江川: |
今回インタビューをするにあたって、SNEのホームページに掲載されているエッセイを読み返したんですけども。 |
秋口: |
はい。 |
江川: |
いろいろと話題というかネタの多い日々を歩まれている気がするんですが。何か実感みたいなものはあります? |
秋口: |
それはないですねぇ。本人的には、特に代わり映えのない普通の人生だと思ってるんですが(笑)。 |
江川: |
じゃあ、ああいうエッセイが書けるのは、サービス精神の発露ってことですね(笑)。 |
秋口: |
いやあ。切り売りかもしれません、いろいろ(笑)。 |
江川: |
切り売りとサービス精神は、この場合イコールだと思います(笑)。そのサービス精神以外にもうひとつ。普段の秋口ぎぐるを見ていると、この人の興味の範囲はどこまで及んでるんだろうと思うことがあるのですが。 |
秋口: |
ほおー。 |
江川: |
最近ロシアSFにはまったりしてたじゃないですか、ストルガツキーとか。そういう興味には、なにか特定の根っこはありますか? ではなく、なんでも雑食的に好きだったとか。 |
秋口: |
そうですね……。いま、ちょっとドストエフスキーにはまってたりするんですが。あれ、おもろいですねぇ。 |
江川: |
おお、実はロシア文学萌え?(笑) |
秋口: |
ロシア文学、自分の中ではいまちょっと熱いですねぇ。あれはヤバい……。というのは置いといて、興味は本当にその時々で変わりますね。高校時代、最初ライトノベルに興味あって、そこからハヤカワSFに入って、それから自分でも書くようになって。で、デビューしてからアメリカのノワールものを好きになって。ああ、TRPGは昔からいまでもずっと好きです。でも、いま興味あるのが、なぜかドイツのボードゲーム。いま興味が一番強いのはどこかと言われたら、ドイツ・ボードゲーム(なぜか繰り返す)。 |
江川: |
『ロール&ロール』でリプレイを連載中です(笑)。 |
秋口: |
強調しておいてください(笑)。 |
江川: |
なるほど。そんなこんなで、いっぱい引き出しがあるなぁと前から思ってたんですが、自分のなかで何かきっかけになっているようなことはありますか? |
秋口: |
とりあえず、面白そうならなんでもやってみますね。で、実際にやってみて、いろいろ発見したりしてます。たとえば『ゲヘナ』のリプレイを担当したときは、最初は戸惑いなんかもあったんですが、実際にやってみて、あ、リプレイ書くのっておもしろいなと思いましたし。そういう意味では、いろいろやっていくなかで、興味の幅が広がっていったというのはありますね。 |
江川: |
なるほど。で、そこから話は異色の≠sRPG小説『ひと夏の経験値』に向かうわけですが。 |
秋口: |
お、来ましたね(笑)。 |
江川: |
実は作品の成りたちや作者についてのあれこれは、文庫に収録された著者のあとがきや、ボス・安田均の解説に触れられております。で、少し重なる部分も出てくるかと思いますが、ここでは作品と作者の関わりについてお聞きしようと思います。 |
秋口: |
はい。 |
江川: |
わたしがこの作品を読んだとき、昔の自分を思い出して、気恥ずかしくなったり、甘酸っぱい気持ちになったりしたのですが、こういうかたちの小説を書こうと思い立った動機やきっかけがあったら教えてください。 |
秋口: |
きっかけは……はっきり覚えてますね。いまから3年ほど前、梅田の地ビールを飲ませる店で、5つほど年上の知り合いと飲んでいまして。その人もRPG好きな人で、TRPGやってる奴らの青春って小説にならないかなって言われて。 |
江川: |
ほう。 |
秋口: |
それで、ああいいな、書けそうだと感じて書きあげたのが、この作品です。きっかけと言っても特に複雑な事情があるわけではなく、その先輩の一言で出来た作品です(笑)。 |
江川: |
方向性を示唆してくれた人がいたわけですね。そういう助言を受けて、面白そうだと思って取り組んだ。 |
秋口: |
そうですね。みずから取り組んだというよりは、RPGが好きな知り合いのアドバイスに従ってできた話です。ある意味、RPGファンのスピリットから生まれたものであると。 |
江川: |
あとがきではフィクションと書かれていますが、作品には自分が投影されている部分がたくさんあると思うのですが。 |
秋口: |
ありますねぇ。 |
江川: |
わたしがこれを読んだとき、まず主人公の友永君に著者の投影を感じました。その一方で、実は話の途中で……うーん、これから読む人たちのためにあまり詳しく言えないのですが……主人公たちから離れていくキャラクターがいるんですね。 |
秋口: |
ああ、状況に疑問を感じてしまう(笑)。 |
江川: |
そうそう、タナケン君という。わたしは、そこにも秋口ぎぐるの影を感じたのですが。 |
秋口: |
あ、僕自身をですか。 |
江川: |
友永君の熱いところ、これがいいんだと信じて進んでいくところはもちろんそうなんだけど、他にも何かあるだろう、というタナケン君の気持ちに著者の姿を見た気がしました。 |
秋口: |
あー、それは正直ないですね。 |
