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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 「ホワイトパズル」『サクラダリセット  CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』『ゲヘナ〜アナスタシス・リプレイ ミラージュオーシャン・ログブック』(2009年05月)
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「ホワイトパズル」
『サクラダリセット  CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』
『ゲヘナ〜アナスタシス・リプレイ ミラージュオーシャン・ログブック』

 本日のインタビュー、聞き手と聞かれ手、あわせて体重○○○キロ
 そんな切り口で行こうかとも思いましたが、聞き手はともかく、作家は昨今、人気商売です(あくまで私見)。今期のグループSNE(以下SNE)の超巨大秘密兵器を紹介するのに、それはまずい気がするので、ここはごく穏便に。

『ザ・スニーカー 2009年6月号』(角川書店)に掲載された「ホワイトパズル」でデビューを果たした新人河野裕6月1日には初の長編『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』(角川スニーカー文庫:以下『サクラダリセット』)を上梓し、なんと帯には乙一氏の推薦を戴くという恵まれぶり。さらに、2009年夏には『ゲヘナ〜アナスタシス・リプレイ ミラージュオーシャン・ログブック』(ジャイブ株式会社:以下『ミラージュオーシャン・ログブック』)の刊行が予定されています。
 こんな新人をいままでどこに隠していたのだ? と思われる向きもあるやもしれませんが、SNEに参加して3年、その間『エムブリオマシンRPG』やさまざまなタイトルのサポートをしつつ虎視眈々と機会をうかがい、2009年ついにデビューを果たしたというわけです。

 今日はその辺りを含めて、じっくり話を聞いてみたいと思います。
2009年5月 発行
記事作成 笠井道子


1.河野裕という男
笠井: というわけで、今回のインタビューではいつもとすこし趣を変えて、作家「河野裕」を紹介するように、とボス(SNEの総帥:安田均)から厳命されています。
河野 そ、そうなんですか(汗)。
笠井: そうなんです。なので、まずは自己紹介からお願いしますね。
河野 えっと、出身地は徳島1984年生まれなので、いま24歳、もうすぐ25歳です。
笠井: 24歳……。
河野 はい。
笠井: ……
河野 ……なんすか、その沈黙(笑)!
笠井: いや、ごめん。なんだかずっと前からSNEにいるような気がして、改めて歳を聞くと、案外、若かったんやなあ、と。じゃあ、読者の方によく伝わるように、例えば某○ャニーズ事務所で言ったら、だれみたい(笑)?
河野 すみません、アイドルとか芸能人のことには、とんと疎くて……かろうじてス○ップがわかるくらいなんですよ。

 じつはインタビュー直前、事務所では「河野裕と渡辺直美(和製ビヨンセ)は似ているか」という話題でずいぶん盛り上がっていたのでした。で、「ちょっとした表情がそっくり」という結論に落ちついたのですが、河野裕はもちろん「渡辺直美」を知らず、ネットで検索していました。

笠井: いままではどんな方の小説を読んできました?
河野 ライトノベルで言えば秋田禎信さん、あとは村上春樹さんや夏目漱石なんかが好きです――と、人に訊かれたらこたえるようにしています。
笠井: それから……(目で合図)?
河野 ……(はっ!) あとは乙一先生。もうお腹の底から好きですね! ここ、すごく重要です。これだけは絶対に言っておかないと(笑)。

