GM |
さて、それから数日が経った。親父の乗っていた船は、頻繁に君たちの縄張りである近海に現れて、そのたびに生ごみや廃液を垂れ流していく毎日だ。それを見つけることができた時にはマリン・スノーのテレキネシス炸裂でごみの返品に成功してはいるものの……。 |
マリン |
でも廃液だけはどうしようもないですねえ。 |
フーバー |
うー、なんてタチが悪い。海を汚すなど最低の行いですな、今年のニョモニョモ手先大賞に決定です。 |
プレアデス |
なにそれ。 |
GM |
ほかのイヤガラセとしては、縄張りにウツボの群れが追いこまれてきたり……。 |
ホクト |
ウツボ? オレ大好物なんすけど。……あの親父、もしかしていい人?(笑) |
ルシーネ |
海を汚すのは悪い人だよ! |
GM |
そういうのが2、3日続くんだけど……めげないね、君ら。 |
ホクト |
ウツボで栄養つけてるし(笑)。いや、真面目な話、そろそろ対策を考えようじゃないか。 |
GM |
今まで考えてなかったんかい。 |
ホクト |
いや、ウツボを食うのに夢中で……じゃなくて。みんなでイヤガラセをしている船の後を追いかけてみるってのはどうかな。どこから来ているのか確かめたいし。 |
ルシーネ |
うん、そうだね。ルシーネはお父さんに話を聞いてみよう。お父さんも海を守る仕事をしてるから、何か知ってるかも。 |
GM |
じゃあ、ルシーネのお父さんは夜には家に帰ってきているよ。夕御飯の後にでも話してみるかい? |
ルシーネ |
うん、そうする。お父さん、お父さん、お話ししてもいい? |
GM/お父さん |
「うん、なんだい、ルシーネ」 |
ルシーネ |
かくかくしかじかと簡単にクリスのお父さんの話をして……もう人間はイルカのみんなを追い出してまで、海に住むしかないのかなあ? |
GM/お父さん |
「そんなことはないよ、ルシーネ。お父さんたちもあの企業のことについては色々と調べているんだが……」とお父さんは少し困った顔をする。 |
ルシーネ |
なあに? 何かあるの? |
GM/お父さん |
「じつは、この海の地下には油田があるらしくてね、リターナーの企業はそれを狙っているみたいなんだよ」 |
ルシーネ |
油田? この海の下に? |
GM/お父さん |
「そう、海底油田だ。もう人間たちは自分の手の届く範囲の始源を掘り尽くしてしまった。鉱石なんかは月やいろんな場所からの採掘で間に合わせることができるし、エネルギーも太陽電池や核融合でなんとかなる。だけど、プラスチックなんかを作ろうとすれば、石油は必須だからね。だからここの海の底に眠っている油田がどうしても欲しいみたいなんだ」 |
ルシーネ |
石油ってどうしても必要なものなの? |
GM/お父さん |
「難しいね。人間が贅沢をしようと思わなければ、もしかしたら必要ないものなのかもしれない」 |
ルシーネ |
ルシーネ、そんなものはいらないよ? |
GM/お父さん |
「そうだね、でも〈ルカー〉の修理には時折必要になるよね。ルシーネがいらないと思っていても、じつは気づかないうちにそれに頼っていることだってあるんだよ」 |
ルシーネ |
……うー。油田とかいうのを出して、しかもみんなで仲良く暮らすことはできないの? |
GM/お父さん |
「うん、ほんとうはそれが一番いいね。お父さんは時間と手間をかければできることだと思う。だからお父さんたちは、そうしてくれるように頼んでみるつもりだ」 |
ルシーネ |
うん。 |
マリン |
……ということは、僕たちがその油田の採掘権を握っているわけですから、うまくいけばもっと財産を増やして、もっとたくさんのテレビチャンネルと契約ができるかもしれないということですね。 |
ホクト |
商売すんな。 |
プレアデス |
しかも希望がみみっちい。 |
フーバー |
私としては、海が汚れる可能性があることを許すわけにはいきませんなあ。 |
ルシーネ |
あ。もしかして、油田がないことがわかればあきらめてくれるんじゃないかな? |
GM/お父さん |
「うん、多分ね。リターナーの企業は、あるという確信をもっているから、油田があるとはっきり公表されない今のうちに、イルカたちから海の権利を安く買い叩こうとしているみたいだけれど」 |
ルシーネ |
ううう、人間って汚いなあ。 |
