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イベント目次


エッセンレポート

 去る10月21日、僕は飛行機に乗っていた。
 航空会社はルフト・ハンザドイツ最大手の航空会社だ。
 そう、僕はドイツに向かっていた。
 この時期にドイツといえば、毎年ドイツはエッセンで開催されるボードゲームのお祭「Spiel 09」に参加するためである!
 それも、個人としてではなく、グループSNEの一員として、仕事として行ったのだ。
 何でも今年は会場でアメリカのとあるゲーム会社さんと商談があり、その通訳のためにネイティブかつアメリカンな英語が喋れる僕がついていくことになったという次第。
 他のメンバーは安田社長と、Role & Roll誌の編集で、元SNEメンバーの刈谷圭司さん。
 それではドイツ5日間の旅、始まり始まり――
 
執筆:ベーテ・有理・黒崎


●10月21日

 フランクフルト行きの飛行機の中、日本から持ってきた小説を読んでいる僕は、しかし、正直結構緊張していた。
 何せ、SNEに参加してから一ヶ月足らず。しかも、初めてのドイツ。
 僕の母方の血筋はドイツ系で、祖父母は両方ともドイツ系移民だったためドイツは父祖の地。
 しかし、そうはいってもドイツと結びつきが強いのは母の代までで、僕はドイツに行ったこともなければ、ドイツ語もまったく喋れない。辛うじて「はい/いいえ/ありがとう」などの単語がわかる位。
 留学経験もあり、幼少の頃から海外に行ったり来たりしてきた僕だが、公用語を知らない国に行くのは初めての経験だった。
 しかも、今回僕には使命があった。
 相手の会社はアメリカの会社なので、英語だけでも問題はない。それはそう……それはそうなのだが……うーむ。
 個人的な感想では中の下ランクの機内食をバクバク食べながら、悩む。
 正直通訳の経験はほとんどない。話すべき内容は大体憶えているので、大丈夫だとは思うが……と悩みながら備え付けの液晶画面で映画を鑑賞する。うむ。エコノミーなのにこういう物があるのはいいな。
 悶々としながらも、持ってきた本の8割(およそ9冊程)を読破。
 ……ごめん、少し嘘。途中から単に読書が楽しくなってた。まったく、得な性分だ。

 そんなこんなでフランクフルトに到着。出発したのは10月21日の午前11時位
 到着したのは午後3時半辺り。無論、時差マジックであり実際は11時間以上飛んでいたわけだが……僕は奇妙な感覚に陥ってた。
 ――いつもなら、離陸につくのに……
 流石ヨーロッパ。アメリカより近いだけのことはある。慣れ親しんだ時差とは違う感覚。何だか、変な所でワクワクしていた。

 その後、機内で席の離れていた安田社長たちと合流、簡単な入国審査を終える。
 これからの予定を確認する中、安田社長がいった――


社長「まずこの列車のフリーパスを認証してもらわなあかんねんけど」
僕「はい」
社長「ベーテくん、ほな頼んだで
僕「え、は……は、ハイ」



 その時僕は理解した。や、やべえ。交渉事とか全部頼られるぞこれは!?


僕「あ……あの、前に来られた時はどうしたんですか?」
社長「ガイドさんや息子がやってくれた。何をせなあかんかは大体憶えてるねんけどな。だから、細かいことは君がやって



 ……や、やらいでか!
 ヘルプセンターのお姉さんから認証してもらえる場所を聞き出し、すぐ近くにあったその場所に三人で向かう。しばらく列に立ってると、僕達の番が来た。代表して受付の前に立つ。


受付のお兄さん「ぺらぺらぺらぺら(ドイツ語)」
僕「Sorry, English alright? (すみません、英語大丈夫ですか?)」
お兄さん「Yes. How can I help you (ええ。ご用件は何でしょう?)」



 お兄さんの流暢な英語に感動的なまでの安堵を覚えたのを憶えている。
 考えてみれば当然のことなのだが、ここで僕は初めて「ドイツ、なんとかなりそうだ」と思ったのだった。
 認証を終え、更にはエッセンまでの列車とスケジュールまで貰うことに成功し、意気揚々と列車に向かう。

 乗ったのはICE(Inter City Express:都市間高速列車)



