○ はじめに |
GAMA SHOWとはアメリカのアナログゲームメーカーによる問屋向け見本市のことだ。最近はラスベガスのリヴィエラホテルが会場になっているらしい。もちろん今年、二〇〇六年の会場もリヴィエラホテルだった。
イベントは三日間に渡って開催される。業界関係者によるスピーチなども行われていたようだが、メインはあくまで各メーカーによる新作ゲームの展示だろう。会場を訪れた参加者――基本的にアメリカ国内の問屋さんたち――は新作の実物やパンフレットを閲覧し、「あーこれはおもしろそうだなぁ」「売れそうだなぁ」「○○箱ぐらいなら入荷してもいいかなぁ」といった判断をしていく。
今回、秋口は純粋に「おもしろそうだから」という理由だけで会場を訪れていた。特に商談などがあったわけじゃない。強いて目的を挙げるなら「アメリカ・アナログゲーム界の現状を知るため」となるのだろうが、それが今後の仕事に活かされるかどうかは不明だ。
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○ 会場 |
会場となったリヴィエラホテルは、基本的にはスロットマシーンやらブラックジャックの台やらルーレットの台やら、その他もろもろのギャンブル施設を備えたカジノホテルだ。その中の一部がイベントホールとなっている。ホールの広さは高校の体育館ぐらいだろうか。見本市と言っても問屋向けだから、それほど大規模というわけじゃない。
会場内の印象は、ずばり「コミケの企業ブース」といった感じだった。メーカーが長机を無数に並べ、そこに自社の商品を展示している。前を通ると声をかけてくれ、見本やパンフレットを渡してくれ、そして熱心にルールの説明を行ってくれる。
そう、会場では見本品が数多く頒布されていたのだ。とある会社に至っては箱入りのボードゲームを丸ごと配っていた。もちろん会場には長い行列ができていた。おれも試しに並んでみたのだが、ちょうど三人前で品切れとなった。
ついてない。
企業の人たちや会場を歩いている人たちは、一言で表すなら「おたく」だった。地味で太っていて(あるいは異様に痩せていて)どことなくファナティックな雰囲気を漂わせている。右手にはパンフレットが大量に詰めこまれた紙袋。背中にはリュックサック。リュックサックからはビーム・サーベルと見まがわんばかりの「丸めたポスター」が飛びでている。たまに「お、あの女の子、かわいいじゃん!」と思ってよく見てみると、案の定、企業に雇われたコンパニオンだったり……。
そんな過酷な空間なれど、天井が高いため、そして冬のベガスはそれなりに寒く、また空気が乾燥しているため、それほど息苦しさは感じなかった。これがインディアナポリスで夏に開催されるジェンコン(一般客向けの大規模見本市)だと悲惨なことになるらしい。そちらも行ってみたい気が――以前はしていたのだが、「悲惨」と聞いて意欲が少し萎えた。秋にドイツのエッセンへ行くほうが利口かもしれない。
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○ ゲーム |
アメリカのおたく事情なんてどうでもいいんですよ! 〈ナルト〉のコスプレした青年とカジノホテルの廊下ですれ違うあの違和感……なんて話は忘れちまえ!
――というわけで、アメリカ・アナログゲーム界の現状(と思われるもの)について書こう。
これは会場を一通り歩いてみてわかったことだが、発表されている新作は大半がボードとカードと駒を組み合わせたタイプのゲーム――いわゆる〈ルーンバウンド〉風のゲームだった。これだけで50パーセントを占めていたのではないだろうか。まさに現代アメリカアナログゲーム界のトレンドと言ったところ。
残りはフィギュアゲームが15パーセント、TCGが15パーセント、ドイツ風のボードゲームが5パーセント、ウォーゲームが5パーセント、TRPGが5パーセント、その他5パーセントといったところだ。もっとTRPGがたくさん発表されているのかと思ったが、純粋なTRPGは少なくなってきているらしい。お手軽なボードゲーム風TRPG(TRPG風ボードゲーム?)やオンラインゲームに客が流れている、ということだろうか。
その数少ない「純粋なTRPG」だが、「オンラインRPGのTRPG版」という位置づけの作品が多かった。特に目新しい要素はなく、これらは基本的にオンラインRPGやTCGへの広がり(メディアミックス?)をウリにしているようだ。
アメリカのTRPGルールブックはどれもゴツいなぁ、という印象も受けた。基本的にがっちりとしたハードカバーの装丁であり、ページの一枚一枚が分厚く、フルカラーのものも珍しくない。フルカラー672ページハードカバー、なんてものもあった。はっきり言ってその重量感は凶器。殴れば確実に人を殺せる……!
