――: |
それでは『ボードゲーム・ストリート2011(以下、BGストリート)』の著者インタビューを始めたいと思います。よろしくお願いします。 |
安田: |
はい、よろしく。 |
笠井&柘植
&秋口: |
よろしくお願いします。 |
――: |
めでたく出版の運びとなった『BGストリート』ですが、前作『ボードゲーム・ジャンクション(以下、BGジャンクション)』に比べると、少しコンパクトになりましたよね。内容も、2009年後半から2010年にかけてのほぼ1年間に絞った形でボードゲームを紹介することになりました。 |
安田: |
まさか2冊目が出せるとは思っていなかったので嬉しいです(笑)。 |
――: |
といいますと? |
安田: |
まず、収録期間が1年ということ。これって、ボードゲーム自体の数がある程度なかったら紹介できないだろう? |
――: |
あ、それはそうですね。 |
安田: |
でも、あいかわらずいろいろと出てくれていて、そこは大丈夫だった。次にニーズかな。『BGストリート』の座談会でも取り上げたけど、日本でも専門店が増えたり、通信販売サイトのアマゾンで売られるようになったりして、ずいぶんボードゲームが手に入りやすくなった。じっさいに遊んでくれる人がたくさんいるから、こういった本も出せる。読者のみなさんには本当に感謝しています。 |
一同: |
(お辞儀) |
安田: |
でもよかったよ。ドイツゲームの紹介を十何年、『アクワイア』(注1)の頃からだともう40年以上やってきたけど、ちゃんと流れがこの方面に向ってきた(笑)。 |
――: |
そういえば『BGストリート』は『BGジャンクション』に比べて、さらに読みやすく、内容もわかりやすくなっている気がしました。 |
安田: |
ぼくは解説部分担当だから、文章は多少難しいかもしれないけど(笑)。とにかくぼくは、「すでにゲームを遊んでる人はもう一度遊びたくなる」「遊んでない人はぜひゲームを遊びたくなる」ものを目指しました。これはSFやRPG、TCGの紹介の頃とスタンスは変わっていないよ。 |
笠井: |
内容以外のところでは、文字を大きくして、余裕のあるレイアウトにしていただいています。前作では1ページに納めていたものを、2ページにしたりしていますよ。 |
――: |
ああ! そういえば掲載されている写真も大きいですよね。どうりで検索しやすかったわけだ(笑)。 |
――: |
それでは続いて、『BGストリート』の気になる内容についてお伺いしたいと思います。 |
安田: |
はい、どうぞ。 |
――: |
私、このインタビューを行うにあたって、前作『BGジャンクション』を見てみたんですよ。そうしたら、過去最高の「難易度8」と判断されたゲームが載っていたんです。それも2つも。次点の「難易度7」もたくさんありました。ところが、今回の『BGストリート』では、最高でも「難易度7」で、それも1つしかなくて(こぼれ話1:難易度と対象年齢)。 |
安田: |
お? 鋭いじゃないか。そこはいろいろと指摘されたところだよ。「この作品やあの作品が掲載されていませんが、まあ楽しい本ですね」とかね(笑)。でもぼくはね、『BGストリート』では、わざと難しい作品を少な目にしたんだ。 |
――: |
それはなぜでしょう? |
安田: |
まずボードゲーム自体が、もっといろんな人に広がって欲しいと思っている。難易度の高いゲームはプレイしているけど、なにせ時間がかかるからね。そういうのが好きな人は好きな人で、どんどんプレイされたらいいと思うんだよ。たとえば、ワインを作る複雑なボードゲームなんて、去年は2つも3つもあったりする。 |
秋口: |
僕とプレイしたやつですね(笑)。 |
安田: |
そうそう。はっきり言おう、ぼくはあれらも好きです。非常にいいボードゲームだと思う。でもね……しんどいんだよ(笑)。 |
一同: |
(笑) |
安田: |
2時間近くえんえんルールを説明してもらって、3時間かけてプレイする。やりますか? |
柘植: |
(ぽそり)やります。 |
