時間とも戦いつつ、製作は進行していく。そんななか、スタッフが注目して欲しいという思いを託した箇所をピックアップしてもらおう。まずは、ワールド設定の藤澤、秋田の両名の話から。
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藤澤: |
出来るだけいろんな国を入れて、バリエーション豊かに広がりが出るようにしたかったんです。マップなんかも下書きを起こしたり。そういう基本的なところにもこだわったんですが、個人的に力を入れたのは装飾品類ですね。 |
江川: |
ほう。 |
藤澤: |
ゲーム的にすごく役に立つというより、プレイヤーが楽しめる部分で何かネタがないか、と思って、資料まで買ったりして(笑)。はじめてのルールブックの作業ということもあったので、ルールそのものより、たぶん気づかれないだろうなぁ(笑)、という部分でがんばろうと思ってやっていました。でも、1stのリプレイ(『ぺらぺらーず』)でGMを長くやらせてもらいましたが、実際はプレイヤーもたくさんやってきてるんです。それでキャラクターがイラストになったとき、自分のイメージとちょっと違うなと思うことがありまして。『いや、違うんだ、帽子かぶってるのがいいんだ』とか(笑)。そういうキャラクターの外見をこうしたいっていうのを、データやルールの上で反映できたらいいなと思って、かなり力が入りました。 |
江川: |
テストに入れてもらったことがありますが、確かに装飾品にはこだわってましたね。 |
藤澤: |
リプレイ(ドラゴンマガジン連載『たのだん』)でも、キャラクターのイラストにしっかり反映してくださいとお願いしてます。プレイヤーは、ゲーム世界でお金払ってるんです、と(笑)。 |
江川: |
なるほど。やはりプレイヤーの視点が生きていると。 |
藤澤: |
はい、それは大きいと思います。……ルールのテストなんかをしてるときも、それはプレイヤーにとって煩雑な気がします、とかいうのは結構言ってた覚えが。 |
江川: |
今回、種族や技能に目新しい要素が導入されてますが、それについては? |
藤澤: |
ああ……それはもうタビットですね(笑)。タビットは、わたしが発案です! 大きく書いておいてください(笑)。 |
江川: |
(笑) |
藤澤: |
タビットの命名は北沢さんなんですけど。新種族の1つは、足が遅くて頭がいいという能力値的な部分しか決まってなかったんです。何がいいだろうってみんな言ってたときに、ケモノの種族がいいと。ウサギがいいですって言ったら、秋田さんもそれがいいって賛成してくれて(笑)。でも、最初、それはウサ耳の女の子なの?って聞かれて、違います、ピーターラビットです、と(笑)。 |
江川: |
リアル・ウサギですと(笑)。 |
藤澤: |
ええ(笑)。推したのはわたしと秋田さんです。いろんなところで2.0のアピールや宣伝をさせてもらいましたけど、どこに行ってもタビットが話題になるので、してやったりって感じですね。
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秋田: |
ワールドの設定で神様を何体か作ったんですが、それぞれに関係があっていいじゃん、と思って、これ旦那、これ奥さんとか設定してました。でも、ルールブックに収まりきらなくて、たくさん外さないといけなかったんですよ。ところが後になって、これリプレイでもう使ってるから外せないよ、という話が出てきて、編集さんにもちょっとご迷惑をかけたり(笑)。 |
江川: |
具体的には? |
秋田: |
太陽神の奥さんのシーンさんとか。『たのだん』で登場していたので、外さないでーって言いながらゴリゴリ詰めこんでもらいました。 |
江川: |
神様の設定については、かなり秋田さんの意見が入ってるわけですね。 |
秋田: |
最初、神様には性格がなくて、もっとぼんやりした存在でいいんじゃという話があったんです。でも、そうすると個人的にはファンタジーの味わいが薄くなると思ったので、実在することにしましょうよとかなりバタバタ主張しました。 |
江川: |
具体的にかたちがあって、感情移入できて、と。 |
秋田: |
そうですね。 |
江川: |
今回、種族も増えていまして、藤澤さんはタビットについてかなりこだわったと言ってました。『ウサ耳種族?』と聞かれて2人して暴れた、と(笑)。 |
秋田: |
言いましたねぇ。バニーガールちゃうねん、ふかふかやねん、と(笑)。それはもう強硬に。 |
江川: |
他にこだわりの点があれば。 |
秋田: |
設定の最初の段階では、プリースト技能はなくそうか、という話もちらっと出て。プリーストがいないのは、なんとなくソード・ワールドっぽくないと、だいぶ主張した覚えがあります。神官はやっぱりいて欲しいし、神様に関連してゴタゴタするのも楽しい部分だと思ってましたので。 |
江川: |
それも神様はやっぱり感情移入できるように人の姿をしているのがいい、と。 |
秋田: |