 初の長編『サクラダリセット』の推薦文を乙一先生に戴いているのですが、そうした政治的配慮(?)を抜きにして、本当に尊敬する作家さんの一人だそうです。

河野 特に村上春樹さんの影響はもろに受けていて……
笠井: それは、今回の長編(『サクラダリセット』)を読んでも、なんとなく感じたかな。
河野 ストーリー面よりもむしろ、あの文章が読んでいて心地よくて、いつかああいう文章が書ければなあ、いう気持ちはありますね。
笠井: で、SNEに入ったのが2006年の夏、河野さんはまだ大学生でしたよね。
河野 そうです、卒業が近づいて、なんとか小説家になる道を探していたところに、折よくSNEの新人募集がありまして、拾っていただきました。
笠井: 小説家を志望してSNEに参加し、早3年。そのあいだ、主に『エムブリオマシンRPG』『ゲヘナ〜アナスタシス』のサポートで活躍していたのだけれど、元々ゲームに興味はあったんですか。
河野 いえ、最初は全然。でも、SNEに入ってから大好きになりました。
笠井: いまでは秋口(ぎぐる)さんらと組んで、自分で新しいゲームを作るほどになりましたものね。
河野 秋口さんには今回のデビューも含めて、ずいぶんお世話になりましたし、もう、この先ずっと秋口さんにこき使われて生きていこうかと……
笠井: いや、そりゃまずいんじゃないの(笑)。

 河野裕は大学を卒業後、事務所のすぐそばに引っ越し、いまではボスからも「歩いて3分の男」として、ボードゲームのテストプレイなどに重宝されています。

笠井: 直接、小説という形ではなかったけれど、ゲームに関わることで、いろいろ勉強になることもあったんじゃないでしょうか。
河野 それは、たくさんありましたね。たとえば、シナリオを作るとき、NPCをしっかり作りこんでおかなきゃいけない、とか(NPC:RPGでプレイヤーが演じるキャラクター以外の登場人物)。
笠井: RPG(ロール・プレイング・ゲーム)はプレイヤー次第で、状況が変わりますからね。
河野 そうです。なので、NPCの考え方や行動指針などを最初にきちんと定めておく必要があるんです。そういう面で、小説を書くときにも本当に勉強になりました。


2.デビュー短編「ホワイトパズル」
笠井: そんな下積みを経て、『ザ・スニーカー 2009年6月号』(角川書店)に、ついにデビュー短編「ホワイトパズル」が掲載されたわけですが――。

「ホワイトパズル」
 時のはざまを移動し、ときおり存在が揺らぐ女の子と、密かに彼女に思いを寄せる男の子が小学校3年から毎夏休みに会い、真っ白なパズルを完成させていくという、ちょっと不思議な物語。

笠井: んでですね、わたしの読書メモには「厄介なもん書くなあ」と書いてあるんですよ、これが。ごめんね。
河野 いえ、わかります、わかります(笑)。小説って作者の世界観で完結しているものだし、インタビューしにくいですよね。
笠井: そうなんです。あまり突っこむと妙な「文学論」になりそうだし。これはあくまで、わたしの考えなんだけど、「結末が開放されているのが文学、落ちるべきところに落ちているのがエンターテイメント」っていう定義なんですね。それでいうと「ホワイトパズル」は結末が開放されているような、閉じているような不思議な読後感で……
河野 それもわかります。ただ、ぼくとしては、あまり「文学」とか「エンターテイメント」といったジャンルにこだわってないんですよ。文学と言われるものでも、面白ければエンターテイメントだと思っていますし、基本は読んで面白いものを書きたい、ということですね。
笠井: そういう意味では「ホワイトパズル」はファンタジーラブストーリーって感じで、楽しく読めました。ただ、正直言うと、ちょっと読み手を選ぶかなあ、と。
河野 そうですよねえ。自分の作風はあまり一般受けしないだろうという自覚はあって。
笠井: あるんだ(笑)。
河野 ありますよ。だから、いろんな要素があるなかで、なにがいちばん受けそうかな、と考えて、「ラブストーリー」を入れてみた、という(笑)。
笠井: そういうことだったのね。
河野 そこにぼくの好きなイメージ――「洋館の屋根裏部屋」とか「白いパズル」とかを順番にプロットに組み込んでいったら、こういう作品になった、と。
笠井: 特にキャラクターや現実的な日常にページが割かれているわけではないけれど、イメージ豊かな作品に仕上がりましたね。作家「河野裕」のデビュー作として、ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。短編を書くのは好きなんですよね。
河野 はい。なので、いま短編の2作目を書いています。
笠井: どんなお話になりそうですか。
河野 ある男の子が月末に死ぬことになっていたんですけれど、そこに死に神がやってきて「今月は魂足りてるけど、来月、足りん気がする。だから、来月まで生きてて」と言われるわけです。
笠井: あはは、それはまた楽しそうだ。
河野 そうですか(笑)。で、主人公の男の子は幼なじみの女の子に鬱屈した思いをいだいていて、その気持ちと向きあっていくという、主人公の心理を追ったストーリーになっています。
笠井: 完成して、近々発表されるのを楽しみに待っていますね。


