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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 角川つばさ文庫『貞子怪談』(2013年06月)
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角川つばさ文庫『貞子怪談』インタビュー

2013年7月、日本列島は異例の猛暑に襲われています。
たくさん水分を取り、上手に「涼しさ」を取り入れて、この夏を乗りきりたいですね。
そんなみなさんにお薦めなのが、2013年7月15日に角川つばさ文庫から発売される『
貞子怪談』。
グループSNEの「怖い話」大好きな3人がここぞとばかり腕をふるいました。
対象は「小学校上級から」ですので、大人の読者には恐怖感はそれほどではないかもしれませんが、きっと登場人物たちの「心理」にぞっとしていただけると思います。

『貞子怪談』
作:グループSNE(友野詳、川人忠明、大井雄紀)
監修:鈴木光司 絵:阿部洋一
角川つばさ文庫
ISBN978-4-04-631327-0

  • プロローグ:友野詳
  • 第一話:だけどわたしは本物だから 友野詳
  • 第二話:シャッターチャンス 大井雄紀
  • 第三話:呪われたメロディー 川人忠明
2013年06月 発行
記事作成 笠井道子

■友野詳/川人忠明

◆企画の成り立ち
―― それでは『貞子怪談』について、最初は年長のお二人、友野詳さんと川人忠明さんからお話を伺います(スケジュールの都合で、大井雄紀には別途インタビューを行いました)。
まず最初に、この企画の発端から聞かせていただけますか。
 
友野 角川つばさ文庫の編集さんから、まずぼくにお話をいただいたんです。昨年2012年に『貞子3D』という映画が公開されましたね。あれがヒットして、続編の『貞子3D2』という、ややこしいタイトルの映画が(笑)、8月30日に公開されます。
―― おお、そうなんですね。
友野 それに伴い、「貞子」というキャラクターでコミックや携帯ストラップなど、スピンオフ企画をいろいろ展開していこうという流れのなかで、つばさ文庫でも小学生向けのアンソロジーをやりたいというオファーをいただきました。
―― 「貞子」といえば、元々は鈴木光司先生の小説『リング』ですね。
友野 ええ、ぼくはハードカバーで読みました。もちろん映画も原作も大好きですし、貞子は魅力的なキャラクターだと思っていましたから「ぜひやりたいので、SNEで書きたいメンバーがいるか聞いてみます」とお答えしたんですよ。
―― 「ハードカバーで」ってところが微妙に自慢げに聞こえましたが。
友野 出版されてすぐに読んだ、いまみたいに話題になる前から注目してたってことです(笑)。ですので、鈴木光司さんにはこうした挑戦しがいのあるお仕事の機会を与えていただいて感謝しています。
―― それでSNEで希望者を募ったところ……
友野 川人くんと大井くんが手を挙げてくれたので、3人で書かせていただくことになりました。
―― 川人さんも元々怪談はお好きなんですか。
川人 怪談、というか幽霊の話を書くのは好きですね。
―― 怖がらせるために書くのではなく、幽霊が登場するお話が好きで、そこには怪談も含まれる、という感じ?
川人 そうそう、そんな感じです。
友野 幽霊譚のなかには「ジェントルゴーストストーリー」というジャンルがあるんですね。「本当にあった怖い話」系の作品でも、ペットやおばあちゃんの霊が助けてくれたとか、そういう優しい話が一話は入っていたりするでしょう。
―― ええ。
友野 怪談ですから、読者を怖がらせたいという気持ちはもちろんあったんですが、最後はやはり救いのある、安心して読める本にしたいと思っていました。そういうのをもっとも得意とするのが川人くんだと思うんですよ。
―― それも含めて、三者三様の個性を活かしたアンソロジーになりましたね。
友野さんの書かれた第一話はとてもストレートに恐怖を実感させる怪談でした。
友野 はい、ぼくがプロローグと第一話で「貞子」がどういうキャラクターであるかを紹介しました。第二話は大井くんのちょっと現代的なお話。なんといっても大井くんがいちばん子どもに近いですから、そこは頑張ってもらいました(笑)。
―― そして、第三話が川人さん。さっきお話に上がったように、怖いながらもちょっとほっとするお話。
友野 そういう構成については、事前に3人でしっかり話しあいましたね。
川人 わたしは最初から「救いのある話」を考えていましたから、構成が決まったあとは、個々のプロットを出し合ったくらいで、自由に執筆を進めることができました。
―― 三編とも、とても楽しく読ませていただいたんですが……
友野
川人
――ですが
―― 短編だし、しかも怪談なんで、あまり詳しい話が聞けないんですよ。
友野 そうやねえ、ネタばれになるしねえ(苦笑)。
―― ただ、三編に共通して感じたことがひとつありました。怖ろしい出来事を呼び込むのは人間の弱さとかコンプレックスなんだなあ、そこにつけいられるんだなあ、と。
友野 たしかにアンソロジーとして「貞子」というテーマはあるんですが、子どもにもわかりやすい入り口として貞子以外のみたいなものはほしいと思ってました。具体的に打ちあわせたわけじゃないけれど、三人のなかに無意識にそういうのがあったのかもしれませんね。
―― あと、ちょっと疑問だったのは、どの事件も小学校が舞台になっていますが、すべて同じ小学校で起こったんでしょうか。
友野 (川人さんと目を見交わして)そこはご想像にお任せ、ということで。
―― あれがもし同じ学校で起こったことなら、行方不明者多すぎでしょう、大事件ですよ?
川人 その問題は打ち合わせでも話に出ましたね(笑)。
友野 ですので、舞台については執筆者のなかでは決めてあるんですが、明言はしないということで。東京ではないけれど、その近辺のもはやニュータウンとは言えなくなったニュータウンという設定です。

