―― |
というわけで、インタビューしに来ました。『ファイヤード!』ってなんですか?
|
友野: |
さっそくやな! |
田中: |
もっとこう、「お疲れ様でした〜」とかないんかい(笑) |
ないです。スピーディーにいきます。
そんなわけで、友野詳と田中公侍が語る、『ファイヤード!』の特徴と魅力を、存分にどうぞ!
|
〇ファイヤードって、なんだろう? |
―― |
『ファイヤード!』ってなんですか? |
友野: |
ゲームですよ(笑)。 |
―― |
TRPGでいいんですか? |
田中: |
TRPGといえばTRPGです。でも作っている側の意識としては、「ちょっと今までのTRPGではないよね」という意識もあります。 |
友野: |
昨年、「ゲヘナの次を作りましょうよ」というお話を頂きまして。でもちょうどその頃、今までのTRPGを作るのに、ちょっと飽きてた(笑)。 |
―― |
ほう。それは、従来のTRPGに不満があったということですか? |
友野: |
いや(笑)。従来のTRPGも普通に遊びますよ。プライベートでやる時は、『ウィザードリィ』とかのダンジョン攻略型も大好きだし。 |
―― |
これまでのTRPGも十分魅力的である、と。 |
友野: |
カレーは美味しい、ラーメンも美味しい。でも、まだ食べたことのない、新しくて美味しいものがあるなら、それも食べたいでしょう? |
―― |
なるほどなるほど! 従来のものが魅力的だったからと言って、それは新しいものを捜さない理由にはならないんですね。 |
友野: |
そういうことです。で、オレがずっと拘っていたのは「セッション運用」。ストーリーそのものをどういう風に形作って語っていくか、ということだった。 |
―― |
つまり「ストーリー作成により適したツールを作ろう」ということですか? |
友野: |
「簡単にストーリーを作成できるようにしよう」というのもあります。でも、もっと大事なのは体験かな。「どんな人でもストーリーを疑似体験できるゲーム」を作りたい、というのがありました。 |
田中: |
僕は『ファイヤード!』でサイコロの振り方なんかのシステムを作ったのですが、その「サイコロを振る楽しさ」もきちんとストーリー体験に繋がるように設計しています。 |
むむ、『ファイヤード!』は「物語を作って、体験する」――つまりTRPGの本質的な面白さにより踏み込んだゲームみたいです。
ではその辺りのことを、1つずつ聞かせて頂きましょう。
|
〇特徴その1 ステージ |
友野: |
まずは、『ファイヤード!』のシナリオに関するシステムについて。例えばオレはもう四半世紀もGMをやっているから、大まかなプロットさえあれば、それだけでセッションができる。 |
―― |
あらすじさえあれば、細部はアドリブで用意してしまえるわけですね。 |
友野: |
うん。「こういうことがあったから、次はこんなシーンが来るよね」というのが頭の中に入っているから。じゃあそのデータベースを他の人にも伝えられれば、もっと楽にストーリーが作れるのではないかと思った。そこで考えたのが、映画なんかの脚本の書き方にある「ハコ書き」というものです。 |
―― |
それぞれのシーンを1つずつハコに見立てて、そのハコの中で「何が起こるのか?」を簡潔に書いていくやり方ですね。 |
友野: |
んー、シーンというより、もう少しプロット上の意味合いが強いかな。「ヒロインと仲良くなる」とか、「悪者が登場して観客の気持ちを盛り上げる」とか。 |
田中: |
そういうハコをいくつか用意して、それを並び替えて物語を作っていくっていうやり方です。 |
友野: |
だからそのハコをこちらが初めから用意しておけば、それを組み合わせて並べるだけで物語が作れないかな、と思った。初めは「ハコシステム」とか「ブロックシステム」とか呼んでたんですけど、「これって舞台における幕に近いよね」ということで、最終的には「ステージ」という名前にしました。 |
―― |
その「ステージ」が要するに、友野さんが持っている、物語のデータベース? |
友野: |
そういうことです。ステージは全部で36個、基本ルールブックに載っています。 |
田中: |
その中から好きなものを選んでいくつか並べて貰えれば。 |
―― |
それだけでシナリオができてしまう、と。 |
友野: |
できます。 |
―― |
なんと便利な! |
田中: |
でも、これが実際のセッションで上手く行くとは限らへんのですよ(笑)。 |
―― |
つまり、並べたステージとは違う方向にプレイヤーが行ったらどうするんだ? ということですか? |
田中: |