 残念ながら座ることはできなかったが、中心辺りに四人で座れるテーブル席のような物があった。
 ……ゲーム、できそうじゃないか。
 ドイツは素晴らしいなあ。心の底からそう思った瞬間だった。
 内装も中々いいし、列車のスピードを表示するモニターがあったのも面白かった。外観もスタイリッシュだ。
 残念ながら新しい路線らしく、社長が楽しみにしていたライン川沿いの景色は見られなかったが、しかしそれでも窓から見える景色は、日本のそれとも、アメリカのそれともまったく違う、歴史のある異国情緒に溢れたものだった。
 刈谷さんと二人でずっと喋りながら、それを眺めていた。
 まるでファンタジーの世界にやってきたようだった。これはその後、折に触れて感じる感覚になる。

 二時間少々列車に揺られ、エッセン駅についた。駅は丁度改装中で、混乱した社長が出口を間違えてしまうというハプニングはあったが、駅の目の前にあるホテルに無事つき、チェックイン。ここも基本的な受け答えは僕がすることに。更に、


社長「フロントから直接フェデックス(国際貨物輸送サービス)が使えるか確かめて。郵便局まで箱をたくさん持っていくのは面倒やから」


 OK、任せて!
 聞いてみるとフロントの人は「ああ、問題ないよ」と軽く答えてくれたので皆荷物を置いて夕飯へ。
 社長おススメのトルコ料理屋へ。2005年のレポートで北沢さんがみつけたのと同じ所だ。うん、美味い。
 やはりトルコ料理はヨーグルトの使い方肉の味付けの仕方が絶妙だと思う。流石中華、フランスと並んで世界三大料理に数えられるだけはある。いつか、トルコにも行ってみたいなあ……

 食べ終わる頃には皆いい具合に疲れていたので、そのまま解散。僕も部屋に戻ってすぐに寝てしまった。
 一日目、終了。


●10月22日

 時差ボケのせいか、予定よりも早い時間に起きてしまった。シャワーを浴び、社長達との待ち合わせの時間までドラゴンランスの原書を読んで時間を潰す。やはり、英語の本は読み応えがある。
 皆と合流し、バイキング形式の朝ご飯。美味い。しかも、卵料理を作ってくれる。素晴らしい。
 食事の後、少し休憩してから皆で隣の百貨店で、ゲームを持ち運ぶためのカートを購入。


社長「毎年これが増えていくねん」


 困るわー、と嬉しそうにいう。
 僕はのどが渇いたので、ついでに飲み物を買っていくことにした。ラベルがわからないのでとりあえずジュースっぽい物を購入。飲んでみる――

 炭酸だこれ!?

 僕は炭酸が大の苦手なのだ。飲めないことも無いのだが、幼少の頃に少々苦い経験をしたことがあり、未だに苦手意識が強い。
 見かねた社長達が五本ほど購入していた水のペットボトルをくれた。涙が出るかと思った。
 そのまま、一旦ホテルの部屋に帰ろうと、歩く道すがら、一口水を飲もうと、ペットボトルの口を開けたその瞬間……

 ペットボトルが爆発した!

 炭酸水だったのだ! 畜生騙された! ダメだ、この国は僕に厳しい!
 そう、飲料的に
 しばし笑いあい、休憩を取って、そして遂に「Spiel 09」へ、向かう。

 会場へは地下鉄を使って行くのだが、この駅が、何というか、未来的というか、サイケデリックというか……一言でいうと「青かった」
 照明が蛍光ブルーなのだが、このセンスは面白い。因みにこの時一番ショックだったのが改札がなかったこと。切符もチェックされなかった。捕まると罰金が物凄いらしいが、無賃乗車が楽そうだった。いいのだろうか、これで?
 因みに駅は青かったが、電車は黄色い。興味深いセンスだ。



「Spiel」の会場に着く。気持ち遅め(12時前後。開場は10時)にきたためか、あまり列は長くない。わりとあっさりと4日間のチケットを買い、いざ会場内へ!
 広い! 人が一杯! どこを見てもゲーム! ゲーム! ゲーム!
 ブースでは山のように詰まれたボードゲームが売られ、卓についた老若男女が楽しそうにそれを遊ぶ。卓がないから地面に座り込んでまで遊んでいる人達もいた。
 最初に入った所にあるエリアでは、ドミニオンの新作カルカソンヌのカードゲーム版、カードカソンヌ、更には子供向けゲームで最優秀賞を取った「Das Magische Labyrinth(魔法使いの迷宮)」がハバを効かせている。子供も一杯いて、無邪気に遊んでいる。