3.『サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTIN SUNDAY』
笠井: というわけで、いよいよ2009年6月1日発売長編『サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTIN SUNDAY』(角川スニーカー文庫)が刊行されたわけですが――タイトル、長いよ
河野 すいません(笑)。

『サクラダリセット』
 日本のどこかにある街、咲良田。不思議な能力をもった人々が集まる不思議な場所。
 高校一年の浅井ケイは他人の能力の影響を受けずに、記憶を留めておく力をもつ。一定期間、時間を巻き戻すことのできる同級生、春埼美空(はるきみそら)と協力することで、さまざまなことが可能になる。そんな二人のもとに、ある日「死んだ猫を生き返らせてほしい」という依頼が舞い込む。
 リセットされた世界とリセット前の世界のわずかな齟齬が齟齬を呼び、新たな謎が深まってゆく……

笠井: すごいねえ、「ホワイトパズル」につづいてイラストレーターは椎名優さん、帯には「乙一絶賛!!」と。そして、今日は事務所に『サクラダリセット』のポストカードポスターが届いて――
河野 ほんとにいいんでしょうか、こんなにしていただいて。
笠井: どうだろ、ライバルに後ろから刺されても文句は言えないかもね(笑)。でも、いろんな要素を盛り込んだこの作品、わたしも好きですよ。
河野 ありがとうございます。
笠井: ミステリ要素だけじゃなく、「ホワイトパズル」同様、こちらも時間軸を扱っていますよね。両方の作品に共通してSFのタイムトラベルもののような要素を感じたのだけれど、その辺はなにかこだわりがあるの。
河野 う〜ん……今回の短編と長編が時間軸を扱ったのは、たまたまだと思うんですけれど。ただ、そうですね、ライトノベルって元々ファンタジーだったと思うんですけれど、そこにいろいろ詳細な設定をつけ加えているうち、整合性を取るために、SF要素が入ってきたような気がするんです。で、ぼくがライトノベルを読みはじめたのがちょうどその時期だったので、そうした影響を受けたんじゃないか、と。
笠井: なるほど。
河野 ――というのは、笠井さんに質問されて、はじめて思いついたんですけれど。
笠井: いいんでない、なんとなく説得力あったから(笑)。
河野 あと、たとえば浦沢直樹『20世紀少年』なんかでは、過去と未来を交互に書いていることで、どっちのパートも全部伏線になっているのがすごいですよね。そういう意味で、時間移動ものって非常に面白いジャンルだなと思っていたころに『サクラダリセット』のプロットを立て――
笠井: うんうん。
河野 で、書いているうちに、だんだん時間移動から離れて趣味に走ったのが『サクラダリセット』というわけです(笑)。
笠井: いえ、時間移動の面白みは充分感じられましたよ。あとね、読んでいて思ったのが、登場人物の女の子がみんな壊れてる
河野 はい、壊れてます(笑)。でも、それは男の子も同じじゃないですか。
笠井: そうなんだけれど、男の子の壊れ方はまだ理解の範疇にある。女の子の壊れ方はもっととらえどころがない。ヒロイン春埼美空はもちろん、猫と情報を共有できる野ノ尾盛夏も、物を消す能力をもった村瀬陽香も、一見普通そうに見える皆実未来(みなみみらい)も、みんなそれぞれの方向で壊れてる。で、やっぱり壊れて魅力的なのは、男の子より女の子だよねえ、というお話。
河野 ああ、それはそうかもしれません(笑)。
