古き良きRPGでありながら、版を重ねてなお斬新さを兼ね備えた傑作ファンタジーRPG――それが、この度ご紹介する『トンネルズ&トロールズ(以下、T&T)』です! グループSNE設立初期、社会思想社の教養文庫で第5版を翻訳出版してのち、誕生30周年記念の第7版を2006年に新紀元社の新書で、そして今回の40周年記念デラックス版を2016年9月にグループSNE/cosaicからBOX版のRPGとして翻訳発売することになりました! 作品そのものはもちろんのこと、BOX版という形態は古株のユーザーさんにとっては懐かしく、お若い方々には目新しいことでしょう。 発売を記念して、翻訳・制作の総監督である安田均と、第7版のメイン訳者であり、今回もワールドの翻訳を担当した柘植めぐみにインタビューしてまいりました。 本作を発売するに至った経緯や、これまで一度も語られたことのなかったSNEと『T&T』の出会い、世界で2番目に誕生し今なお世界で愛され続けている『T&T』の魅力についてなどなどをうかがってまいります!
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2016年08月 記事作成 ゆうみん |
■■ 現在進行形で続いている話 | |
安田 | 『トンネルズ&トロールズ(以下、T&T)』は2015年に40周年を迎え、その記念に発売されたのが、このデラックス版です。そしてこれを、今年2016年の9月にグループSNEで翻訳して出せることになりました。 |
―― | わたし、今回聞きたいと思ったことがありまして。 |
安田 | わかってるよ! どうしてこれを出すことになったか、だろう? |
―― | あ、ええと、もちろんそれもなんですが、もうちょっと遡りまして。 そもそもグループSNEが『T&T』の翻訳を手掛けることになった一番最初のきっかけは何だったのでしょうか? |
安田 | 一番最初というと、社会思想社版のこと? もう30年近く前の話だね。 |
―― | 『T&T』の原書が最初に出たのが1975年。SNEが社会思想社で翻訳出版したのが1987年でした。 質問項目を作ってる時、どこかにきっかけとなる話が出てるか探してみたのですが、見つけられなくて気になってしまって。 |
安田 | うん、ないだろうね。だって今まで語ったことがないから。 ――そう、あれは1987年。まだグループSNE結成されてもいない頃。 当時はゲームブック全盛の時代でね。僕は日本語版『ウォーロック』とその前身である『ゲームブックマガジン』の監修を86年の12月から87年にかけてやっていたんだけど、なんと……! |
○ ウォーロック(Warlock) イギリスで1983年~1986年に発行されたファンタジーゲームの雑誌。 日本では1986年12月から翻訳出版がはじまり、1992年3月までに通巻63号が発行されています。 |
安田 | 日本語版の出版をまさに始めたというその時に、大元のイギリス版『ウォーロック』が13号で休刊することになった! |
柘植&―― | ええー!? |
安田 | 当時はロールプレイングゲームがいよいよ日本に上陸して、コンピュータゲームでは『ウィザードリィ』や『ウルティマ』が登場した頃で。 翻訳テーブルトークRPGも、84年に『トラベラー』、85年『ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下、D&D)』、86年『クトゥルフの呼び声』が日本で訳されて、やっと花開いた頃だから、ゲームブックを遊んでいる人にはロールプレイングゲーム、テーブルトークもぜひ知ってほしいと思っていたんだ。 |
―― | はい。 |
安田 | 一方では、ゲームブックがすごいブームだった。『火吹き山の魔法使い』などで、社会思想社さんはそれをサポートするため、イギリス版『ウォーロック』誌を監修してくれとなっていた。 そこに、『ウォーロック』休刊で元のゲームブックのタネがなくなった。さあ今後どうするか大変だ! 出きてすぐ廃刊か(笑)となった時に、ゲームブックとRPGを研究収集していた僕は、ゲームブックの元として『T&T』のソロ・アドベンチャーがあるというのを思い出したんだ。 ソロ・アドベンチャーはゲームブックと繋がる部分もあるから、それを『ウォーロック』でやってみたらどうかと思った……んだけど。 |