  


 無論、ゴス系のファッションキメてる人や、僕のようにヒゲを生やしている人頭を剃っている人体重過多な人も多い。
 ああ、西洋のゲーマーだ。何だ、ここは。我が心の故郷か?
 正直、この空間の中での自分の馴染みっぷりが自分で恐ろしい程だった。

 商談まで一時間程あったが、先ず商談相手のブースをみつけることに。カタログに書いてある情報を確かめながら移動していく。途中にポケモンカードの大きなブースが。流石ポケモン。人気高し。



 程なく商談相手のブースを発見。しかし、どうも社長さんは別の人と打ち合わせ中のようだったので、時間もあることだし色々と見て回ることに。そして……

 それを目にした瞬間、僕の目の色が変わったと、後に刈谷さんがいった。
 会場に入って、大量のゲームを見た時に、社長の目は輝き、僕と刈谷さんはただ雰囲気に飲まれていたように思う。
 しかし、その時僕の目に飛び込んできたのはゲームではなかった。
 武器である。
 謎の柔らかい素材に精巧な塗装を施した、本物と見紛うような武器が、幾つもラックにかけられていた。ほとんどは、剣だ。
 手に取らざるを得なかった。
 軽い。だが、バランスのいいちょっとした重さがある。実にいい。



 しかし、重度の異種族、特にドワーフ好きである僕は、剣という正統派らしい武器が余り好きではない。斧は、斧は無いのか……こう、無骨で、装飾性を排した、ストイックな戦斧(バトルアックス)は……

 あった!!

 それは、正に理想だった。柄は両手持ち、片手持ちの両方に適した(僕にとって)丁度いい長さで、自然木の歪曲や木目が非常にリアルに作りこまれており、朴訥な美しさがある。斧頭は片刃で、鋲をむき出しにし、若干カーブのかかった四角い線で構成された質実剛健造りで、唯一斧頭の背に優美な紋章が打ち出されているだけ。そのアクセントがまた、単純な暴力性に品を与えている。
 正直にいおう、一目惚れだった。
 手に持った瞬間確信した。


「This is mine! (これは僕の物だ!)」


 即座に店番のお姉さんに英語ができるかどうか聞く。通じる。よし。
 斧の値段を聞く。126ユーロ約16000円
 だが、この時点で僕の中でユーロの値段感覚は皆無。大事なのは、その分のお金が財布の中にあること!
 ええ。買いました。バトルアックス。
 舞い上がってゴツイ斧を買った僕を、社長と刈谷さんの生暖かい視線が迎えてくれました。
 刈谷さんが一言、


「似合いすぎ」


 といって笑っていたのが、印象的でした。



 斧を担いで歩いていると、前方にオークのコスプレをした人とエンカウント
 僕が斧を構えると、オークも人の頭(もちろんフェイク)の刺さった槍を構える。
 睨みあう僕とオーク。写真を撮る刈谷さん。面白そうに眺める社長。気にせず買い物を続ける通行人。正に、カオス



 ふと、どちらともなく構えを解く。近づき、握手し、バンバンと背中を叩きあい、肩を組む。そこを刈谷さんがまた激写。
 結局オーク(のコスプレをした人)と一言も交わさなかったが、そこには確かな絆があったと、僕は信じている。



 その後は軽くゲームを見て回り、時間が来たので商談へ。相手の社長が挨拶する時に、斧へ目をやったので、


「I had to buy it (買わないではいられなかったんです)」


 と説明すると、嬉しそうに笑ってくれた。
 これはいけるな、とその時確信した。
 実際、商談は非常にスムーズに進んだ。相手側の社長が明るいアメリカンゲーマーという、学生時代の僕の周りに結構いたタイプなのも助かった。総じて、成功だったと思う。
 この時どういったことが話されたのか、発表できる日が早く来ることを切に願う。皆、あっと驚くことになると思う。こう、ご期待!

