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【20】

→メインコンピュータ緊急停止スイッチを使う。

(イーヤ号のメインコンピューターを止める)
ヤッティが意気揚々と、黄色と黒の縞模様で彩られた板の上の赤いスイッチを勢いよく押した。
ドューン、という鈍い音が艦内に響くと同時に、ブリッジに並ぶ各コンソールが我先にと光を失っていき、イーヤ号の眼前に広がる大地を写し出していたメインモニターさえもブラックアウトする。強制シャットダウンだ。
照明まで消えるわけではないが、光源を随分失ったブリッジは普段より薄暗く、不安を煽る。
なんとなく皆で顔を見合わせた時、異変に気がついた。
ジボーが、動いていないのだ。
ジボー……磁防実機は独立型コンピュータで、磁気嵐に船のコンピューターがやられた際に立ち上げ、代役を務めるのが本来の使い方だ。
つまり当然、イーヤ号のコンピュータが全て止まったとしても、ジボーがその影響を受けることはないはずなのだ。
だが、そのジボーが完全に機能を停止している。彼お得意の展開を踏んだギャグでもない。
……どういうことだ?
単純な話だ。ジボーは、ずっとつながっていたのだ。イーヤ号のメインコンピューターと。無線で。そしてジボーの「意志」がいるのは、ハードディスクの中でも、磁防実機の中でもなく……イーヤ号の中だ。
ずっと、メインコンピューターから、磁防実機を遠隔操作していたわけだ。そしてそれなら、パワードスーツも同じように動かせたはずだし、スーツのMAPに遺跡を表示することもできた……全てジボーならやれたことだ。
では、なぜ、ジボーはこんな事をしたのだろう?
その答えは遺跡の楔型文字にあった。
『イシを残し、イシはうつろい、0と1を繰り返す。』
ジボーは、この星にいた生命体だ。
惑星探査機から、様々な機械を経て、ハードディスクに入り込み、ジボーからイーヤ号へうつろってきた。
そして『うつろいしイシは、よりどころを導いて、子を再び天空に導きに来た』のだ。
だが、導こうとしたその「子」は……
……子を連れて帰れなかったのに、何故ジボーは演技を続けたのだろうか。イーヤ号に潜み続けたのだろうか。
違う……!
通気ダクトにいたのは、「子」ではなかったのだ。あれはコンテナに入っていた、偽物の「卵の中身」だ。ホンモノが別にいる。ジボーが素性を偽り続けたのは……まだ、ここに「子」がいるからだ。
ジボーが連れてきた「よりどころ」の中に、子はすでに入り込んでいるのだ。この3人の中に。
健康チェックシステムが信用できない以上、それを確かめる術はないが、早急に手を打たなければならない。いつ「子」が「かえり」「うむ」のかわからないのだ。
なる早でこの星を離れなければならない。だが、再びメインコンピューターを立ち上げればジボーが目をさますことになる。正体を知られたジボーがどんな行動に出るかを考えると、メインコンピューターはもう使わないのが得策だ。しかしそれでは船は動かせない。
ところがどっこい。イーヤ号はヤッティの手によって特別なカスタマイズが施されている。なんと操縦系統だけは完全に独立していて、理論上はコンピュータなしでも航行可能なのだ。
直接操作による大気圏離脱と長距離航行なんて、この100年に数回も行われていない、成し遂げれば偉業ともいえる挑戦だ。ここは宇宙船操縦歴20年、ヤッティの腕の見せ所。大丈夫、いざという時には頼れる男のはずだ……多分。
完全なマニュアル操作に対応させるための数時間の改修の後、エンジンに無理矢理火を入れて、開拓宇宙船ドゥーデム・イーヤ号は宇宙へと駆け戻っていった。

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