―― | けど? |
安田 | 僕自身はとにかく忙しくて動けなくてね。 ゲームのことがわかって手伝ってくれる人を探して、でも佐脇洋平は『トラベラー』にほとんどかかりっきりだったから、他に誰かという時に、ちょうど清松みゆきがゲームブックを手伝いはじめて、その頃、高山浩も入ってきた。 |
―― | おお、こうして創設メンバーが続々と集まっていくわけですね。 |
安田 | 山本弘、水野良らともすでに一緒にゲームをしていたんだけど、テーブルトークをよりわかりやすく紹介する手段として、リプレイから『ロードス島戦記』ができて、『ロードス島戦記』の紹介方法を模索している時にゲーム小説として『ドラゴンランス』があって翻訳して、それならこれ(ロードス)も小説化できるんじゃないか、となり。 |
―― | ふむふむ。 |
安田 | ありとあらゆるものが花咲いて、すべての状況が組み合わさって、ゲームブック、ソロ・アドベンチャーの方面から『T&T』がクローズアップされて、やりたい、という気持ちが高まって『T&T』を社会思想社さんで翻訳させてもらおう、という運びになったんだ。 RPGとしても、『D&D』はもう新和(株式会社新和)で、『トラベラー』『クトルゥフ』はホビージャパンさんでやっていたし、『ロードス』の流れから『ソード・ワールド』は角川さん(富士見書房)との間でやることになっていたから、社会思想社でやるなら、『D&D』についで世界で2番目のRPGである、この『T&T』なんじゃないか、と。 |
―― | なるほど。 |
安田 | その頃のTRPGはほとんどがBOX形態で、書籍展開についてみんな考えはじめてはいたけど、文庫というのはまったく念頭になかったと思う。 ところがちょうど『T&T』の第5版は80年代前後に出て、それのイギリス版がCorgi社のペーパーバッグだったんですよ。 |
柘植 | ペーパーバッグだったんですか(驚)。 |
安田 | そう、『T&T』だからでしょう、ソロ・アドベンチャーがあるし。ゲームブックの流れからもね。 で、『ウォーロック』で記事として展開できるし、ソロ・アドベンチャーも含めて、RPGを紹介するとき、文庫が一番手に取りやすくて遊びやすい形じゃないかと気付いたんだ。 社会思想社には教養文庫があったから、版権をとったら文庫として出せるんじゃないかと、教養文庫を作った当時の名編集者、田中さんと2人で決めたのが、87年の夏頃。 そして、当時『バトルテック』などの記事を書きはじめたばかりの清松に『ウォーロック』で執筆について学んでもらいつつ、翻訳してもらったんだ。 そんなふうに、すべてがきれいに流れがはまっていき、87年10月にグループSNEを結成して即社会思想社で出たのが『T&T』。 だから、実はグループSNEの作品として一番最初にでた作品でもあるんだよ。 |
―― | 自分で聞いておいてあれですが、すごい話を聞いてしまいました。『T&T』に留まらず、SNEの歴史の話でもありますね。RPGとゲームブックの流れにおいても大切ですね。 |
安田 | その後、これらも訳すべきだと言わんばかりに、Corgi社でもソロ・アドベンチャーがうまくいってて、たて続けに10篇くらいがずらっと並んでて。 『ウォーロック』のゲームブックの原書がなくなってもこれらを紹介したら、何とかゲームブックの部分も保てるだろう、という目算で出してみたら、こうした文庫も大ヒットしたのでよかったね、という。 |
柘植 | やっぱり文庫の形だったのが、流行った要因のひとつだったんでしょうか。 |
安田 | そうだね。でもそれは『T&T』だけがぴたっとはまったんじゃなくて、当時のRPGの展開、紹介状況、社会思想社、文庫、SNE結成、『ウォーロック』の内容、他にもいろんなすべての要素が合致して一気に高まってうまくいったんだと思う。 |