 その後は遅めの昼食。ここでVIOという無炭酸のペットボトルの水があることが判明。よし、憶えた。
 刈谷さんはビールをチョイス。流石ドイツ、普通にビールが売ってるぜ。
 ん? 何か変だぞ? 「Alcohol Frei」……


僕「刈谷さん、それノンアルコールビールだと思いますよ」
刈谷さん(ラベルを確かめ)「あ、本当だ! ビール位なら酔わないから気付かなかった」



 でももう飲んじゃってるからなあ。

 そんなこんなで昼食も終わり、軽く買い物でもしようと繰り出す……が、急にトイレに行きたくなる。その旨を告げて引き返し、済ませた後に別れた場所まで戻ると……いない
 まあ、こんな宝の山を前にして待ってくれると期待するのも酷だったか、と納得。フラフラと探索の旅へ。
 再び、コスプレ道具の揃ったエリアに入る。まで勢ぞろい……あれ?
 やはり、昔から一着欲しかったマントがある。何々、24ユーロ。(斧に比べれば)安い!
 少し薄着だったこともあり、喜び勇んで購入。
 着々と冒険者として旅立てる姿に変わっていく。
 おかしい……ゲームを買ってない……



 手持ちのお金が少なくなったのでトイレの前まで戻ると、刈谷さんから電話。場所を伝え合流。僕の恰好を見て二人がまた笑う。最後に、フル装備になったら写真を撮ろうと約束。
 そして、社長はこの間にカート一杯にゲームを買っていた。恐ろしい。
 刈谷さんは残るといっていたが、僕と社長はタクシーで先にホテルに戻ることに。そして、二人で大聖堂を建築していくゲームを延々と遊び倒す

 刈谷さんが合流した所で夕飯に。フロントにおススメのドイツ料理屋を聞く。しかし、描いてくれた地図が適当で、土地勘の無い僕達は店がみつけられない。
 しょうがないので適当にバーっぽい所に入ると、それはアメリカ風スポーツバーとでもいうような所だった。



 まあ、特に拘りはないので適当に注文。
 僕はハンバーガーを。
 ……しかし、アメリカ風というが、確実にアメリカ本土のそれより美味かった
 ここで、刈谷さんは色々なビールに挑戦!
 その内の一つ、アルトボウラーというのが凄まじかった。
 何と、ビールの泡に交じって切り身のイチゴが浮かんでおり、更にビールその物も赤く着色してあった



 なんというか、こう、凄まじい。
 酒好きの刈谷さんも、流石にこれには辟易したようだった。
 しかし、基本的に夕飯は美味しくいただき、気分も上々。
 ホテルに戻り、刈谷さんも巻き込んで大聖堂ゲームを続行。
 そして、疲れたので就寝。
 充実した一日だった。

●10月23日

 昨日とかわりばえはしないが、しかし美味しい朝ご飯。うん。満足。
 今日はさっそく会場へ向かう。
 流石に斧は置いていくが、防寒効果を期待してマントを着て行くことに。駅にもちらほらコスプレしている人がいるので、余り恥ずかしくない。
 というか、武器(もちろん贋物)を持ってる人も結構いるな。斧持ってくればよかったかもしれない。
 会場は長蛇の列。流石にコミケ程ではないにしろ、沢山人が並んでいる。
 僕達はすでにチケットがあるので列をスルーしてエントランスエリアに。
 ここもまた、人でいっぱい。まさにすし詰め状態。


社長「皆フリープレイの卓を確保するために早う来てはるんや」


 なるほど、納得。
 そうやって待っていると、遂に扉が開く。
 ドドドドドドド
 流石に走る人はいない(いなかったと思う)が、怒涛の勢いで扉へ押し寄せる人の波! 社長や刈谷さんとはぐれないようにするので精一杯。
 社長は流石に慣れているのか、スルスルと人の間を足早にすり抜けていく。ついていくのがやっとだった。
 この日はまず、昨日社長が見つけたという「ゲームが安いブース」まで行った。ポンポンとボードゲームの箱を積み上げていく社長。僕はというと、ボードゲームに関しては浅学寡聞の身。何が面白くて何が面白くなく、何がすでに会社にあって何が無いのか、まったくわからない。
 しょうがないのでどんどんと高くなっていく社長のボードゲームの山を見ていた。これでも厳選した上で抑えて買っているというのだから、凄い。
 一通り買って社長も満足したのか、ここからは暫く自由行動を取ることに。
 歩き回って色々見てみる物の、やはりゲームは基本的にドイツ語。言語もジャンルも馴染みの薄い僕は、半ば無意識にコスプレセクションに足を向けていた。
 昨日マントを買ったブースで、鎧や兜を眺める。兜はいけそうだが、鎧は流石にサイズが無い。
 革製の手甲や脚甲なども、微妙に厳しそうだが……かっこいいなあ。
 ブースの人にいって、試させてもらうが、やはり少し小さい。すると、


