葛&森本: |
『タワー・ドールズ』発売、おめでとうございま〜す! |
柘植: |
ありがとうございます。 |
葛: |
まず最初に、まだ本作を読んでいない方のために『タワー・ドールズ』がどんなお話なのか教えてください! |
柘植: |
閉鎖された王国が舞台のファンタジーで、主人公は神子(みこ)と呼ばれる性別を持たない強力な冒険者のような存在です。神子は国の中心にそびえる謎の〈塔〉を攻略する任務のためだけに生きてるようなものなんですが、今回の主人公であるジョーという子が普通の男の人と出会って少しずつ変わっていく……、という異世界の恋と冒険のお話です。 |
葛: |
柘植さんにとってこの作品が初の完全オリジナル長編と聞いたんですが? |
柘植: |
はい。これまでTRPG等ゲームに関連した作品は何本も書いてきたけど、世界観からすべて自分で創作したのは今回が初めて。小説の執筆自体も5年ぶりだったから、無事書き上げることができてほっとしています。 |
森本: |
執筆にあたって、ゲーム関連作品とオリジナル作品では、何か違いはありました? |
柘植: |
全部自分がやりたいようにできるのがオリジナルのいいところだなぁ、と。
これまでの作品に遠慮があったつもりはないけど、たとえば途中で行き詰った時オリジナル作品の場合はすべて自分で解決しなきゃいけない。でも、逆に言えばすべて自分で解決していいっていうことで、それは大変だけどすごく楽しいことでもあるの。 |
森本: |
オリジナルならではの苦楽ですね。
大変といえば、新書で小説を書かれるのも今回初なんですよね? 執筆期間中に柘植さんが「新書は書いても書いても終わらない……」と嘆く声を聞いた覚えが(笑)。 |
柘植: |
そうなのよ……。これまで書いた作品で長編といえば『ミステリアス・キャッツ』(富士見ミステリー文庫)っていうすごく薄い文庫だけで、他はすべて短編や短編をまとめた作品だったの。
今回は新書でしかも二段組だから文庫よりも圧倒的に原稿枚数が多くて、その分量でひとつの物語を組み立てるのはすごく難しかった……。 |
森本: |
読者の立場だと、本を買うなら薄い本よりは厚い本でじっくり読みたいなって思うんですけど、いざ書く側になると……。 |
柘植: |
書いても書いても終わらない……と嘆くことに(苦笑)。 |
葛: |
そんな努力の末に完成したこのお話、恋愛ものにしたのはどうしてですか? |
柘植: |
うーん……なんか、書いてる時に無性に恋愛ものが書きたくなって(笑)。たぶん10年前の自分にはこんな話はとても書けなかっただろうね。 |
葛: |
今の柘植さんだからこそ書けた作品なんですね。今までに、ここまで恋愛をメインにした作品を手掛けたことは? |
柘植: |
ないない。初めて! 実は今の朝日ノベルズさんにこういうタイプのお話があまりなかったので……、ちょっとこう……(小声で)め、目立とうかなーなんて。 |
葛: |
なるほどぉ! えーと……(言葉を探す間)……新たな切り口で! ということですね! |
柘植: |
はい(笑)。 |
葛: |
あとタイトルなんですけど、途中で変わりましたよね? |
柘植: |
最初は『トラヴァース!』という仮タイトルで書き進めていました。
「トラヴァース(traverse)」っていうのは「―から―までを踏破する」「―を乗り越える」といった意味の言葉で、「謎の〈塔〉を乗り越えろ(攻略せよ)!」という意味と「神子と人間との垣根を乗り越えろ!」という両方の意味を込めてつけました。
神子のなかでも〈塔〉を攻略する特殊な戦士たちのことを「踏破者(traverser)」と名付けたのも、ここからです。 |
葛: |
では、現タイトル『タワー・ドールズ』にはどんな意味を込められたのでしょう? |
柘植: |
舞台になるのが〈塔〉で、その攻略のためだけに機械的に働かされている神子たちがまるでただの人形のようだ、というイメージからこちらの方がわかりやすいかなと思って『タワー・ドールズ』になりました。 |
葛: |
サブタイトルで、さらに内容が伝わりやすくなっていますね。 |
柘植: |
これは編集さんも一緒に考えてくださいました。わたし昔からほんっとにタイトルつけるのが苦手で……。今回も「頼むから誰かつけてー!」って何度叫びたかったことか。……あ、もしかして一番苦労したの、ここかもしれない(笑)。 |
柘植: |
最近の小説は登場人物が少なめで視点も定まっているものが多いので、いままでやってきた「一人称的三人称」ていう誰か一人の視点で物語を進める書き方ではなく、敢えて様々なキャラクターの視点で書くことに挑戦してみたの。 |
葛: |
各キャラのことがしっかり書かれていたので、主人公だけじゃなくどのキャラもすごく魅力的に感じられました! |
柘植: |
ここまでころころ視点を変えて書くのは初めてだし、読者さん的にはすごく読みにくかったんじゃないかと不安だったんだけど、そう感じてもらえたなら嬉しいな。 |
森本: |
神子って読む前はもっと個性が希薄な、タイトルどおりに人形みたいな存在なのかな〜と予想してたんですが、意外とみんな個性に溢れてますよね。 |
葛: |
主人公のジョーは生い立ちが特殊、ヴァレリーは娼館に入り浸り、イルは神子には珍しい中年姿、ちびっこ上司のギルドラム……、濃いですね。 |
柘植: |
