安田: |
(がさごそ)そっち、何ページ? |
笠井: |
……あとがきまで含めて445ページですね(このあと紹介する『クレリック・サーガ』のこと)。 |
安田: |
勝った! 638ページ! |
柘植: |
あのう……もしもし? |
安田: |
分厚い本どうしだからね。ページ数を比べていたんだよ。 |
笠井: |
ページ数では負けましたが、こちらはハードカバーですっ!
|
安田: |
むっ。ならばこちらは……。 |
柘植: |
はいはい、勝負しないでくださいね。本日はお忙しいなか、お集まりいただきありがとうございます。2冊の重厚なファンタジーについて、いろいろお話をお聞かせいただければ幸いです。 |
安田・笠井: |
笠井:よろしくお願いします! |
柘植: |
ではさっそく、『魂の戦争』からお話をうかがいたいと思います。第一部を少し振り返っておきますと……。 |
物語は3つのストーリーを軸に進行します。死んだと思われていたケンダーのタッスルとソラムニア騎士ジェラード、それに魔力の衰えた白魔術師パリンの旅。そして若きエルフの王子シルヴァンが、故郷シルヴァネスティへの帰還を果たす顛末。さらには、嵐の夜に現われた謎の少女ミーナと、暗黒騎士たちの物語。それらが入れ替わり立ち替わり描かれ、やがてはシルヴァンとミーナが出会い、いっぽうタッスルとジェラードが別れ、それぞれの道を歩み始める……といった経緯がありました。
|
柘植: |
第二巻も、これらのキャラクターたちが苦闘しながら絆を深めたり……といった感じですね。 |
安田: |
『魂の戦争』のなにより嬉しいところは、過去のドラゴンランスシリーズを読んでいなくても、これだけでじゅうぶんに楽しめること。1つの物語として完結しているから、この作品から読み始めてもおもしろさはじゅうぶん味わえるよ。 |
柘植: |
過去のドラゴンランス作品は、ちょっと入手しにくくなっていますからね。 |
安田: |
出版元がエンターブレインさんからアスキーさんに変わったりしていることも要因だろう。でも、新しい読者のみなさんにこそ、『魂の戦争』を読んでほしい。 |
柘植: |
第二部の見どころはどんなところでしょう。 |
安田: |
いよいよエルフの森での戦いが佳境に入るところかな。新しい時代になって到来した巨竜との壮絶な全面戦争が始まる。第一部にも竜はいろいろ出てきたけど、主に過去の竜だったからね。でも今度は違うよ(ニヤリ)。 |
笠井: |
たしか、ドラゴンランスの竜って色によって特徴がありますよね。今回の敵は何色ですか? |
安田: |
緑だよ。毒ガスを吐いて死をまき散らす竜。 |
柘植: |
もちろん、赤竜も青竜も出てきますよ。 |
安田: |
サイドストーリーとして描かれている青竜の行く末が、これからいちばん気になるところだね。赤竜は最後のとっておき。第三部をお楽しみに。 |
笠井: |
それにしても、ドラゴンランスの歴史は古いですね。 |
安田: |
『ドラゴンランス(戦記)』に始まって、『ドラゴンランス伝説』『セカンド・ジェネレーション』『夏の炎の竜』……そして、『魂の戦争』。 |
笠井: |
物語のなかでは、最初のときから何年くらい経っているんですか。 |
安田: |
『魂の戦争』はキャラモンが80歳をゆうに超えたところから始まるから……70年くらいかな。 |
笠井: |
うわっ。じゃあ、完全に世代交代していますね。 |
安田: |
うん。でもゴールドムーンは人間のわりにまだ生きている。“死なない”ケンダーのタッスルもね。 |
柘植: |
あとは長命のエルフも。第二部では、ローラナが大活躍ですよ。 |
安田: |
そう、過去の〈竜槍の英雄〉たちも、歳をとりつつがんばっている。でも、第二部では悲しいことも2つほど起こってしまう。でもその悲しさを乗り越えて、最後にはめちゃくちゃ感動する物語になっているよ。 |
柘植: |
長く生きるからこそのエルフの悲哀を感じます。 |
安田: |
