○八月二十六日 |
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力造×諸星/15:30 |
JGC2005は横浜プリンスホテルで開催される。このホテルまではJR磯子駅から徒歩で十分ほどの距離だ。
おれはこの日、JGC2005のパンフレットを握りしめつつ磯子駅へ降り立った。
今年のパンフレットは昨年よりも豪華だった。参加者による「投稿企画」や「ランダムキャラクター作成チャート」、そして血液型と誕生日からタイプを割りだせる「ファンタジー占い」などが付随していた。
ちなみにおれの「モンスター占い」の結果はスケルトン。どうやらおれは「叩かれても壊されても、それでもなお立ち上がるガッツ」を持っているらしい。「人生は山あり谷あり楽なし苦あり……と悲観してしまいがちですが、希望を捨てずにがんばって!」とのこと。
なぜか泣きたくなった。
それはさておき、おれはさっそうと駅の改札を出た。
改札前にグループSNEの新人ゲームデザイナー・山田力造くんが立っていた。
「お、どうしたの?」
とおれはたずねた。
「いやー、諸星さんと一緒に来る予定だったんですけど、僕のほうがひとつ先の新幹線に乗っちゃったみたいで。ここで待ってるんですよ」
諸星さん、というのは力造くんと同期の新人小説家だ。グループSNEの中では、この二人は若手の有望株なのだ。
「ホテルすぐそこだし、べつに待たなくてもいいじゃん。おれと一緒に行っちゃおうよ」
「そうですか? わかりました。じゃあ……」
おれと力造くんは連れだってホテルへ向かいはじめた。
と、力造くんの携帯が鳴った。
「もしもし――」
力造くんはしばし話し、電話を切り、顔を上げた。
「諸星さん、もうホテルの控え室にいるらしいです。ずっと前に着いてるって……」
「君、置いてぼりにされてるじゃん……」
力造くん&諸星くん、それぞれのキャラクター性がよく現われたエピソードであった。
こんな感じでおれのJGCは幕を開けた。
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暑くて熱い/16:00 |
会場内はすでに多くの参加者で満ちていた。絨毯の敷かれた廊下をゲーマーたちがひっきりなしに行き交っている。台風が過ぎた直後の非常に暑い日だったため、場に立ちこめる熱気は相当なものだ。
こう書くとまるで夏に臨海地域で行われる同人誌即売会のようだが、それとはまったく雰囲気が異なる。
どう異なるのか、という点を説明するのは難しい。だがJGCの場合、同人誌即売会などよりもずっと参加者どうしの連帯感が強いような気がする。なにせ隣を歩いている参加者が数時間後には同じパーティの一員となっているかもしれないのだ。あるいは同じボードゲームの卓をはさみ、対戦しているかもしれないのだ。参加者どうしが「行きずりの他人」ではなくなる場――それがJGCと言えるだろう。
場の暑さ自体はほどなく収まった。ホテル側が冷房を強くしてくれたのかもしれない。
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前哨戦/16:30 |
開会式が始まる前、おれは本レポートの取材ということで、早めに会場へ入っていた。会場はホテル内にある大広間だ。開始後は壇上にゲストたちがずらりと並び、会場内に並べられた椅子に参加者たちが着席する。
おれはたまたま目についた北沢慶さん、藤澤さなえさんに声をかけた。三人で適当に雑談を交わした。
藤澤さんは浴衣姿だった。開会式で司会役をつとめるため、いわば「舞台衣装」に身を包んでいたのだ。
おれは言った。
「その帯、壇上でだれかに引っぱってもらいましょうよ。それであ〜れ〜って言いながらまわりましょうよ」
「いいね。それで、やめてくださいお代官さま! とか叫ぶの」
と北沢さんも話に乗ってきた。
おれはさらに言った。
「間に障子を立ててもいいですね。あえてシルエットで見せるという」
「それでくるくるまわして、実際は脱いでないとかな」
「いいっすね」
「はは。ところで――」
あっさり流す藤澤さん。
そして完全に放置状態のおっさん二人。
あまりにも哀しい構図だった……。
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開会式/17:00 |
開会式の司会は藤澤さんと株式会社アークライトの宮野さんによって行われた。あらかじめ台本が用意されていたらしく、二人のかけあいはいくらかぎこちなさを感じさせるものだった。
だがそこは宮野さん、ただぎこちないだけでは終わらせない。
「昨年は……あ」
なぜか急に言葉を途切れさせる宮野さん。
「さ、昨年からはここ横浜プリンスホテルへ場所を移し……!」
そこへあわてた様子で「自分の」台詞をはさむ藤澤さん。
宮野さんは照れくさそうに笑いながら言った。
「はは、まちがえて藤澤さんの台詞、読んじゃった」
爆笑の渦に包まれる会場。
その後、エンターブレインの青柳さんが挨拶に立った。宮野さんのほうを振りかえり、
「宮野さんは、アドリブには慣れてるけど台本には慣れてないから……」
またも爆笑。
おれは感動した。あのハプニングのあとですぐに「アドリブには慣れてるけど台本には慣れてない」というコメントが出てくるあたり、それこそ恐るべきアドリブ能力だ。おれは心の中で「いちばん慣れてるのは青柳さんですよ!」と喝采を送っていた。
その後も式は滞りなく進んだ。我がグループSNEの安田均社長や水野良さん、鈴吹太郎さん、そして業界の重鎮こと鈴木銀一郎さんなどが挨拶を行っていった。鈴木銀一郎さんは
「いま世間では二十四時間テレビをやっているらしい。だが我々は四十八時間だ!」
と絶叫し、会場を大いに盛りあげていた。
この業界はうまいこと言う方が多い。
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アイムプリンス/18:00 |
おれは荷物を持って自分の部屋へ上がった。十二階に位置する見晴らしのいい部屋だった。窓からは横浜港を一望できる。
さすがプリンスホテル、清潔感があるぜ。豪華だぜ。まさにプリンス気分だ!
