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安田均の「ゲーム日記」 第6回 (1999年9月16日版)


 お久しぶりのゲーム日記、といっても、いつも‘お久しぶり’と書いているような気がするなあ(笑)。
 それはともかく、嵐のJGCも終わったので、このあたりで昨今のゲーム状況の整理もかねて、いくつか報告してみよう。

 まずは、オリジナル・ボードゲーム『トレインレイダー』をようやくリリースすることができた。JGCではみなさんに遊んでもらって、わりと喜んでもらってたみたいだけど(徹夜で楽しんだという人もけっこういた)、ぼくはこれからが勝負だと思っている。

 出てから気がついたのだが、日本でいわゆる<原作もの>以外のボードゲームって、ホントに数が少なかったみたいだ(カードゲームならいくつかあるんだけどね)。ウォーゲームシミュレーションゲームがまだまだ盛んだった頃には、その手のオリジナル・ボードゲームもいくつかあったけれど、けっこう複雑なものが多かった。

『トレインレイダー』はもう少し簡単で、ファミリーゲームに近い難度で遊べる。アメリカなどで使われる用語を当てはめるなら、ファミリー・ストラテジーというタイプだ。この手のものは、これまで書いてきたように、ドイツゲーム関連でいま盛んになってきつつあるのだが、日本ではほとんどなかったようだ。
 ということで、こうしたものが、いわゆるゲーマーの人たち以外にどれくらい興味を引いてもらえるか。うーん、ちょっと不安でもあるんだけれど、実際に遊んでもらうとかなり熱中できるはずなので、これから各地のゲーム大会などでがんばって広めていきたいと思っている。

 ところで、ひとつだけ勘違いする人もいるかもしれないので説明しておくと、ファミリー・ストラテジーに分類はできると思うけど、『トレインレイダー』ドイツゲームタイプではない。どちらかというと、ロジックよりもデータがまさっている(うまく言えないな。もっと直接的な譬えでいうと、アクワイアよりはモノポリーといった感じです)ので、アメリカゲームタイプだと思う。これは鉄道ゲームではいまのところ、ドイツゲームタイプよりもアメリカ(イギリス)ゲームタイプが、やはりなじみやすいし、おもしろいとぼく自身思っているから。

 まあ、単なる分類なので、遊ぶのには関係ないんだけどね。一応、ドイツゲーム熱狂マニアみたいな人には念のため。


 ということで、日本でボードゲーム/カードゲームは、まだまだこれから広がっていってほしい分野になるけれど、海外ではかなりおもしろい動きが起こっている。

 ドイツゲームのうねりがアメリカにも波及して、アメリカでドイツゲーム自体が遊ばれるようになっているのに加え、アメリカ産のボードゲーム/カードゲームにもおもしろそうなものがいくつか登場してきたからだ。

 もちろん、これまでにもシミュレーションゲーム(ウォーゲーム)の盛んだった時期があるので、その流れからもいくつか目につくけれど−−要するに、データ中心の複雑なものね−−もう一つ、『トリヴィア・パスート』以来、パーティゲームにばかり流れて、かつての栄光を失っていたアメリカのボードゲーム/カードゲームに、こうしたファミリー・ストラテジーの分野が復活しつつある感じだ。

 今年の夏のオリジン・ゲーム大会では、そうした作品をいくつか目にしたのだけれど、最先端は、やっぱりこれ、チーパス・ゲーム社の諸作だろう。

 チーパス・ゲームというのは、名前の通り、チープな感じのゲームを連発して出しているところ。安っぽいコンポーネント(ゲームの価格は、ほとんど1000円以下)に、テーマもグロテスクなものや、人を喰ったようなものが多い。それだけなら、ただの趣味の悪いゲーム、ということになるのだが、どっこい、じつはこれ、周到な計算のもとに作られている。そして、ゲームのシステムもキレのいいものが多いのだ。

 最初に出した『キル・ドクターラッキー』というゲームは、これまでの推理ゲームをひっくり返したもの。

 推理ゲームといえば、犯人は誰だ?−−が普通で、パズルや暗号めいたものが多かった。中には『スコットランドヤード』みたいに、鬼ごっこのおもしろさを推理ゲームに導入した異色の傑作もあったけれど、大半のゲームは手がかりと推理を競うもの。ぼくはわりとこの手のゲームは強いのだが、4人ほどで遊ぶと、たいてい1人くらいが、もう一つだな、と思っているのをよく感じた。人によって、合う、合わないが、はっきり出るのだ。
Kill doctor lucky

『キル・ドクターラッキー』はこれを、‘誰が殺したか?’じゃなくって、‘誰が殺せるか’にすり替えた。推理小説に、倒叙タイプというのがあって、犯行を推理する楽しみよりも、犯行にいたるまでの経過を先に述べて、それがばれていくサスペンスを扱ったものがある。『刑事コロンボ』みたいなものだが、このゲームはあえていうなら、こうした逆転の発想でなりたっている。