ドラゴンランスシリーズの最初のほうでは、エルフは出てくることは出てくるんだけど、それほどは描かれていなくて、もっと展開してくれたらいいのになあ、とずっと思っていたんだ。そうしたら、「そんなことはわかってますよ」と言わんばかりの『魂の戦争』だからね。いやあ、エルフについてはこのシリーズの勝利かな(ふふふ)。 |
笠井: |
ふつうのエルフでしたらね。黒いエルフなら、断然サルバトーレですよ(注:ダークエルフのドリッズトのことです)。 |
柘植: |
(うっ、また勝負が始まった……) |
安田: |
ドラゴンランスとフォーゴトン・レルム(サルバトーレの小説の舞台)では、“ダークエルフ”の扱いがそもそも違うけどね。ドラゴンランスのほうは追放されたというだけで、もとは同じ種族。でもサルバトーレの描くダークエルフは、本当に肌が黒いよね。 |
柘植: |
同じD&Dの世界なのに、ずいぶん違うんですね(ふう、まとまった)。 |
柘植: |
今後の予定についてお聞きします。ドラゴンランスシリーズ最終話となる第三部は、いつごろお届けできるんでしょう? |
安田: |
よくぞ聞いてくれました。いま、まさに翻訳中! なんとか年内にはお届けできると思うよ。 |
柘植: |
うわあ、楽しみです。でも、これでシリーズが終わってしまうのかと思うと一抹の寂しさもこみあげてきますね。 |
安田: |
たしかにね。でも、アメリカではまだまだ出ているよ。 |
柘植: |
えっ? そういえばワイスが、ミーナの物語を書いているとは聞いていましたが……。 |
安田: |
いやいや。ワイス&ヒックマンがまたもコンビを組んで書いているんだ。ほら、最初の『ドラゴンランス』の第一部と第二部のあいだ(日本版では第二巻と第三巻のあいだ)で話がすっとんでいるところがあるだろう? |
柘植: |
あっ、〈竜槍の英雄〉たちがドワーフの王国に行って、〈カーラスの鎚〉を手に入れたという下りですね。そういえば、「これこれこんなことがあった」だけですまされちゃっていました。 |
安田: |
そう、ヒックマンたちも本当は書きたかったけど時間がなかったと言っていたものだ。いま、彼らはそうしたドラゴンランスのサイドストーリーを執筆している。シリーズ名は『Lost
Chronicles(失われた年代記)』。ぜひ日本でも紹介したいね。 |
柘植: |
はいっ! |
笠井: |
ところで、あのう……。 |
安田: |
ん? |
笠井: |
本の帯に「2007年秋、米で映画化!」とあるんですけど、ほんとですか? |
安田: |
本当だよ。映画といっても、アニメだけどね。 |
柘植: |
オフィシャル・サイトでは「制作日誌」も始まっていて、順調に進んでいるようです。キャラクターや背景のラフも載っていたり。今年の秋にアメリカ公開で、もう声優さんも決まっているそうです。レイストリン役がキーファー・サザーランドというのが、わたし的にはかなり楽しみ(うふふ)。 |
笠井: |
けっこう力が入ってるんですね。 |
安田: |
ワイスとヒックマンも全面協力しているから、その点では安心だね。ちなみに制作はインドのアニメ会社だよ。 |
笠井: |
インド? |
安田: |
いまのインドの成長力はすごいからね。クオリティの高いものができるのは間違いないだろう。 |
柘植: |
となると、残る問題は日本で公開されるかどうかですね。 |
笠井: |
いっそ秋になったらアメリカに行って観るというのはどうですか。 |
安田: |
(ぽんっ)そうか、その手があった! |
柘植: |
(およよ、話が大きくなる前に……)と、ところで、ドラゴンランスと同じクリン世界を舞台にした『ネアラ』のシリーズは第二巻まで出ていますが、こちらはどちらかといと、小中学生をターゲットにした作品ですよね。 |
笠井: |
(本の後ろの広告を見ながら)この『銀竜の騎士団』というシリーズは何でしょう? 2007年9月発売予定とありますが。 |
安田: |
