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目次 |
2018年05月 記事作成:笠 竜海 |
「ウォーロック・マガジン創刊号」 | |
1.過去編 | |
――: | 引き続き、「ウォーロック・マガジン」についてお聞きしたいと思います。さっき話題にもあがっていた、昔の「ウォーロック」というのは……? |
安田: | きみ、生まれてたっけ? 1986年12月号からスタートしたんだけど……。 |
――: | 生まれていませんね。 |
安田: | おやっ!(笑) |
――: | 終わったのはいつだったんですか? |
安田: | 1992年3月。 |
――: | あ、それなら生まれています。 |
安田: | なるほど、きみは「ウォーロック」の中で生まれた子か。 |
――: | はい(笑)。 |
安田: | 説明しよう。ぼくがウォーロック(魔法使い)である監修者、と同時に、別名ロッコちゃん。自分で言ってて懐かしいな。 |
――: | いろいろネタをやったり、読者と交流したりして、盛り上がっていたらしいですね。 |
安田: | 「ウォーロック」は読者との交流を、編集長である多摩豊がすごく重視していてね。ぼくも大好きだけど。たとえば「読者への挑戦」という形でクイズみたいなものを出して、答えと一緒に、いろいろ会話できるようになっていた。それに、イラストもできるだけ載せていたね。そういったことが人気を呼んで、読者とのやり取りが素晴らしい雑誌になった。でも、それだけじゃないよ。 |
――: | はい。 |
安田: | もともとぼくは、「ウォーロック」という海外の雑誌を日本語版として出すのに、監修者として参加するだけのはずだった。そのとき扱っていたのがゲームブック。「ファイティング・ファンタジー」シリーズをサポートする雑誌だったんだよ。 それも、これまでにまったくない雑誌! 当時からRPGの雑誌はあったけど、ゲームブックの雑誌となると、どんなものだと思う? |
――: | ええと……ううっ、わかりません。 |
安田: | もちろん、ゲームブックを掲載するんだよ。本国版には、全体のほぼ半分……いや、3分の2ぐらいを使って、200パラグラフという長いゲームブックが毎号載っていた。だから同じようにして、残り3分の1ぐらいを埋めれば1冊の雑誌になるじゃないか、と考えたわけ。お便りを募集すれば楽だろうし、まあ、なんとかなるだろうと(笑)。じゃあ、監修やりますよ、と引き受けた。 記事を書いていたのは、レビューやファンタジーが得意の摩由璃さんとか、ゲームブックの評論を書いていて、のちに編集長となる近藤功司くんとか。あとは、多摩豊が入っていた慶応HQという、今もあるゲームのサークルにレビューを頼んだり。 第1号を出して、うん、そこそこ売れそうだ、と思っていたら、「本国版が休刊!」という連絡が入って(笑)。ひっくり返りそうになったよ。 |
――: | ほっ、ほう。 |
安田: | どうするんだ、これから、となった。もう最初から、大椿事。 本国の「ウォーロック」が13号で休刊したから、とりあえず大がかりなゲームブックが残り10回分はある。とはいえ、どんなにがんばってもあと1年しかもたない。お便りだけでは埋められないし……。 となったところで、TRPGの『トンネルズ&トロールズ(以降、T&T)』を見つけたんだ。世界で2番目のRPG、でもまだどこも訳していない。当時(1986年)の日本では、すでに『トラベラー』『D&D』『クトゥルフ』すら翻訳されていたのに、なぜか『T&T』だけ眠ったままだったんだよ。 しかも『T&T』は、ゲームブックに近いソロアドベンチャーで展開している。あ、だからこそ眠っていたのかもしれないね。TRPGじゃないだろうって思われて。 『T&T』自体はアメリカのゲームなんだけど、イギリスの「ファイティング・ファンタジー」シリーズが出ていたライバル会社から、ソロアドベンチャーのシリーズが出ていた。だから出版社の形でもつながりがある。今から思えば当然の流れのように見えるだろ。だけど、当時のぼくは、もう必死! |
――: | ですよね(汗)。 |
安田: | とにかく、代わりに『T&T』をやりましょう、できますよ、と社会思想社さんを説得した。そうして、本国版の遺産が残っている1年のあいだに『T&T』の準備を整えて、いざ始めた、というわけ。おかげで「ウォーロック」も『T&T』も上手くいった。 ……という歴史がある雑誌なのだよ。過去編終わり(笑)。 |
2.前身の「TtTマガジン」 | |
――: | さて、それで今回の「ウォーロック・マガジン」ですが……。 |
安田: | 面白いことに、これは流れが逆なんだよね。 |
――: | どういうことですか? |
安田: | 雑誌より先に、『T&T完全版』を2016年にBOXで出したんだ。その前年のエッセンSpielに行ったとき、真っ先に会ったのが『T&T』の親分のリック・ルーミスだった。そのときに、「おお、ヒトシ! 完全版が出たんだけど、どうだい?」って。こっちも「うん、出すよ」と。 |