 つまり、推理そのものよりも、いかにドクターラッキーを‘他のプレイヤーよりも早く追い詰めて、犯行におよぶか’を競うもの。ここでは、プレイヤーはすべて潜在的犯行者なのだ。

 悪趣味といえば悪趣味だが、これがゲームとしてはおもしろい。犯行に成功するためには、屋敷の見取図(ボード)上で被害者のドクターラッキーと2人きりにならないといけない。どういう風に移動して、どう他のプレイヤーから視線が通らないようにするか、とか、いざ犯行に及ぶとき、致命的な凶器をどう隠しもつか、などを画策する。

 もちろん、思惑が外れて、他のプレイヤーと鉢あわせをし、

‘おや、Aさん、どうしてこんなところに’(スパナを手に、しらじらしく)

‘いやいや、Bさん、ドクターラッキーの身辺が気になりましてね、ははは’(こちらも、こん棒を隠しもって、もっとしらじらしく)

 なんてこともよくある。

 見事なアイデアの勝利ということで、チーパス・ゲームはこの第1作から、かなりの賞賛を勝ちえた(オリジンでボードゲーム賞を獲得したりしている)。

 しかし、チーパス・ゲームのデザイナー、ジェイムズ・エルネストは、こんなこぶりなゲームで、という一発屋の意外性にのみ満足はしなかった。

 それから3年間、なんとこの手のチープなゲームを20近くも作り、その多くが『キル・ドクターラッキー』に近い‘意外なおもしろさ、アイデア’を持つということで、評価はうなぎ上り。つい先日会ったスティーブ・ジャクソンなども、いまでは‘いちばん気になるゲームデザイナー’として名を上げるまでになっている。

 チーパス・ゲームのチープさには周到な計算があると書いたけれども、これは‘安っぽく見えるが、じつは安っぽくない’という点だ。サイコロやお金紙幣はなし。なんかで代用してくれ、ボードもうすっぺらい紙製でいいだろ、ということだが、その反面、カードのイラストや印刷などはDTPを活用して、それらしくセンスのいいものに仕上げている。はっきりいって、カラー多用、ギンギラギン、というけばい成金趣味とはまったくの逆をいってるのだ。

 例えば、ほんとに安くて400円くらいの『ビッグチーズ』という、見た目の冴えないゲームがある。ところがこのゲーム、遊んでみると、システムはいま最先端を行っているドイツのファミリー・ストラテジーゲームなんら劣らない。クニツィ−アのカードゲームと比べたって、まったく負けない論理のキレとおもしろさがあるのだ。

THE BIG CHEESE

 そして、カードの絵もじつはすばらしい。一部これを遊んだ日本のゲーマーが‘下手な絵だ’とか言ったりするが、そりゃ、あんた、日本のマンガアニメの見すぎで、ただの無知蒙昧だよ、と言いたいね。

 このゲーム、ネズミ社会のビジネスゲームという設定。でもって、カードにはアメリカのヒトコマ漫画風のおもしろいギャグがどれにも描いてあるのだ。例えば、‘人事異動’とある絵には、ネズミの上司が部下に異動を指示しているが、その先には巨大な机と通路の迷路が広がっているという図。まあ、でっかい会社なら、どこでもこんな感じだよなあ、と、ついついゲームを忘れて笑ってしまう。

 チープさを逆手にとったアイデアとセンスと攻撃性、おまけにゲームがおもしろいというのは、いまのところ、じつにユニークで他の追随を許さない。なんだかアメリカというと、これまで物量作戦で他の相手をねじふせてきたイメージばかりがあるけれど、ことボードゲームでは、ドイツの圧倒的な物量に、金はかけられないけどアイデアとキレで勝負、と言ってるようで、ついつい応援してしまいたくなるのだ(このあたりも、見事な計算だね)。




SAMURAI
 さて、そのドイツゲームだが、今年はこのコラムで恒例のドイツゲーム大賞(Spiel des Jahres)を、候補作から並べての予測はしなかった。
 これはけっして忙しくて書けずに、時期を逸したからじゃない。今年の候補作はちょっとばかり偏りが激しく、書く気をなくしていたからというのもある。
 つまり、あきらかにすぐれたライナー・クニツィーアの2作(『ラー』『サムライ』)を、なんの理由もなく審査委員会が候補作にもいれなかったからだ。
 で、様子を見ようと思っていたら、最近、人気投票の方のドイツゲーム賞(Deutscher Spiele Preis)が発表され、こちらの方がずっと妥当と感じてほっとしたというわけ。

 ということで、ドイツゲーム賞の方をここで書いてみよう。この賞も1990年から始まって、ま、ゲームファンには納得のいくものを毎年選んでいる。人気投票だから、人気のあるデザイナー(トイバー、クラマー、クニツィーア)が中心なのは仕方がないけれども。