神がいる世界なら、ある程度、実在がはっきりしていて欲しいじゃないですか。あとは、自分にとってパっと思い浮かぶファンタジーはどんなものだろうということで、いろいろこだわらせてもらいました。北沢さんのアイデアにエルフは水、ドワーフは火のイメージというのがあって、打ち合わせでは反対意見なんかも出たんですが、わたしは『それいい』って、ひたすら賛成したり。 |
江川: |
メイン・スタッフは全員、ソード・ワールドを遊んでいた人たちで、それぞれソード・ワールドに対するイメージやこだわりがあったわけですね。 |
改めて北沢慶に振り返ってもらおう。
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江川: |
タビットは藤澤さんや秋田さんがこだわったようですね。 |
北沢: |
そうです(笑)。ウサギ種族ということはバニーかね?って聞いたら、えらく叩かれました。 |
江川: |
リアル・ウサギがいいんだと(笑)。 |
北沢: |
遊んでくださった方の反響を聞いて反省しました(笑)。でも、自分が提案した種族も結構生き残りましたね。ルーンフォーク、リルドラケン、ナイトメアは、ぜひやりたかった種族なので。 |
江川: |
もうひとつ、2.0で追加された名誉点のルールはどのあたりから出てきたものなんですか? いわゆる経験点とは違うものですよね。 |
北沢: |
そうですね。経験点やお金とはまた違う、冒険をしてきた足跡みたいな要素を入れたかったんです。新しいラクシアという世界では、冒険者は外敵を排除して、失われた文化を取り戻す義勇兵のような位置づけなんです。活躍すればそれだけ、世間の評価は上がっていきます。それを数値のかたちで反映して、たとえば自分専用の武器が贈られたり、自分の家を建てられたり、称号をもらえたり、ゆくゆくは自分の領地を持てたりと、ゲーム世界の人たちから評価されていくのは楽しいんじゃないかなと。 |
江川: |
そういう部分を、システムでちゃんとフォローしたかった。 |
北沢: |
ええ。たくさんプレイしてもらえば、名誉点もたくさん手に入るので、どんどんセッションしてもらいたいですね。たとえば経験点自体は少し控えめにして、能力値成長と名誉点でキャラクターを成長させていくと、同じキャラクターで長く遊ぶための選択肢になるんです。あと、オンラインのセッションというのも意識しています。たまたま一緒になった人がどれだけ名誉点を持ってた、という感じで話題を作るツールになれば楽しいんじゃないかと。 |
江川: |
なるほど。いわゆるテーブルトークで普通に遊んでいる以外のところにも使えるだろう、と。 |
北沢: |
そうです、そうです。 |
江川: |
そのあたりのアイデアはどなたの発案ですか? |
北沢: |
名誉点については、コンベンションやオンラインなんかで知らない人とキャラクターを持ち寄って遊ぶときに何かできないかな、というところから、みんなで考えていった部分ですね。名誉点って〝剣のかけら〟を集めるっていうかたちになってるじゃないですか。 |
江川: |
はい。 |
北沢: |
あれは〝剣のかけら〟をいくつか集めると魔剣が完成する、というアイデアが最初にありまして。ただ、パズルみたいなかけらを集めていくのは、突き詰めるとクドくなりそうかなと(笑)。プレイヤー間でトレードとかできると楽しそうかなぁとも思ったんですが。 |
江川: |
ああ、楽しそうですが、マスターが大変そう(笑)。 |
北沢: |
そういう段階を経て、いまのかたちに落ち着きました。 |
江川: |
なるほど。では、具体的な部分で北沢慶が特にこだわった部分とか、他から意見が出ても譲らなかった部分というのはありますか? |
北沢: |
うーん、いろいろ譲らなかったり、いろいろ折れたりしたような(笑)。……(しばし考える)そういえば、魔法使いのなかのマギテックの部分は執筆自体にも大きく関わりました。マギスフィアという魔法の発動体のようなものがあるんですが――最初は名称が定まらなくて〝万能道具箱〟って呼ばれてた時期もあったんですが(笑)――2.0の新しい要素の1つとしてマジックアイテムを使ってあれこれできるっていうのは、やりたかったことの1つですね。(思いついて)あ、今回、複数部位を持つモンスターがいます。 |
江川: |
はい。 |
北沢: |
それはすごくやりたくて、なんとしてもシステム化するのだ、と(笑)。 |
江川: |
(笑) |
北沢: |
『モンスターハンター』というコンシュマー・ゲームがいま流行ってますよね。 |
江川: |
ええ。社内にも愛好者がいますね。 |
北沢: |
あの大きなモンスターをみんなで協力してやっつける感じがすごくいいな、と思ってまして。それをなんとか表現したいな、と。 |
江川: |
なるほど。 |
北沢: |
それで大きくて強いモンスターを、どうすればもっと雰囲気を出して表現できるか、というのを考えまして、部位を複数持たせて、それぞれが1つのモンスターとしてデータを持っているというかたちになりました。 |
江川: |
ただ、数値が大きくなるのではなく。 |
北沢: |
