――: |
ではまず、その『R&R』の原稿の部分から。一体、どれくらいの期間の原稿がまとまっているんですか? |
安田: |
5年間! (紹介した)ゲームの数、知ってる? 数えてみたら、500を超えてる。 |
――: |
おお、それは凄い! |
笠井: |
何が凄いって、もっとたくさんゲームを遊んで、その中から選んで500個だからね。 |
秋口: |
そうですよねぇ。遊んだボードゲームは、全部で1000を超えてる。 |
笠井: |
そのゲームのルールをほとんど訳したのが柘植さんと江川さん。 |
安田: |
違うよ。最初は僕が訳してた。皆さんもご存知だと思うけど、僕の翻訳ってやり方ひどいですからね。訳しても紙に書かないの。基本的に読むだけ。こんなルールがある! さあ、やろう! って。 |
笠井: |
それじゃみんな、わからない(笑)。 |
安田: |
だから、ペラ1枚分くらい書くようにしたんだ。わかりやすく、要点だけ。 |
笠井: |
確かに遊ぶ時は、それでよかったんだけど。要点だけだと、3日も経つとわからなくなるのよね。 |
安田: |
そうそう! 素読みでやると、みんなわからへん。ペラ1枚でやると、その場ではわかるんだけど、読み返したらわからへん。『レイルロードタイクーン』※1とか、『ドミニオン』※2とかね。他にもいっぱいあるけど……おもろいやろ? 僕が選んだ奴は。 |
秋口: |
面白いです。間違いなく面白い。だから困る! |
安田: |
「面白い、またやろう!」と思って、ルールを読み返してもわからない(笑)。「社長、これではいけませんよ!」って話になって、英語は柘植が、ドイツ語は江川がきちんと訳してやることになった。 |
――: |
よかった(笑)。 |
安田: |
……なんの話してたんだっけ? まあいいや。こんな話を沢山した座談会も『ポードゲーム・ジャンクション』には載ってます。 |
安田: |
もうめちゃくちゃ言ってるからね。「あんなこと書いたけど、本当はこうだ!」とか。一番の名台詞は、柘植の「シャハトは、やればできる子なんです」っていう。 |
秋口: |
あれはねぇ、未だにカットした方がよかったんじゃないかと思ってるんですよ。 |
安田: |
(シャハトといえば)『ズーロレット』でドイツゲーム大賞を取った男ですよ! それを、「あの人はやればできる子なんですよ」って。 |
秋口: |
愛があるゆえの発言なんやけども…… |
安田: |
そう! 柘植は大好きだから、みんなにボロクソに言われて、つい言った。 |
秋口: |
でもそういう背景を知らない人からみたら、許されませんよ! |
安田: |
ドイツボードゲームをちゃんと知ってる人が読んだら、頭から湯気が立つ。「なんやこれは!」って。 |
笠井: |
まぁ、言ったのが柘植ですからね。ムサいおっさんじゃないから、許されるんじゃないかと(笑)。 |
安田: |
と、いう風な、ボードゲームに対する愛と怨念と執念が、ぎっちり詰まってる。「ただのカタログ本ではない」ボードゲームの紹介本になってる。 |
秋口: |
いや、本当に。オレもそこがいいと思うんですよ。 |
安田: |
でしょ? 噛めば噛むほど味があるでしょ? |
秋口: |
そう。決して公平ではない(笑)。これ(『ボードゲーム・ジャンクション』)は良い悪いをはっきり書くじゃないですか。普通、カタログ本だと公平に褒めますよね。 |
安田: |
だから全然、おもんない(笑)。 |
秋口: |
それを言うからまた問題が! |
一同: |
(爆笑) |
秋口: |
でもカタログとか読んで、「これ面白そう!」と思って、実際にやってみたらおもんなかったりする。この本は違うじゃないですか。 |
――: |
ボードゲームを売るために書いてるのではない、と? |
安田: |
売るためや!(笑) でもそれがねじれまくって、「もう売れても売れんでもいいわ! オレは、これが言いたい!」となってる。 |
笠井: |
愛が深すぎて。この本は「私はこれが好きです」っていう提示の仕方だから。 |