そう。ステージのストーリーを上手く通っていくように、筋道を用意しないといけない。その役割を担うのが、『ファイヤード!』の判定です。 |
友野: |
では、それぞれのステージの中でプレイヤーは何をするのか、お話していきましょう。
|
〇特徴その2 判定の意味 |
田中: |
もちろん各ステージで、プレイヤーは活躍します。では一体、どういう活躍をするのか、ということが3通りから4通り、ステージに書かれています。 |
―― |
つまりプレイヤーの活躍の仕方が、選択肢で用意されている、ということですよね? |
田中: |
そうです。 |
―― |
確かにそれなら、ストーリーの筋道を外れることはありませんね。でも、自由を束縛されるのが嫌だなぁと思う人もいませんか? |
友野: |
実は、「どう活躍するか?」という描写に関しては、このゲームはとても自由なんです。何をしてもいいんです。 |
―― |
でも、それでは選択肢になりませんよね? |
友野: |
いえ(笑)。何をしてもいいけれど、その行為の目的はこの選択肢の内のどれかですよね? そうでなければ物語は悪い方向に向かっていきますよ、ということがシステム的に決まっているんです。 |
―― |
むむ、ちょっとわかりにくいです。具体的に! |
友野: |
例えば、貴方は今、罠がたくさんあるダンジョンの中にいます。 |
田中: |
魔法で罠を解除してもいいし、別のルートを探してもいいし―― |
友野: |
突入して「罠は食らったがオレは元気だ!」とやってもいい(笑)。でもどれでも結局目的は同じで、「先に進む」ということですよね? |
―― |
ああ、確かに。 |
友野: |
今までのゲームの判定というのは、その世界の法則を表すものだったと思うんです。「どれだけの力があれば重たいものを持ち上げられるのか?」とか。今の例でいうと、「いかに上手く罠を解除できるか」とか。 |
―― |
でも『ファイヤード!』では、「先に進めたか?」という風な、もっと大きな括りの判定を行うわけですね。 |
友野: |
はい。だから、どんな方法で先に進んだのかは、自由にプレイヤーが描写していいんです。 |
田中: |
ストーリー上の、骨組みの部分だけをGMが管理して、肉付けはプレイヤーに委ねているんです。だからその分、「何をしたのか?」に関しては自由です。 |
―― |
なるほど! 判定の括りが大きいから、プレイヤーが自由に語れる部分も広いわけですね! |
友野: |
その通り。判定の結果にさえ矛盾しなければ、極端な話、戦闘に勝ったか負けたかまでプレイヤーが決めて構いません(笑)。 |
―― |
それは確かに、今までのTRPGとは少し違いますね(笑)。 |
田中: |
判定の意味が変わったから、能力値も変わりました。このゲームのパラメーターは、筋力とか器用度とかではないんです。 |
―― |
ああ! 「罠を解除する」判定がないなら、器用度はいらないわけですね。
|
〇特徴その3 能力値とダイス |
田中: |
『ファイヤード!』のキャラクターは、「コミュ/人間関係の広さ」と、「タクテクス/物事を解決する手段」と、「ウィル/強い意思の力」。この3つで出来ています。 |
友野: |
恥ずかしくてルールブックでは1度か2度しか書いてないんだけど、この3つのパラメーターを合わせて、「物語座標」と呼んだりもします(笑)。 |
―― |
おお、なんとなくわかりました。その物語において、キャラクターがどの位置にいるのか、ということがパラメーターになっているんですね! |
友野: |
うん。で、このパラメーター、ゲーム中にどんどん増加していきます。 |
田中: |
自分がストーリーの当事者になっていくイメージ。セッション中に大切な人ができると「コミュ」の能力値が上がったり、その人を守ろうと思ったら「ウィル」の能力値が上がったり。 |
友野: |
で、能力値が上がるに従って、振れるサイコロの数もどんどん増えていきます。 |
田中: |
そう! 『ファイヤード!』には、ゲーム中に自分が成長している実感をもの凄く入れたかった。だからストーリーが進めば、どんどん振れるサイコロが増えていきます。 |
友野: |
ストーリーがクライマックスに近づくに従って、「サイコロをたくさん振れる!」という、生理的な快感も高まっていく、と。 |
―― |
ちなみに、どれくらいサイコロを振れるんですか? |
田中: |
始めは2個とか3個とかしか振れない。けど、最後の戦闘だと、20個とか30個とか振れるようになります。 |
―― |
おお、1セッション中に、10倍(笑)。かなりの快感ですね!