これは、また別の世界を舞台にしたD&D小説。ぼくはものすごく好き。D&Dのルールやモンスターをうまく使った少年探偵団ものだと思ってもらったらいいかな。われわれも取り上げてきた「弱っちいゴブリンは殺してもいいのか」といった問題も取り上げられている。新鮮だし、ひじょうに読みやすい。 |
柘植: |
アメリカでも10冊以上出ていますね。 |
安田: |
いかにも“冒険小説”という雰囲気のジュブナイル。ぜひ日本でも広がってほしいね。 |
柘植: |
それでは、3月26日に発売されたばかりの新シリーズ、『クレリック・サーガ』についてお話をうかがいます。翻訳が笠井さんで、監修がボスですね。 |
安田: |
この本についてなにより印象深いのは、最後に載っている「読者のみなさまへ」というサルバトーレ自身の文章かな。なんと、彼はナイトクラブの用心棒だったのだよ! |
柘植: |
あれにはびっくりしました。 |
安田: |
いや、ぼくはポンッと手を打った。彼にはアメリカで会ったことがあるんだけど、ごつくてたくましい男だった。なるほど、どうりで彼が描く格闘シーンには迫力があるわけだ。 |
笠井: |
ええ、サルバトーレは素手が好きですよね(笑)。 |
安田: |
じっさいは、やさしげないいお兄さんだったけどね。 |
笠井: |
ちなみにこの「読者のみなさまへ」という文章は、じつはあとがきではなくて、『クレリック・サーガ』全五巻をまとめた豪華本からの抜粋なんです。もともと第一巻にあったものではないんですよ。 |
安田: |
“クレリック”とタイトルにはついてるけど、主人公はまだこれから僧侶になろうとしている段階で、しかも一風変わった僧侶。発明マニアだったりしてね。他にも、じつにいろいろなキャラクターが出てくる。ドワーフの兄弟とか。 |
柘植: |
「うむうむ」としか言わないドワーフのお兄さんはかわいいですよね。しかも兄弟2人とも強くって。わたしは『ダークエルフ物語』のノームのベルワーを思い出しました。 |
笠井: |
ちゃんとドワーフは毒に強いという設定も生かされていたりします。 |
安田: |
あと、修験僧(モンク)の女の子もいい。 |
柘植: |
モンクというクラスは、D&Dのd20システムから導入されたんですか? |
安田: |
いや。D&Dの初版にあって、いったん消えて、それがd20で復活したんだ。だからサルバトーレも、ずっとモンクが書きたくてたまらなかったようだね。なのに編集部からは僧侶で書いてくれと言われた、と文句をたれてた(笑)。 |
柘植: |
D&Dでクレリックというと、サルバトーレも書いているとおり、「してほしいのは治癒だけ。坊主はおとなしくすわってろ」てな感じで、それほど目立ちませんものね。 |
笠井: |
とくにレベルが低いうちは。 |
安田: |
ただね、じつは僧侶って、すごく魅力的なキャラクターにできるんだよ。水野良もソードワールドで羽根頭を書いているように、なかなかおもしろいんだって。 |
柘植: |
たしかに目からウロコでした。舞台となる〈叡智の図書館〉だけでも、じつに個性的な僧侶が山ほどいるんだなあ、と。 |
安田: |
第一巻はちょっと見には地味かもしれないけど、本当にいろんな種類のキャラクターが描かれてる。ぼくのお気に入りは小鬼(インプ)。トリックスターとして最高だね。 |
笠井: |
わたしはルフォが好きですよ。 |
安田: |
主人公のライバルだね。本当にこの作品は、ゲーム小説のキャラクターのお手本みたいな感じだ。 |
笠井: |
じつに味わい深い作品だと思います。 |
安田: |
ゲーム的な派手さを求められるなら、スーパーマン的な活躍をするキャラクターがいるわけじゃないのでちょっと違うけどね。 |
柘植: |
同じサルバトーレの別作品に出てくるドリッズトは、対照的にものすごいスーパーキャラクターでしたよね。 |
安田: |
たしかに、ドリッズトのタイプとはぜんぜん違うね。 |
柘植: |
『クレリック・サーガ』では、みんながちょっとずつ自分の役割を果たし、そうやって大きなことをなしとげる、という印象があります。 |