■ちょっと脱線して『リング』のことなど
―― 小説の『リング』の初版が1991年、映画の『リング』の公開が1998年、もう15年も前になるんですね。わたしは友野さんたちと一緒に見に行きましたが、川人さんもご覧になりましたか。
川人 あの――わたしね、ホラー映画、苦手なんです、じつは(笑)。スティーブン・キングとか小説は好きなんですけど。
―― でも、ホラー映画は怖い?
川人 ええ、ホラー映画というと『死霊のはらわた』とか、そういうスプラッタホラー系のイメージが強くて好きじゃなかった。だって、ああいうのは想像の余地がないじゃないですかっ!
―― ええ (そんなに力説しなくてもわかります(笑))。
友野 音や映像でびっくりさせるのと、想像力に働きかけてじわっと怖いのとは別だからね。
川人 そうそう。なので、『リング』はちょっと後になってからビデオで見ました。
友野 映画の『リング』は想像力を刺激することでより怖さを増すという手法の集大成であって――ぼくにそのあたり語らせると長くなるけど?
―― できれば短めでお願いします(笑)。
友野 ひとことで言うと、それまでに実話系や怪談映像などで培われてきたものが『リング』で一気に広がった。日本の恐怖映画が一皮むけたという象徴みたいな作品だと思います。
―― いまの若い人たちは元の『リング』を知らなくても、「貞子」というキャラクターは知ってるわけですよね。
友野 その点については最初の打ち合わせのときにも話題に出ていて、貞子の本質がどうとかよりも、そこからスピンオフした「貞子」のお話でやりましょう、と。
川人 独自の都市伝説化した「貞子」というキャラクターということですね。
友野 ですので、純粋に元の『リング』が大好きという方には、本書に登場する貞子像はちょっとイメージがちがうかもしれませんが、そこは意図してやっています。