|
〇特徴その4 成果と絶望とリベンジ |
友野: |
で、そうやって増やしていったサイコロで、もちろんプレイヤーたちは自身の目的を達成していくんですが。 |
田中: |
このゲームはサイコロと選択肢の結果によって、どの程度物語が上手く進行しているのかを数字で見せるようにしています。 |
―― |
またなんだか難しい話になってきましたね(笑)。 |
友野: |
要するに、物語が「どのくらいハッピーエンドに向かっているのか?」と、「どのくらいバッドエンドに向かっているのか?」を数値化しています。 |
田中: |
まずハッピーエンドの方。ゲーム中に、「成果」と呼ばれる数値が与えられます。 |
友野: |
例えば旧来のTRPGだと、「キーアイテムを手に入れた」とか、「重要な情報を聞き出した」とかいうことで、物語がハッピーエンドに近づいて行ったわけです。それをひとまとめにして数値化したのが、「成果」。 |
―― |
つまり「重要な情報を聞き出した」というのを、「成果100点分、ハッピーエンドに近づいた」という風に、数値でまとめられている、と。 |
田中: |
そういうことです。で、これに対して、「どのくらいバッドエンドに向かっているのか?」という数値として、「絶望値」というものがあります。 |
友野: |
この絶望値は時間経過によって溜まっていきます。でもプレイヤーが的確な行動をすれば、絶望値の上昇を少なく抑えることができます。 |
―― |
なるほど。つまり成果を獲得しながら、絶望値を極力獲得しないようにするのが、このゲームの目的である、と。 |
田中: |
システム的には、そういうことです。反対にいうなら、絶望値があるせいで、『ファイヤード!』はミッションが未解決に終わる可能性がそれなりにあります。 |
―― |
そっか。絶望値があるというのは、「プレイヤーの敗北条件がある」ということですもんね。 |
友野: |
うん。だから絶望値が一定に達すると、「はいセッション終了〜っ!」と(笑)。 |
田中: |
「君たちの負けです!」と(笑)。 |
―― |
ええ? いきなり負けなんですか!? |
友野: |
ええ。ただし、「君たちは負けた。ここまでが前編だ。それでは後編を始めよう」と、設定を引き継いでリベンジシナリオを始めることが可能になります。 |
―― |
リベンジシナリオ? それは、また後日セッションをしましょう、ということではなく? |
田中: |
違います。その場ですぐに始められるようになっています。 |
友野: |
テンプレートを用意しているので。ある程度慣れているGMなら、すぐにリベンジシナリオを用意できます。
|
〇『ファイヤード!』の世界 |
―― |
さて、ずいぶんたくさん、システムについてのお話を聞かせていただきましたが。 |
田中: |
まだまだ話せることはたくさんあるけど(笑)。アビリティとか、サイコロの振り直しとか。 |
友野: |
でももう十分長くなってしまったし、一番大切な部分は説明できたと思うので。 |
―― |
はい。では、次に世界設定を教えてください。 |
友野: |
私はごった煮な世界が好きなんですよ。昔やってた『ドラゴンマーク』とか。『ルナル』にしてもあらゆるファンタジーのごった煮みたいなところがあるし。日本の各都道府県が異次元に通じているモザイクな世界、という設定を考えたこともある。ごった煮な世界に関しては、常にいくつかストックがあるんです。 |
―― |
その、ストックの内の1つを使ってみた、と? |
友野: |
そういうことです。 |
―― |
じゃあ、ごった煮な世界なんですね? |
友野: |
ええ。七つの異界が密かに、我々の世界に侵略の手を伸ばしています。魔法の元となるエネルギーが我々の感情だから、それをかすめ取っているんです。で、酷い時には肉体ごと、我々を異世界に連れて行ってしまう。その連れ去られてしまった人たちが戻ってきて戦います、というのが『ファイヤード!』の基本的な設定です。 |
―― |
では、プレイヤーが操るキャラクターというのは、1度異世界に連れ去られ、帰って来た人たちなんですね。 |
友野: |
うん。で、異世界に連れ去られたことによって、特殊能力を得ている。だから7つある異世界の、どの世界に連れ去られたのかによって、キャラクターのイメージも変わってきます。 |
田中: |
7つの世界はバリエーション豊かなので、本当にいろんなキャラクターを作れます。 |
友野: |