―― | いろんな出来事のなかに、良いタイミングの作品があった、と。 |
安田 | びっくりしたよ。監修者になっていきなり「『ウォーロック』なくなったよ」って……始まったばっかりやのに(笑)! だから表紙絵は最初だけ原書の表紙で、以降は米田仁士さんになったんだよ。 |
―― | じゃあ、そこで『T&T』がなかったら、日本の『ウォーロック』もすぐ終わってたかもしれない、ってことですよね? |
安田 | そう、『T&T』がなかったら1年で終わってただろうね。 |
柘植 | それでちょうど1年経ったころに14号がこの『T&T』特集号に。 |
安田 | RPGというものをよりわかりやすく紹介したくて、当時人気絶頂だった『ロードス』のリプレイを特集で水野君にも『T&T』リプレイで書いてもらいました。そうすれば、これはそうしたRPGの一種なんだってみんなわかるだろうと思って。 それが今度、冒険企画局さんから出る『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』にも再録されます。 |
―― | おお。 |
安田 | 当時の流れをその本でも紹介しておきたいなと思ってたからね。 ……これまでに新しいもの、面白いものの紹介を続けてきた歴史もそれなりに長くなってきたけど、実を言えば僕は過去を語るのはあまり得意じゃないんだ。 ということで、そろそろ聞いてよ! 今度のはどうして出すことになったのかを! |
―― | そうですね! うっかり聞き入ってましたけど、そっちが今回のメインですからね! |
安田 | いきなり過去の話に行ったからびっくりしたよ(笑)。 |
柘植 | こうやって聞いていると過去の話みたいだけど、なんとこれ、現在進行形で展開が続いてる話なんですよね。 |
■■ ついうっかり返事をした話 | |
―― | 改めまして、『T&T完全版』を制作するに至った経緯を伺っていきたいと思います。ちなみに、昨年秋までは『T&T』のTの字も聞かなかったと思うのですが? |
安田 | 最初の第5版も今回の完全版も、不思議な話なんだけど。 前回第7版を新紀元社さんで2006年末に出した時、それなりにいろいろ紹介したんだけど、残念なことに展開がストップしてしまった。それからの時点で申し訳ないが、『T&T』のことは頭の中から完全に外れてしまってたんだ。いろいろ『ソード・ワールド2.0』とか『モンコレ』とかボードゲームとかあって。 ところが! 2015年10月にエッセンシュピールに行った時のこと。 |
―― | 冒険企画局さんと提携して、初めてブースを出展しましたね。 |
安田 | エッセン会場のメインはボード/カードゲームで、大きなメーカーが入口に近い場所にブースを構えていて僕たちは日本から出してるし、ちょっと入口から離れたところに配置されていたんだ。 会場の奥にはRPGやアクセサリーの部屋があって、僕らはちょうどRPG部屋の手前でね。 奥を見た時に、ふと、これ行ったらRPG……あっ、『T&T』のリック・ルーミスってエッセン毎年来てるやん! 『T&T』って今年たしか40年で、デラックス版って出すんだよね? ひょっとして、ルーミスがきてデラックス版が置いてあるんじゃない? と思って、ブースを設営してすぐに、だだだーっと奥へ走っていったんですよ。 |
―― | いてもたってもいられない感が「だだだーっと走っていった」の一言に滲んでますね。 |
安田 | もちろん挨拶回りとして、隣の部屋がまず近いから、というのもあったんだけど。そうして行ってみたら案の定ルーミスがいて、 ルーミス「やあ、ひさしぶり! (デラックス版を目の前に差し出して)これ、お前知ってるか?」 安田「あ! これが『T&T』40周年デラックス版だね」 ルーミス「そうや、すごいやろ! やる(翻訳する)よな?」 みたいな顔してにこっとされて(笑)。 思わず 安田「当たり前や! やりたいよ!」 って言ってしまった。 |
―― | 思わず! |