安田: |
柘植はそうだろうなあ(笑)。ぼくだってね、時間があって一緒に楽しんでくれる仲間がいたらやりたいよ。 |
――: |
わ、わたしは正直辞退させていただきたいです(汗)。なるほど、だから『BGストリート』にはあえてそういった骨太すぎるゲームは掲載されなかったというわけですね。 |
安田: |
そう。そこは今回の特徴の1つだね。 |
秋口: |
あと、新しい要素がちゃんとあるのかどうかという点も大切ですよね。 |
安田: |
もちろんそう。複雑なゲームってね、似たようなものになっていくんだよ。データだけ細かくして、似たようなものをちょっと変えましたというような。「バリエーション」と「クリエーション」は違うんだ。でも今の時代、バリエーションが評価されがちでちょっとつらい。ぼくは、クリエーション、はっきりと新しいところがあるものが好きです。 |
――: |
何かキラリと光るものを感じた作品を選んで、紹介されているんですね。 |
安田: |
はい。ちょっと言い方は悪いけど、マニアと言われるような、すごくやり込む人はバリエーションでも全然かまわない。少し違っているだけでも嬉しいから。でもね、普通の人はそれぐらいの違いはどうでもいいんだよ。 |
――: |
めっちゃ納得してしまいました。 |
安田: |
あと、『BGストリート』の中やこのインタビューで、あえてボード・カードゲームファンや従来のRPG、TCGファンの人に言いたかったことが1つあるんだ。言わせてもらっていいかな? |
――: |
もちろんです。なんでしょう? |
安田: |
2010年、さらに2011年に入って、どんどんゲームの流れが変わってきている。このあたりは、従来の分野ファンだけの方も注目されるといいんじゃないかな。 |
――: |
ほう。 |
安田: |
今まで、ストーリーゲームの流れでRPG、そしてカードゲームの流れでトレーディング・カードゲームがあったよね。最近も、『ドミニオン』や『サンダーストーン』(注2)とか、カードゲームの新しい形が出てきている。 |
――: |
デック構築型/セレクトカードゲームですね。 |
「デック構築型/セレクトカードゲーム」は、数種あるカードの中から遊ぶ毎に使うカードの種類をセレクトし、その後ゲームを遊びつつデック(山札)を構築し、作り上げたデックのカードを使って他のプレイヤーと勝利点を競うというもの。 |
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安田: |
こうした流れを、別の大きな方面から見ると2つにわけて考えられる。1つはシミュレーション、RPG、TCGなどの流れをくむ「データ型ゲーム」、もう1つは「ドイツ型ゲーム」とでも言うべき、簡単でわかりやすくて、みんながすぐに楽しめるボード・カードゲームの流れ。ぼくは後者のドイツ型ゲームを新しい面白さだと、この10年ずっと言ってきたけれど、それが今、さらに加速してより新しい要素が加わってきているんだ。 |
――: |
さらに新しい……? いったい、どういったものになったんでしょう? |
安田: |
去年の夏にiPadが出たよね。それを遊び込んだとき、ぼくは「掴めた」と思った。パズルゲームの新しい流れが来つつあるんだよ。ストーリーとパズルが組み合わさった新しい電子エンターテイメントの流れが、ブレイクしはじめている。 |
――: |
パズルというと、クロスワードや絵合わせ、数独みたいなものですか? |
安田: |
そういった従来のものだけでなく、新しい感覚でストーリーとくっつくような形のパズルゲーム。これが、コンピューターゲームでも拡張しているんだ。とくにiアプリではすごく顕著。今回の『BGストリート』でもちらっと書いているけど。 |
――: |
冒頭の「2011年のボードゲーム界の流れ」ですね。 |
安田: |
それだけじゃなく笠井にも書いてもらった。でも、iアプリだけじゃない。アナログゲームと相関しだして、ボード・カードゲームでも、パズルと組み合わせたものが出はじめた。これから遊ぶんだけど(笑)。 |
