秋口: |
さてさて、期待の翻訳TRPG「ストームブリンガー」についてですが。まずは世界観についてのお話を――。 |
江川: |
「ロール&ロールvol.25」の紹介記事を読んでください(笑)。
※注 「ロール&ロールvol.25」の紹介記事ではTRPG「ストームブリンガー」の世界観が簡潔にまとめられています。記事の執筆は江川晃。
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秋口: |
そうなんですよねー、世界観についてはあれを読めばわかっちゃうんですよねー。では「くわしくは紹介記事を読んでください」ということで、ここでは簡潔に。 |
江川: |
そうですね。「ストームブリンガー」は英国の作家マイケル・ムアコックの世界観、特に「エルリック・サーガ」シリーズの世界を体験できるTRPGなわけですが。 |
秋口: |
ダーク・ファンタジーの世界ですね。 |
江川: |
この世界を簡単に言い表すと、「〈法〉と〈混沌〉と〈天秤〉という勢力がせめぎ合っている多元宇宙の中の1つ」ということになります。〈法〉は安定と永続を、〈混沌〉は変化と進化を、そして〈天秤〉は両者の均衡を目ざしている。これらのバランスが世界そのものの行く末に関わっていきますよ、という――少なくともムアコックの世界観はそのようなものだ、と私は理解していますね。 |
秋口: |
PCたちの位置づけは? |
江川: |
英雄候補生とでも言いましょうか。「ストームブリンガー」では、PCたちはかなり強い。もちろんその世界に住んでいるほかの住人たちに比べれば、ということですが。 |
秋口: |
ほほう、英雄候補生ですか。ということは、エルリックにもなれる? |
江川: |
近い存在にはなれますけど……たぶんエルリックには勝てない(笑)。 |
秋口: |
エルリックは別格ですからねー(「ストームブリンガー」では「エルリック・サーガ」シリーズの主人公、悲劇の皇子エルリックもちゃんとデータ化されています)。ただ「ストームブリンガー」のPCって、(秋口が)こないだプレイした限りでは、だいぶ弱く感じましたけど……。 |
江川: |
ほかのベーシックロールプレイ(以下:BRP)ゲームと比べたら強いほうなの!(苦笑) |
秋口: |
お、BRPの話が出ましたね。 |
秋口: |
BRPというのは「汎用TRPGシステム」と考えてよろしいのでしょうか。 |
江川: |
1つのシステムをベースにいろんな世界を表現できる、という意味ではそうでしょう。汎用と言っていいと思います。 |
秋口: |
BRPで表現されている世界観としては、もちろんこの「ストームブリンガー」もそうですし、ほかにも「クトゥルフ神話TRPG」や「ルーンクエスト」があったりするするわけですが。 |
江川: |
アメリカの老舗、ケイオシアム社の看板商品ですね。 |
秋口: |
そこでふと気になったのですが……たとえばBRP版「クトゥルフ神話TRPG」で作ったばかりのPCが、次元の門を通って「ストームブリンガー」の世界へ行ったとするじゃないですか。そこで「ストームブリンガー」で作成したばかりのPCと喧嘩をすることになったら、やっぱり圧倒的に「ストームブリンガー」PCのほうが強い? |
江川: |
基本的には……(苦笑)。 |
秋口: |
あれれ、ちょっと語尾を濁す感じですが(笑)。 |
江川: |
クトゥルフのキャラは銃とか持ってたりしますからね。1対1の殴りあいならともかく、離れたところから銃で撃たれたら辛い。 |
秋口: |
さすがの英雄も銃には勝てないと(笑)。離れたところからショットガンをかまされたら死んでしまうと。 |
江川: |
何メートルか先から撃たれたら……あっさり死ぬでしょうねぇ(苦笑)。 |
秋口: |
そう考えると、やっぱり汎用RPGはいいバランスですよね。 |
江川: |
たしかに。 |
秋口: |
これは私事になるんですけど……先日、とあるイベントでユエル・サーガのGMをやったんですよ。そこでですね、「130CPで作った英雄キャラ5人は棍棒を持った一般人13人に勝てない」ということが判明しまして――。 |
江川: |
そりゃそうだ(笑)。 |
秋口: |
ああいいバランスだなぁと。このゲームは嘘ついてないなぁと……そう思ったわけですよ。PC、危うく全滅しかけましたしね。 |
江川: |
結論としては、「英雄も数の暴力と文明の利器には勝てない」とういことで(笑)。 |
秋口: |
「エルリック」シリーズは、昔から読んでいらしたんですか? |
江川: |
読んだのはSNEに入ってからですね。24、5歳ぐらいから。当時、うち(SNE)は箱入りでエルリックのゲームを出していまして。 |
秋口: |
自社製品ということで読んだわけですね。感想は? |
