2018年10月末、はるかドイツはエッセン市。ボードゲームの祭典である「Spiel 2018」、人呼んで「エッセン」が今年も開かれました。この36年の歴史を持つイベントに、グループSNEのメンバーがボスを筆頭に参加。最先端のゲーム事情に触れてきました。 一方、過去1年のゲーム事情を総括するのが『ボードゲーム・ストリート』。11月には2018年号が発売されました。2017年のゲームの紹介やそれらについて語る座談会、R&R掲載コラムなど、ボードゲームを様々な角度から取り扱う一冊です。 今回のエッセン参加、そして『ボードゲーム・ストリート2018』の魅力。この2つについて、アナログゲームと走り続けて30年の安田社長、数々のボードゲームの制作・翻訳に携わってきた柘植めぐみ、海外経験豊富で通訳を担当するこあらだまりの3人に語ってもらいました。お相手は、よく手番が長いと言われる笠竜海です。 |
2018年12月 記事作成:笠 竜海 |
●エッセンシュピール2018 |
|
一同: | よろしくお願いします。 |
――: | まず基本的なところからで申し訳ありませんが、エッセン……「SPIEL」は、世界的なアナログゲームの見本市、という認識でよろしいでしょうか。 |
安田: | うん。ボードゲームに関して言えば、世界最大の見本市。TRPGだとGen Conのほうが大きいね。 アメリカのGen Conが8月で、10月はこのドイツのエッセンでのSPIELだからね、間に熱海でTRPGフェスティバルもあるし大変だよ。 |
――: | お疲れ様です。今年は行き来は比較的順調だったようですが。 |
安田: | なんの話や(笑)。そう、確かに例年は何かとハプニング(注1)があるけど、今年は平穏だった。それはさておき、今回は4日間ブースをやらせてもらって。冒険企画局さんにはいつものようにお世話になりました。さすがに疲れたので1日は、ケルンに観光に行ってたけどね。 |
こあらだ: | 大聖堂(注2)、綺麗でしたね。 |
安田: | うん、というような脇道にそれてばかりではいけないよ。(ゲーム棚を指して)ここにバーンとあるように、その新作がずらっと! めでたく来ました、と。 |
柘植: | 事前に公開されていた新作は1200ほどでしたけど、そこにないのも一杯あって、結局1400はありましたよね。 |
安田: | それを一挙に見る、というのは4日間あっても無理なんであって。そもそも人気のあるゲームは売り切れてしまう。その人気を煽るようなスカウトアクションという仕組みもあるし。出口調査みたいに人気投票して、またみんなわっと買いに行くんだよね。 とにかく1400個のうち、傑作は5%から10%だろうということで、まあ140個は運べないんで、とにかく70個は確保しよう、と。目をつけてたのは大体買えたし、話題作ででかいのは日本でも出るからね。最近は、同時に出たりとかもある。 例えば、うちのブースの正面でやってた『テオティワカン』。あれは1日で売り切れましたね。日本でも、もう先に出たのかな。かと思えば、1年かけて慌てず騒がず売ってたりするものもある。 |
――: | 流行り廃りとかもあるんですかね? |
安田: | そういうのもあるけど、話題作りがうまいところや、コアなゲーマーに受けるものがやっぱり人気になるからね。要は、今年の話題作とか聞きたいんでしょう? |
こあらだ: | もちろんです。 |
安田: | 毎年、新しい流れはあるんですよね。去年は火星、『テラフォーミング・マーズ』とか、SF的なものが多かった。 |
柘植: | 『パルサー2849』とか、『サイズ』とかもですね(注3)。 |
