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サクラダリセット・シリーズ 完結記念 (2012年04月)
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『サクラダリセット』シリーズ 完結記念

リセット」たった一言。それだけで、世界は、三日分死ぬ――。 能力者が集う街、咲良田。浅井ケイは、記憶を保持する能力をもった高校一年生。春埼美空は、「リセット」――世界を三日分巻き戻す能力をもっており、ケイの指示で発動する。高校の「奉仕クラブ」に所属する彼らは、ある日「死んだ猫を生き返らせてほしい」という依頼を受けるのだが……。リセット後の世界で「現実」に立ち向かう、少年と少女の物語。

こんな紹介で「サクラダリセット」が始まったのが、2009年6月1日。それから、3年近い月日が流れ、ついに完結編となる7巻『
サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA』が発売されました。
今回は、サクラダリセットという作品全体を通じて、河野裕という一人の作家と作品世界の関わり合いについてのインタビューをお届けします。
聞き手は、愛読書を聞かれて「サクラダリセット」と答えた私、石在神明が務めます。

※「サクラダリセット」シリーズをまだお読みになったことのない方は、以前のインタビューから目を通していただきますことをお薦めいたします。

2009年5月 http://www.groupsne.co.jp/user/interview/2009/05/01.html
2010年2月 http://www.groupsne.co.jp/user/interview/2010/02/01.html
2010年7月 http://www.groupsne.co.jp/user/interview/2010/07/03.html

サクラダリセット7
BOY, GIRL and
the STORY of SAGRADA
ベイビー、グッドモーニング
河野 裕 (著), 椎名 優 (イラスト) 、角川スニーカー文庫
2012年4月 発行
記事作成 石在神明

                                                                         

◆ はじめに ◆
―― それでは、インタビューを始めたいと思います。
河野 どもっ! 河野裕です、宜しくお願いいたします。
―― サクラダリセット』完結、おめでとうございます。
河野 ありがとうございます!
―― 1巻が出てから約3年ですね。
河野 そうですね。ただ、出版の半年前には1巻の原稿が書き上がっていたので、自分の中では4年くらいのイメージですけれど。
―― まさに大作
河野 そう言われるとちょっと恥ずかしいですね。
―― 色々と伺いたいことはあるのですが!
河野 ですが?
―― まず、『サクラダリセット』はどんなお話なのでしょうか。
河野 一言でいうのは大変難しいのですが、日本のどこかに超能力者がたくさんいる街があって、そこで起きる様々な事件を、能力の組み合わせによって主人公達が解決するという青春ストーリーです。
―― なるほど、青春ストーリー
河野 青春ストーリーって自分で言うのめちゃくちゃ恥ずかしいですね(笑)
―― あはははは、確かに恥ずかしい(笑) それで具体的にはどんな能力が?
河野 主人公はどんなことでも覚えていられる能力をもっていて、ヒロインは時間を最大で三日まで巻き戻せる能力を持っています。ヒロインが時間を巻き戻しちゃうと、巻き戻された時間に起きたすべての記憶を、ヒロインも含めて全員が忘れちゃうんですよ。だけど主人公だけは能力によってその間の記憶を覚えていられるので、テレビゲームのリセットボタン的に使えて色々やります、という感じです。
―― なるほど。つまり、ヒロインと主人公が二人で能力を組み合わせてコンビ打ちしているような感じですね。
河野 この小説は、基本的に「一人のものすごく強い能力者がいる」とかじゃ無くて、いろんな能力をうまいこと組み合わせることによってすごい効果を生み出しましょうよ、というところを狙っています。
―― TCGで言うところのコンボシナジーみたいなものですか。
河野 そうです。主人公とヒロインの例からもわかってもらえると思いますが、いくつもの小さな能力が組み合わさって、びっくりするような大きな効果が得られるよ、という作りになっています。
―― じゃあ超人が一人で事件を解決する話ではなくて、凡人がみんなで集まって力を合わせるような話。
河野 そうですね。中には超人っぽい能力のキャラクターも出てくるんですけれど、そういう人はあんまり活躍しない。世界を滅ぼせる能力よりも、ただ誰かに声を届けるだけの能力の方がいいよね、みたいなシーンを描きたいんです。
―― なんだか、青春ストーリーって感じですね(笑)
河野 だから、そう言ったじゃないですか! ああ恥ずかしい(笑)
―― では、これからサクラダを読もうかなと思っている読者に向けて一言お願いします。
河野 その括りかた、ざっくりしすぎててすごいですね。割と不思議な話ではあるので、好き嫌いが分かれるとは思うんですが、他のモノでは味わえない独特な何かを込めています。こういうお話が嫌いでない人なら、読んで頂いて決して損はさせないつもりですので、ぜひ試してみて下さい。
―― 恐れずに踏み込んでみてほしい、と。
河野 そうですね。1巻を読んでちょっと面白いかなと思ったら、一気に読み進めてほしいですね。1巻の感想が50点だったら、3巻を読んでもらう頃には80点くらいになってる、と思います。
―― サクラダリセット』全7巻、ぜひ皆さんも読んでみて下さいね。河野裕先生でした。ありがとうございました。
河野 ええっ、終わった!?