異世界の1つはジャハンナム(『ゲヘナ』の世界)なので、ゲヘナに登場した刀士や炎術師なんかもできるし、妖怪と仙人の住む東洋風異世界もあるから『妖魔夜行』や『央華封神』もできる(笑)。 |
田中: |
やろうとすればできますね(笑)。もちろん王道的なファンタジー世界もあります。マッドサイエンティストばかりがいる世界もあるから、科学で強化されたキャラもできます。 |
―― |
ほう、作りたいキャラクターは、なんでも作れる感じですね。 |
友野: |
なんでも作れる設定です。他にも抽出された魔力が物体化して、お金として流通しています、とか。主人公たちは賞金首です、とか。あとは悪い妖精の宮廷で作られる魔法少女がいます、とか。考えていたら、去年の秋から今年の春にかけて、『仮面ライダーオーズ』と『ゴーカイジャー』と『まどかマギカ』で全部被ったという(笑)。 |
―― |
なるほど。つまり全部できる、と(笑)。 |
友野: |
もちろんできますけど。最初被った時は「止めようかなぁ」と思ってたんですけど、3つ被ったら開き直って「もうええ! 全部、被す!」と。 |
―― |
被す(笑)。で、そのキャラクターたちが活躍するのは、現実とまったく同じ世界なんですか? |
友野: |
ほぼ同じ世界です。でもジャハンナムからやって来た、イブリースという人が、「非認識の祝福」というものをかけているいるから、人間たちは異世界からの来訪者の存在に気づかないんです。 |
―― |
つまり今、私の横にオーガ的なものが座っていてもわからないわけですね。 |
友野: |
うん、わからへん、と。 |
田中: |
(気づかなくて)幸せだな〜、という意味の祝福ですよ(笑)。 |
友野: |
「世の中には知らない方がいいことがいっぱいあるよ!」と言って、イブリースさんがかけてくださった祝福なので(笑)。基本的に人々は、異世界の存在に気づかない。 |
田中: |
でも例外として、東京都に24番目の区というのが設定されていまして。 |
―― |
ほう。東京24区。 |
友野: |
その24番目の区が丸々、非認識の祝福に覆われています。そこにいる人たちは異世界からの来訪者の存在には気づいているけれど、「いて当たり前だよなぁ」と思い込まされているんです。 |
田中: |
例えば魔法で大爆発が起きても、「まぁ、普通のことだな」と考えます。 |
友野: |
24区の外だと、あんまり派手に超能力とかを使うと、非認識の祝福が破れちゃうんですよ。でも24区だと、何をしても問題にならない。 |
―― |
つまり世界全体では、異世界からの来訪者はこそこそと暗躍し、24区に限れば派手に暴れ回ることができる、と。 |
田中: |
そういうことです。 |
友野: |
体験したい物語に合わせて、舞台を好きに使い分けてください。
|
〇最後に |
―― |
では最後に、ユーザーの皆様へ一言お願いします。 |
田中: |
はい。通常のTRPGだと思って始めてしまうと、違和感がある部分がちょろちょろっと出てきてしまうかもしれないので。まず頭を真っ白にして頂いて、「なにをしてもいいんだ」と思ってプレイしていただくといいかな、と。あとは、ボードゲーム的にもプレイできるようにしたから、ロールプレイが得意ではない人は、そういう遊び方をして頂いたら良いかなと思います。「今回は絶望値をいくつ以下に抑えるぞ」という風に。 |
―― |
なるほど。では友野さんお願いします。 |
友野: |
ストーリーの骨格は、ステージの組み合わせで作って頂けるように工夫しました。でも、それをどれだけ広げて、どんなお話しを作っていこうかというのは実際に遊んでいただく皆さまに委ねるしかないので。 |
田中: |
なるたけどんな遊び方をしても楽しめるような作りにはしているんですけどね。 |
友野: |
しているんだけど、例えば「僕は物語の中でお姫様と会話をして、心を開いた」と言って判定するだけなら2分で終わる。それを、じゃあどんな風に心を開いたのか、10分話していただければ、たぶん凄く面白くなると思うので。できればそうやって、空想の翼を広げて、楽しんで頂ければいいなと思います。 |
―― |
空想を語ることが面白いんだ、ということですね。 |
友野: |
はい。それを「具体的にはこうすればいいんだよ」ということは、今後リプレイ等でサポートしていけると思いますので。 |
田中: |
ぜひご期待ください。 |
友野: |
力を尽くしましたので。一度、頭を真っ白にして、『ファイヤード!』を楽しんでみてください。 |