安田: |
海外ファンタジーの話題といえば、3月に『ライラの冒険(黄金の羅針盤)』の映画が公開されるね。 |
柘植: |
クマさん……萌え。 |
安田: |
5月には『ナルニア国物語(第2章カスピカン王子の角笛)』の映画も待ってるし、あいかわらず、ジュブナイルとファンタジーは人気があって、うれしいことだ。 |
柘植: |
そんななか、ついに「ドラゴンランス」が完結しましたね。 |
笠井: |
本の帯のコピーがすごいですね。さよなら、ドラゴンランス! |
安田: |
これで本当におしまい。マーガレット・ワイスとトレイシー・ヒックマンが書きつづけてきた、「ドラゴンランス戦記」からの流れは、これで終わりだよ。 |
笠井・柘植: |
お疲れさまでした! |
柘植: |
かれこれ何年になりますか? |
安田: |
「ドラゴンランス戦記」の原書の第一巻が1984年。最初の日本語版(富士見書房刊)が1987年だから……ちょうど20年だね。ちなみにアスキーさんからの再出版が始まったのが、2002年。 |
柘植: |
それからわずか5年のあいだに、「ドラゴンランス」「ドラゴンランス伝説」「セカンド・ジェネレーション」「夏の炎の竜」「魂の戦争」が出たんですね。ええと(足し算をして)、合計22冊。すごいですね。 |
安田: |
ところで、「魂の戦争 第三部」はどうだった? |
柘植: |
……本当に終わっていました(泣)。 |
安田: |
そりゃあ、〈竜槍の英雄〉たちがいつまでも残ってるわけにはいかないからね……おっとっと(ネタバレになりそうなので口をふさぐ)。 |
柘植: |
「魂の戦争 第一部」の冒頭でキャラモンが死んで、まだ生きていたローラナ、ゴールドムーンもやがて姿を消して、それでもタッスルホッフだけはず〜っと元気にはねまわっていたんですけれど……(もごもご)。 |
安田: |
ぼくとしては、おさまるべきところにおさまったんじゃないか、って思ってるよ。 |
柘植: |
はい、大満足です。これまでずっと読んできてよかった、って思います。 |
安田: |
中身については、とにかく読んでください。 |
笠井: |
この1冊って、読みごたえがありますよね〜。 |
安田: |
原稿用紙にして1500枚くらいあるからね。翻訳は本当に大変だった(しみじみ)。お手伝いの石口聖子さんにもがんばってもらったよ。 |
柘植: |
で、これからなのですが(ニヤリ)。 |
笠井: |
これから? |
安田: |
そう、「さよなら」と言ったあとでなんなんだけど……あとがきでも触れたように、じつはまだ続くんだ! |
笠井: |
おお〜っ! |
安田: |
最初の「ドラゴンランス(戦記)」のなかで書き切れなかったエピソードがあって、それらを新たな三部作でお届けしようというのが、その新シリーズ。名づけて「The
Lost Chronicles(仮題:失われた伝説)」。 |
柘植: |
作者はどなたですか? |
安田: |
もちろん、ワイス&ヒックマンだよ! 第一部の「Dragons
of the Dwarven Depths」は、「ドラゴンランス」日本語版の第三巻(氷壁の白竜)の冒頭に出てくる〈カーラスの鎚〉を、英雄たちがどんなふうに手に入れたのかという物語。 |
柘植: |
あのエピソードは、過去を語る形でざっと書かれただけだったので、ずっと気になっていたんです〜。 |
安田: |
第二部の「Dragons
of the Highlord Skies」はキティアラと彼女の騎竜スカイアが主人公。そのあとの「Dragons
of the Hourglass Mage」はもちろん……。 |
柘植: |
砂時計の魔術師=c…レイストリンですね! |
安田: |
そう。彼がいかにしてアリアカスの配下としてのしあがっていくかという物語だ。じつは本国アメリカでもまだ出版されていない(笑)。 |
柘植: |
きっと懐かしいキャラクターがたくさん出てくるんだろうなあ。 |
安田: |
分量はやっぱり、「魂の戦争」の各巻と同じくらいある。翻訳は大変だけど、2008年の夏くらいには第一部を出せると思うので、楽しみにしていてください! |
笠井・柘植: |
がんばってください〜! |
安田: |
さて次は、ぼくがD&D少年探偵団と呼んでいる大好きなシリーズを。 |
柘植: |
はい、「銀竜の騎士団」の開幕です。2007年の11月に、1冊めの『大魔法使いとゴブリン王』が出ました。 |
笠井: |
読みましたよ〜。すごくおもしろかったです! |
安田: |
だろう? D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)らしくて、それでいてしっかりした小説になってるんだ。 |
笠井: |
ええ、ちゃんとジュブナイルですしね。 |
柘植: |
はい。子どもたちの「D&D入門書」としてまさにふさわしいかと。 |
笠井: |
巻末のモンスター図鑑もいいですね。 |
安田: |
強さを表わすグラフとか、わかりやすいよね。ぜひこういうのをやってみたくて、日本語版オリジナルの付録としてつけてもらったんだ。 |
