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安田均の「ゲーム日記」 第7回 エッセン2000版 (2000年11月版)


 みなさん、ゲームのやりすぎには注意しましょう。
 かくいうわたし、無謀なトルコ、ギリシャ、ドイツ11日間旅行を試みまして、年がいもなく絶好調じゃわい!−−とばかりに帰国してからも、ドイツ最新ボードゲームをテストテストテスト……しておりますと、ついに風邪からくる、何年ぶりかの激しい気管支炎(要はぜんそく)に陥りました。
 この病気の困ったところは、興奮しちゃダメ、しゃべるとダメ、人込みに出るのもダメ−−要はおとなしくしておれ、ということで、ああ〜、ついに楽しみにしていたSNEコンには欠席という最悪の事態に。
 しかし、転んでもタダでは起きないところが、ボスのボスたる所以。ぜんそくが、別名、なまけ病みたいに言われるのも、家でごろごろしているかぎりは特にひどい高熱が発したりするわけじゃないからです。
 なら、この時間を利用して、最近お休みの‘ゲーム日記’を今年のエッセン最新ゲーム情報として書いてしまおう、ということになった次第(も、もっちろん、小説の方も書いておりますよ〜、富士見の担当編集K君S君へ)。




 さて今年も、新作ボードゲームは大豊作
 いや、これは‘このところ、やや難しくなって、ついに、大元気のドイツボードゲームも壁にぶち当たったか?’の懸念を払拭してくれた、と言うべきかもしれません。
 ホント、ちょっと心配してたんですよ。
 まあ、これもクニツィーアトイバー、それに実績のあるコロヴィーニシュミールといったベテランデザイナーがいいものを出してくれたからであって、若手はちょっと伸び悩みか、という気もするんですがね。
 もちろん、50を越える新作が出たうちから、いまのところめぼしい12点ばかりをためしただけで、若手を調べるのはこれからということもありますが(それにしても、5点も立て続けにドイツ語訳をしてくれた江川晃に感謝、それと、いつものように訳を早目に上げてくれる名古屋の後藤さんにも)。




 なんといっても、興奮した最大の話題作は、クニツィーア『指輪の王』(コスモス社)Der Herr Der Ringe。ご存じ、現在映画化中の大作『指輪物語』をベースにしたものです。
 お断りしておきますが、これがベストだとか、ナンバーワンだとかは申しません。原作ものだし、内容についても好き嫌いはあるでしょう。
 でも、コンセプトがすごい!−−わたしの言いたいのは、これにつきます。
 ここでクニツィーアは、ドイツボードゲームでなんとRPGと同じようなことをやってくれたのです。
 ここではプレイヤーは4〜5人ですが、向い合って勝負をしたりはしません。
 プレイヤーは全員で協力して、ストーリーを進めるのです。それも、いわゆるボードゲームの論理で。


 どうしたのかって? お答えします。多人数ソリテアです。
 多人数ソリテアって書くと、誤解されるかもしれませんね。プレイヤーそれぞれが勝手なことをして、それぞれが得点を競う、というように。ちがいます。ここではまとめてグループ全体(指輪の仲間)として、どこまで強大な盤面の敵サウロンに対抗し、ストーリーを進められたかを競うのです。

 もちろん、ガンダルフは出てきます。使えるかどうかはプレイヤー次第ですが。もちろん、その他の人々、ガラドリエルとかゴクリとか、いろんなものも総登場します。
 だけど、いちばん大事なのは、プレイヤー同士がカードプレイをどう操作して、‘協力’していくかということ。ときには自己犠牲の精神も必要です。
 ボード4枚(モリア、ヘルム峡谷、シュロブ、モルドール)がストーリーの進行を表わしていて、これをつぎつぎとクリアしていき、どこまで達成できるかをめざします。もちろん、指輪を火口に投げ捨てて壊せれば最高点60点が得られますが、はっきりいって至難の技です(いまのところ、SNEでは56点が最高。おもしろいので、10回ほどやりましたが)。
 いまドイツボードゲームは、ややみんなお利口さんになって煮詰まりつつあるんじゃないか、と思えていただけに、この新たな突破口は大歓迎です。さすが、クニツィーア、おそるべし。彼がドイツゲーム大賞を受けられないなんて、もう、どうでもいいです。いまいちばんすごいのはこの人です、まちがいなく……。