――: |
では、ぜひ笠井さんの『ウニ頭』の話を。 |
安田: |
みんな苦労してるけど、『ウニ頭』も苦労してる。やっぱり『ウニ頭』は凄い。僕もレビューでクニツィーアの作品について書いたけど、書く事ないねん。 |
笠井: |
でしょ! そうでしょ! |
安田: |
それをこねくり回して、書きまくる技術! |
秋口: |
「シャハトはやればできる子」とか、「クニツィーアは書く事ない」とか言わんでくださいよ!(笑) |
笠井: |
クニツィーアのシステムは本当に凄くて、なんの無駄もないんです。でも、『ウニ頭』はそれじゃダメなんですよ。ただ簡単なゲームじゃダメ。そこにストーリーがないと。 |
安田: |
(クニツィーアのゲームは)やったらめちゃ面白い。 |
笠井: |
面白いから、書く事ない。 |
安田: |
おもろい。一言で終わり。 |
秋口: |
やっと褒めてくれて、ほっとしましたよ(笑)。 |
安田: |
クニツィーア、右と左わからへんのよね。びっくりしましたよ、数学博士なのに「えーと、これ、右やったっけ? 左やったっけ?」って。 |
――: |
本当に天才っていう感じの人なんですね。 |
秋口: |
おもろいけど、記事にしにくいゲームってありますよね。 |
笠井: |
そう。秋口さんの『リプレイ』で扱うゲームって、だいたい社長が選んでるんですけど。傍からみてて、その度にぎぐるさんが頭を抱えてるなぁって。 |
安田: |
頭抱えてる? ちがうやろ! 秋口は「嫌です」「やらへん」「できへん」ってはっきり言う! |
秋口: |
(笑) |
安田: |
たまには社長に気を遣わんとと思わんか? 「やってもいいですけどぉ」って。 |
秋口: |
それだけ聞くと、オレがめっちゃ偉そうみたいですけど。あのリプレイって、4ページなんですよ! ルール説明だけで4ページかかるゲームはできへん。それにやっぱり、抽象的なゲームはリプレイでは面白くないんですよ。オセロのリプレイを4ページ読まされても、面白くないでしょう? |
笠井: |
そう、記事にはストーリー性が大切。 |
秋口: |
そういう意味でクラマー先生っていう、オレ大好きやし自分でもよく買ってるゲームデザイナーがいるんですけど、記事にはし辛い。 |
安田: |
『オーストラリア』※3とか? |
秋口: |
はい。非常に抽象ゲーの匂いがする。 |
安田: |
凄い人なんですよ、クラマー。どっからあんなゲーム思いつくのかわからへん。クニツィーアとかも凄いけど、クラマーみたいな人は他におらへんと思う。 |
秋口: |
大好きなんだけども、やっぱり記事にはしにくい。 |
笠井: |
ちなみに『ウニ頭』も、社長に勧められても「できへん」って言う(笑)。『クローズアップ』の江川さんだけが、「はい……」って答える。 |
安田: |
そう! 江川くんだけ可哀想に、嫌そうな顔して「はい……」って(笑)。 |
秋口: |
オレは断固拒否しますけどね。クラマー先生と、あと『古き海』のオルネッラ先生だけは大好きなんですけども、こう……。 |
安田: |
オルネッラ先生もねぇ。 |
秋口: |
リプレイにしにくい。 |
安田: |
しにくいねぇ。なんも言えんねぇ。イタリアの、世界でも一部の人だけが愛好しているんだけど、僕らは凄いと思う。 |
秋口: |
凄いですねぇ、あの人も。 |
――: |
では、『リプレイ』について教えてください。 |
秋口: |
毎回ひどいスケジュールでやっているというのを、是非書いてください。 |
――: |
どんなスケジュールなんですか? |
秋口: |
どのゲームを取り上げるか決まった日にプレイして、その翌日1日で書き上げるという。 |
安田: |
そうそうそう。僕がチェックミスしたりすると、ルールを完全に間違えとったりするからね(笑)。――いや、間違えててもいいんですよ、僕はそう思う。世の中には「ルールを間違えたらあかん!」と言う人もいるけど、じゃあ「間違えたルールで面白くなったら、それはどういうことやねん!」と言いたい。 |
