秋口: |
実は、僕は今から『狂気の館(C・コニーチェカ作/Fantasy Flight Games社)』をプレイすることに、戦々恐々としているんですよ。リプレイを書くのがしんどそうだなって。 |
――: |
? どんな作品なんですか? |
安田: |
パズルをボードゲームに組み込んだ意欲作なんだよ。しかも、クトゥルフ! |
――: |
うわ、意外な組み合わせですね。 |
安田: |
海外のデザイナーたちはわかっているんだよ。あれはね、ゲームのタイプが全然違うから面白いんだ。iPadのアプリの中に、『パペットショウ』っていうよくできたストーリーゲームかつアドベンチャーゲームの流れを汲んだ作品があるんだけど、何が成功したかっていうと、グランキョニール(人形劇)風ホラーゲームに、関係のないヒドゥンオブジェクトを加えたからだと思うんだよね。 |
――: |
探し物ゲームが加わることに、そんなに意味があったんですか。 |
安田: |
遊んだらわかるけど、ヒドゥンオブジェクト自体はストーリーにまったく関係がない。でもね、そのちょっとした探し物ゲームをすることで、思考回路の切り替えができるんだ。ヒントもあって楽だし。そのうえ、結果として手がかりも手に入る。そのあとすぐ物語の本流に戻れるからいい。絵物語のみを、言葉探してずっと追いかけている昔のアドベンチャーゲームはしんどかった。 |
――: |
つまり、ヒドゥンオブジェクトが、ゲーム内の「箸休め」的な存在なんですね? 少しすることで気分がリフレッシュする。 |
安田: |
その通り! 探し物自体も面白いしね。探し物や間違い探しが好きな人は多いから、そこから発展したんだと思うよ。『狂気の館』も同じ。 |
秋口: |
なるほど。 |
安田: |
ボードゲームだけなら、『アーカム・ホラー(R・ローニアス&K・ウィルソン作/完全日本語版発売:アークライト)』の続編にしておけばよかった。『狂気の館』は化け物を捜してやっつけるのとパズルゲームとの取り合わせをしたかったんだろうね。だから、システムはあえて『アーカム・ホラー』を思い切って簡略化してしまったんだ。その取り合わせは、非常によくできているんじゃないかと思う |
――: |
いいアクセントになっているんですね。 |
安田: |
ミスマッチの楽しさみたいな感じ。ちょっとびっくりするよ。 |
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安田: |
『C&C』は新しい形のカードゲームなんだけど、ぼくはこの手のゲームのデジャヴ意識があって(笑)。 |
――: |
デジャヴと言いますと? |
安田: |
たとえば『ワンス・アポン・ア・タイム(Richard Lambert、Andrew Rilstone、James Wallis作/AMIGO社)』という、似たカードゲームがあるんだけど、こっちは判断基準がなくて、ただのしゃべくりゲーだった。『C&C』はそこに新しい要素が入っているんだけど、そっちはそっちで、別のゲームが思い浮かんでしまう。『悪魔城への馬車(Michael Palm、Lukas Zach作/Adlung-Spiele社)』という、結社と教団が対立する裏切りと推測が非常に面白いゲームがあるからね。 |
――: |
なんと。 |
安田: |
それで、秋口くんがそれらを超える面白いゲームを作ったと聞いて、「おお、きっとこんな感じだな!」と頭の中で想像してしまって、いざプレイしようとして、「あれ? これ何? 両方混じってる?」ってなっちゃったわけ。 |
秋口: |
『悪魔城への馬車』は非常に論理的ですからね(笑)。 |
安田: |
あのゲームの肝になっているのは、ストーリーをうまく組み立てて、それでどう判断してもらって得点するかではなくて、自分ひとりが勝つのか、みんなで勝ったほうがいいのかがわからなくて悩むところ。「みんなで協力すればこのままでたぶん勝てるな。だけど、これは自分だけが知っている事実じゃないか? ひょっとしたら自分だけが勝てるんじゃないか?」という、裏切りじゃなくて、「ひとり抜け駆け」か「みんなで勝つのか」のジレンマがいいんだ。ちょっとルール的にうまく説明できていないところはあるけどね。 |
一同: |
(笑) |
――: |
で、『C&C』はそういう論理ではなかった、と。 |
安田: |
そう。それで「あれ?」と(笑)。たとえばぼくが『C&C』をプレイすると、誰が敵か、誰が味方か、常に論理的に探ることが楽しみになる。でも、もっと面白い答えを言う人の方が、もっと楽しくてみんなと騒げるだろう? そうすると、なんだか取り残されたような妙な気になっちゃうんだよ。 |
――: |
『C&C』は、みんなでわいわい楽しむというのが主目的のゲームですからねえ。 |
安田: |
ぼくも楽しむのは大好きだよ。でも、最初はそこを勘違いしてプレイしちゃったから(苦笑)。こういう間違いをしてしまうのは、古くからがっつりした論理ゲームをやって来た人たちだろうな。で、「まあ、面白いんじゃないですか?」という評価になる(笑)。 |
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注1)
『アクワイア(シド・サクソン作/Hasbro社)』
ホテルチェーンを経営し、もっとも資産を増やしたものが勝つゲーム。まさに近代経済社会の縮図。株券を買い、ホテルの合併と吸収(M&A)を繰り返して、資産を上昇させる。シド・サクソンの代表作で、半世紀経った今でも色褪せない傑作。
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注2)
『ドミニオン(ドナルド・X・ヴァッカリーノ作/日本語版製作・販売:ホビージャパン)』
『サンダーストーン(マイク・エリオット作/安田均、柘植めぐみ訳/完全日本語版発売:アークライト)』。
どちらも、デック構築型セレクトカードゲームの代表というべき作品。 |
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注3)
『狂気の館(C・コニーチェカ作/Fantasy Flight Games社)』
インタビュー中に説明があったが、ホラーテイストのボードゲームで、謎解き部分にパズルを組み込みゲームを成立させている意欲作。GMとプレイヤーで明確に立場を分けて遊ぶ。アーカムの町で起こった怪異を解決するべく、キャラクターは狂気に侵された館へと入ることになる。