お姉さん「明日来てくれるなら、一回り大きいサイズのを用意しておきますよ」


 Deal(契約成立)。兜もその時に買おうと決めて、洋々と他の細々とした物を見に行くことに。
 更に……むむ!
 これは、昨日から気になっていた……所謂一つの水袋……革製の水筒ってヤツではないか!
 むむ。この手触り、光沢、本物……


僕「Excuse me, can one drink from this? (すいません、これ水飲むのに使えますか?)」
店番のお兄さん「Yes. But only water(ああ、だが水だけだぞ)」



 酒やジュースに含まれる酸が水袋を固めるのに使っている蝋を溶かすのだとか。
 1.8L入るという大きいヤツを買い、早速肩から吊るす。ううん、いい気分だ。
 ついでに、近くのスタンドで水を買うとしよう。十分程かけてなんとかおばちゃん達に炭酸水ではない水が欲しいのだと理解させる。ヨーロッパは炭酸が主流だと聞いていたが、本当なんだなあ。
 買ったペットボトルの水を一口飲んで確かめ、残りを水袋に流し込む。うむ。重さが心地いい。
 更に色々回っていると、蜂蜜酒(ミード)を売っている所を発見。折角だからこのドクロラベルのやつを買うぜ!
 もしかして……このままゲームを買わないで終えてしまうのだろうか?
 しかし、そうはいっても面白い物は社長が買ってくれるだろうと、軽い気持ちで迷いを吹っ切り、集合場所へ。
 床に座って本を読んでいると、刈谷さんから電話が来て、集合が三十分程遅れるとのこと。仕方ないので本を読み続ける。
 しばらくしてからようやく合流。更に、ここでジャイブの元F社長も合流。とりあえずご飯を食べることに。
 昼食後はFさんと軽く会場を見て回る。しかし結局自由行動に。
 しばらくして集合。しかし、社長がまだ。


Fさん「このゲームやろう」


 Fさんが買ったのは、僕達が「子供向けだしな……」とスルーしていた「Das Magische Labyrinth」。ちゃんと英語版のルールもあるので、僕が読みながらピースをばらしてもらっていると……社長がやってきた。


社長「そろそろ疲れたし、帰らへん?」


 というわけで、ホテルに戻って早速「Das Magische Labyrinth」をやってみることに。
 これが、凄く面白い。ゲームの詳細は割愛させてもらうが、何度も遊び続けた結果、「最適バランス」を導き出し、更には翌日に皆一つずつこのゲームを購入したことを考えると、その面白さの片鱗がわかるかもしれない。
 対象年齢6〜99歳の名に恥じぬ、絶妙なバランスのゲームだった。

 夕食は四人でぶらぶらとエッセンを散策し、イタリアンレストランに入ることに。問題はちゃんと英語のできるウェイターがついてくれなかったことで、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、英語の入り混じった注文風景は、はたから見ればユーモラスだっただろう。
 何とか頼んだ物もやってきて、一安心。実に美味だった。
 尚、初めてエスカルゴを食べたのだが、中々美味しかった。普段中々食べられない物が食べられるのも、海外に行く醍醐味の一つだろう。

 夕食後、鉄道ゲームなど新しいゲームを幾つか試し……そして結局「酔ってるから難しいゲームは嫌だな」という言葉と共に、「Das Magische Labyrinth」を再開。げらげら笑いながら延々と遊ぶ。
 やはり、面白い。
 その後、明日の打ち合わせをして解散。ぐっすりと眠った。

●10月24日

 朝食後、フロントからゲームを輸送するためにフェデックスの記入用紙を貰おうとしたら、必要な枚数が無いという事態に。しかも、フェデックスの引き取りが来るのは月曜日になり、正確な値段がわからないのでお金の先払いは難しいとのこと。
 僕達は日曜日の朝早くに帰ってしまう。送るのは、今日しかない。
 そこでフロントのお兄さんが、