江川: |
ほうほう。 |
秋口: |
実際、タナケンには名前を拝借した友人がいるんですが。……いまでも仲いいんですよ、こないだ結婚式に出てきたくらいなんですけど(笑)。 |
江川: |
(笑) |
秋口: |
元々TRPGを教えてくれたのも、その彼で。彼とは一緒に仲間うちで創作系の同人誌を作ってたんですね。2人とも小説書いたり、雑誌作ったりするのにはまっていたんですが、そういう活動から彼が離れていったときの雰囲気が、ああいう形で作品のなかに活かされている感じです。俺自身、だんだんTRPGから小説書くほうに気持ちが移っていった時期はありましたし――実際、作中のタナケンみたいな感覚もなかったわけではないんですが、だから離れようっていうのはなかったです。 |
江川: |
なるほど。 |
秋口: |
やっぱりここが俺らの輝ける場所なんや、という意識でしたね。 |
江川: |
そういう意味では、著者は主人公に近いわけですね。 |
秋口: |
そうですね。純粋に主人公寄りですね。 |
江川: |
作中で出てくる女の子と一緒に洞窟探検をしたことのあるやつがいるかという主人公のセリフは、まさに著者の気持ちだったわけだ。 |
秋口: |
あぁ、そうですね。理想を投影しています(笑)。俺自身、自分が好きになった女の子とRPGをした経験はないので(笑)。 |
江川: |
いや、実体験どうこうというのではなく(笑)。 |
秋口: |
……これも笑い話にしかならないんですけど、ものすごく好きになった女の子がサークルのコンベンションに来てくれたのは事実なんです。でも、別の人がマスターやってる卓に行くことになって(笑)。 |
江川: |
うーん、リアルな話だ(笑)。 |
秋口: |
それも俺のヘタレなところが出てもうて、『俺の卓に来てくれや』って言えなかったんですよ。その当時はオリジナルのゲームを作ってて、ちょっとこれクセ強いから、あっちのソード・ワールドとかロードスやったらはじめてでもやりやすいから、あっち行っときって、わざわざ俺はその娘に言ってしまった。このヘタレっぷり(笑)。 |
江川: |
なるほど、ちょっと相通じるものが(笑)。確かに主人公は、その当時の自分に対する理想像なわけですね。 |
秋口: |
はい。当時こういう風に振る舞えていればよかったのに、という思いは託しているかもしれません。 |
江川: |
なるほど。さて、この作品、舞台が90年代のはじめ頃の設定でして。TRPGに黎明期特有の熱気があった頃の話ですね。当時を知る者としては、雰囲気がよく伝わってきます。 |
秋口: |
ありがとうございます。 |
江川: |
それを21世紀のいまの読者さんが読んでどう思うのか。いままさに主人公たちと同年代の人たちがこれを読んで、どんな風に感じてくれるのかっていうのは、やっぱり気になりますよね? |
秋口: |
それはもう。聞いてみたいですねぇ。是非、いまTRPGをバリバリ遊んでいる人に読んでもらいたいです。 |
江川: |
秋口ぎぐるのRPGに対する思いが投影されていますからね。 |
秋口: |
はい。マスターやろうぜ、っていうのがテーマですから(笑)。 |
江川: |
マスターやると、可愛い女の子と付きあえるかも(笑)。 |
秋口: |
まあ、本人は付きあえなかったんですが(笑)。 |
江川: |
他の作品についても聞かせてください。SNEに入ってから手がけた作品となりますと、『ゲヘナ』のリプレイや小説。『ソード・ワールド』の短編などがあります。 |
秋口: |
そうですね。他にはSNEに入る前ですけども、『百鬼夜翔』にも参加させていただきました。最近は、ボードゲーム・リプレイでお目にかかる機会が多いと思います。 |
江川: |
最初にちょっと触れましたが『ロール&ロール』で好評連載中ですね。RPG風ボードゲーム『ルーンバウンド』のリプレイが掲載された『ルーンバウンド リプレイ&解体新書』も発売間近で。 |
秋口: |
おお、そうです。10月の上旬、間もなくですね。 |
江川: |
そんなわけで、非常に幅広い活躍をされているわけですけれども。他にいま手がけている作品や、予定している作品などがありましたら教えてください。 |
秋口: |
小説やゲームで、いくつか走らせている企画があります。TRPGもあれば、ボードゲームなんかも。具体的には……もう少し固まってからのお話になると思います。 |
江川: |
小説にゲームにと、ここでも引出しの多さが活かされているようです(笑)。それでは、最後に読者の方に向けて一言をお願いします。 |
秋口: |
『ひと夏の経験値』は、僕と同じような世代のハマりまくってた人には共感していただけると思います。それに、RPGに興味を持ちはじめたばかりという人にもぜひ読んでいただきたいです。TRPGをプレイする楽しさ、シナリオを作る、あるいはGMをうまくこなしていく楽しさみたいなものを熱く語っている本ですので、リプレイなどでTRPGに触れたばかりっていう人にも手に取っていただきたいですね。世界が広がっていくと思いますので。よろしくお願いします。 |
江川: |
今日は、ありがとうございました。 |