安田 | 「40周年記念でケンがこれからいろいろ出していくからな」「かつて第5版の時にいろいろやってくれて、第7版もやってくれたよね。今度のはすごいで、40周年やで」と。 でも、別に彼は売り込んでいるわけじゃなくて。これまでも例年たいてい挨拶に行って顔は見ても、今までは仕事の話じゃなかったから特に何もしなかったけど。 今回はルーミスに挨拶したら、向こうがデラックス版持って「はい!」って。そしたらこれはやらなあかんやろ! その場で「やるよね」「うん、やる」って。 それで急いでブースに戻って、冒険企画局さんに、 安田「『T&T』やることになったんだけど、昔『ウォーロック』で近藤君一緒にやったよな、今度も一緒にやるよな?」 近藤「いやあ、それなら喜んでやりますよ」 と言ってもらって。エッセン共同出展で提携して、これからいろいろやっていく予定ではあったけど、まだ何をやるかなんて考えてもいなかったのに、エッセン行った瞬間に、もう『T&T』をやることが自動的に決まってた。 |
―― | すごいトントン拍子ですね。 |
安田 | 87年の時もそうだったし、僕にとってはこんな風に状況が整っていっちゃうのはよく起こることなんだけど、世の中の普通のやり方と違うからみんな変だときっと思ってるかもしれないね。 こっちはなんもわからんと、たしか40周年だったよな、『T&T』出てるよなって、ぶらぶらしながら挨拶行こー、ルーミス会いに行こー、くらいの気持ちだったけど、ルーミスの方も、日本でも昔会ったよなくらいのところに「あ、均が来た! やる気や!」って思ってくれたのかもしれない。 |
柘植 | ルーミス「マスタースクリーンもあるよ、はい」 |
安田 | そうそうそうそう(笑)。 |
柘植 | ルーミス「翻訳するんだったら、はい」 ってデータの入ったUSBメモリをその場でもらってきました。 ちょ、え、契約とかもまだなのにこんなんもらっていいんですか? って焦ったんですけど。 |
安田 | ルーミス「契約書は後でええでー」と。 |
―― | なんという太っ腹な! |
安田 | デザイナーさんたちの会社とか、アメリカの古き良きスタイルの彼らは、作品自体をみんなで楽しむことに熱心で、まずは人との繋がりからなんだよね。 もちろんビジネスとしてというのが現代の基本なんだけど、人同士の繋がりもすごく大事なんだというのを、僕は海外でずっとやってきて感じているよ。 |
―― | 以前別のインタビュー時にも思ったんですが、社長のお話を聞いてると、人との縁や繋がりがすごく良い形に作用してますよね。 |
安田 | それは、これまでの取り組みがあるから。なんかわかってもらえるみたいですね。 かつて『T&T』を社会思想社さんでやってきて、やっぱり向こうもびっくりしたと思いますよ。日本であれだけ広がったというのは。 『トラベラー』にしても『GURPS』にしても、原作者たちは「えー、すごいやん日本って」と思ってくれてるみたい。 |
柘植 | 日本に期待してくれてますよね。 |
安田 | あとから『T&T』の他メンバーたちにも聞いたら、みんな喜んでくれて、ケンとかリズなんかは「やるんやったら何でも教えたるで! Twitterでなんでも聞いてくれ!」と。 |
―― | 翻訳作業中、たしか冒険点のことで質問を投げた時にケンがTwitterにたくさん書き込んでくれたりとかありましたよね。 |
安田 | 冒険企画局の人たちも、近藤君をはじめ『T&T』が大好きな人が多くて「ぜひやらせてください!」と言ってくれたので、翻訳をSNEが担当して、DTPや記念の紹介ガイドブックを冒険企画局さんが編集・出版してくれることがばたばたばたーっと決まって、あとはちゃんとやるだけ……だったけど、そこからの作業は例によって大変でした(笑)。 |
■■ メッセージを読み解く話 | |
安田 | エッセンから戻ってきたところで、提携してやりますというのを大々的に告知したまではよかったんだけど。 以前8月末予定と書いたから、どんなに遅くてもJGCには絶対出す、というのを目標にしたんだ。 で、まあいろいろ実作業というか……、実際に見たら大判の本で380ページあって、しかも第3部がトロールワールドという世界観の説明でね。 |
