにもゲームっぽさを感じました。 |
柘植: |
元の単語のコンパニオン(companion)は、原書でもよく出ていて、意識して書いたんだろうなーって思ったよ。 |
藤澤: |
TRPGでいうところのパーティですよね〜。 |
柘植: |
そう思ってくれた人には、D&Dもどうぞ(笑)。 |
藤澤: |
さて。最後にネアラの今後についてお伺いしたいのですが。
実は第2巻「滅びゆく王国(仮)」も、もうすぐ発売されるんですよね。 |
柘植: |
はい。間をおかず、この冬に発売予定です。 |
藤澤: |
ネアラたちは元気に冒険してますか? |
柘植: |
詳しい内容は内緒だけど、1巻と変わらず頑張ってるよ(笑)。また、ちょっとした恋物語もあったりして…… |
藤澤: |
うっ、それは気になる。早く続きが読みたいです。このネアラシリーズ、もう8冊も出てるんですよね。 |
柘植: |
去年から2ヶ月1冊ペースを保って出版されているからね。これも作者持ち回りのシェアード・ワールド・ノベルだからこそできることだと思うけど。 |
藤澤: |
やっぱり、1巻と2巻では作者が違うことで雰囲気が変わってたりしましたか? |
柘植: |
うん。結構ノリが違っていて、原書を読んだ時はちょっと戸惑った面もあったけど。日本語版は、これからもわたしとボスが訳していく予定なので、そのあたりは上手にならしていきたいですね。 |
藤澤: |
1巻の終わりで、一端区切りがついていますけど、それでもネアラたちの冒険はまだ始まったばかり。続きが気になるので、頑張ってください! |
柘植: |
ひとまず最初の4冊で一つの流れに区切りがつくので、そこまでは3ヶ月おきくらいでお届けできるよう頑張ります。わたしもネアラたちのことは気がかりだし……。キャラクターたちはみんな子供だから、ついお母さん的な立場で見てしまうの。「頑張りなさいね」って(笑)。 |
藤澤: |
私もそうでした。一緒に冒険してる気分っていうよりは、応援したかんじです。 |
柘植: |
でも、小・中学生の読者さんならきっとネアラたちと共に大冒険に出るような気分で楽しんでもらえるはず。で、これを読んだら「今度はドラゴンランスを読もう!」って思ってもらえたらいいなぁ、と。 |
藤澤: |
大きな字で、読みやすいつくりになってますから、小・中学生でも手にとりやすいと思います。 |
柘植: |
あと、末弥純さんの綺麗な表紙も必見。ドラゴンランスシリーズは原書のイラストが載っていたけれども、今回のネアラは書き下ろし。中の挿絵も書き下ろしと、ものすごく豪華なつくりになってます。 |
藤澤: |
はい、とっても凝ってますよね。 |
柘植: |
わたしも見てビックリした(笑)。 |
藤澤: |
このステキな本を、ぜひぜひ手に取ってみてください。 |
柘植: |
もうすぐ発売の2巻もよろしくお願いします(ぺこり)。 |
藤澤: |
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。 |