柘植: |
『狂気の館(マンションズ・オブ・マッドネス)』(注3)ですね。 |
安田: |
書籍にもこの流れは来ている。iアプリに見られるタイムマネージメントを再現したような本が、ゲームブックの形になってヒットしたり。 |
――: |
タイムマネージメントといえば、時間内に効率よく動いて得点を獲得するタイプのゲームですよね。それが、物語を読んでいく感じで進んでいくんですか? |
安田: |
そう。それに、「脱出ゲーム」って知っているかな? 実際に身体を動かして行うライブのやつ。 |
――: |
はい、大好きです! ハマっています! |
安田: |
そうだった(笑)。SNEでも秋口くんや篠谷さん、ほかにも何人か参加しているよね。あれもパズル、イベント型のパズル解きだろう? でも、まだストーリー性が弱い。たぶんこれから、もっとストーリーが入ってくるよ。 |
秋口: |
ですね。 |
安田: |
つまり、ストーリーとパズルみたいな簡単なゲームが組み合わさったものが、これから1つの分野として拡がっていくと思う。 |
――: |
パズルの魅力を再発見といった感じですね。 |
安田: |
『BGストリート』でiアプリについても触れたのは、「1ジャンルだけでなく、すべてにおいてそういった流れが来ているんだよ」というのを意識してほしかったから。RPGファンはRPGだけ、ボードゲーム・カードゲームファンはボードゲーム・カードゲームだけでいい……そういったオタク・タコ壺型からの変化は始まりつつある、と伝えたかった。 |
――: |
ユーザーに他のジャンルや遊び方にも興味を持って欲しい、ということですか? |
安田: |
もちろん。『カルカソンヌ』や『チケット・トゥ・ライド』(注4)といった有名なボードゲームもどんどんiPadに移植されるようになっているしね。ぼくは、手軽で簡単なゲームだけがいいと言っているわけじゃない。いろんなものが発展し、それらが混ざり合ってさらに、新しいものになる'進化'を見て欲しい。それが、実はこの『BGストリート』で言いたかったことでもあるんだよ。 |
笠井: |
iPadについては今回、ウニ頭の番外編「ウニ頭が斬る」で書かせていただきました。 |
――: |
ああ、あの素敵なイラストの(こぼれ話2:1ページが3ページに) |
安田: |
ちょっと面白半分に書いているけど(笑)。 |
笠井: |
そんなことないですよ!(笑) 大真面目に書きました。 |
安田: |
うん、あの記事はすごく大事なことを書いていると思うんだよね。2つ意味があって、1つは、ボードゲームやドイツゲームがiPadのアプリに次々と入ってきているということの紹介。iPadでのボードゲームって、実際にもやりやすいし、ネットでもできるし、すぐみんなの前に出しても遊べる。 |
――: |
対戦も普通に行えますもんね。ネット越しなら手札とか相手に見えませんし。 |
安田: |
そう。でも、コンピュータ化するから元々のボードゲームが売れなくなるかといったらそういうことはないんだ。やっぱり人と直接遊ぶのも面白いからね。 |
一同: |
(うなずく) |
安田: |
で、もう1つが、iPadで流行っているゲームの紹介。今ではiアプリのメインと言える、ヒドゥンオブジェクト(絵の中に隠された物を探し出す、絵探しや隠し絵と呼ばれるタイプのゲーム)や、3マッチパズル(同じマークを3つそろえて消すゲーム)などのパズルが、ストーリーとくっついているゲーム。 |
笠井: |
iPadとボードゲームは本当に相性がいいですよね。 |
安田: |
おかげで今度は、iPadからボードゲームやRPGという流れも見え始めているんだ。タワーディフェンス(迫り来る敵をひたすら攻撃したり、いなしたりしつつ、自分や領土を守るタイプのゲーム)のボードゲームとか。『プラントvsゾンビーズ』(注5)っていうiアプリが、ボードゲーム化されるよ。 |
――: |
『BGストリート』にも紹介されていましたよね。すごく楽しみな展開になってきました。 |