安田: | 今年は何が新しいのかを探すと、「ミステリー」と、ペンで書き込む「紙ペンゲーム」、と、前に成功したゲームや、従来の形式のゲームの「シリーズ化」、これが大きいところじゃないかな。 書きこむのは『パンデミック:レガシー』とか、レガシーとつけた一回性のゲームが広がってきたじゃないですか、『テストプレイなんてしてないよ:レガシー』(注4)はいち早く目をつけてたけどね。それからさらに発展したと見ることもできますね。 ミステリーも、謎解きゲーム、リアル脱出ゲームなんかの流れがあって、謎は解けるようになってて、それでストーリーを進めていくというのが出てきた。それで面白かったのが、『ゲーマー殺人事件』! |
一同: | (笑)。 |
こあらだ: | これ、パッケージも面白い。エッセンの会場みたいですね。 |
安田: | この『Gamer Over』は、謎とストーリーが中心のミステリーゲームだね。早く遊びたい。それと、いちばん笑えるのが、これ『My little Scythe』。なんとあの『サイズ』の子供版。シリーズですよ! |
柘植: | 確かに動物も連れてたけど(笑)かわいらしい動物の勝負になって。 |
安田: | あの恐ろしい殺戮マシーンを乗り回す『サイズ』が。どういうこっちゃねん(笑)……というふうにきりがないですけど、ぼくらが一番面白かったのは『四国』ですね。四国出身の西岡君が見つけてきた。どんなうろんなゲームかと思ってやってみたら、巡礼がテーマでちゃんとしてる。システムも変わってて面白い。結構大事な、一般性を持ったゲームになってますね。 |
――: | 一般性、ですか? |
安田: | 今はすぐに遊べて、みんなでワイワイ楽しめる、っていうのが期待されてるんだよね。パーティーゲームって言うやつだけど。いや、僕はもっとゲーマーズゲームも広まって欲しいから(笑)両方を紹介していきたい。『ボードゲーム・ストリート』でも書いたけど、一方では『ヴィクトリアン・マスターマインド』もいいよ。 こちらはゲーマーズゲームです。 |
――: | そうですね。スチームパンクらしさの溢れたアートワークと楽しいフレーバーも魅力的ですが、やること自体はシンプル、自分の戦略をあれこれ試せるという、まさにゲーマーズゲームですよね。お届けするのが楽しみです。 SNEもそうですが、海外のゲームを日本に紹介する、というのはよく聞きますが、その逆。日本のゲームを海外に、というのはどうなっているのでしょう。確かSNEでもゲームを持って行ったんですよね? |
柘植: | ブースでは『ドワスレ』や『アニマルマインド』など、シンプルで盛り上がるゲームをドイツのみなさんに遊んでもらいました。 |
こあらだ: | 販売メインというよりは、こういうのがあるよと見せてコミュニケーションをまずしよう、という紹介でしたね。メーカーの方に、このゲームを出すのはどうかと言ってみたり。 |
安田: | そちらの方は、ジャパニメゲームズ(注5)さんとかね。黒田尚吾君の『ヘルヴィレッジ』が今度、出ますんで。 でもジャパニメゲームズさんは大変ですね。昨日聞いたんだけど、エッセンで泥棒が出て、100万円も盗まれたって。去年そういうことをされた会社が、その事件をゲームにして。がんばってもう一回稼いだという話はあるけども、笑い話で済むことじゃないからね。気をつけなきゃいけないな、残念だなあと思います。 RPGの方で言うと、イタリアから『ソード・ワールド2.5』の版権申し込みしたよ、という人が表敬訪問に来てくれて。うまくいくといいなあ。 |
――: | そういえば冒険企画局さんも、RPGが中心ですよね。 |
安田: | 冒険企画局さんは、日本のRPGを世界に広めようってことで、ブースではRPGを主にやってらして。僕達はむしろボード・カード中心に商談のお話をして、と。考え方は違いますが、一緒にやらせてもらってます。ヤポン・ブランド(注6)さんやオインク・ゲームズ、ホビージャパンさんも熱心にデモしてらした。 日本はそんな感じですが、最近は一国でまとまってやるのが目立つかな。韓国とか、スペインとか、フランスとか。 |