会場では付録にCD−ROMやDVDがついてくる作品も多く見かけた。中身はゲームの世界観をCGムービーで説明したものなどらしい。「アナログゲームにそんな付録はいらんやろ」と思わなくもないが、作った側はやたらと自慢げにCDやDVDをアピールしていた。たしかに――そうだ、よく考えてみれば、これは「CGムービーを制作できるだけのカネをアナログゲームで稼げる」ということじゃないか。それだけ売れているということじゃないか。おそるべしアメリカ。日本ではCDドラマつきのTRPGルールブックなどはあるようだが、さすがにフルCGムービーのついたアナログゲームまでは見たことがない。
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○ 日本の動き |
日本の企業も何社かは参加していた。そのうちの一社がアークライトだった。アークライトはご存じアナログゲーム専門誌〈ロール&ロール〉やオリジナルボードゲームを出している会社だ。アークライトは今回、驚くべきスーパーグレートな(←小学生英語)新作ゲームをアメリカで展開するため、GAMASHOWへの出展を行っていた。そのゲームがなんであるか、どのようなものであるか、という点については追々〈ロール&ロール〉誌などで発表されていくことだろう。
ほかにはタカラやバンダイなどの、日本人ならだれでも聞いたことがあるであろうおもちゃ会社が出展していた。これらの企業はTCGを発表している場合が多く、それこそ〈ナルト〉や〈犬夜叉〉などの日本製アニメーションを基にしたTCGが多く発表されていた。忍者などの「いかにも日本くさい要素」は欧米でも大人気なのだ。
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○ 裏技 |
今回、おれは出展メーカーの人間から「何者だ?」と訊かれることが多かった。こんな英語のたどたどしい日本人が問屋でたまるか、と思われたのだろう。当然の話だ。
おれは最初の相手に「ライター」とこたえた。すると相手から「ライター? マガジンライターかい?」とさらに訊かれた。おれは「うーん、〈ロール&ロール〉でボードゲームの記事を書いたりしてるし、マガジンライターでもまちがっちゃいねーよな」と考え、「イエス」とこたえた。
ところで、おれは本当に英会話が苦手だ。いま書いた程度のやりとりをするだけでもいっぱいいっぱいになってしまう。だから、相手から「おー、レビューライターかい?」と訊かれたときも、目の前のやりとりを早く終わらせたい一心で、思わず「イエス」とこたえてしまっていた。
これが効いた。
とたんに相手の愛想がよくなった。
レビューライターとはすなわち紹介記事を書く人間ということだ。日本において彼らのゲームを紹介する立場の人間。彼らのゲームが日本に輸入されるか、そして売れるかどうかの鍵を握る人間と言っても過言じゃない。彼らにとっては「愛想よくしておいて損はない相手」ということだろう。
彼らは見本のゲームやパンフレットを、これでもかと言わんばかりに、次から次へとおれに差しだしてくれた。
これで味をしめた。
おれは行く先々のブースで「やあやあ、僕は日本の雑誌でレビューライターをしているんだよ」と自己紹介した。するとどんどん見本をもらうことができた。ルール説明も非常に愛想よくやってくれた。ありがたい話だ。
今後これは使えるな、とおれは思った。
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○ 最後に |
今回のイベントに出展しているのは基本的にアメリカの企業ばかりだった。ヨーロッパの企業はたぶん皆無。だから〈ルーンバウンド〉風のゲームが多く、いわゆる「ドイツゲー」っぽいものがほとんど見あたらなかったのだろう。おれの好きな「競りの要素が含まれているゲーム」はほとんどなし。これはつまり「アメリカとヨーロッパではゲームの嗜好が明らかに異なる」ということだ。そんなもん各国各社から発売されているゲームのラインナップを見てみれば明らかやんけ、最初からわかってることやんけ、と言われるかもしれないが、実際に現地でその様子を前にすると感慨深いものがあった。
〈ルーンバウンド〉風ゲームが大流行中のアメリカゲーム業界。とはいえ、そこに独自の要素を、変化を加えようという試みは多く見られた。そうした試みが化学反応を引き起こし、まったく新しい概念のゲームを――そして現在、見られるような「新しいムーブメント」を――生みだしてくれることに期待したい。 |