柘植: |
じつは章タイトルも、日本語版オリジナルです。わくわく感を持って読んでいただけるようにつけました。 |
安田: |
みんなはどのキャラクターが気に入った? ぼくは弟のドリスコルが大好きなんだけど。 |
笠井: |
この物語は彼の視点から書かれていますよね。 |
安田: |
兄のケラックがシャーロック・ホームズだとすると、ドリスコルがワトソン役。ちょっとおっちょこちょいで、張り切っては失敗したり(笑)。 |
笠井: |
盗賊の女の子はしっかり者ですね。 |
安田: |
父親はだらしなくって、いつも刑務所に入れられてるけど。 |
一同: |
(苦笑) |
安田: |
キャラクターのパターンっていうのがしっかりできあがっていて、安心して読めるよね。 |
笠井: |
でもラストではちゃんと、「え、そうなの?」っていう驚きがありましたよ。 |
安田: |
うん。そこをなによりも推したい。D&Dでいて、それでいて謎解きのしっかりしたミステリーに仕上がってる。本格的な探偵小説というわけじゃないけど、手がかりを追っていくうちに、「ああ、そうなのか」「ええっ?」となる。 |
笠井: |
読者に挑戦状を突きつけるわけじゃなくて、いっしょに謎を追いかけ、いっしょになって驚いたりできますよね。そして最後に気持ちよくスパッと解決。 |
安田: |
しかも、D&Dらしいモンスターや魔法アイテムに絡めてある。 |
笠井: |
登場するモンスターがいいですね。ゴブリンの王さまのセコさが最高。詳しくは言えないので、じっさいに読んで笑っていただきたいです。 |
安田: |
「ザコモンスターであるゴブリンは、有無を言わさず殺してもいいのか」というテーマは、ぼくたちもずっと取り上げてきたこと。本場のアメリカ人でも考えるんだ、とちょっとびっくりしたね。 |
笠井: |
くり返しになりますが、ジュブナイルなんだけれども、D&Dという背景があるからでしょうか、小説としても本当にしっかりしていますよね。 |
柘植: |
おすすめのお言葉、ありがとうございます。 |
安田: |
というわけで、ぜひ読んでいただきたいんだけど、じつは2月にはもう、2冊めが出るんだよね? |
柘植: |
はいっ! タイトルは『ドラゴンと黄金の瞳』です。じつは英語の原題はかなりネタバレなので、直訳ではないんですよ(苦笑)。 |
笠井: |
書いてる人は違うみたいですね? |
柘植: |
はい。このシリーズはいわゆるシェアード・ワールド的な展開がなされていて、作品ごとに著者が変わるんです。 |
安田: |
でも世界もキャラクターも、最初の作品でしっかりできあがってるよね。 |
柘植: |
今回も3人の子どもたちが元気に走りまわり、例によって、D&Dらしいモンスターや呪文がいっぱい登場します。 |
安田: |
この作品のしかけも、D&Dファンなら「おっ、あれかな?」と楽しんで読んでもらえると思う。 |
笠井: |
やっぱり謎がちりばめられてて、手がかりを追って……という感じ? |
柘植: |
ええ、今回はどちらかというと、シティ・アドベンチャーがメインかな。 |
安田: |
楽しみにしていてください。そのあとも順次、出ていくんだよね。 |
柘植: |
はい、続編も鋭意翻訳中です。できるだけ早くお届けできるようにがんばりますので、応援をよろしくお願いします! |
安田: |
さて、いつもならここで、同じD&Dを題材にしたサルバトーレの作品のことで笠井さんに話を聞くんだけど……。 |
柘植: |
今回はちょっと違いますよ。あ、もちろん、気になるドリッズト(サルバトーレの『ダークエルフ物語』などの主人公)の続編についてもあとでお聞きしますけど。 |
安田: |
この作品は、まったく新しいレーベルなんだよね。 |
笠井: |
はい、小学館のルルル文庫さんから出ます。 |
安田: |
2007年に創刊されたばかりの、女の子向けのライトノベルのシリーズだよね。月に1冊は海外翻訳作品もラインナップに入っているというのが、他と一線を隔している。その文庫に、ついに翻訳家笠井道子が登場? |
笠井: |
はい! たぶん、この春には本屋さんに並ぶと思います。 |
安田: |
タイトルがおもしろいよね。『Boys
that Bite』――『噛む男の子たち』? |
笠井: |
日本語のタイトルは現在、検討中です(笑)。 |
柘植: |
ひと言でまとめると、どんな話なんですか? |
笠井: |
吸血鬼がテーマのユーモア・ファンタジー、かな。 |
安田: |
ロマンスと言ってもいいだろうね。じつは、いま海外では、ジュブナイルやファンタジーと並んで、現代的なロマンスものがものすごく流行ってる。ほんと、日本の女の子向けのライトノベルと同じような雰囲気。吸血鬼ものは昔からあったけれど、最近ではローレル・ハミルトンのアニタ・ブレイク・シリーズが大ベストセラーになってる。 |
柘植: |
たしか日本語版も出ていますよね(ヴィレッジブックス刊)。 |
安田: |
