秋口: |
ついに『ガープス魔法大全』(以下 『魔法大全』)が発売になりますね。 |
安田: |
本来は今年の3月に出てるべきなんだけどね。去年の3月に『ガープス第4版』(以下 『第4版』)が出たから、遅くても1年後には出るはずだったんだけど。 |
秋口: |
それが出なかったのは……? |
安田: |
まず『ソーサルカンパニー』(以下 『ソーサル』)の開発に苦労したことがあるね。『第4版』と『魔法大全』を遊ぶための世界観が必要ということになって、実際に作りはじめたんだけど、歴史ある『ユエル・サーガ』との接点をどうするのか、『リボーンリバース』との接点をどうするのか、といったあたりでずいぶんと悩んでしまった。けっきょく「まったく新しいものにしよう」「ガープス自体への入り口となるものにしよう」ということで開発を進めたんだけど、いざ『ソーサル』を仕上げて、『魔法大全』と一緒に出そうとしたら……。 |
江川: |
アメリカのスティーブ・ジャクソン・ゲームズから「マジック(『魔法大全』の原版)の新しいバージョンが出るから、翻訳するときはそっちを参照して」という連絡が来てしまって。その新バージョンはPDFファイルで富士見書房さん(『第4版』や『魔法大全』、『ソーサル』の出版元)に届くという話だったんだけど、これがぜんぜん届かない。 |
安田: |
タイミングが悪かったね。『ソーサル』から出せばいいじゃないか、という話にもなったんだけど、『魔法大全』のデータが固まらないと出すに出せない。ただし、そのぶん『ソーサル』には時間ができたから、新しい要素をいろいろ取りこんでいくことはできた。 |
秋口: |
『ソーサル』が持つ新しい要素というのは、やはり「会社経営」の部分ですよね。 |
安田: |
今までにないシステムでしょ?(笑) 『ソーサル』は『第4版』自体を楽しめる、魔法中心の、それでいて遊びやすいサプリメントにしよう、というコンセプトが最初からあった。それはどんなものか、となったときに、僕が「会社モノを作れ」という指示を出して……。 |
秋口: |
その指示を受けて、システム面を安道くんが作ったわけですね。 |
安道: |
僕は前々からガープスで「PCが揃って1つのものを築きあげる」ようなゲームを作りたかったんですよ。PCたちの目標を同じ方向に揃えるというか。最初はガープスということで、会社自体を擬人化してたんですが。 |
秋口: |
会社を擬人化? |
安道: |
最初は「ガープスなんだから会社もガープスのキャラメイクのルールで作れるようにしよう!」とか考えてました。会社にとっての「不利な特徴」をたくさん作って、PCと同様にCPを振りわけて会社の個性を出せるようにしたり。 |
安田: |
ただ、キャラ作成とかぶる印象だったんだよね。 |
安道: |
はい。それで「擬人化」の要素は殺ぎ落としました。 |
江川: |
……(苦笑)。 |
秋口: |
おや、江川さんが苦い顔をしているのは?(笑) |
江川: |
僕は(安道が)システムを作る段階で、『魔法大全』とのすりあわせの部分についてアドバイスをしていたんです。その段階でいろいろあったなぁと(笑)。 |
安田: |
安道は、アイデアは豊かだけど、江川のように緻密に物事を進めるわけじゃないからね。 |
安道: |
その節はご苦労をおかけしました!!! |
一同: |
(笑) |
秋口: |
要するに、安道くんは『魔法大全』とのすりあわせをまったく考えずにアイデアを出しまくっていた、ということですね(笑)。 |
安田: |
ただまぁ、『魔法大全』をどう遊ぶか、という点については考えてくれたかな。 |
江川: |
そうですね。ぶっちゃけガープスで魔法を修得するのは大変なんですよ。段取りを踏んで、前提を満たして……といったことを初心者が考えるのは少し難しい。そこを(数種類の魔法をまとめた)パックで取得していけるシステムにしよう、という意見は企画段階からあって、その点については安道がうまくまとめてくれました。 |
安道: |
諸星さんの助けも借りて、ですけどね。あとは第3版で遊んでいたこともあって、うまくまとめることができました。 |
秋口: |
お、自画自賛だ。 |
安道: |
ち、違いますよ!(汗) |
秋口: |
諸星くんは世界観を担当したんですよね。 |
諸星: |
そうですね。システムは安道さんの担当なので、僕は世界やストーリー面を固めていく、ということで企画に参加させていただきました。(TRPGでは)世界観とシステムが有機的に絡んでいないといけないので……。 |
江川: |
苦労したよね。 |
諸星: |