―― | これまで一部しか紹介されていなかったトロールワールドが、今回初めて隅々まで書かれているんですよね。 |
安田 | そう。ルールの部分はこれまでのものがあるから、データが多少増えてもなんとかなるんだけど、後ろ半分くらいはやっぱり大変だった。 |
―― | 傍で見てるだけでも大変そうでした。 |
安田 | 翻訳は主に3人。昔やってた基本の戦闘や魔法関連は清松みゆきが、ワールドの新しいところを柘植めぐみ、残りのほとんどを僕が最初はやる予定だったんだけど、僕がなかなか忙しくて大変で、僕のサポート予定だった笠井道子がほとんどを訳してくれました。 笠井道子はこれまでずっと『ダークエルフ物語』をはじめ、いろいろ小説を訳してもらってゲームもわかってるからね。 あと新人として、翻訳慣れてないからアドベンチャーパートならできるだろうということで、通訳でもあるこあらだまりにも勉強してもらって(監修は柘植と僕)。 なんとか仕上げて、9月24日正式発売、JGC2016には100個先行発売することができました。 |
※実はインタビュー収録時点では発売日は17日でしたが、JGC2016直前の時点で、初回予約数が製造数をかなり上回り、急きょ増刷、公平を期すため発売日が一週間延期されて24日になったのでした。 JGC2016では、先行分が2時間で完売。古株のユーザーさんだけでなく、『T&T』を知らない世代の方にもたくさん足をお運びいただきました。お越しいただいた皆さま、ありがとうございました。 そのほか、T&TライブRPGや毎年恒例ドラゴンを倒せ! 等々、JGC2016関連のお話は、後日掲載予定のJGC2016レポートをどうぞお楽しみに! |
柘植 | 翻訳は当初、2016年3月くらいまでに下訳をあげる目標で、時期的にも余裕かなと思っていたんですが、蓋を開けるとギリギリになってしまいました。 |
―― | 文章が非常に独特だったとか。読む分にはすごく面白いんだけど、いざそれを翻訳するとなると難しい、と若手班が頭を抱えていた記憶があります。 |
安田 | そうなんですよ! |
柘植 | 普通のゲームのルールブックっていうのは、ゲームのルールが書かれているわけですけど、この『T&T』は著者であるケン・セント・アンドレからのメッセージのような文章なんです。 書き出しが「僕は~」とか「君は~」といったふうに、ケンが読者に話しかける感じで書いてあるので、文章の癖を把握するまではなかなか作業が進まなくて。 あと新しく付け加わったトロールワールド全図の地図帳には、世界の歴史と、それぞれの大陸のことや国や街のことなどが詳しく書かれているんだけど、街の部分が、彼らケン・セント・アンドレやリズ・ダンフォース、マイケル・スタックポール、"熊"のピーターズといった初期からの制作メンバーそれぞれが担当していて、各自がそれぞれの文章で書いているので、人によっては小説みたいに書いてあったりするんです。 |
安田 | どれもすごく個性的でね。スタックポールは、今は小説家でいろんな作品を出していて、『T&T』やフライング・バッファロー社とは直接の繋がりはもうなくなっているけど、こういった企画の時には喜んで書いてくれるみたい。 リズもイラストレーターさんなんだけど、RPGの世界では昔から有名な人で。 女性がほとんどいない頃に、彼女がわりとそういうシナリオとか作って、イラスト描いて、といろいろやっていて。世界設定も全部できる人で、おまけに美人なんですよ。 |
柘植 | そんな感じで、独特の文章も多くて、読む分には楽しいんですが訳すのは大変でした。 |
安田 | そうだね、今日遊んだピーターズのシナリオ(※インタビュー収録はJGC2016用テストプレイ日に行いました)も、クセだらけで面白いんですよ。「おまいらの報酬は死の女神レロトラーさまと海辺の別荘ですごす一夜だ。どうだスゴイだろう」みたいな(笑)。 |
―― | そこが『T&T』の魅力のひとつでもありますよね。 |
柘植 | 本の向こうに書いてる人たちの姿が見えるような作品です。 |