「DELLはどうですか? それならすぐそこの郵便局から送れます」


 クレジットカードも大丈夫とのことだったので、そこに決定。
 というわけで、後顧の憂いなくSpielの会場へ向かう。といっても、今日は午後のケルン観光をメインにするとの事だったので、午前中だけの予定だ。

 マントと水袋、更に斧装備で地下鉄に乗る僕。
 流石土曜日、前日よりも人が多い。
 そんな中、かなり本格的なヴァイキングの衣装を着たおじさんや、騎士の恰好をした彼か、彼の友人の息子さんと意気投合。一緒に写真を撮らせてもらった。



 会場では自由行動に。早速昨日のブースに行って手甲と脚甲を買う。更に、金髪美人のお姉ちゃんが直々に着せてくれた。ドイツの人は本当に親切だ。
 兜は似合う物が無かったので断念した。
 その姿で軽く他の武器を物色してると、同じく中世ヨーロッパコスのドイツ人が剣を構えたてきたので、斧を振り上げてやった。男は羨ましそうな顔で、


「Where did you find that axe(その斧はどこでみつけたんだい?)」


 と聞いてきたので、買ったブースを教えてあげたが、他にこれと同じ物が置いてなかったことも伝えると、残念そうにため息をついていた。
 やはり、この斧はいい物だ

 しばらくして合流。フル装備姿を刈谷さんに撮ってもらい、細々とした買い物や最後の見学を終え、Spiel09と、おさらばした。



 名残惜しかったが、同時に、これから行くケルンへの期待感の方が勝っていたのも確かだった。
 ホテルに帰ると、先ずはコスプレグッズを脱ぎ、蜂蜜酒を呑み、新聞紙で斧を梱包。パッと見で斧とわからなくなった時点で満足し、フロントに持っていって送ってもらう荷物に加えてもらった。
 更に、社長と一緒に実際にこれをDELLで送る作業を開始。郵便局の人はほとんどがドイツ語しかできないらしいので、ホテルのフロントマンのお兄さんが一緒についてきてくれた。
 列に並び、ついに僕達の番になったが、ここでやはりクレジットカードが使えないことが判明。しかし案ずること無かれ、ちゃんと郵便局内にATMが設置してあった。
 フロントマンのお兄さんがドイツ語の操作を英語に翻訳、それを僕が手助けしながら無事に社長はお金を下ろすことに成功。大量のゲーム(と僕の斧)は無事に発送されたのだった。予定していたよりもかなり長い時間がかかってしまったのだが、その間ずっとお兄さんは一緒に居て、手伝ってくれた。ドイツの人は本当に親切だ。

 今度こそ、本当に後顧の憂い無くケルンへ出発……する前に、前から気になっていた肉屋のスタンドでブラットヴルスト(焼きソーセージ)カリーヴルスト(カレーソーセージ)を買って、昼食を取った。
 ブラットヴルストは普通に美味しかったし、カリーヴルストは実に面白かった。カレーを練りこんだソーセージを焼いて、輪切りにし、その上にケチャップをかけ、カレー粉をふりかけた物を、パンに挟んで食べるのだ。
 実に美味しかった。




 ケルンでは、いきなり大聖堂に圧倒されてしまった。
 デカイ。
 細かい彫刻がいっぱい。
 凄い。



 恥ずかしいことだが、本当にこれだけしか言葉が浮かんでこない。それ程までに「圧倒的」なのだ。
 建設に600年かかったという話も、見れば納得できる。確かにあれ程の物を作るのだから、それ位かかるだろう。
 中も、これまた凄い。美しいステンドグラスに、巨大なオルガン精緻な彫像。ついつい座り込んで、目を瞑り、静謐な空気と一体になろうとしてしまった。
 まあ、疲れてたのも確かにある。後、観光客がいっぱいいたので、結局余り静謐って感じでもなかった。残念。
 その後、美術館へ。驚いたことに、美術館のすぐ前で、遺跡が発掘されていた。街の中で古代の街が発掘されているという姿は、妙に新鮮だった。
 日本は昔木造建築が多かったため、ああいう跡は残らないし、アメリカも西洋的な文化はああいった遺跡ができる程古い物じゃない。なんというべきか、現代と古代とが隣り合わせになっているかのような、ワクワク感がその光景にはあった。