かなり二転三転しました(苦笑)。 |
秋口: |
どのあたりで苦労しました? |
諸星: |
『魔法大全』を使うからには、魔法が中心の世界になるわけです。ただそうした世界の設定を細かく作りすぎると、プレイヤーが遊べる余地がなくなるんですね。 |
安田: |
論理的整合性をもって「魔法社会」を構築するのは大変だからね。それこそ1つの社会システムを完全に構築するようなもんだ。それならSF小説を書いてるほうがましだよ。 |
秋口: |
そうですよね。現代にない技術が大量に存在する社会のシステムを完全にシミュレートするとなると、恐ろしいことになりますよね。 |
諸星: |
ですから、『ソーサル』では魔法社会全体の大きなイメージと、PCにとって身近な部分の設定は行っていますけど、そうでない「中間の部分」はぼやかしているんです。遊ぶために必要な部分を残し、遊ぶ際の邪魔になりそうな部分は曖昧にしておいた、という形ですね。 |
秋口: |
諸星くんはリプレイのマスターもやったんですよね。 |
諸星: |
大変、楽しくやらせていただきました。それこそ最初は「『魔法大全』のデータを使いこなせるんだろうか」と腰が引けていたんですけど、プレイヤーの皆さんのご協力もあって、驚くほどうまくセッションを進められました。 |
江川: |
リプレイを読んでびっくりしたのは、《独演会》が使われていたこと。「そう言えばこんな呪文あったな」と、思わず笑ってしまいました(笑)。 |
秋口: |
諸星くんに訊きますけど。『ソーサル』で気に入っている部分は? |
諸星: |
口絵の3枚目が……。 |
一同: |
(笑) |
秋口: |
自分たちの仕事に関する部分で言ってください(苦笑)。 |
諸星: |
自分としては、普通はPCが使わない魔法をどんどん使っていけた、という部分がよかったですね。《独演会》もそうですけど。まず『魔法大全』をざっと読んで、使いたい呪文を決めて、そこから敵キャラを作っていったので。 |
安田: |
イメージさえふくらませれば、『魔法大全』はいろいろと使えるからね。 |
安道: |
(唐突に)僕は《空気探知》がほしいです。 |
一同: |
??? |
安田: |
あぁなるほど、空気が読めない(KY)から《空気探知》が必要なわけか。 |
秋口: |
――安道くん、君は勝手にしゃべらないように。 |
安道: |
はい!(汗) |
一同: |
(笑) |
諸星: |
僕としては、シエロの存在も気に入ってますね。 |
秋口: |
魔法の影響を受けやすい種族ですね。 |
諸星: |
(シエロについては)人間がほぼみんな魔法を使うので、使わない種族を、というところから考えはじめました。どうせなら(自分が魔法をかけられたときに)ブーストがかかる種族とか面白いんじゃないの、という話になって、それがそのまま残ることになって。 |
安田: |
みんなが魔法使いの世界だからね。ほかの役割をどうするの、と悩んだ時期もあったんだけど、それをシエロの存在がうまく解決してくれた。 |
秋口: |
シエロというネーミングは? |
諸星: |
僕が考えました。スペイン語で「空」という意味です。 |
秋口: |
綺麗なイメージですよね。同じくネーミングの話ですけど、マガというのは? |
安田: |
あれも困ったんだ。要するにマナのことだけど、いろんなゲームがぜんぶマナなので、ここでもマナだと面白くない。とはいえガープスではマナという名称が規定されているので、それに近い発音で別の用語を、ということで――。 |
秋口: |
マガになったと。 |
諸星: |
ラテン語で魔法の素という意味です。要するにマナと同じですね。 |
秋口: |
安道くんにも教えてもらいましょうか。システムに関して「これ作った俺、天才」と思える部分は? |
安田: |
いつも思ってるよな、安道は。 |
安道: |
勘弁してくださいよ!(泣) |
一同: |
(笑)。 |
安道: |
気に入ってるのは魔源石のやりとりですね。魔源石は魔法の使用を助けるアイテムなんですけど、『ソーサル』ではセッションの最初と最後にこれの時価をダイスで決めるんですよ。だから安いときに買って高いときに売ることで、株っぽい遊び方ができる。暴落や高騰といった興奮も味わえますよ。 |
秋口: |
価格変動の要素は最初からありましたよね。 |
安田: |
なんせ会社を経営するわけだからね。僕は、「会社ごっこ」の楽しい部分は株だと思ったんだ。PCたちで株主総会をやってもしょうがないでしょ? |
秋口: |
たしかに(笑)。 |
安田: |