このチームは神子のなかではちょっと特殊かもしれないね(笑)。
一応神子は幼年期を生家で育てられるという設定があって、ある程度の人格形成はそこで為されるかな、と。 |
森本: |
じゃあギルドラムのあの言葉遣いやファッションセンスもすべて生家での……どんなお家だったんだろう? |
柘植: |
成長すれば本人の好みなども加味されるだろうけど、多少は影響があるかも。そのあたりも、いつか語る機会があればいいな。 |
葛: |
イラストも、文中の表現どおり神子たちの姿がすごく麗しい姿で描かれていて世界観ととても合っていたなぁ、と。 |
柘植: |
イラストについては、当初から編集さんとも中性的なキャラクターが描ける方を、と話していて。輝竜司さんにお願いできてほんとによかったなって思います。 |
葛: |
……で、その麗しいイメージとの対比の所為かもしれないんですけど、ゲランの存在が……ゲホゴホ。
た、たしかにイケメン設定はないんですけど、絵で見ても「あ、かっこいい方の男の子ではないんだな」て伝わってくるのはアリなのかナシなのか。 |
森本: |
え、わたしはアリだと思いましたけど。ゴツい男がピンクのエプロンで花屋! そのアンバランスなところがいい! |
柘植: |
じゃ、じゃあ、よ、よかった……の、かな。いいところに落ち着いたと思っておこう(笑)。 |
森本: |
そういえば……。柘植さんは各所でおじさま好きを公言されてるんですが、柘植さんの好きそうなおじさまがイルしかいないな、と。 |
葛: |
イルしかいない……。いるの? いないの? どっち?? |
一同: |
(笑)。 |
柘植: |
実は名前で一部失敗したなーと思うところがあって……。
それはともかくこのお話は年寄りを出しづらい設定なんだけど、神子のおじさまを出したい一心でイルの設定をつくったりしました。 |
葛&森本: |
?! |
柘植: |
(しみじみ)書きたいことって、大事だよね。おじさま……自分の書きたいものを如何にして登場させるか、そんなところからこの物語は膨らんでいったのでした。 |
森本: |
なるほど……。そのようにして作品に自分の好きな要素を詰め込んでいくわけですね! |
柘植: |
ただ外見がおじさまでも神子には性別がないので、「彼」「彼女」っていう代名詞がまったく使えなくて……。執筆中、「彼ら」とかもすぐに使いそうになっては慌てて直したりしてました。もしどこかに間違って使ってたらうっかりです(笑)。 |
葛: |
そんなところにもさりげないこだわりが!
ちなみにわたしは個人的に、スーリアちゃんがいちばん好みです。可愛くて大好き! |
柘植: |
このお話の中で、あの子がいっちばん普通の子なんだよね。だから神子たちに比べると感情移入しやすいかなぁ、と思っていたけど……うん、あの子も幸せにしてあげたいね。 |
森本: |
わたしはジョーの可愛さにメロメロだったかな。でも他のキャラも甲乙つけがたい! |
柘植: |
そうやって人それぞれに、お気に入りのキャラをみつけていただければ嬉しいです。 |
森本: |
ここで“赤き神子”であるジョーの物語は一段落してるんですが、〈塔〉の攻略やこの世界のこれからについては? |
柘植: |
このお話でジョーたちが〈塔〉から持ち帰った〈神の遺産〉は、閉ざされた王国の外に目を向けるきっかけになる重要なアイテムになります。これからさらに〈塔〉の攻略が進んでいけば、この世界にも神子にも様々な変化が訪れることになるでしょう。
今回登場した神子たちの別の話、他の神子チームのことや世界の過去現在未来について等など、いろんなことを考えています。 |
葛: |
この作品を通して、読者に伝えたいことってなんですか? |
柘植: |
昨今は「ファンタジー離れ」とよく言われていて、日常的な生活の中にファンタジー要素を一部取り入れたような物語が多いんだけど、この作品みたいな「まったくの異世界を舞台にしたファンタジーもいいよね」と感じてほしいっていうこと、自分でひとつの世界を創造することの楽しさを感じてほしいこと……。あと、純粋に「恋、しようね」というメッセージもこめて(笑)。 |
葛: |
「恋、しようね」。良い言葉だ……。では最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。 |
柘植: |
えーと……(間)……、読んで、妄想をひろげてください。 |
森本: |
そ、そんなこと言われたらどこまでも妄想広げますよ?! ていうかもうすでにいろいろ妄想がとまらないんですが?! |
柘植: |
だって、小説は作家の妄想の塊だから(笑)。そこから読者の皆さんがさらに世界をひろげてくれるといいな、と思います。
本を読む楽しさを感じて、いろんなことを想像あるいは創造する楽しさも感じてもらえたら嬉しいです。 |
葛: |
私あとがきにあった『奥さまは冒険者』もすっごい読みたいです! |
柘植: |
あれも書きたいなぁ。あっちはきっとすごく能天気でもっともっとラブラブなコメディになるだろうね。
続編を含め、これからもっといろんなお話を書けたらいいなと思っていますので、応援していただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いします! |
葛&森本: |
ありがとうございました〜。 |