笠井: 壊れた女の子の話、個人的に好きなんです(笑)。すごいな、と思ったのは、そういうとらえどころのない女の子たちを書いていて、しっかりその子の姿が見えてくるところ。「この子はどんな子?」って、無理にキャラクターを固めようとすると、するりと逃げていくのだけれど、ありのままに読んでいくと見えてくる。ヒロインの春埼なんかも一見感情がないように見えて、じつはしっかりと肉付けされてますね。
河野 あ、それは非常に嬉しいです。そこがいちばん不安だったんです。「なんだよ、このキャラ、意味わかんねぇよ」って言われるのが(笑)。
笠井: 読み終わったあとに、春埼の純粋さが心に残りました。もちろん、椎名優さんのイラストの力も大きいですね。「ホワイトパズル」でもそうでしたけれど、つかみどころのない不思議な女の子たちが「これしかない!」というイメージで描かれている
河野 はい、ほんとに素晴らしいの一言です。たとえば、p.267に浴衣を着た春埼のイラストがあるんですけれど、浴衣の模様が金魚なんです。これ、p.82に一言「金魚の柄」って書いてあるだけなんですよ。
笠井: それは……なんというか、すごい。
河野 でしょう。書いた本人も忘れているようなところまで、しっかり読みこんでくださっていて、感激しました。
笠井: 男の子で言えば、主人公の浅井ケイは生きていて、しんどいだろうなあ、と。春埼が世界をリセットしても、他の人はなにも知らず、またそこから生きはじめるだけだけど、ケイはリセット前の記憶をすべて残したまま、大きな齟齬を生じないように細心の注意を払わなきゃいけない。同じ人の死を何度も味わったり、リセットしたため死なずにすんだ人を死なせてしまって、なおかつそれを忘れることができない。肉体的には16歳でも、精神的には人の何倍もの経験をしていることになる。
河野 なので、そういうケイの背負う「重さ」にはあんまり触れないようにしてきたんですけれど。
笠井: でも、読者は本を読んで、ケイと同じだけの情報をかかえるわけですよね。だから、読者としては、どこかでケイを楽にしてあげてほしいな、と思うのですよ。
河野 もう悟りを開くしかないっすかね(笑)。
笠井: どこかで感情を爆発させちゃう、とかどう? あんまりそういうタイプじゃないけれど。そうしたことも含めて、ケイや春埼の今後の活躍は?
河野 はい、すでに第2巻の執筆をはじめています。
笠井: おお!
河野 詳しいことはまだ言えないんですが、ケイと春埼が他の人の「能力」に起因する事件に巻きこまれて、解決に乗りだします。パラレルワールド風のお話で、春埼寄りの視点で描くつもりなんですが……
笠井: 春埼の視点で――それは結構大変そうだ(笑)。次作もやはり、ミステリ要素が含まれるんですよね。
河野 はい、そうなると思います。
笠井: 河野さんの謎のちりばめ方とか、わたしはすごく好きなので、楽しみにしています。そして、せっかく咲良田という魅力的な街を作ったのだから、他にどんな能力をもった人が関わり合い、日常生活を営んでいるのか、そういうところも、これからぜひ見せてほしいと思います。
河野 頑張ります。


4.『ゲヘナ〜アナスタシス・リプレイ ミラージュオーシャン・ログブック』
笠井: さて、つぎはがらりと雰囲気を変えて、アラビアンダークファンタジーRPG『ゲヘナ〜アナスタシス』(以下『ゲヘナ〜An』)の実際のプレイ風景を楽しい読み物(リプレイ)にした「ミラージュオーシャン・ログブック」について聞かせていただきます。

『ゲヘナ〜An ミラージュオーシャン・ログブック』
 伝説の船乗りに憧れ、隠された財宝を追い求める少年アーディル(風術師/雑芸使い)。幼なじみの海の民の少女シャーファ(神語術師/白炎使い)。二人が乗る船のオーナー、ニキ(覇杖術師/海妖{ジン}使い)。ニキに仕える海妖ナスリア。そして、イルカ獣人のリカルド(獣甲闘士)。
 『ゲヘナ〜An』の幻鏡域ファファール海を舞台にして繰り広げられる正統派海洋冒険リプレイ。