つまり、学園、ファンタジー、ホラー、ロマンスをひとまとめにしたような作品がたくさん出てるんだ。もうひとつ例をあげるなら、アメリカで人気のドラマシリーズ『吸血キラー 聖少女バフィー』なんかもそう。 |
笠井: |
バフィーについては、今回の小説のなかでもずいぶん引き合いに出されてますよ。 |
安田: |
『Boys that
Bite』は、ユーモアやパロディがいっぱいあって、むちゃくちゃ楽しいものねえ。 |
笠井: |
主人公はごく平凡な女の子なんです。でも双子のお姉さんがゴシック大好きで、ある日、主人公はお姉さんにむりやりゴス系のクラブに連れていかれます。着ていく服がないというので、お姉さんから借りたのが、Bite
Me――わたしを噛んでと書かれたTシャツ。 |
安田: |
それでクラブに行ったら、本当に吸血鬼に噛まれちゃうんだよね。 |
笠井: |
はい、オーリーみたいなハンサムな男の子に。 |
柘植: |
オーランド・ブルームですか? 指輪の映画でレゴラス王子をやってた? |
笠井: |
うん。ちなみに、『ロード・オブ・ザ・リング』じゃなくて、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のオーリーってわざわざ書いてあるけどね。 |
柘植: |
わかるような、わからないような……。 |
笠井: |
話に戻るけど、主人公としては、さあ、大変。もとの人間に戻りたい……というわけで、あれこれするお話。詳しくは言えないけど、でっぷりした高校生の吸血鬼ハンターが出てきたり、キリストの聖杯を取りにイングランドに行ったり…… |
柘植: |
なんだか、すごい話ですね(ぼう然)。 |
安田: |
とにかくおもしろいよ〜。笠井さんにとっては、これまで訳してきたものと全然違う感じだったでしょ? |
笠井: |
そりゃあ、もう。 |
安田: |
でもこういうユーモアものって、SNEの翻訳のもう1つの流れでもあるんだよね。テリー・プラチェットの『ディスクワールド騒動記』(角川書店)、コスティキアンの『ある日、どこかのダンジョンで』(メディアワークス)とか。もっと今風だけど。 |
笠井: |
ほんと、ライトノベル感覚ですね。いま、日本のイラストレーターさんのキャラクターラフが届いているんですけど、すごくいい感じです。女の子はかわいいし、男の子もかっこいいですよ〜。 |
安田: |
まだまだおもしろいファンタジーはたくさんあるということさ。ルルル文庫さんにはがんばってもらおう。 |
柘植: |
じつはひそかにわたしも、訳したいと思っている作品がありまして……ルルル文庫さんからデビューできるようにがんばります! |
笠井: |
わたしも、新しい作品をどんどん見つけていくつもりです。 |
安田: |
おや、その前に、もう1つあるでしょう? |
笠井: |
ドキッ。 |
安田: |
「ドラゴンランス」と並ぶ人気シリーズに、ダークエルフのドリッズトが活躍するシリーズがあるよね。 |
柘植: |
R・A・サルバトーレの『ダークエルフ物語』に『アイスウィンド・サーガ』ですね。「ドラゴンランス」のクリン世界ではなく、〈忘れられた領域(フォーゴトン・レルム)〉を舞台にした作品シリーズです。 |
安田: |
その続編を、現在翻訳中とか? |
笠井: |
はい。『Legacy
of the Drow』というシリーズです。全部で四部作。 |
安田: |
ドリッズトが、生まれ故郷の地下都市に戻ってくるんだよね。 |
柘植: |
メンゾベランザンに? |
笠井: |
そうです。やがて、ミスリル・ホールを舞台に、ドロウ(ダークエルフ)対ドワーフの戦いになったりするんですよ。 |
柘植: |
legacyって、遺産って意味ですよね。ドロウの遺産……ってなんです? |
笠井: |
そうですね……具体的な品物じゃなくて、受け継がれるものという抽象的な意味だと思うんですけど。 |
安田: |
「ドラゴンランス」でも、パリンがレイストリンからあらゆる知識を引きつぐよね。ぼくは受け継ぎしものと訳したけど、あれもlegacyだった。 |
柘植: |
おっ、テーマに共通点が……。それはさておき、懐かしい面々も出てきます? キャッティ・ブリーとか、ウルフガーとか……ああ、豹の名前が思い出せないっ! |
笠井: |
グエンワイヴァー(笑)。もちろん出てきますよ。ブルーノーやレギスやエントレリも。新しいキャラクターもいます。いまは仮に狂闘士って訳してる、壊れたドワーフの戦士。作戦なんか関係なしに突っこんでいくめちゃくちゃな人。 |
柘植: |
それはおもしろそう。いつごろ読ませていただけそうです? |
笠井: |
う〜ん。今年の秋くらいでしょうか。がんばります。 |
柘植: |
ではボス、最後に〆のお言葉をいただけますか? |
安田: |
D&D小説としては「ドラゴンランス」「銀竜の騎士団」「ダークエルフ」の三本を柱として、さらには新たな海外のライトノベルもどしどしお届けできると思いますので、今年は期待していてください! |
柘植: |
ありがとうございました! |