江川: |
ひどい話だなぁ、と思いました(笑)。 |
秋口: |
たしかにひどい話ですよね。それに独特の酩酊感があるというか……それがいい部分だったりするんですが。 |
江川: |
たしかにトリップ感はありますね。 |
秋口: |
ゲーム版では、そのあたりの感覚は再現されているんでしょうか? |
江川: |
シナリオ次第ですね。PCに〈法〉や〈混沌〉のポイントが定められていたりもしますし、世界観をうまく使えば、独特の感覚を出すことはできると思います。 |
秋口: |
酩酊感とトリップ感……ほかに世界の魅力を挙げるとしたらなんでしょう? |
江川: |
これは一読者としての感覚ですが……僕は、滅びゆくものには惹かれますね。「エルリック・サーガ」の原作は、もうどうしようもない終わり方をするわけですよ。まぁエターナル・チャンピオンの世界(ムアコックの描く〈多元宇宙〉を舞台とした作品群の世界)は、どれもろくでもない終わり方をするんですが。 |
秋口: |
「チャンピオンってそういうもんじゃないだろ!」と、日本人的には思ってしまいますよね(笑)。 |
江川: |
「ストームブリンガー」世界の中核、世界の元もとの中心である”光の帝国”メルニボネからして頽廃の極みですからね。かつては世界の盟主だったのに、現在は頽廃しきっている。こうした要素がゲームとしての売りになるかどうかはともかく(笑)、世界の魅力ではあるでしょう。もちろんゲームとしての「ストームブリンガー」は頽廃とは関係なしに、純粋にヒロイック・ファンタジーとしても遊べますが。 |
秋口: |
江川さんの名義で出版される翻訳作品は久しぶりかな、と思うのですが。 |
江川: |
「シャドウラン」以来ですので、かれこれ10年以上ぶりですね。
※注 「シャドウラン」は1990年代のTRPGシーンに衝撃を与えたサイバーパンクTRPGです。このたび最新版「シャドウラン第4版」が朱鷺田祐介先生(スザクゲームズ)の翻訳で発売されることになりました。
――あ、「シャドウラン」以降もドイツボードゲームの翻訳はしてましたよ。エポック社から出た「ミシシッピクィーン」とか。 |
秋口: |
ではTRPGとしては「シャドウラン」以来であると。 |
江川: |
今回、「ストームブリンガー」の翻訳をやりはじめた当初は頭が翻訳のほうへ動かなくて、えらく苦労したのを覚えてますね。「あーおれ翻訳うまくなってねーなー」と思いました。「下手だなーおれ。うわ下手!」と。 |
秋口: |
そんなことありませんて(苦笑)。 |
江川: |
前バージョンである「エルリック!」がありますので、訳語を参考にさせていただいたり、逆に訳語の統一で苦労したり。 |
秋口: |
翻訳は独特の苦労がありますよね。 |
江川: |
いまは「ガープス・マジック」の翻訳を泣きながらやってます(笑)。 |
秋口: |
ところで、世間では、江川さんと言えば「シャドウラン」、というイメージが強いと思うんですが。僕自身、高校時代はファンでしたし。 |
江川: |
おやおや。ありがたいことを(笑)。 |
秋口: |
で、これはお世辞ではなくて言うんですが……当時「シャドウラン」の小説やリプレイを読ませていただいていて、僕は「非常に色気のある文章を書く方だなぁ」と思ったんですね。 |
江川: |
ほんまかい、と言いたいですね(ツン)。 |
秋口: |
いやほんと、僕だけじゃなくて、僕のまわりの人間も言ってましたし。 |
江川: |
そ……そんなこと言われたの初めてでしてよ(デレ)。 |
秋口: |
「色気のある文章」のルーツだとか秘訣だとか、そのあたりをお聞かせいただけるとありがたいんですが。 |
江川: |
そんなことを言われたのは初めてなので……自分でそんなふうに思ったこともないので、「秘訣なんかない」としか言いようがないのですが(苦笑)。ただ……そう、これをルーツと言っていいのかわかりませんが、「シャドウラン」をやっている頃は、志水辰夫さんの本をよく読んでいましたね。 |
秋口: |
志水辰夫さん……恥ずかしながら、僕は拝読したことがありませんね(汗)。 |
江川: |
知ってる方、いらっしゃいますでしょうか。作品としては「裂けて海峡」とか「飢えて狼」とか、いわゆる冒険小説のたぐいなんですけども。あの方の文章にはかなりの影響を受けたというか、「ああこれすごいわ!」と思いながら読んでいましたね。 |
秋口: |
冒険小説といいますと――。 |
江川: |
東西謀略ものとかスパイものとか。 |
秋口: |
ヒギンズやル・カレが有名ですよね。冒険ものと言えばイギリス作家、イギリス作家と言えば――。 |
江川&秋口: |
ムアコック! |
秋口: |
ということで、きれいにつながってしまいました(笑)。 |