笠井: |
途中で○○○が死んじゃったときはまたかと思いましたが…… |
安田・柘植: |
あわわわわ(口をふさぐ)。 |
笠井: |
えっと、その……途中にもいろいろ思わせぶりな秘密の内容が書かれていたり、本当に期待させてくれます。最後のしかけもすごいですよね! |
柘植: |
ええ。最後の一文だけでも、早く第二巻を読みたいっ! と思いました。では、かなり話は先行してしまいますが、その第二巻のお話を……。 |
安田: |
ちょうど今日、第二巻の監修が終わったところなんだ。やっぱりインプはおもしろい。 |
笠井: |
わたしはエルフの王子がすごく好きですよ。あ、このへんはまだ秘密ですね。 |
柘植: |
(耳ざとく)おっ、カッコいいんですか? |
笠井: |
というか……。 |
安田: |
人間クサイよね。 |
笠井: |
つっぱり方がいいんです。年齢は重ねているけど、成熟していない子どもというか。でも自分では、何年も生きていて何でも知っていると思ってる。 |
柘植: |
またまたおもしろそうなキャラクターですね。その第二巻はいつごろ発売の予定ですか? |
笠井: |
秋くらいでしょうか。第二巻のラストも「ええっ」と思うような結末が待っていますので、お楽しみに。 |
安田: |
ところで、サルバトーレのもう1つの代表的作品、ドリッズトのシリーズはどうなっているの? |
笠井: |
『アイスウィンド・サーガ』の続編にあたる『ドロウの遺産(The
Legacy)』はぜひやりましょう、と編集さんとも話しているのですが。 |
安田: |
『アイスウィンド・サーガ』の刊行が、いまちょっと止まっているからね。 |
笠井: |
日本でもジュブナイルやファンタジー小説がどんどん受け入れられていって、ちょっとずつでも広がっていければ、ご期待に応えられるのではないかと思っています。もともと人気のあるシリーズですし。そういえば、荒俣宏先生が訳された『ホワイトプルームマウンテン』(同じくアスキー刊のD&D小説)が好調だったこともあって、『クレリック・サーガ』も出せたんですよ。 |
安田: |
あれはグレイホークを舞台にしているよね。 |
柘植: |
ちなみに『ドロウの遺産』以降のシリーズはどれくらいあるんですか? |
笠井: |
全部で5冊。全部やりたいです。『アイスウィンド・サーガ』の仲間たちが大活躍ですよ。 |
安田: |
『クレリック・サーガ』にドリッズトが登場するなんてことはないの? |
笠井: |
たぶん、ない、はずです(苦笑)。 |
安田: |
それは残念。とにかく、サルバトーレの作品はどれをとっても楽しさを満喫させてくれるかよね。ぜひ読んでもらいたい。 |
笠井: |
この作家は、書くほどに上手くなっている印象があります。 |
柘植: |
そういえば『クレリック・サーガ』の冒頭シーン、わたしはなんとなく『アイスウィンド・サーガ』と重なりました。怪しい人たちが怪しいことをしていて、いったい何なんだろうと思ったら……。 |
笠井: |
シーンが変わって、どこかのどかな風景になるところ? |
柘植: |
そうです。それでいったい何が起こっているの、と読み進めるうちに、その2つの場所が結びついてきて……そういうお話のもっていき方が、すごく上手いですよね。 |
笠井: |
分厚い本ですが、一気に読めます。どうなるんだろう、どうなるんだろう、と思っているうちにラストまで来てしまう。 |
安田: |
翻訳はたいへんだけどね(苦笑)。 |
柘植: |
夏は『銀竜の騎士団』、秋は『クレリック・サーガ第二巻』、冬は『魂の戦争第三部』――季節ごとに新しいD&D小説が読めるなんて、幸せいっぱいです! これからもたくさんのおもしろい海外ファンタジーを、みなさんのお手元に届けてください。 |
安田・笠井: |
がんばりま〜す! |
柘植: |
本日はありがとうございました。 |
安田・笠井: |
『魂の戦争』、『クレリック・サーガ』、ぜひ読んでくださいね! |