■恐怖の原体験と作品と――タヌキ?
―― それでは、お二人にとっていちばん怖かった作品や体験を教えていただけますか。そうした体験が今回の作品にどう反映されているかも絡めてお話しいただけるとうれしいです。
友野 さっき「子どもたちを怖がらせたい」と言いましたけれど、ぼくの場合は小説より漫画でした。そういう漫画はもう部屋に置いておくのもいやだ、かと言って捨てるのも呪われそうで怖い。なので友人宅に長期出張に出てもらったものもあります。
―― たとえば?
友野 亡霊学級』とか『エコエコアザラク』とか。あと『蔵六の奇病』は大人になったいまでも表紙には手を触れたくないくらい怖かった。当時はもう2度と読むものか、と思ったんですが、気づけば自分が書くようになっていました(笑)。
―― そういう感覚を今回の作品で読者に感じてもらいたい、と?
友野 ええ、特につばさ文庫の読者は女の子が多いので、たとえば『エコエコアザラク』を読んだときの、怖いなかにもふしぎとわくわくする感じを味わってもらえたらと思って頑張りました。
―― 友野さんの書かれた第一話は自分が特別でありたいがために霊能力者のふりをする女の子のお話ですね。苦手だった同級生と仲良くなれそうと思った瞬間、また憎悪が……
友野 貞子も怖いけど、人間の心も怖いよね、ということですね。でも、それで終わるのは陳腐。だからやっぱり超常は怖いですよ、というところまでしっかり書きたかった。いままで蓄積してきたホラーの手法もめいっぱい盛り込みました。自分でもこの作品は気に入っていますので、ぜひ楽しんでほしいです。
―― ほんの少し特別でいたいという、だれもが持つ感情が発端ですから、きっと共感していただけると思います。
つづきまして、川人さんの原体験をお話しいただけますか。怖い話いっぱりありそうですよね、徳島って(
※川人さんは徳島県出身です)。
川人 それは偏見でしょう(笑)!
友野 いや、徳島って基本、怪談はぜんぶタヌキの仕業でしょ?
川人 それは――まあ、そうですね(笑)。でも、デュラハーンみたいな怖いのも、ちゃんといることはいるんですよ(苦笑)。
―― そういうお話は本で読んだり、おじいさんやおばあさんから聞いたんですか。
川人 んーっと、おじいさんやおばあさんからは――すくなくともタヌキ話以外聞いたことないかな。
友野
・笠井
やっぱりタヌキなんや!(爆笑)
川人 まあ、わけのわからないものは全部タヌキの仕業というほうが怖くなくていいでしょう。徳島には〈金長狸〉という有名な狸がいますし、「阿波の狸の話です」なんて歌も子どものときからずっと聴いてました。
―― 狸の歌?
川人 夜中に桶作りの音が響いて来るんですが、桶屋は夕べは仕事をしなかった。「ほな、あれは狸であったんじゃ、コトコトコトコト♪」みたいな歌…………って、まあ、それだけの話なんですが。
友野 それは恐怖の原体験じゃなくて――
川人 タヌキの原体験」でしたね。
一同 (笑)
―― では、改めて川人さんにとっての恐怖の原体験とは?
川人 昔、お昼のワイドショーの時間にやってた「あなたの知らない世界」という番組かな。あれは怖かったですね。あれを見ると夜、布団から出られなくなるんですよ。布団から出たら、そこになんかいるんじゃないかとか、そういう怖さですね。漫画なら、やはり楳図かずおかな。ひとつは題名はわからないんですが、階段の隙間から目が覗いているやつ。あとひとつは「」という漫画です。
」は現在『ねがい 』(ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 2) に収録されているようです。筆者は川人さんから「あらすじ」を聞いただけで、絶対読まないと心に誓いました。興味のある方はぜひ。
川人 そうだ、いま思いだしたんですが、はじめて読んだ怪談は『耳なし芳一』だったような気がします。わたしが幽霊話を好きなのは、過去の思いが現在につながっているところかもしれません。
―― あれこそ日本の怪談という感じですね。もうタイトルを聞いただけで背筋がぞわっとします。今回の川人さんの短編は音楽がテーマになっているんですが、主人公が優秀なお姉さんにコンプレックスを抱いていて、そこから恐ろしい事件につながっていく、と。
川人 はい……(沈黙)……いや、すみません、話が広がらなくて(笑)。それ以上言うとネタバレになっちゃうんで。
―― なんですよね(苦笑)。では、この作品でいちばん感じてほしい怖さはどこでしょう?
川人 うーん、月並みだけれど「やっぱり怖いのは人間だよね」というか、集団心理の怖さかな。
―― それは作品からすごく伝わってきました。外から見るとたしかに異常なのに、自分がそこに巻き込まれているとわからない、だからみんなで手をつないで一線を越えてしまうという怖さですね。
川人 読者の方にはぜひ、その辺りも楽しんでいただきたいです。