安田 | ジョークをやっても、日本で言う悪ふざけとちょっと違ってアメリカほら話風で、なんか楽しい。それを作品の中に盛り込めるんですよね。そのへんのセンスがすごく僕は好きです。 |
■■ 魅力と未来を語る話 | |
―― | 制作者が楽しんで作ってるぞー! というのが見える、というかあふれんばかりなのが『T&T』という作品ですよね。 そんなわけで発売することになった『T&T完全版』ですが、BOXの形態にしようと思われたのは何故ですか? |
安田 | 社会思想社版当時は文庫が最適で、それにまとまっていく形で進んできたけど、現在は逆に文庫や本の形のRPGが世の中にもうあふれかえって、あまりにも普通になってしまったから。 当時はゲームショップなんかも少なかったから、ゲームを遊ぶために必要なコンポーネントをまとめて入れることで、過不足なく遊べるようにしたのがBOXだった。 今回『T&T』は40周年だし、もともとクラシカルな一番最初のRPG的なことをやっている作品だから、本来必要なもの――ダイスやワールドマップ、マスタースクリーンなんかはもちろんなんだけど、最後に電卓も必要だよね、とロゴ入りのカード電卓も入れました。 |
柘植 | まさか電卓は実現するとは思わなかったですけどね。 |
―― | 電卓が必要っていうのは、『T&T』ならではですよね。 |
安田 | 冗談じゃなく本当に要るからね。必要ならやっちゃおうぜっていうところが、『T&T』的精神につながってるんじゃないかな、と僕は思ったのであえてやってみました。 これにあと鉛筆と消しゴムがあれば、すぐに『T&T』を遊べます。 |
柘植 | キャラクターシートも20枚綴りのものをちゃんと入れていますよ。 原作スタッフの人たちもSNSはチェックしてくれていて、日本語版のコンポーネント写真をアップした時にはすごく喜んでくれました。 |
安田 | 『T&T』って一種独特だよね。TRPGであってRPGでないような感じで、他に真似することができない作品なんだよ。 例えば『D&D』みたいな普通の正統的なRPGの形はずっと続いてるし常にあるけど、『T&T』はパロディだけじゃなく、本格的でありつつ、一歩違うところから遊べる感じになってるでしょ。 独特のカウンターパートとして常にあるんだよ。 |
―― | クラシックに遊ぶことも、ぶっとんだこともできる、幅広く遊べるシステムですよね。 |
柘植 | 社長がよくおっしゃるんですけど、『T&T』は制作メンバーが変わってないんですよね、初期からずっと。 |
安田 | そう、おじいさんになってもまだやっている。 だからといって昔のやつをそのまま続けてるわけじゃなくて、常に良いものは取り入れてるし、変更もしてるし、いろんな人の意見を聞いて常に変わっていってるんだよ。 |
柘植 | 今回のデラックス版は、おそらく彼らにとってもこれが最終的な完全版だろうっていう気がしますよね。 |
安田 | ライフワーク的にやってきたんだろうね。 今の人が遊んでも楽しくわあわあ盛り上がれるゲームは、40年間全然変わってないと思うよ。 |
―― | シナリオテストでひさしぶりに遊びましたけど、遊んだ感覚が全然変わってなくて、そうだよ、これが『T&T』だよっていう感じでしたね。 |
安田 | シナリオの導入なんかも、美味しい話には罠があるだろうって、普通なら避ける道だとしても、あまりにスゴくて請けなきゃ面白くないだろうってなる。 遊びをすごく楽しむっていうか、そこのところはずっと変わらないよね。 |
―― | あと、『T&T』はルールを好きなように改変してもいいよっていうスタンスなのも特徴の一つでしょうか。 最近はかっちりルールが決まったものが好まれてる気がしますが、『T&T』はその真逆を行く作品ですよね。 TRPGは自分たちでつくるゲーム、『T&T』はその原点に帰らせてくれる気がします。 |