◆ 気を取り直して ◆
―― それでは、改めて色々お話を聞かせて頂きたいと思います。。
河野 おお、よかった。あれで終わるのかと思いました。
―― とんでもない! ここからは若干のネタバレなど気にしない勢いで、いろいろ聞いてゆきたいのですが!
河野 頼もしいですね! どうぞ、何でも聞いて下さい!
―― ずばり、今どんな気分ですか?
河野 安心した、というのに近いです。とても気に入ってるシリーズなので、書いている最中に私自身が作品をダメにしてしまうのが一番怖かったです。
―― そんな意外な心配があったんですね。


◆ ラストシーン ◆
―― あのラストシーンっていうのは、割と序盤から頭にあったんでしょうか?
河野 6巻ラストはかなり序盤からありましたけど、1巻を書いた段階では、主人公が最後に能力肯定するのか否定するのか決まってなかったんですよ。書きながら探していこう、みたいな感じで。
―― それが今の形に決まったのは?
河野 3巻ぐらいで、今の形になるんだな、ということを感じました。あと、こういう大きいこと決まってない割に、細かいことが決まっている小説でした。たとえば、ラストで春埼がもう一回髪を伸ばすんだろうな、というのはかなり早い段階から決めていたんですよ。でも、主人公の浅井ケイが何をするのかは全く決まっていなかったという。
―― なるほど。


◆ 浅井ケイ ◆
―― ケイと言えば、7巻でついにケイの名前の漢字が明らかになりましたね。
河野 明言しちゃいましたね。実は、これも3巻くらいから、最終刊ではケイの名前を漢字にしようと思っていました。。
―― それはどうして?
河野 少し長くなりますが……過去のインタビューでも触れたと思うんですが、一人称の小説には、おそらく名前によって主人公に個性が出てしまわないように、主人公の名前を明かさなかったり、あだ名しか出てこないという演出の作品があります。
―― ケイも、個性を出したくなかったということですか。
河野 そうです。三人称の小説なので、完全に名前を伏せるのは難しかったので、最も意味の無い名前として、アルファベット1文字を考えて、最も名前にしやすい「」にしました。実際、6巻までのケイは視点人物としての記号的な役割を持たせていたんです。だけど、7巻はケイ固有の物語なので、カタカナのケイに漢字を付けて、個性を持たせたかったんです。