笠井: |
いや……まぁ……楽しかったらいいですよね。 |
秋口: |
……はい(笑)。 |
安田: |
昔からあるんですよ。『ミッドナイトパーティー』※4っていう、凄い面白い子供向けのゲームがあるんですけど。それに日本の誰かがルールを付け加えた。そしたらもっと面白くなった。じゃあ別に、それでいいやんか、と僕は思う。もちろんルールを間違えてゲームが壊れたらダメだけど、面白いならそれでいいと思う。 |
――: |
なるほど。 |
安田: |
例えば『王宮の囁き』※5でクリアしても1点というのは、可哀想過ぎる。あれは絶対、2点にすべきたと思う。 |
秋口: |
それだけ言われても、インタビュアーなんもわかってませんよ(笑)。 |
安田: |
彼に言ってるんじゃない、『王宮の囁き』ファンみんなに語ってるんだ! って……マニアックな本だなぁ(笑)。 |
秋口: |
この間、『リプレイ』のプレイヤーの浅野さんとかにあったんだけど。「リプレイ載るんだったら一冊くらいくれ!」って。 |
安田: |
ああ、それはもちろん。 |
笠井: |
でも、彼らは好きでやってるんじゃないのか?(笑) |
秋口: |
「オレらはプライバシーという貴重なもんを、だいぶ提供したぞ!」と。まったく、その通りでございます(笑)。 |
笠井: |
誰か離婚したんだっけ? |
秋口: |
1人離婚しましたね。1人はこの間、転職に成功した後で離職しました。 |
――: |
それ、本を読んだらわかるんですか? |
秋口: |
あー、それは単行本には載せないかも。 |
安田: |
あれがおもろいのに! |
――: |
それはR&Rを読めばわかる、ということで。 |
――: |
R&Rに掲載された原稿だけで、かなり濃密ですね。 |
安田: |
そう! しかもそれだけでいいのに、僕にとってボードゲームはライフワーク……っていったら、寿命が尽きるらしいんで言わへんけど(笑)。これで人生、生きてきたようなもんだから。ここ最近の5年分じゃちょろすぎる! 過去10年分、ボードゲームのベスト100を全部レビューを書き下ろしてやる! と……言ってたら、インフルエンザにかかって倒れたりして、発売日が伸びてしまったと(笑)。 |
――: |
100本は凄いですね。 |
安田: |
全部書きましたよ、最終的にベスト105! もう後ろの方になったら、褒めとんのか貶しとんのかわからへん(笑)。 |
笠井: |
褒め言葉にも限りがありますからね。 |
――: |
最後、105位ですもんね。1000本以上遊んだ中の105位だから、十分凄いけど。 |
安田: |
順位はつけてへんけど、最後は僕の趣味! 自転車ロードレースのゲーム(笑)。 |
笠井: |
でもあれ、面白いですよね。 |
安田: |
でしょ? あれは面白い! |
――: |
社長も『R&R』に『トピックス』という原稿を書いてますよね。どうして新しい原稿を書き下ろしたんですか? |
安田: |
僕の『トピックス』は「こんなおもろいゲームが出たよ」っていうだけやから、5年もたったら誰も相手にしてくれへん。 |
――: |
ニュースだからこそ鮮度が重要、ということですか? |
安田: |
そういうことやね。「ドミニオンっていう凄いゲームが出たよ!」って、書いた時はいいけど、時間が経ったら「それがどうした?」となる。だから全部、書き直した。 |
笠井: |
だからって私たちに、「きみらはええなぁ、そのまま使えて」っていうのはどうかと思う(笑)。 |
安田: |
社長の復讐で、「みんな新しいの1本書き下ろせ」と言った。だから江川の『クローズアップ』も笠井の『ウニ頭』も新しいのが載ってるよ。 |
笠井: |
ぎくるはどうだっけ? |
秋口: |
いや、オレは書いてません(笑)。 |
安田: |
僕ね、自分にちゃんと才能あるんだと思った。 |
――: |
とういうのは? |
安田: |
レビューをただ105本並べてるだけじゃなくて、歴史書いてんねん。2000年から2009年までの、ボードゲームの歴史。それも「こうや!」と決めたら、ダーッと書いていけた。 |