笠井: これはサプリメント第三弾『幻洋綺譚』をもとにしたリプレイということですので、監修の友野詳さんとゲームデザイナーの田中公侍さんにもインタビューに加わっていただきました。
友野 で、読んでみてどうでした?
笠井: いや、面白かったです。やっぱりいいなあ、ゲヘナ、またやりたいなあ、と思いました。
田中 それは、どうもありがとうございます(笑)。また、ぜひ遊んでくださいよ。
笠井: それに加えて、これまでゲームの舞台となっていた煉獄ジャハンナムではシティアドベンチャーが主だったんですが、海に出たことで、うんと視界が広がったような気がします。
友野 それはまったくその通りで、本来ジャハンナムというのは、地上世界と地獄にはさまれた、閉じた世界という設定なんですね。その閉塞感を打破しようともがくところが、ダークファンタジーの「ダーク」たる由縁なんです。
笠井: そして、そういう閉塞感があったからこそ、今回のリプレイで海に出た開放感というのかな、それを強く感じました。
友野 そこがサプリメント『幻洋綺譚』の企画意図でしたし、それが感じられるようなリプレイにしてほしい、と河野くんにはお願いしていました。
笠井: ちょっと『宝島』とか『ロビンソン・クルーソ』みたいな感じもあり、伸び伸びできて気持ちよかったです。
田中 このリプレイを一言で言ったら、「船乗ってドーン」ですから(笑)。
笠井: いやいや、もっといろいろあるでしょう(笑)。ゲヘナとかRPGとか抜きにして、正統派の海洋冒険物として楽しめますよね。主人公のアーディルは恥ずかしいほど真っ直ぐで……(小声で)ちなみに、あれはプレイヤーだれ?
河野 (同じく小声で)○○さんです。ヒロインのシャーファは○○さんで……
笠井: ええ〜っ、それはびっくり!
河野 あと、船のオーナー、ニキは○○さん、海妖{ジン}のナスリアとイルカ獣人のリカルドは……
友野 きみら、インタビューに使えへん話題でそないに盛り上がってどないすんねん(笑)。
笠井: いえ、河野さんも苦労したんやなあ――ではなく(笑)、きちんと一人一人のキャラクターに、河野流のアレンジがなされていて、リプレイとしての面白さはもちろん、普遍的な冒険小説の味わいがあるな、と言いたかったのですよ。それでいて、ゲーム面でも、巻末に用語集がついてますし、読み物としてのリズムを壊さない程度に解説が入っていますし。
友野 キャラクターの強さとしては、いままで出たリプレイのちょうど中間くらいのレベルで、ゲーム的にあまり複雑になりすぎないように気をつけました。ここから読みはじめてもらっても、『ゲヘナ〜An』というシステムの楽しさがわかっていただけるようにしよう、というのもコンセプトの一つでしたから。
笠井: ええ、小説寄りのリプレイかと思いきや、RPGとしてのゲヘナの魅力もよく伝わってきました。シナリオ面でも、謎の置き方とかすごく上手いと思いました。
河野 その辺は多大な友野さんのアドヴァイスのおかげです、はい、本当に。
笠井: ……また、そうやって上手いこと先輩をもちあげて……
田中 そういうところ、河野くんのキャラ勝ちですよね(笑)。
河野 そんなことないですって!
友野 それはさておき、今回のリプレイに先立って、TRPG専門誌『Roll&Role Vol.50』にぼくの書いたイラストレーターセッションのリプレイが掲載されたんですが、これに書き下ろしを2話つけ加えて、ほぼ同時期に刊行される予定になっています(『常春の島は闇の園(仮)』(ジャイブ株式会社/2009年夏刊行予定))。
笠井: おお、書き下ろしのイラストレーターセッションですか、それは豪華だ。
友野 で、こちらは従来の『ゲヘナ〜An』のシティアドベンチャー風のものを海を舞台にしてやっています。そうして、河野くんのリプレイとつないでいくというコンセプトになっているんですね。で、河野くんのほうは明るく、爽やかなリプレイに、と。
田中河野笠井 ……爽やか……?(顔を見合わせて爆笑)。
田中 でも、河野くんはすでにリプレイ2巻目の執筆もはじめてるんですけど、それを読めば「爽やか」なイメージで売ろうとしてるのが、よくわかりますよ。
笠井: そうなんだ。なら、やっぱり「渡辺直美に(表情が)激似」はあんまり言わないほうがいいか。
河野 言ってるじゃないですか、もう二度も(笑)!
友野 まあまあ(笑)。で、今回、リプレイ1巻が出るのが、いろいろな事情でちょっと遅れてしまったので、2巻目3巻目はあまり間を置かずに出したいと思っています。読者の支持があれば、これからもいろいろ仕掛けていきますので、よろしくお願いします。
笠井: ストレートに楽しめる海洋冒険譚、今後の展開に期待しています。