◆ ターニングポイント ◆
―― いろいろなことが3巻あたりで決まったということですね。
河野 過去編をやってつじつま合わせが大変だったからです……です、書かないで下さい(笑)
―― では、書ける話をしましょう(笑)
河野 そうしましょう(笑)
―― では、逆に1巻の時に既に決まっていたことは、たとえばどんなことがありますか?
河野 いくつかあるにはあるんですが、1巻の段階って言葉になってないんですよ。「この辺トゲトゲしていて、ここで冷たくって、ここからふわっとした感じ」みたいなイメージだけなんですね。
―― 過去のケイはトゲトゲしていた、みたいな感じですか?
河野 そうですね。ただ過去編に関しては、どういう能力をどう組み合わせてどうする、みたいなある程度の筋書きは決まっていましたね。そうは言っても、たとえばクラカワマリの話のような具体的なエピソードは決まっていなくて。ケイと春埼を結びつける事件が必要で、書きながらその事件に最適なピースは何だろうと探していくと、それがクラカワマリだった、という感じです。
―― なるほど。
河野 物語を作る時に、一番大事な部分だけ最初に決めておけば、あとは最適なものを探し出せばいいんだ、と思っています。
―― 3巻の他には、5巻が結構物語的なキーになっていると感じました。
河野 7巻完結が見えていて、6巻と7巻の内容はすでに決まっていたので、実は5巻は好きなことが書ける最後の巻だったんです。だから、思いっきり趣味に走った話を書きました。
―― 具体的に、どのあたりが趣味なんでしょうか。
河野 あれは、少女に作られた神様が、少女に作られたがゆえに苦悩する話です。それが書きたかったんですよね。
―― ちょっと、それまでサクラダから受けていた印象とは違う感じの話かな、と思いました。
河野 それは自分もやや感じてはいます。ただ、全体の中で果たすべき役割があって、その為に物語が作られているというのは、どの巻も同じなんで、そういう意味では他の巻と全く同じと言えます。5巻がないと、6巻は成り立たないんです。
―― 確かに、6巻を読んでから改めて5巻を読み返すと、理解度が上がったというか、「ああ、なるほど!」っていう感じになりましたね。
河野 それは嬉しいですね。


◆ キャラクター ◆
―― 物語において、キャラクターというものはどう考えていますか?
河野 実は、一見関係なさそうに何気なく出てきたキャラクターが、振り返ってみると実はキーパーソンみたいなのが好きなんですよ。
―― そういう作り方をされていることは、読んでいて強く感じました。
河野 まあ、悪く言えばご都合主義なんですけどね。
―― サクラダは、きちんと伏線を張っているから、ご都合主義にはならないと思います。
河野 たとえば、1巻で言えば、中野智樹がそうです。物語全体で言えば、野ノ尾盛夏加賀谷なんかもそうです。
―― そういった物語上の役割以外にも、出てくるキャラクターが一生懸命生きているという魅力がありますね。ドライなように見えて、実は心根のそこがウェットというか。
河野 キャラクターは、その固有の物語において、最初はドライだけど、最後にはウェットになるように、特に意識していますね。たとえば、2巻に登場した魔女は最初はすごくドライなんですが、2巻の間に彼女の物語は完結するので、2巻の終盤近くだと逆にすごくウェットになっています。
―― 最後、すごく可愛らしい人になっていましたね。
河野 基本的に、すべてのキャラクターに固有の物語を持たせたいと思っているんです。作中、名前のあるキャラクターで固有の物語を持たなかったのは、宇川沙々音くらいですね。
―― 宇川沙々音は、スニッカーズが好きな正義の味方ですね。
河野 そうです。宇川は「正義」という現象の擬人化のようなつもりで書きました。皮肉とか一切無くて、ただ純粋に正義の味方を描きたかったんですよ。
―― 河野さんの中にある、正義の味方像?
河野 そうですね。彼女は正義の味方として完結しているので、固有の物語を持たないんです。逆に、坂上央介の物語は、もう少し丁寧に書いてあげればよかったなと思います。
―― 坂上は能力をコピーする人ですよね。7巻では相馬菫に対する想いを語ったりして、印象的でした。
河野 3巻で出した時に、そのあたりの話を掘り下げてやれば、もっといいキャラになったんじゃないかな、と感じていて、少し申し訳ない気分です。
―― なるほど。