■イラストのことなど
―― 本作は編集さんはもとより、原作者である鈴木光司先生や『貞子3D2』のスタッフさんからも好評をいただいたと聞いています。
友野 だとすれば嬉しいですね。あと、阿部洋一さんのイラストがまた素晴らしいんですよ。
川人 貞子がね、ホラー小説だからこう言っていいかどうかわからないんですけど、可愛いんです。
友野 そう、怖さとのメリハリが効いてる。カバー折り返しの貞子、見てください。
―― (帯をめくって) おお、可愛い! 「トイレに行きたくなったんで、ちょっと井戸から出て来たわ」みたいな貞子ですね。
友野 でしょう(笑)? ぜひみなさんも帯をめくって確かめてください。
阿部洋一さんは『バニラスパイダー』とか『血潜り林檎と金魚鉢男』といった、ちょっと怖くてふしぎな作品を発表されている漫画家さんです。編集さんから阿部洋一さんにお願いできるんですがどうですか、と言われて「それは是非!」とおこたえしました。
―― ほかにこの作品でご苦労されたことはありますか。
友野 苦労というのではないんですが、キャラクターの名前には気をつかいました。
―― といいますと?
友野 怪談物ですから、主人公と同じ名前の読者がからかわれたりしてもいけない。だから、ぼくの場合は、この年代でいちばん多い名前を調べて「美咲」を選びました。たくさん同じ名前の子がいれば、特定のひとりがからかわれることは避けられるかな、と思って。
川人 わたしの場合、主人公の「千奈」はそれほど珍しい名前ではないんですが、基本的に悪いことはしていないのでいいでしょう、と。
友野 このインタビューを読んでくださってる方は小説や映画の『リング』をご存じの方が多いと思いますが、小中学生のみなさんにはぜひこちらの『貞子怪談』を手に取っていただきたいですね。そして、みなさんの記憶に残る一冊になってくれたら嬉しいです。