――その割には黒田和人さん&三田誠くんらと相部屋だが。三人でダブルルームを使用、しかもおれだけエクストラベッドという形だが……。
否、そんなことを気にしちゃいけない。おれはプリンスだ。王子だ。「彼らは王子の居室に控える召使い」と思うことにしよう。王子にとっては存在しないも同然の存在なのだ!(などと考えていたことは秘密)
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マグナいろいろばとる/19:00 |
おれはまずマグナいろいろバトルの会場をのぞいた。〈マグナ・スペクトラ〉の製作者である加藤ヒロノリさんや日高卓さん、小説版の執筆者である秋田みやびさん、富士見書房の小笠原さんなどが参加者を相手にみずからレクチャーを行っている。なんて豪華な空間なんだ!
〈マグナ・スペクトラ〉は本来、二人で遊ぶよう作られている。だがこのイベントでは三人による「陣取り合戦」や四人による「タッグバトル」も行われた。特にタッグバトルは好評であり、「どの参加者も時間を忘れるほど楽しんでいた(by日高さん)」とのこと。当日、参加できなかった〈マグナ・スペクトラ〉ファンの皆さんもぜひご自分で試してみていただきたい。
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SNEコンベンション/19:00 |
JGCでは当然のことながらTRPGのセッションが行われる。参加者がGMをつとめるフリープレイはもちろん、ゲーム制作者自身のGMによるセッションも非常に多い頻度で行われる。初日のグループSNEコンベンションでは――清松みゆきさんや北沢さん、川人忠明さん、杉浦武夫さん、篠谷志乃さん、三田くん藤澤さんらがGMをつとめ、グループSNE開発によるさまざまなTRPGのセッションが行われた。
おれは本レポート執筆のためにいろいろと歩きまわっていたのだが、グループSNEコンベンションが行われている部屋の両隣ではそれぞれ別の会社主催によるコンベンションが行われていた。それぞれの部屋の参加者を合計すると、なんと百五十名にもなってしまう。百五十! GMの数を合わせればそれ以上だ。
百五十というと、ちょっとしたミニシアターの客席と同じぐらいだろうか。紙に書かれた情報と話術だけで、これだけ多くの人間を楽しませることができる……。
おれはいまさらながらに感銘を受けた。
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ライブRPG『ガープス』/19:00 |
おれはこの「ライブRPG『ガープス』」の場でも同種の感銘を受けた。
ライブRPGとは、いわば大勢の人間が同時に参加するTRPGのことだ。数名〜十数名のパーティがいくつか作られ、それぞれのパーティが共通の目的のために競う場合が多い。このイベントの場合は参加者数なんと百名! 百名の人間が〈ガープス・ユエル〉のルールをもとに「実際に会場内を歩きまわり、勝利のための条件を満たしていく」という遊びを存分に楽しんでいた。
そう、ライブRPGは「実際に歩きまわる」RPGなのだ。その広がりは用意された室内だけに留まらない。ホテル全体を使い、各所に用意された素材を活用し、それぞれの参加者が勝利へと近づいていく。
これまた「紙に書かれた情報と主催者側の知恵と話術」だけで生みだされる娯楽だった。その娯楽は百人の人間を同時に喜ばせていた。
アナログゲームってすげーよ――などと、手前みそながら思った。
これと似た感慨は、最終日にも抱くこととなる。
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物販/20:00 |
多くの企業が物販スペースに出店し、TRPGのルールブックやボードゲーム、ダイスなどの販売を行っていた。飲食物の店舗や「射的コーナー」を行っている店舗などもあった。
我がグループSNEからは笠井道子さんが「笠井商店」を出店し、みずから仕入れたファンタジー関連のアクセサリーや小物などを販売していた。いつものことながら盛況だ。ドラゴンをあしらった首飾りや腕輪、時計などが飛ぶように売れていく。腕輪と指輪がチェーンでつながったアクセサリーに関しては、なんと百個近くも売れたらしい!
おれはついでにほかの店舗ものぞいた。サンセット・ゲームズさんの店舗では売り子の女性たちと少し話した。彼女たちは力造くんの古い友人ということで、三月に大阪で開かれたR−CONN/WESTの際もいくらか話していた。今回も迷わず話しかけたわけだ。
彼女たちの年齢は二十代なかばぐらいだろうか。そりゃあ妙齢の女性たちと話をするのは楽しいに決まっているじゃないか。わはは! わはは!
――だがおれはとことんひねくれ者だ。これは最終日の話になるが、おれはサンセット・ゲームズの社長さんと話をする機会があった。
そこでおれは言った。
「売り子の女の子たち、ほかにもTRPGのイベントに出てたりするわけですよね」
「そうやね」
「そういうイベントではモテまくるでしょう? 女の子って少ないから」
「そらもう、オトコなんか選び放題よ。アナログゲーム業界、なんだかんだ言って男性比率が高い世界やからね」
「ですよね! おれも昔からそう思ってたんですよ。だからですね、こんど九月に出る〈ロール&ロール〉誌に、そういうイベントでかわいい女の子がちやほやされていてむかつく! と心に炎を燃やす男子高校生の話を書いたわけですよ。小説です。連載されますから、ぜひ読んでください!」
「うんいいよ。読むよ。〈ロール&ロール〉はちゃんと毎号、読んでるから」
「ぜひよろしく!」
おれは特にカネになるわけでもない営業活動を行った。
非常に気さくな社長さんであった。 |