◆ 岡絵里 ◆
―― 他のサブキャラクターについても伺わせて下さい。まず、岡絵里から。
河野 岡絵里は名前で遊ばせてもらったキャラですね。当時は名前で遊ぶというのに少し凝っていて、一つ目が4巻に載った「ホワイトパズル」という短編で、二つ目が今回7巻と同時発売した「ベイビー・グッドモーニング」の第1話になった話でした。
―― 名前で遊ぶ、というのは具体的にいうと?
河野 ホワイトパズル」は、主人公とヒロインのどちらも苗字しか出てこないんです。で、「ベイビー・グッドモーニング」の第1話は、ヒロインだけがフルネーム出てきて、それ以外のキャラは、主人公も死神も名前が一切出てこない。その流れで2巻を書いたので、名前っぽくないフルネームで呼ばれるキャラを作りたいな、と考えていました。
―― まず名前ありき、と。
河野 そうです。まずフルネームで呼んでちょっと名前っぽくない名前として、岡絵里という名前をつけました。次に、その名前で呼ばれるためには何が必要だろうと考えて、「藤川絵里から岡絵里に変わった」という設定ができました。もう名前がアイデンティティのすべてみたいなキャラですね。
―― 岡絵里は、なんだか無理をしている感じがすごく強いキャラですね。
河野 もともとの性格はあんなんじゃないですからね、すごく自分を偽ってますよね。ただ、誰にでもああいう態度かというとそうでも無くて、たとえば2巻で一瞬だけ出てきた美術部の女の子とかとは、すごく普通に仲良くしてるはずなんですよ。
―― 本質は普通の女の子であると。
河野 こいつ、大学生くらいになったら、今のキャラ設定に飽きて、突然普通になったりする気がするんですよね。っていうか、早く彼氏を作ればいいのに。主人公にこだわるからこんな目に遭って……主人公悪いやつだな
―― (笑)


◆ 村瀬陽香 ◆
―― ところで、村瀬の中で兄貴の話は決着ついたんですか?
河野 ついてないんですね。6巻の村瀬のセリフを抜き出してみると、まだ兄の死にはこだわってるのがわかってもらえると思います。
―― 村瀬は最初の頃より丸くなったように見えて、実はそうでもないですよね。
河野 1巻の時は、ストレスのようなモノを無理矢理ぶつける相手として管理局がいたので、ずっと暴走状態にあったんですよ。でも、ケイのせいでぶつける相手がいなくなってしまったので、内に抱え込んだままになっちゃった。
―― あとは、もう時が解決してくれるのを待つ、と。
河野 ケイと村瀬が付き合ったりしたら、どうにかなるかも知れないけど、お互いに絶対そういう関係にはならないので……主人公悪いやつだな(笑)
―― 本当に(笑)


◆ 皆実未来 ◆
―― 1巻で出てきた、さまよえる幽霊少女、皆実未来はどうでしょうか。
河野 皆実の話をするかぁ。
―― 7巻では皆実の出番が無かったですよね。
河野 皆実っていろんなこと考えてるし、わりと我が強いし、ある意味ひたむきでもあるキャラなんですよ。さっき、すべてのキャラクターに固有の物語を持たせたいって行ったんですけど、皆実の物語は当初まったく違うモノを想定していました。実は、皆実はもともと、準ラスボスみたいな扱いだったんですよ。
―― ええっ、そうなんですか?
河野 なんですが、用意していた物語があまりに重すぎた上に、6巻7巻の流れにうまくかみ合わなかったので、6巻を書いている途中くらいから、「出ないことに意味があるキャラ」に急に役割を変えたんですよ。だから、皆実は自分の中で一番ちゃんと使い切れなかったキャラですね。
―― 元々はどういうキャラクターだったんですか?
河野 この話の主人公の浅井ケイっていうキャラクターは、人を殴ったりしんだりとかは極力避けようとするけど、最適だと思ったら、相当えぐいことでもやってしまうヤツなんですよ。で、その被害を出していることも自覚しながら、そうしないと前に進めない、っていう要素を作中にきちんと書きたくて、その被害の一人として設定していました。
―― なるほど。
河野 始まりの3人のうち2人が寝てる部屋があるじゃないですか。その部屋の中を調べるために、皆実が死んで幽霊になって、中に入って情報を得たらリセット、というシチュエーションを作ったんです。で、その為に皆実が自殺しようとして、それを知った浅井ケイが「もしそういう被害を出すんだったら、ぼくの手で」って覚悟決めるんですよ。
―― それはつまり、皆実が自殺するくらいなら、ケイが殺す、と?
河野 はい。結局、皆実を殺さなくても済む方法が見つかるんだけど、「もし どうしても必要だったなら、僕は彼女を殺していただろう」と最後に主人公が独 白する、という展開でした。ただ、これあんまやりたくねぇな、と思ってやめた んです。
―― 主人公悪いやつだ」って言わない展開ですね。
河野 もう十分悪すぎるでしょう(笑)