安田 | 卓を囲んだみんなで、こういうふうにしたらもっと面白いんじゃないかっていうのを考えながら遊んでほしい。 きちっと決まったルールが好きな人にはいいかげんだと言われるかもしれないけど、逆にそこを好きにやれるのが楽しいっていうのを感じてもらえたら嬉しい。 あと、ルールブックには『アビスにて』というソロ・アドベンチャーがついているんだけど、これのすばらしいところは、一回死んだところから遊ぶようになってること。 一回だけ蘇る(かもしれない)という。トライは何遍やってもどんなキャラでやってもいいし、シナリオにも組み込むこともできる。一回死んだキャラが戻ってきたら「お前、アビス行ってきたんか」みたいにね。 |
柘植 | 最初、翻訳進めているときは、なんでソロ・アドベンチャーが死んだキャラの話やねんって思ったんですけど、セッションやってたら、ん、これ、当然だなって思うようになってきましたね。 |
安田 | シナリオは本格的なイーグル大陸のキャンペーンですが、これもまたとんでもないドワーフの話でめちゃくちゃ面白いので、ぜひ遊んでください。 |
―― | ルール自体はシンプルなのですごく遊びやすいですしね。 武具データとかはやたらマニアックなほど多いですが、イラスト付きでわかりやすいですし。 |
安田 | 昔も言われてたんだけど、『T&T』は読んでて楽しいルールブック。 今回もケンが親しく語りかける感じだけど、そうすると時としてルールの部分を忘れちゃうんで、こちらでサマリーシートを作りました。 |
―― | 分冊1の最後のページの、製品紹介でも掲載してるやつですね。 |
安田 | そう、わからないことがあったら、あれを参考にしてください。 ルールブックを読み物として読んで「あー面白かった、でルールってなんやったっけ?」ていうときにね。 |
柘植 | ホームページに載せちゃったんですよね。 |
安田 | こんな重要なやつ載せてもいいんか、ってなったけど、楽しんでもらえたらそれでいいかな、って。 |
―― | 昔の『T&T』を知ってたら、これだけでほぼ遊べちゃいますもんね。 そうそう、今回モンスターデータは人型メインで、他はあまり多くないとか? |
安田 | きっとケンがもう一回『モンスター!モンスター!』を書くんですよ。彼はやる気満々なんで。 なぜ『モンスター!モンスター!』なのかというのは、今回のケンのトロールワールド年表を見ればわかります。 実はモンスターは悪くなくて、レロトラーは可哀そうな人だったり、カーラ・カーンもすごい人たちなんですよ。 それは、昔のシナリオでもちゃんと設定してあって、『ベア・ダンジョン』なんかの地上階は、モンスターが悪者で襲いかかってくるんだけど、それを抑えてたヤツらもろくでもないやつらで、なんか妙な三者関係で面白い設定だったりするんだよ。 |
―― | 年表は、噂によるとめっちゃ記述偏ってておもしろいとか。 |
安田 | 普通年表なんかよっぽど好きな人しか読みたくないでしょ? でもこの年表は読んでたら、面白くて。年号なんかどうでもいいけど、流れがすごい面白いのでぜひ読んでほしいな。 |
柘植 | 年表すらも楽しいのが『T&T』です。 |
安田 | 今後は、冒険企画局さんでガイドブックも出ますし、サプリメントや小説のオリジナルアンソロジー、ソロ・アドベンチャーなど、これからの展開をいくつかは考えています。 あたま固くなって疲れたなって時に『T&T』で馬鹿なシナリオを遊んだら、RPGってまだまだこんな可能性があるんだって、きっと気付いてもらえると思うので、ぜひみなさん、楽しんで遊んでください。 |
―― | ありがとうございました! |
++ お知らせ ++ 現在、冒険企画局さんのTwitterで『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』用に『T&T』に関する思い出を募集しています。 ハッシュタグ #ttomoide をつけてぜひ奮ってご参加ください。 締め切りは9月8日の24時までです。よろしくお願いします。 https://twitter.com/Bouken_jp/status/769149177926262784 投稿された思い出話を読むだけでも楽しいですよ! https://twitter.com/hashtag/ttomoide?src=hash |