  1. TIKAL(ティカル) W・クラマー/M・キースリング作
    マヤの宝物を探すゲーム。6角タイルを置きつつ、探検隊を効率よく進めて高ポイントを狙う。これまでのドイツゲームにしては若干、複雑。
  2. RA(ラー) R・クニツィーア作
    エジプトの歴史ゲーム−−とは名ばかりで、いかに3回ある決算期に向けて、せりをうまく行なうか。せりの値つけが行ないやすく、タイミングの計り方がたまらない。
  3. UNION PACIFIC(ユニオン・パシフィック鉄道) A・ムーン作
    もともとは航空路線ゲームの名作『エアラインズ』のリメイク。それだけに、鉄道ゲームになっても、おもしろい。ま、鉄道というより、路線と株ゲーム。
    UNION PACIFIC
  4. SAMURAI(サムライ) R・クニツィーア作
    戦国風シミュレーションゲームをこれだけ簡略化して、なおかつ頭をひねるおもしろいものにできるのは、クニツィーアだから。戦闘のおもしろさはないけどね。
  5. DIE HA(E)NDLER(ザ・商人) W・クラマー/R・ウルリッヒ作
    道具だては魅力的だけど、ちょっとセッティングに時間がかかる。後は、商売のおもしろさが生きている。交渉の楽しめるルール化は見事。
    DIE HA(E)NDLER
  6. GIGANTEN(ギガンテン) W・マンツ作
    石油堀りゲームで、道具だてはこれもいい。でも、おもしろいのか、もう一つなのか、よくわからない不思議なゲーム。カタルシスがいま一つだなあ。
    GIGANTEN
  7. VERRA(E)TER(裏切者) C・メルクレ作
    こぶりなカードゲームだが、濃密なゲーム空間が形成される。そのぶんゲーマー向けといえる。プレイヤーを選ぶが、かなりおもしろかった。
    VERRA(E)TER
  8. MAMMA MIA(マンマ・ミーア) U・ローゼンベルク作
    いかにもアイデアの人ローゼンベルクらしいカードゲーム。ピザ作りだが、最初に作っていって、後はめくるだけというシステムはユニーク。
    MAMMA MIA
  9. CHINATOWN(チャイナタウン)  K・ハルトヴィッヒ作
    街造り計画ゲーム。ぼくは『ビッグシティ』の方が好きだ。交渉が自由すぎるのは、プレイヤー間のバランスがとれていないと辛い。それだけドイツのプレイヤーが成熟してるということか。
    CHINATOWN
  10. PFEFFERSA(E)CKE(胡椒袋) C・コンラット
    このゲームの入ってくる辺りが、ドイツゲーム賞のいいところ。何回か遊ぶとパターンが見えるが、道を選んで商圏を拡大するのは楽しい。すごくはないが、遊べる。こうした作品がいくつもあるあたりが、ドイツゲームの底力だろう。
    PFEFFERSA(E)CKE




RA
 ぼくの好みでは、1位は『ラー』なんだけれど、『ティカル』はドイツのファンに圧倒的に受けてるみたいなので、こんなものだろうか。
 全体としては、どれも遊べるものが多くて質は高いが、以前に比べると、あっけらかんとしたユーモラスなものや、‘おお、これは!’というようなアイデアにみちたものが少し減ってきているように感じる。業界が成熟してくると、どうしてもこうした方向に進むのかね。
 確かに、業界の成熟ということで、ドイツのボードゲームは日本で想像するよりも販売個数がずっと多いようだ。10年前のさして有名でもないボードゲームが復刻版で出て、そもそもそんなものが出ること自体驚きなのに、‘限定10000個’と箱に書いてあったらやっぱりたまげるわなあ(むむっ、『トレインレイダー』はそのン分の一しか出てないゾ。道は遥かに遠い)




 ちなみにドイツゲーム大賞の方も、書いておこう。




受賞作:TIKAL

候補作:
  • UNION PACIFIC(最終候補作)
  • GIGANTEN(最終候補作)
  • VERRATER
  • MAMMA MIA
  • CHINATOWN
  • EL CABARELLO()『エル・カバレロ』 クラマー/ウルリッヒ作
  • KONTOR()『商館』 M・シャフト作
  • KAHUNA()『カフナ』 G・コルネット作
  • MONEY『マネー』 R・クニツィーア作
  • TAYU(☆)『太夫(?)』 N・ノイヴァル作



 こっちで顕著なのは、2人用のゲームが増えてるってこと(印)。それと『ティカル』に代表されるような、やや複雑なストラテジー・ゲームが入っている(印)。ドイツゲーム大賞の方が、そうした流れに敏感なのかもしれないが、それにしても‘このどちらでもない『マネー』というのは、いったいなんだろう’ね(ぼくは『ラー』をもう10回以上遊んだけれど、『マネー』は2回でやめた。そりゃ、悪くはないゲームだが、とりたてて言うほどのものでもない)。『ラー』『サムライ』を落として、この『マネー』がクニツィーアの今年の代表作だというのは、やっぱり人を馬鹿にしてるとしか思えないんだけどな、審査員各位(ぷんぷん)。

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