◆ 津島信太郎 ◆
―― 女性読者のためにも、男性キャラの話も聞かせて下さい。
河野 だれでしょう。
―― では、津島先生を。
河野 津島は私の考える一番まともな大人を書きました。
―― 7巻で、「まず大人から疲れるべき」っていう理由で「俺は、浅井ケイの共犯者みたいだ」って浦地に言えちゃう津島は、理想の大人って感じで本当にかっこいいですね。
河野 津島は元々めっちゃかっこいいキャラクターのつもりなんです。津島は昔ヒーローになりたかったけど、能力がまったく手に入らなくて、結局ヒーローになれなかったキャラなんですよ。ただ、サクラダの世界だと、能力を持たない人間って、すごくまっとうな人間なんですよね。
―― 心がゆがんでないから、能力がもらえない、みたいな。
河野 そうそう。すごくまともな人間代表として、昔夢で破れてそれでも今はそれなりに幸せにやってますよ、でもちょっと疲れてますよ、っていう大人として書いてますね。
―― ちょっと疲れてますか。
河野 疲れてますね。で、探偵物語大好きなんで、そういうの見て明日もがんばるかー、って。
―― あの髪型はその影響ですか?
河野 そうです。
―― 津島ちょっといい人ですね。
河野 津島信太郎中野智樹は、サクラダの二大お気に入りキャラなので。津島は何があっても幸せになりますよ。


◆ 加賀谷 ◆
―― では、お待ちかねの加賀谷さんの話を。
河野 お待ちかねですか。
―― 加賀谷さん、好きなんですよ。
河野 彼はもうほとんど役割しかないようなキャラなんですよ。彼があんな重要なキャラになるとは誰も思ってなかったんじゃないかなぁ。
―― 最初は管理局が引っ張ってきた都合のいい能力者、かと思ってました。それが、まさか7巻のキーパーソンですからね。
河野 他に浦地に勝つ方法が無かったんですよね(笑)
―― なるほど。
河野 ケイの強さが広く広く対象を拡大していく強さなのに対して、浦地の強さは狭く狭く本当に大事なことだけに切り詰めていく強さなんですよ。そのケイと浦地の決着の付け方として、ぶっちゃけてしまえば加賀谷っていうモブキャラを救うことが大切なんだ、っていう話にしたかったんですよ。
―― ケイにとっては助ける対象だったけど、浦地にとってはそうではなかったと。
河野 そうですね、ただ、浦地が助けたい人っていないんですよね。あの人は概念を守ろうとしているのであって、個別の人間は一切見ていないんです。キャラクターとしては、浦地は管理局そのものに一番近いんです。それに対して、ケイはとにかく一人一人みんなを救うんだって思っていて、その差が一番見えるのは、加賀谷みたいなキャラクターがいることかな、と思っています。
―― 浦地は、加賀谷があまりにも自分に近すぎたって言ってましたっけ。
河野 そうですね、浦地は、とにかく人間を見ていないんですよ。一人一人を化学記号みたいに考えていて、この化学記号をこの環境に置いたらこんな結果になる、みたいな感じで人を使うタイプだったんですよね。ただ、加賀谷に関しては、その化学記号への置き換えができてなかったんですね。
―― あまりにも自分と近しすぎたから。
河野 浦地にとって、加賀谷って言うのは自分の一部だったんですね。自分の右手だけが自分の意に反して自分を殴ったりしないように、加賀谷が自分から離れることはまったく想定してなかったんだろうなぁ。
―― 本当に信頼してたんだけど、信頼っていう感情をあんまり自覚してなかった。
河野 浦地は徹底的に弱点がないキャラクターにしたかったんですが、これって相当わかりやすい弱点ですよね。


◆ 能力の男女差 ◆
―― ところで、個人的に男性キャラの能力は直接的で単純ですが、女性キャラの能力は情感的で複雑なイメージがあります。
河野 おお、なるほど。それは全く意図してないですが、言われてみると少しわかる気がします。それは、おそらくキャラの成り立ちのせいですね。
―― と、言いますと。
河野 キャラクターを作るときには、こういう能力を持っていて、こういう性格で、というように、物語での意味づけから考えるんです。そうすると、「この能力でこの性格が、男だったらウザいだろう、だったら女性キャラにしてしまおう」と。
―― それで、女性キャラがみんな一癖も二癖もあるわけですか。
河野 そういうことです。相馬菫だったらウザいでしょ(笑)
―― たしかに(笑)
河野 これ、言わなかったことにした方がいい気がしてきたな。
―― そうかも……そうかなぁ?