GM |
というよりも、リターナーの人たちは、基本的に人間とそれ以外の生き物が対等であるという考えに慣れていないんだ。今まで一生懸命に地球を守ってきたイルカや犬やサルや象たちの姿を見ていないせいかもしれないけど。 |
ルシーネ |
うーん。 |
GM/お父さん |
「ルシーネ、リターナーの企業の人たちとの交渉は、お父さんやイルカたちのリーダー・ポセイドンに任せておきなさい。お前と若いイルカの友達は、それがまとまるまで海を守っていてくれるね?」 |
ルシーネ |
うん、まかしておいて! |
プレアデス |
……ということは、まずはイヤガラセをしにくる親父の船を壊してしまえばいいわけだわさ。マリン・スノー、通販でドリルを買っておいで。 |
マリン |
わかりました。10日から2週間ほど時間をください。申し込み用紙を書きます。 |
フーバー |
それでは間にあいませんな。他に役にたつ商品は買ってないんですか。 |
マリン |
この、高枝用植木はさみはどうですか? 15メートルの高さまでの植木を切ることができるんですよ(笑)。 |
ホクト |
役にたつかい! |
マリン |
『水中爆破』の技能ならあるんですどねえ(笑)。 |
GM |
ドリルで船底に穴を開けると、さすがに犯罪だぞ。向こうのイヤガラセは、一応犯罪ぎりぎりの線で止まってるんだからな。 |
プレアデス |
他人の名義の海に生ごみや廃液まき散らかすのがぎりぎりなのかねえ。 |
GM |
……などと君たちが海を守る決意を新たに固めたその次の日。例のイヤガラセの船は珍しく姿を見せません。 |
ルシーネ |
あれ? |
ホクト |
あきらめたのか? |
ルシーネ |
お父さんたちと企業の交渉がうまくいったのかな? |
プレアデス |
いや、これは奴等の準備期間と思ったほうがよさそうだわさ。ひどい嵐の前ほど、波は静かなもんだから。 |
ホクト |
むう。 |
フーバー |
なんだか不気味ですなあ。 |
マリン |
久しぶりにビデオのチェックができていいですけどね。 |
GM |
そして、次の日。まだなにも異変はない。 |
ホクト |
……これは相当大きな嵐と見たほうがよさそうだ。 |
プレアデス |
夜襲でもかける気かねえ。 |
ルシーネ |
イヤガラセ船の様子を身に行ってみようか。何度か後をつけたから、どこが本拠地かわかってるよね。 |
GM |
うん、リターナーの企業が開発したリゾート用ホテルの近くにある港だ。もちろん、油田を狙う企業の造ったホテルで、お客第一号も彼らなんだけど。 |
ホクト |
ホテルなんか造ってる暇あったら、住宅造らんかい! |
GM |
で、君たちが様子を見に行くと……船はない。 |
ルシーネ |
あれ? どうしたんだろう、イヤガラセしにきてる様子はないのに……。 |
プレアデス |
もしかして、こっそり油田を掘りにいった? |
GM |
船はないけれど、そのかわり港の端で、杖をついた金髪の少年が漁師さんに必死に何かを訴えかけている光景が見えるよ。 |
ルシーネ |
あ、クリス! 大きく呼びかけて手を振ろう。クリスー! |
GM |
「ルシーネ!」クリスはすぐに気がついて、君たちのほうへ駆けてこようとして……転ぶ。 |
ルシーネ |
ああ、危ない! 助け起こそう。 |
GM |
クリス少年は転んだ痛みなど感じないかのような必死な表情になって、ルシーネにすがりついてくる。「大変なんだ、お父さんが帰ってこないんだよ!」そう悲鳴のように叫んで、真っ青な顔をしてるよ。 |
ルシーネ |
うん、おじさんが乗ってる船が見えないから、どうしたのかなって思っていたところだったの。何があったのか、順に話してくれる? |
GM |
「うん」クリスくんはそう言うと、大きく息を吸いこんで話しはじめる。実は、クリスくんは君たちと別れた後、お父さんの仕事を自分が止めさせることができないかわりに、一つだけ約束ごとをしていた。クリスくんなりにお父さんを説得していたわけだ。その約束の内容は、夜には必ず家に帰ってくること。イヤガラセをするなら正々堂々とやってくれってね。 |
ホクト |
ふむ。夜襲や夜間のいやがらせをクリスが止めさせていたわけだな。……なんかちょっと説得の方向が間違っている気がしなくもないが。 |
プレアデス |