秋口: |
確かに「最近こういうものが流行っている」という記事はよく見かけるんですけど、「この年代はこういうものだった」と改めて整理したものってないですね。 |
安田: |
そう、こんなの他に誰も書けへんと思う。 |
――: |
読めばボードゲームの変遷がわかる、ということですか? |
安田: |
うん。別に「これが正しい」と思ってもらわなくていいのよ。でも「確かにそういう見方もあるな」と思ってもらえたら、それで面白い。 |
秋口: |
反論があるならそれはそれで、良い問題提議になると思う。 |
――: |
先ほど少し原稿を読ませて頂いたんですが、とても説得力がありました。「このタイミングでボードゲームがリソースマネージメントに移行した」「このゲームにより、それがさらに発展した」という風な流れが。 |
安田: |
でしょ? そうそう、ここで言っておきます。(ゲームが発売された)年号は、めちゃくちゃなのがあります。どうしても取り上げたくなったからここに入れました、というのもあります。 |
笠井: |
何度もリメイクしてたり、違う会社から発売されたりしますからね。 |
――: |
非常に楽しい話を、ありがとうございました。 |
安田: |
いえいえ。こんな感じの座談会も載っています。 |
笠井: |
カラー写真もいっぱい入るんですよね? |
安田: |
そうそう。見た目も綺麗な本になります。もちろん、文章も面白い。見た目だけの味気ない、カタログ本にはなってないはず。 |
――: |
ぜひ読ませて頂きます。発売日は? |
安田: |
2月中には出ます。お正月の気分が近いうちに読んでください。 |
――: |
最後に何か、ありましたら。 |
笠井: |
いつか是非、『ボードゲームジャンクション2』を出したいです。 |
秋口: |
『リプレイ』で掲載されていない原稿もありますからねぇ。『リプレイ』の比率を増やしてもらえれば、来年にでも出せるかも。 |
安田: |
誰かがまとめてくれれば、すぐに出ますよ。 |
笠井: |
社長はそう言って、また(新しい原稿を)書かはるんですよ(笑)。 |
安田: |
そうそう、また「書き直させろ!」と言って(笑)。 |
秋口: |
でも来年出せば、1年分で済むから。 |
安田: |
1年だと、(遊んだゲームは)何本になるの? 200くらい? |
秋口: |
そんなもんですね。 |
安田: |
「こんなおもしろないの遊んでもうたわぁ!」とか(笑)。 |
――: |
(リプレイプレイヤーの)離職した方のその後も気になりますし。 |
笠井: |
そうそう、それは気になる。 |
安田: |
なんの話や(笑) じゃあ、ボードゲームオリンピックということで。どうせならボードゲームワールドカップもやって、2年に1冊くらいのペースで。 |
秋口: |
こういう本を出していく、と。 |
――: |
是非お願いします! |
笠井: |
座談会もこんな感じで、ちょっと聞くだけのつもりが3時間くらい喋ってた。 |
安田: |
(座談会を収録した)中華料理屋のおっちゃんが料理の説明してるのに「そんなんもういいわ!」って言って(笑)。 |
笠井: |
あの座談会は面白いです。問題の発言が、どれだけ整理されてるかわからないけど。 |
――: |
楽しみにしております。本日はありがとうございました。 |
笠井: |
……きみ、インタビューした? |
――: |
あんまりしてないですね。聞いてただけです。 |
秋口: |
インタビュアーなんのネタも用意してませんからね。 |
安田: |
ホンマや。こんな楽なインタビューないで(笑)。 |
笠井: |
みんな勝手に喋るから。 |
――: |
本日はありがとうございました(笑)。 |
安田: |
ところで、ドミニオンの新しい奴※6 が届いてる。 |
秋口: |
ドミニオンかぁ。勝たれへんからなぁ。 |
安田: |
この間、ボコボコにしたからな(笑)。さっそく明日、やりましょう。 |