こあらだ: | あと、インドネシアとか。共同で大きなブースを借りて、それをみんなで使うやり方ですよね。村みたいになってる(笑) |
――: | やはり色々なブースがあるんですね。 |
安田: | お祭りとしての一面もありますから、すごいのもありますよ。船が出るぞー、とか。 |
――: | 船? |
柘植: | 地中海がテーマのゲームがあって、その宣伝としてやってたみたい。女王みたいな扮装した人もいて、船を漕ぐみたいにねり歩いてたよ。 |
安田: | 突然やると迷惑だから、何時にやると先に言って、ね。あれもまあお祭りの山車みたいなもんだよね。 何より一番驚いたのがね、クニツィアさん(注7)がふらっとブースを訪れてくださって。ヒトシ、どんなゲーム作ってほしいって言われて。 |
――: | あのクニツィアさんですか! |
安田: | そう! 急いで考えて、謎解きゲームとかどうでしょうと言ってみた。そしたらウン、考えてみようって言ってくれて。楽しみにしてます。 ほんとうに楽しいところだし、来年はきみも来たまえ。 |
――: | はい、楽しみにさせていただきます。 |
安田: | 問題はだね、これから買ってきたゲームを遊ぶのが大変で。来年の流れを見る時期なんで、ワクワク、ドキドキ、ああしんど、というのが本音です。実際秋から春にかけて、エッセンだけじゃなく各国でたくさんゲームフェアがあるし。英米系は夏。それにゲームマーケットもあって、おかげで一年中忙しいです。ゲームファンにとっては天国のような状況ですね。 |
注1:これまで「ドイツ国鉄がストライキ」「乗った列車で火災発生」「1人がパスポートを無くし、あわや帰国不可」などのハプニングに見舞われる。 注2:ケルン大聖堂。ケルンにあるゴシック様式の大聖堂。世界遺産。 注3:それぞれ企業による火星開拓、恒星規模の外宇宙開拓、巨大メカのある架空戦史をモチーフとしたゲーム。 注4:大人気『テストプレイなんてしてないよ』の拡張、第2弾。2012年発表。日本語版が弊社より新春発売予定。 注5:日本のコンテンツをゲームの形で展開するアメリカの企業。 注6:こちらは、日本ボードゲーム界から海外への展開を目的とした会社。 注7:ライナー・クニツィア。ドイツゲームの大家。代表作『メディチ』『モダンアート』他多数。 |
●ボードゲーム・ストリート2018 |
|
――: | そうして1年間遊んだ成果が、この『ボードゲーム・ストリート2018』であると。 |
安田: | そうそう。これもエッセンの直前に終わったんだよね。Gen Conから帰って、間にTRPGフェスティバルもあって遅れましたが、なんとかがんばりました。 今年から出版がグループSNEになりました。これまで7年間、新紀元社さんに出して頂いてたんですが。10年たったころにまとめたのを出したいというお話で、それなら2018、19も出さなきゃいかんやろと思ったので。この2年はSNEから出します。 というのも、2010年頃から急速に発展してきた日本のボードゲーム界。その年に何があったか、どういう流れになってるか書いておかないといけない。2010年にそれまでの10年をまとめた『ボードゲーム・ジャンクション』を出しまして、それからずーっと出てますからね。まだ在庫あると思うので揃えていただければ、21世紀のボードゲームの発展史の全体がつかめます! |
――: | なるほど。ターゲット層はやはり熱心なゲームマニア、ですかね? |
安田: | というよりも、ボードゲームというものは、最初に気付いて面白くてわーわーとやっていて、熱心になるにつれて他にも面白いもんがあるぞと気づいて。そうなると、なにがあるかという情報が絶対欲しくなるんですよ。そういうときに、この本をお手に取っていただければ。 あとは、ゲームカフェの方々。やはり色々取りそろえていかないとですから、参考にしていただければお役に立てると思います。残念ながら全部を入れるというわけにはいかないんですが、まあおかしなのは選んでないんじゃないかと。僕も20年以上やってきたので、ここは信用していただけると有難いです。 |