4枚の雰囲気たっぷりのボード




 おつぎは、もう一つ、クニツィーアの作品。
  『ドリーム・ファクトリー』(ハスブロ社)Traum Fabrikは、映画ファンにはこたえられないボードゲーム。
 要は監督、俳優、カメラ、特撮、音楽それぞれを担当する著名人を競りあい、名だたる映画を作り上げて、得点を競うというオーソドックスな作りです。
 でも、やっぱり監督にジョン・フォードとかヒッチコック、俳優にはそれこそ往年の名優たち、そして、タイトルにも『カサブランカ』とか『キングコング』とか並んでいたら、ファンは遊びたくなってしまうでしょう。おもしろいのは、ゲストクニツィーア自らが入っていて、これを使うと、年間ワースト作品賞を獲得できるのはまちがいなし、というジョークのおまけつき。
 もちろん、これを最近作(タイタニック)とか、若手俳優(ディカプリオ)とかを使っても、すぐにゲームは作り替えられます。その意味では、軽いけれども、とっても楽しい作品。いかにもハスブロ風の作りといえます。
TraumFabrik


さて、クニツィーアの永遠のライバルトイバーの今年の作品は−−またまた‘カタン’です。
 えっ、またあ、とか、ついにトイバーもダメになったか、と思ったあなた。いえいえ、そんなことはありません

 これは、なんと本の形をしたゲーム、その名も『カタン・ブック』(コスモス社)Das Buchです。
 これは単に、カタンのファンブックではなく、その中に、カタンを新たに遊べるルールが15種類も入っていて、しかも単なるバリアントルールではないのです。



 中でもぱっと目に入って、‘遊んでみたい!’と思ったのが「カタン特急」Catan Express。そう、カタンを題材にした鉄道ゲーム。 これが、じつによくできています。
 プレイヤーは例によってカタン島に開拓地や街を作り、開発していくのですが、それと同時に鉄道を敷設します。鉄道はこれまでの道の替わりですが、道のように縁に沿って置くのじゃなく、六角タイルの中央から頂点に向かって引くのです。これだけで、なんとなく鉄道を敷いてるような気分になるから不思議。そして、ある程度ポイントがたまったら、いよいよカタン島あげての鉄道レース、これがたまらなく楽しいのです。




 カタンを題材に、異なるゲームに仕上げている感触を与えるこのシナリオは、とってもグーでしょう。ほかのも結構おもしろい。カタンがいかに発展性のあるゲームかがよくわかります。
 トイバーは最近カタンばかりだとの批判もありますが、これだけのメガヒット(3年前に250万個を越えて売れていた。もう、500万個に近いんじゃないだろうか)をとばすと、はっきりいって今の時代じゃ、カタンしか作らせてもらえません。それでも、実は彼は児童向きゲームでいいものを作り続けていますし、カタンシリーズにしても、それまでのドイツゲームにはない分野に進出をしているのです。
 今、ドイツゲームではTCGとはちがう2人用ゲームが盛んに出ていますが、この元となったのが実はカタンカードゲームだということは、意外に知られていません。フィギュアやストーリーを使うゲームということで、『宇宙カタン』もわたしなどはかなり評価しています(歴史カタンはちょっと重いけどね、好きな人は好きなはず)。
 そういえば、『レーベンヘルツ』対『チグリス・ユーフラテス』もそうですし、トイバークニツィーアは、いろんな意味でアイデアの勝負を、このところずっと続けているように思います。

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