でも、そのおかげで夜はゆっくり休めて、気力を充実させて対応することができていたからねえ。 |
GM |
今までその約束を守って、必ず夜には家に帰ってきていたのに、昨夜から帰ってこない。クリスくんはお父さんが約束を守っている限り、こっそり遊びに行かないという約束をしていたんだ。だからここしばらくは、ルシーネたちに会いに行かなかった。 |
ルシーネ |
うんうん。約束守ってたんだね、えらいぞ。 |
マリン |
お父さんがどこにいったかの手がかりは何かないんですか? |
GM |
クリスくんは考えこんで……「そういえば、お父さん『こうなったら少しくらい強行手段もやむをえまい』って恐い顔をしながらつぶやいてた。それで、僕の大嫌いな仕事仲間の人と、何かを相談して出ていっちゃったんだ。なにか、2人で地図のようなものを見てたよ。仕事仲間のおじさんは、お父さんに『ここに行ってみろ』とか命令してたみたいだ」 |
フーバー |
不穏な匂いがしますなあ。 |
ルシーネ |
クリス、それどこの地図かわかる? |
GM |
いや、彼はここの地理に詳しくないからわからない。けれど、何か嫌な予感がしたから、隙を見てそれを写しておいたそうだよ。 |
ホクト |
よし、でかしたぞクリス! |
ルシーネ |
見せて見せて。 |
GM |
はい、どうぞ。頑張ったんだろうけど、お世辞にもわかりやすい地図とは言えないね。地元の漁師さんにも見せて、ここに行ってくれって頼んだんだけど、よくわからないからって断られてた。 |
プレアデス |
そこにうちらが来たわけだね。 |
GM |
さ、ピンと来るかは《地域知識》マイナス4で判定してくれたまい。 |
プレアデス |
(ころころ)……わからん。 |
マリン |
(ころころ)これではちょっと……。 |
フーバー |
(ころころ)さっぱりですなあ。 |
ホクト |
(ころころ)おお! 《導き手》の面目躍如! 3成功! |
GM |
じゃあホクトにはわかった。これは多分沖のほうにある、幽霊岩のあたりだね。 |
ホクト |
……だと思うぞ。形が似てるし。 |
GM |
そのあたりには昔の軍艦が沈んでいるんだ。数百年前のだけどね。その中からは、夜になると光が漏れてきたり、あやしげな音がしたりする。本当に幽霊がいると信じられてるわけじゃないけど、やっぱり不気味だし、誰も近寄らない。釣りの穴場だとかいう話もあるけど、行って帰ってこなかった人の話なんかもあるしね。船の事故もやたらと多い。 |
ホクト |
……という、ちょっといい感じな噂てんこもりな場所なんだが、いってみるか? |
ルシーネ |
行かないわけにはいかないよ。クリスのお父さんに何かあったら寝ざめが悪いもん。 |
マリン |
ところで、クリスくんの嫌いな仕事仲間のおじさんというのは、お父さんと一緒に幽霊岩に行ったんですか? |
GM |
うんにゃ。どうやらその人は企業の偉い人でもあるらしくて、彼は他の場所にも行かなきゃいけないからといって帰っていったそうだ。でも、他の仕事仲間が一緒についていってるそうだよ。 |
フーバー |
で、その仕事仲間たちも帰ってきていないんですか。うーん、確かにそれは心配ですなあ。 |
GM/クリス |
「ルシーネ……もしかして、お父さんを探してくれるつもりなの? 本当に? 僕のお父さん、みんなにひどいことしたのに……」 |
マリン |
まあ、半分くらいは返してますからねえ。 |
ホクト |
生ごみはな。 |
プレアデス |
こんなコトで死人は出したくないだわさ。 |
ルシーネ |
お姉さんたちに、まかせておきなさい!(胸をどん) |
GM/クリス |
「ありがとう! お父さんは本当は悪い人じゃないんだ。僕の足を治すために、どんな悪い仕事でもやるようになっちゃったけど……」 |
フーバー |
いい話ですなあ。それは、ぜひとも救出して、ニョモニョモからの洗脳を解いてさしあげねば……。 |
ホクト |
うむ。できれば行方不明になってしまわれるよりも、正々堂々と地上げのイヤガラセと戦いたいぞ。不戦勝というのは気分が悪いからな。 |
ルシーネ |
……ちょっと違う気もするけど、まあいいか。クリス、しばらくここで待っててね、すぐにお父さんを探して連れてきてあげるから。 |
GM/クリス |
「うん、信じてるよ。でもみんなも気をつけてね」 |