面白かったので、書いてしまいました(笑)



◆ スワンプマン ◆
―― 作中に、スワンプマンとか、哲学的ゾンビとか、ちょっと難しそうな単語が出てきますよね。
河野 はい、出しました。あれは、元々詳しかったわけじゃなくて、何となく知ってる単語を改めてきちんと調べて書きました。ただ、入れようと思って探したというよりは、たまたま使いやすいから使ったって言うのが大きいですけどね。
―― 自分の知識の中で、ぴったりくるかなと思って調べたらぴったりきた、って感じですか。
河野 そうですね。だから別にスワンプマンの話が書きたいからあの話を考えたんじゃ無くて、考えた話をまとめるならスワンプマンって言う単語が一番しっくり来るから使っている、くらいのことですね。
―― で、相馬菫スワンプマンなんでしょうか。
河野 あっはっはっは、それを聞きますか(笑)
―― ケイにとっての答えは出ましたが。
河野 作中でちょっと触れたんですけど、たぶん誰にも見分けつかないんですよ。それは、誰もスワンプマンって言葉がわかった気になってるだけで、定義できてないせいだと思うんですけども。
―― そもそも、どうだったらスワンプマンなのよ、ってことですよね。
河野 ええ。細胞に連続性があればスワンプマンじゃ無いのかと言えば、相馬はたぶん連続性はないですよね。でも、複製から連続しているので、まったく同じ細胞からの連続ではあるんですよ。そのスワンプマンかどうかの境目をどこに置くかによって、答えはどうしても変わってしまうので、それはもう誰かがどっちかに決めてしまうしかないと言うか、それぞれがそれぞれに決めてしまって、決めたように接するしかないんじゃないですかね。
―― 中野智樹の能力が届いたからスワンプマンじゃないって言うのは、逆に言うと、中野智樹の能力に境目を置いただけであって。
河野 そうそう。実はあれはケイがうまく理由にしただけで、何の証明にもなってないんですよね。スワンプマンかどうかの基準とは、まったく関係ないですから。
―― 結局、スワンプマンの定義が決まってないので何とも言えない、と。
河野 作者の中でその答えは特にないですよ、というか、答えが出ないモノですよ、が答えですね。読者の皆様がそれぞれの中で答えを出して頂けたらいいんじゃないでしょうか。


◆ 作者イチオシのヒロインは? ◆
―― ずばり、一番好きなヒロインは誰ですか?
河野 自分の書いたヒロインをかわいいと思うことがないんです。
―― そうなんですか。ちょっと意外ですね。
河野 ただ、6巻の、バスルームで泣いている相馬だけは、「あれ、こいつかわいいな」って思ってしまったんですよ。
―― 健気げだけど報われない女の子萌え、ですか。
河野 そうですね。いや、むしろ報われないのに健気な女の子萌えかな。。
―― 相馬の健気さは、凄まじいものがありますよね。
河野 あ、そういえば、5巻に出てきた少女時代の野ノ尾もかわいかったかな。
―― 結構いるじゃないですか(笑)


◆ 次回作とか ◆
―― 最後に、次回作のお話を伺わせて下さい。
河野 ちょっとずつ進めています。
―― 何かキーワードだけでも、教えて頂けますか?
河野 そうですねぇ……うん、次元大介ルパン三世が嫌いな男って、たぶんそんなにいないと思うんですよ。
―― 次元大介ルパン三世ですか。たしかに、僕は大好きですね。
河野 でしょ! よかった! ここでそうでもないって言われたら、結構アセるところでした(笑)
―― それはよかった(笑)
河野 そんなわけで、次元ルパンの魅力を考えながら、次回作の企画を練っているところです。
―― 期待しております!



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