5.これからのこと
笠井: では、改めて河野さんにお聞きします。これからSNEで、どんなことをしていきたいですか。
河野 そうですね、いまやっている『エムブリオマシンRPG』や『ゲヘナ〜An』はどんどんやっていきたいですし、もちろん小説もたくさん書いて、いずれはシェアードワールド・ノベルなどにも挑戦したいです――そうやって、あと何年間かは小説の地盤を作っていって、余裕ができたら自分でも企画を立ちあげたりしたいですね。
笠井: オリジナルのゲームを作ったりね。では、最後に小説家としては、今後どういう方向を目指していきたいですか。
河野 いまはわりと自由に書かせていただいて、それがとても気持ちいいので、今後ともできればそんな感じでやっていけたら、と……
笠井: ……(コッソリ)それは、あかんで。万人向けを意識しな(笑)
河野 ……やっぱり、あきませんか(笑)。あとは、より日常っぽいものも書いてみたいんです。あずまきよひこさんの漫画『よつばと』ってご存じですか。大きな事件が起こるんじゃなくて、小さな女の子の日常を描きつづけているんですけれど、そういうものも書いてみたいです。
笠井: うんうん、河野さんにはジャンルにこだわらず、それこそ歴史エンターテイメントとか書いてほしいなあ、と思うんですよ。
河野 歴史物、ですか。
笠井: 言葉は悪いけれど、売れることを意識した小説、というか、さっきもこっそり言ったけど万人受けする小説ね。昔で言えば、松本清張とか司馬遼太郎とか、いまで言えば……
河野 東野圭吾さんとか、伊坂幸太郎さんとか(笑)?
笠井: そうそう、それそれ!
河野 そういうものを書いてみたい気持ちはあるんですけれど、どうすればいいのか見えてこない、というが正直なところです。ああいう人たちってプロットの段階からすごいですし、才能の塊みたいな人たちじゃないですか。とても、真似できないですよ。それに、あんまり深いことを書くと、無知さがばれてしまいそうで恐いんですよね。
笠井: ああ……すぐに忘れてしまうけれど、河野さん、まだ若いんだよねえ(笑)。でも、これからどんどん経験を積み、知識を蓄えて、新しい分野にも挑戦し、面白い小説を書いて読者の期待に応えてほしいと思います。
河野 ありがとうございます。頑張ります。


 SNEの新人、河野裕。ようやくデビューを果たし、いまは読者の審判を待っているところ。まだ25歳という若さもあり、これからたくさんの壁にぶつかり、凹んだり、焦ったりしながら上を目指していくのでしょう。でも、身びいきを抜きにして、とても大きな可能性を秘めた新人だと信じています。そんなことは絶対、本人に面と向かっては言いませんけれど(笑)。
 今回ご紹介した3作品のうち、興味をもたれたどれか一つでも手にとって、ぜひ読んでいただきたいと思います。そして、今後の河野裕の成長を楽しみに見守っていただければ幸いです。

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