いくら魔源石の売り買いが面白いからといって、そっちばかりやってもらっても困るけどね。トラベラーの艦隊作りじゃないんだから(笑)。 |
安道: |
あとは、シエロの「人間を消し炭にできるほどのダメージ」とかも気に入ってますね。バランスを取るのは大変でしたけど。 |
秋口: |
バランス、取れてるんですか? |
江川: |
わりと取れてません。 |
一同: |
(笑) |
安道: |
バランスが取れていないというか……先にやるかやられるか、というゲームにはなってますね。 |
江川: |
うん。戦闘の緊張感は半端ではない。 |
安道: |
シエロは超強力ですけど、前衛に立っていられる時間があまり長くないんですよ。強化魔法がかかってると疲労点がどんどんたまっていく。それがなくなるまでに決着しないと全滅する可能性が高い。 |
安田: |
そのために脱出魔法というものを作ったんだけどね。これの発動条件を「仲間の誰かが気絶していること」にしたら、セッション中に「みんな元気なのに脱出しなければいけない状況」が出てしまって。「おい、誰でもいいから気絶させろ!」という阿呆な状況が生まれて……あれはおもしろかった(笑)。 |
秋口: |
江川さんのお気に入りは? |
江川: |
ガープスの魔法は集中して集中してドン! という感じなので、(毎ターンやることのある戦士系に比べて)魔法使いが地味になりがちなんですよ。そこを魔源石という要素によって、魔法をぽんぽん使えるように変えてる。おかげで爽快に魔法使いを遊べるんですね。そこがお気に入りかな……ただし、そのぶんリスクがあるんですが。 |
安道: |
ここまで呪文ファンブル表を振るゲームは珍しいですよね(笑)。 |
諸星: |
それだけに派手ですよね。 |
秋口: |
基本的にPCは100CPで作るんですよね? なのにド派手なガープスですか。 |
安道: |
あるイベントでは「ユエルのリソースに妖魔の威力を突っこんだ感じですね」って言われました。 |
安田: |
現実路線と派手路線の中間を作った、ということだよね。 |
秋口: |
監修者としてのお気に入りは? |
安田: |
やはり方具だね。『ソーサル』は3つの要素で完成していくと思うんだ。1つは魔法を豪快に使える「妖魔とユエルの真ん中の面白さ」。もう1つはシエロという「魔法使いの中の戦士系」。最後の1つが方具。これは「魔法使いではない便利系」を表現するための要素だね。魔法使いでもなくて、シエロのような特殊な種族でもなくて、特になにもないんだけど方具を持ってがんばる……そういう渋いキャラを活躍させていきたい。ただ方具は魅力的なんだけど、最初から充実させすぎても問題がある。 |
秋口: |
すでに約1000種類の魔法と会社経営、シエロ、といった要素がありますからね。 |
安田: |
そう思ってリプレイではあえて方具にはあまり触れなかったんだ。方具の情報やデータは今後、充実させていきたいところだね。 |
秋口: |
最後に今後の展望や読者の皆さんに対するメッセージをお願いします。 |
江川: |
リプレイの巻末には簡易ルールがついています。まずはこの簡易ルールをもとに魔法使いを作ってみてください。そうすれば『ソーサル』の雰囲気がわかりますし、『魔法大全』と比べてみれば、普通に作った魔法使いとの違い、独特の爽快感などを実感してもらえると思います。 |
諸星: |
リプレイ1巻が発売中です。読んでいただけるとうれしいです(笑)。僕自身、ガープスにはくわしくなかったんですが、プレイヤーの皆さんに助けられて、無事に執筆を終えることができました。未経験の人でもリプレイを読むことでガープスに入っていける、そんなリプレイになっているはずです。 |
秋口: |
『魔法大全』だけではなく、ガープス自体の入門にもなっているということですね。 |
諸星: |
はい! |
安道: |
僕は……正式なルールブックの発売までこぎつけたい、という想いがありますね。その際は初心者の方にもわかりやすい内容を心がけます。 |
江川: |
(またも苦笑) |
秋口: |
江川さんが笑っているのは……「安道、おまえが言うんかい!?」と言いたいわけですね。 |
安道: |
がんばりますっ。わかりやすく書くようがんばりますから! |
一同: |
(笑) |
安田: |
『ソーサル』は『第4版』を使って、『魔法大全』から気軽に使いたい魔法をチョイスするだけで遊べるようになっています。まずはそういう形で楽しんでいただきたいですね。 |
秋口: |
遊べばわかる! ということですね(笑)。――それでは皆さん、今日はありがとうございました。 |
一同: |
ありがとうございました〜。 |