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注4)
『カルカソンヌ(クラウス=ユーゲン・ヴレーデ作/Hans im Gluck社)』
『チケット・トゥ・ライド(アラン・ムーン作/Days of Wonder社)』
どちらも、ルールもわかりやすく手軽に遊べるけれど奥深い、名作ボードゲーム。 |
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注5)
『プラントvsゾンビーズ』
iアプリで人気のタワーディフェンスゲーム。迫りくるゾンビの群れを、育てた植物(プラント)で撃退しながら耐える。 |
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注6)
『ロンドン(マーティン・ウォーレス作/MAYFAIR GAMES社)』
カードだけでロンドンの都市の発展を表現したボードゲーム。取ってきたカードを重ねることで建物の上に建物を建てる感覚と、他人が捨てたカードを拾って使う構図が面白い。ロンドンの歴史さえ感じさせる作品。 |
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注7)
『オートモビール(マーティン・ウォーレス作/MAYFAIR GAMES社)』
19世紀末から1930年代の米自動車産業をモチーフにしたボードゲーム。プレイヤーは有能な人材を選んで工場を建設し、営業マンに車を売らせて自社の利益を上げていく。時代の流れを感じつつ、新車を開発したり、古い工場を取り壊したり。中級車や大衆車の需要が毎回変化するのがポイント。 |
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注8)
『エンデバー(C・d・ヴィセール&J・グレイ作/Z‐MAN GAMES社)』
『コミュニ(アッチトッカ作/TENKIGAMES社)』
『シップヤード(ウラディミール・ズッキ作/CZECH GAME EDITION社)』
『ヴァスコ・ダ・ガマ(パオロ・モーリ作/WHAT'S YOUR GAME社)』
いずれ劣らぬ重量級ゲーム。すべてが難易度5以上かつプレイ時間90分以上という、骨太なゲームたち。アドバンスト・ストラテジーゲームに分類されているのは伊達じゃない。詳しくは、ぜひ『BGストリート2011』を参照してください。 |
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注9)
ライナー・クニツィーア
ドイツのゲームデザイナー。代表作は多すぎて大変。『ラー』『サムライ』『モダンアート』『ロード・オブ・ザ・リング』。最近なら『ホビット』なども。 |
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注10)
フリーデマン・フリーゼ
髪を緑色に染めていることから、緑の怪人と呼ばれることもあるドイツのゲームデザイナー。代表作は『贋金作り』『電力会社』『ファウナ』。最近なら『トリックテイキング名人』『ビール侯爵』なども。 |
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注11)
『手抜き工事(H・ビルツ、P・グートブロット、R・クレーン作/Fun Connection社)』
粘土細工で建物を作るのだが、土台を入れずに建築することができ、コストを浮かすことができる。ただし査察官による検査(探り棒を粘土に突き刺す)で土台を入れていないことが発覚すると、建物は取り壊されてしまう。わいろなどを駆使し、いかに低コストで建物を建てるかが勝負の決め手。 |
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注12)
『1830(フランシス・トレシャム作/Avalon Hill社)』
鉄道ゲームの最高峰。この一言に尽きる超骨太なゲーム。プレイ時間が240〜360分と尋常な長さでないが、好きな人にはたまらない魅力を放ち続けている。プレイしていると、歴史や経済まで自然と勉強できてしまう、そんなゲーム |
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注13)
『キャット&チョコレート(川上亮作/Qvinta Essentia)』
幽霊屋敷をテーマにしたカードゲームで、プレイヤーは2つのチームのいずれかに属し、個別に屋敷を探索する。プレイヤーが使えるのは、「猫」「チョコレート」などアイテムの書かれた3枚の手札のみ。幽霊や生ける屍の襲撃、崩壊する床などのアクシデントを、指定枚数の手札を見せ、それらを使っていかに危機を乗り越えたかを説明する。説明を聞いて助かったかどうかを判定するのは、残りのプレイヤーたち。アイテムとあとは度胸と口八丁で乗り切るゲーム。 |
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注14)
『世界の七不思議(アントワイン・ボーザ作/REPOS PRODUCTION社)』
プレイヤーは1つずつ文明を担当し、それを発展させて得た勝利点を競う。手順となるルールは至ってシンプルで、各時代を表すカードの束が隣から回ってくるので、中から欲しいカードを1枚引いて、次のプレイヤーへと回すだけ。あとは得たカードを全員で一斉公開し、効果を発動させて得点をゲットする。人数が増えてもプレイする時間は変わらず短いままなのが魅力。シンプルなれど奥深い。2010年注目の作品。 |
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注15)
『人狼(フィリップ・D・パリエール他作/Lui‐Meme社)』
村人の中に紛れた人狼を見つけ出し、追放しなければ、村人が毎夜毎夜食い殺されていく。誰が敵で誰が味方か。村人ならば人狼の追放が、人狼ならば村の壊滅が目的となる。ネットでも人気が出て、多方面ですっかり有名になったゲーム。 |
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