■大井雄紀
―― というわけでスケジュールの都合で、大井雄紀さんには単独でインタビューいたします。
まずは『貞子怪談』発売おめでとうございます。
大井 ありがとうございます。(しげしげと書影を眺めて)イラスト、最高ですねえ。怖すぎず、でもなんとも言えない不気味さがあって。
―― インパクトのある素晴らしい表紙ですよね。
それでは、さっそくですが本題に入らせていただきます。大井さんは今回の執筆者のなかでは「末っ子」(最年少)ということで、現代的な「アプリゲーム」を素材にしたお話でした。
大井 はい、主な読者が小学生ですので、できるだけ身近な素材から非日常に迷い込んでしまう感じを出したいなと思って、スマートフォンを題材に選びました。
―― 主人公がとあるアプリゲームに手を出したところから、すごい恐怖体験につながっていくんですけれど……このアプリ、じっさいにあったら絶対やるよね?
大井 ……やりますねえ(笑)
―― わたし、これ読んで反省しましたよ。好奇心に駆られて、うかつに知らないアプリに手を出すのはやめようって。身近な分、リアルで怖かったです。
大井 ありがとうございます(笑)。
―― そもそも大井さんが怪談好きになったきっかけって、どういうことだったんでしょう?
大井 中学校3年間ずっと仲の良かった友だちが霊感が強くてですね。なにしろ平家霊媒師末裔という、めちゃくちゃ中二病設定なやつで(笑)。
―― ほうほう?
大井 たとえば、学校からの帰り、田舎道を自転車で併走してるでしょ。そうすると、その子が必死に自転車こいでるのに、どんどん後ろに遅れていくんですよ。
で「どしたんやーっ」て聞くと「ごめん、いま荷台にじいちゃん乗ってきた」とか(笑)。
そういうふしぎな経験をして怪談に興味をもった、という感じですね。
―― 大井さん自身のふしぎ体験もあるんですか。
大井 気のせいって言わるかもしれないんですけれど、気配を感じるんです。中二のころだったか、夜中目を覚ましたら、もうキスが出来る距離におじいちゃんの顔があったとか。
―― おじいちゃんって知らないおじいさん?
大井 ええ、まったく知らないおじいちゃんです。それがトラウマになっていまだにうつぶせか横向きにしか寝られないんですよ。目を開けたときに天井が見えるのが怖いんです。
―― よほど怖かったんですね。ところで、大井さんは映画の『リング』はご覧になりましたか。
大井 ええ、中学生時代にテレビで。これもトラウマになってて、しばらくビデオデッキ使えなかったですよ(笑)。
―― よくわかります。ほかに漫画小説で記憶に残っているものは?
大井 ぼくらの時代だと『地獄先生ぬ〜べ〜』(原作:真倉翔・作画:岡野剛/ジャンプ・コミックス)ですね。ホラー漫画といえばこれ、という感じでした。
―― 怖いけど読みたいって、なんなんでしょうね、この心理。
大井 怖いもの見たさですよね。たとえば、いま目の前にわけのわからないものがある。そこから目を背けたら、このもやもやした気持ちをずっと持ちつづけないといけない。
―― うんうん。
大井 でも、最終的に「主人公が祓ったから大丈夫やったんや、ああ、よかったよかった」って安心したい。そういう解決をされずに残ってしまう「もや」っとしたところが怖いと思うんですよ。今回の短編でも、そういう「もや」っという感じを残したんですけど(笑)。
―― なるほど。友野さんの一話めで「怖っ!」となって、大井さんの短編で「もやっ」となって、三話めの川人さんのお話でほっとしてって。本の構成としてもよく考えられていると思いました。
大井 先輩方が前と後ろを固めてくださったので、「ぼくはご期待に沿えるよう、せいいっぱい怖ーいやつを頑張ります」と(笑)。
―― つぎの質問は「この作品のどこに怖さを感じてほしいですか」だったんですが。
大井 はい、それはもう「もやっとしろ〜」と(笑)。読み終わったときに不快感というのかな、なにかぞわっとしたものを残したかったんです。ぼくは絵が描けませんし、一枚のインパクトでは絵には勝てないので、徐々に徐々に心に訴えていこうと思いました。
―― 角川つばさ文庫は女の子向けのレーベルですが、大井さんの短編の主人公は男の子ですよね。ぜひ、男の子にもぜひ読んでほしいですね。
大井 ええ、このお話はぼくにとっては挑戦でもあったんですよ。
―― え、そうだったんですか。
大井 ぼくはいままでライトノベルを書いてきたんですけれど、今回はじめて挑戦したことがたくさんあります。たとえば「男の子しか出てこない」とか「会話文がすくない」「主人公が他の登場人物とほとんど言葉を交わさない」とか。
―― ああ、言われてみればたしかに!
大井 ぼくは「絶望した」を「絶望した」って直接的に書いちゃうほうなんです。そういう直接的な言葉ではなく、なおかつ小学生にも伝わる表現ってどうやるんだろうって担当さんにいろいろ相談しつつ、試行錯誤をくり返しました。
―― これ書いてるときは怖くなかったんですか。
大井 書いてるときには、いかに読者を怖がらせるかしか考えてなかったですね。むしろ自分のそんな思考が怖かったです。「小学生、どうやったら泣くんかなあ」とか(笑)。
―― そういう意味では、3人の作家がそれぞれに本気を出しあったアンソロジーですね。そういえば大井さんは香川県の出身ですが、都会に比べると、古いものがたくさん残っているじゃないですか。
大井 それはもう、心霊スポットもいっぱいありますし、四国にはお遍路さんもありますしね。
―― あのお遍路さんのなかには、絶対ひとりふたりこの世ならぬものが混じってるよね?
大井 ええ、まちがいなく(笑)。子どものころからお遍路さんはしょっちゅう見かけましたし、「ぼく、どこのコ?」とかふつうに話しかけられたりしてました。
―― それって、人間の、やんね?
大井 もちろんもちろん(笑)!
―― 今回の作品がこれからの執筆にもつながっていくと思いますが、個人的には大井さんの書く、そういうちょっと土俗的なお話もぜひ読んでみたいです。
大井 ホラーは大好きですけれど、書いたのは今回がはじめてでした。これからもいろいろと幅を広げて挑戦していきたいと思っています。

三人の作家の、それぞれに色合いも怖さの質も異なる怪談集。
インタビュー中、執筆者のあいだでは「来年の夏、いや、今年の冬にでも続編を出せるといいね」という話が出ていました。なにより、三人それぞれが「自信作なのでぜひ読んでください」という表情で作品を語ってくれたのが印象的でした。

余談になりますが、三編とも初稿はもっともっと怖かったそうです。いつかは、さらなるスピンオフとして、そうした大人向け「本気の怪談」も読んでみたいですね。

本作は小学生向けということで、強烈なトラウマが残るほどではない、ちょうどいい怖さになっています。怪談が苦手な大人の方にもお薦めです。
寝苦しい真夏の夜、ぜひ多くの方に本作を手に取っていただきたいと思います。。


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