 美術館の内容は階毎に違う時代の美術が展示されているとのことだったので、一番上から下に向かって降りていくことに。一階に戻れた頃にはかなり疲れていたが、それなりに満足いく展示だったと思う。
 美術館を出て、夕食をとる場所を探しにライン川まで降りていった。途中にはバーの外で立ちながらビールを飲んでいる集団にちょくちょく出くわし、何となく皆自然にわくわくしてきていたようだった。これこそがドイツ。ステレオティピカルだが、だからこそ堪らない。



 結局、ライン川沿いのオープンバーで夕食をとることに。そして、ここのメニューがまた振るっていた。
 新聞風に印刷されていることもそうだが、ドイツ語の他に英語スペイン語フランス語などヨーロッパの主要言語に始まり、中国語日本語の訳も載っていた。
 基本的にかなりよくできた訳文だったのだが……やはり所々おかしい
 傑作だったのがソーセージ料理で、「当然ながら、僕達の普通の、辛い、頭のおかしい人用のケチャップ」がついてくる、と書いてあった。
 頭のおかしい人用のケチャップ!?
 英語を読むと、ここは「クレイジー」になっていた。なるほど。しかし……(笑)
 因みに、当然のように頼んだが、ついてきたのは普通のケチャップだった
 他にも、ケルンのライバル都市であるデュッセルドルフ産のビールである、アルトビールが冗談として値段表記なしでメニューに掲載されていたり(刈谷さんがひっかかっていた)、ケルンビールの乾杯の仕方(グラスのてっぺんではなく、底を打ちつけて乾杯する)ことを懇切丁寧に解説していたりと、実に面白かった。
 料理も絶品!
 ここに至って、初めてドイツ料理をがっつり食べたわけだが、出る物出る物全てが美味。ソーセージなどはもちろんだが、特に、黒パンの器に入れて出されたビーフシチューは非常に美味しかった。
 更に、お酒も美味しい
 最初こそ、最後だからという理由と、場の雰囲気に飲まれてビールを頼んだ僕だが(炭酸が苦手なので普段は呑まないのだ)、それを飲み干してからは久しぶりにテキーラのショットを呑んだり、シュノップスという洋梨の焼酎のようなドイツのお酒を試してみたりと、色々チャンポンしていた。
 刈谷さんに至っては、オクトーバーフェスト(10月に開催されるドイツのビール祭)用の、1Lジョッキをぐいぐい呑んでいた。



 男四人で、外国にいるからこそ味わえる開放感のようなものを、僕達はこの時確かに味わっていた。




 夕飯後は、そのまま駅に戻ってエッセンへ。皆、疲れていたこともあり、その夜は少しゲームを遊んだだけで、就寝。
 これがドイツで過ごした最後の夜となった。

 
●10月25日

 朝食後、ほぼすぐにチェックアウトして駅に向かい、ICEに乗り込む。
 今度のはライン川を通る路線で、幾つもの城が通り過ぎていく幻想的な風景を楽しむことができた。本当に数100メートル単位で、点々と城が建っているのが、川を挟んだ向こう岸に見えるのだ。
 これを見れただけでも、ドイツに来たかいはあった。
 ああ、いや、これを見られたのと斧を買えただけでも、の方が正しいな。
 ともかく、素晴らしい眺めだった。

 素晴らしいのは、しかし、ここまでだった。

 フランクフルト空港で降りた我々は、早速チェックインしようとしたのだが、そこでトラブルが連発。
 詳しくは説明しないが、オーバーブッキングにより、社長と刈谷さんがチケットを獲得できずに終わる。
 戦々恐々しながら搭乗口に行くと、嬉しいことにちゃんと席が取れたとのこと。これで一安心した僕達は、サンドイッチを買って昼ごはんと洒落込んだ。
 当然ながら、これも実に美味だった。

 比較的空いてた行きと違い、満席でぎゅうぎゅうの飛行機の上で、僕の短い10月25日は高速で過ぎ去っていった。
 こうして僕のドイツ五日間(実質四日間?)の旅は、幕を下ろしたのであった。

 今思い出しても、このドイツで過ごした一週間足らずは、まるで雲の上のような、奇妙なふわふわとした感覚に包まれている。
 最高に楽しかった。
 正直な所、感想はそれに尽きる。
 ああ、いや、もう一つあるな……
 本当に、ご飯が、美味しかった。
 ドイツ最高! 是非、またいってみたい物である。


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