はい。で、それをどの部位から倒していくのがいいか、という要素も加えています。たとえば、翼を持っているモンスターなら、まず翼を落として地面に下ろすとか、強力な範囲攻撃を持ってるモンスターなら、範囲攻撃を仕掛けてくる部位を先に倒したほうが楽になるとか。 |
江川: |
ゲーム的な楽しみを深める方向ですね。 |
北沢: |
ええ。 |
北沢のこだわり、部位モンスターについて田中公侍の証言。
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江川: |
北沢慶は、部位モンスターにこだわったと話してくれました。 |
田中: |
そうですね。『デカいモンスターは強くなきゃ嫌だ。デカいモンスターなのに、1回しか行動できないのは嫌だ』という主張が北沢さんからありまして。部位ごとに独立して攻撃してくるとか、頭は高い位置にあるので、まず胴体を攻撃しないとダメとかいうアイデアを聞いてすごいなぁと思いました。僕はデータの面なんかのチューンを担当したんですが、どういうふうに攻略するのかという筋道をプレイヤーに考えてもらうのは楽しかったですね。具体的な例を挙げますと、キクロプスは頭のHPを0にすれば倒せるんです。ただ、頭は回避が高い。頭の回避を下げるには、胴を倒さないといけないんですが、ここは防護が一番硬い。さらに、攻撃力が一番高いのは尻尾で、ここを倒せば敵の戦闘力を大きく下げることができる。さあ、どこから倒していきましょう、という感じで。やっぱりルール的な処理と数字の管理が一番大きな仕事だったと思います。 |
また北沢慶に戻ってきて。
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江川: |
元になる世界観は自分が出しているから、そちらについては他のスタッフの意見を聞くという感じですか。 |
北沢: |
そうですね。僕が『こんなのどう?』って案を出して、それがまぁ大抵とがった意見で、時にはみんなから叩かれたりして(笑)。いろいろ意見を聞いてまとめていくという流れでしたね。そのなかでとても大事にしたのは、〝ソード・ワールドとは何か?〟という部分にも関わってくるんですが、『剣が創った世界、剣によって動いていく世界』というキーワードの部分です。ラクシアは剣が創った世界で、魔剣が世界の行く末にかかわっている、という部分から外れないようにというのは強く意識してました。 |
江川: |
〝ソード〟という言葉に必ずどこかで結びついているようにしよう、と。 |
北沢: |
そうです。一番とがっていたときは、PCは全員魔剣使いという設定になっていた頃もあったくらいで(笑)。あとは、対立構造を明確にしたいな、というのもありました。 |
江川: |
〝蛮族〟ですね。 |
北沢: |
はい。まずは蛮族退治というかたちで仕掛けを考えればいいですよ、という具合にわかりやすい倒すべき敵として設定してあります。 |
江川: |
はじめて遊ぶ取っつきの部分になりますね。 |
北沢: |
ええ。もっとも、突き詰めてみれば、蛮族もただの悪の集団ではなくて、彼らは彼らなりに生きているんだというところに行き着くと思うんですが。 |
江川: |
2.0の作業に取りかかったのが二年前。全体を組み上げつつ進めていかれたとは思うんですが、とりあえず一冊目のルールブックがこれで行けそうと目処がついたのはいつ頃ですか? |
北沢: |
製作を開始した年の夏頃、2006年の8~9月頃には、とりあえず遊べるかたちには持っていきました。 |
江川: |
それは、3冊のルールブックを通した2.0全体のお話ですか? |
北沢: |
そうです。ただ、最初の頃はほんとの試作で、魔法も1stの魔法をそのまま流用してたりしました。いまのかたちまで持ってきたのは、そこから2007年の夏前くらいになりますね。正式発表の少し前にかなり固まった、という感じです。 |
『ソード・ワールド2.0』では、ゲーム・ルールの立ち上げに連動し、早くからリプレイも進行していた。それを請け負った秋田みやび。
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江川: |
リプレイでは、ワールドは、ここは好きにしていいから、と任されたわけですよね。 |
秋田: |
そうですね。いろいろ作りながらの作業でしたから、ワールドに関しては、あちらもこちらも未設定で。そんな中、あそこ(フェイダン)を作りながら進めようと。 |
江川: |
最初に全部を用意されていたわけではなく? |
秋田: |
はい。ある程度は最初に作っておいたんですが、実際に遊んでみて、このあたりが欲しいなとなったら、そこを作って入れていってという。なので、最初は白地図みたいな地図ではじまってます。最初はざっくりとした感じで、冒険者たちが手探りをしながらあちこち回っていくというかたちで埋めていこうと思っていました。 |
江川: |
リプレイ1巻の段階では、地図は空白が多かったですよね。 |
秋田: |
もちろん、ある程度は作ってあるんですが、発見してもらう喜びを出したいな、と。 |