柘植: | 本当に色んなゲームを入れてますからね、クドそうなゲームから初心者向けのゲームまで。日本でゲームに関してこうしてまとめているものは、本当に貴重だと思いますね。 |
――: | で、実際本を見てみると、もう表紙からそれらしい。 |
安田: | これはねえ、毎年平尾リョウさんと話し合って、その年を代表するゲームを題材にしてもらってます。今年は『アズール』(注8)でしょうと言ったら、喜んでやってもらえた。例年のを見ていても面白いゲームがたくさんあります。 そういう面白いゲームを探して、我々がやってほしいゲームをお薦めしあってみたり。あと笠井さんのコラム、「ウニ頭でもできるもん! 」もありますね。わいわいできるコミュニケーションゲームを、非常にうまく書いていただいてます。 (ページをめくっていく) あとその年の目立ったトピックについても書いてるんですが、今年はアジアが面白いんじゃないかっていうことで、秋口君に北京・台湾のゲームイベントのレポートをしてもらってますね。その辺は今の流れとして興味深いんじゃないかなあ。北京ではミステリー・ロールプレイが流行りだしてるとかね。さっきの『ゲーマー殺人事件』もそのタイプのゲームだったし、世界中がクロスオーバーしてますね。 |
柘植: | ボードゲームカフェの記事もあって、全国のお店のリストアップが目玉です。 |
安田: | こういうのを紙でまとめたものがないということで、誰かがやるべきかなと。 |
こあらだ: | お近くのお店を探すのに便利ですね。こうして見ると、北海道から沖縄まであるんですね……なのに広島県にはない(注9)! |
安田: | ショップさんはあるけどね。まあ、どこかにはあるかもしれない。 |
柘植: | ほかにも、面白いポッドキャストの漫画を描いてもらったり、色々と新しいものを入れていくようにしていますね。 |
安田: | いや~、ホンネでいうと、これ、来年も作らなきゃならんのか。大きな賞が出てからになるから、夏の後ぐらいがいいんだけど。 (既刊を見ながら)奥付を見たら、面白いね。ほら、これが7月、翌年が8月と、だんだん後ろにズレてって。今年は11月でしょう。来年は12月で、再来年は翌年のと合併とか(笑)。ごめんなさい、冗談です。 |
柘植: | 晩夏が目標ですよね。頑張りましょう。 |
――: | 他にもアプリを使うアナログゲームについてとか、SNEゲームコンテストとか…… |
安田: | SNEゲームコンテスト。これはお話しておかなければ(注10)。遅れてしまいましたが、第3回の入選作『死盤遊戯』が今度出ますよ(12/14現在、好評発売中です)。『なかぬき♥パラダイス』『妖精パーティ』もそろそろですね。今年は制作に大変だったからコンテストは1年お休みしたけど、来年はやりますよ。 |
こあらだ: | コンテスト受賞作は、エッセンでも喜んでもらえていますからね。世界に通じるゲームですよ。 |
安田: | おかげ様でオリジナルや翻訳も、軌道に乗ってきました。 |
――: | 有難い限りですよね。それでは、そろそろ結びのひとことをお願いします。 |
安田: | はい。さっきも言いましたが、今は、いい時代です。面白いゲームがたくさん出てます。『ボードゲーム・ストリート』でもいいものを紹介していると思いますので、参考にして遊んでください。僕らも、頑張って遊びます! |
――: | (笑)、ありがとうございました。 |
注8:美しいタイルを並べ、得点を競う。2018年ドイツゲーム大賞受賞 注9:こあらだまりは広島出身。その後、めでたく出来ました。やっぱり広がってる! 注10:第3回コンテストについて |
← 「著者インタビュー」トップへ |