――: | (笑) |
安田: | 嬉しいことに、『T&T』のファンは熱心にずっと待っていてくれたみたいで、しかも珍しいBOXゲームだから、一気に火がついた。 しかも同じタイミングで、FT書房の杉本=ヨハネさんが、「TtTマガジン」という同人誌を出してくれた。「ぼくたち、待っていたんです!」と言って。「TtTマガジン」は、熱心な人たちのパワーがこもったすばらしい雑誌だった。 それに、書いている人たちのレベルが高い! 杉本さんはもちろん、たまねぎ須永さん、吉里川べおさんとか、テンプラソバさんとか、粟国仁志さんとか。「これはなんだ!?」ってなった。『T&T完全版』をこれから展開しようという時期に、すでに書き手のそろった雑誌がある。だったらこれをつづけていこう、となって、2016年末に1冊、2017年に3冊出したんだ。 |
――: | SNEは第2号から参加したんですね。 |
安田: | うん、一緒に盛り上げていこう、と。ところが話は『T&T』だけでは終わらなかった……。 |
――: | ふむ? |
安田: | どこからか(たぶんピピンさんかな)、『FF』のRPG版である『AFF』、その第2版が出るって聞いたんだ。しかも、とても面白いらしい。そこで取り寄せたら、確かに初版をものすごく、こう……RPG的に深めてあって。じっさいに遊んだ人たちに訊いたら、「すごいですよ」という感想が返ってきて。 それならぼくたちで出そう、と決めたんだ。『AFF2e』をやりたい、とイギリスのアリオン・ゲームズに手紙を書いたら、即OKをもらえた。スティーブ・ジャクソンも、「誰かと思ったらきみじゃないか、それならやってくれ」と言ってくれて。昔の「ライブ・ウォーロック」というイベントで会ってしゃべってたしね。 『AFF2e』の日本語版が出るなら、もちろん雑誌でも取り上げよう、となった。『T&T完全版』と『AFF2e』……あれ、まるでかつての「ウォーロック」じゃないか、と。 ほら、昔とは順番が逆だよね。 というわけで今回、ついに「ウォーロック・マガジン」がゴゴゴゴ……と創刊号のこの表紙のように、地中から浮き上がってきた、というわけだ。 |
3.5つの目玉 | |
――: | 確かにこの表紙、なかなかすごいですね。 |
安田: | 表紙と言えば。「ウォーロック」は途中で本国版がなくなっただろう? じゃあ、その後の表紙は誰に描いてもらおう、と大きな問題があった。で、結局、米田仁士さんにその後もえんえん50冊ほど描いていただいたんだ。 だから「TtTマガジン」も「ウォーロック・マガジン」も、ぜひ米田さんにお願いしたいと思った。ということで……この絵になんか感じる? |
――: | そうですね……これって要塞? |
安田: | うむ。後ろにはワイバーン。そのワイバーンがこれだけ小さいってことは、手前のこれはどれだけでかいんだってなるよね。でも米田さんは一言も説明してくれなかったんだ。 |
――: | 橋? 背骨みたいにも見えますし、不思議ですね。 |
安田: | ね? 巨大な要塞みたいだけど、悪魔っぽくもある。目玉が5つあって……目玉の怪物と言えば、やっぱり『D&D』のあいつだよね。 |
――: | あいつ……?(正体について考えこむ) |
安田: | こらこら、インタビュアーが黙ってどうする。目玉は置いといて、話をつづけようじゃないか。 |
――: | じゃあ、雑誌の「目玉」記事について。 |
安田: | うまいぞ(笑)。 |
――: | これを読んでほしい、というような記事はありますか。 |
安田: | では、再び表紙に着目! ここに内容がずらりとあってだね……まずはコミック。RPGと紹介漫画はすごく相性がいいと思うんだ。元は山本弘さんやこいでたくさん、「Role&Roll」誌でもずっとつづいているよね。 |
――: | はい。緑一色さんのコミックですね。 |
安田: | ボードゲームにしても、今はコミックで人気のあるものがいくつか出てきてるよね。漫画を描く人たちの中には、『T&T完全版』や『AFF2e』が好きな人がいるんだよ。ダブル中山さん! 2人ともゲームが大好き。ぜひこれは読んでほしいなあ。 そしてなんと、友野詳のリプレイ! これがすばらしいですよ。ぜひみなさん、読んでください。友野詳は昔も『AFF』のリプレイを書いていて、じつに27年ぶり。リプレイ自体、6年ぶりと言っていたかな。全力でやっていますよ。 |
――: | はい。 |
安田: | プレイヤーを活かしてほしいな、と思っていたら、さすが彼もわかっていて、若い3人+ベテラン1人の息がとても合っている。タチの悪いヒーロー3人が、ドワーフにまとめられているって感じかな。 |
――: | なかなか大変そうでしたね。 |
安田: | 魔術師じゃなくて妖術師のほうがいるんだけど、これがまた新しく出てきた面白い魔法だし。 神官がまた、タチが悪い。お前はほんとに神の使いか、と言いたくなる(笑)。しかもまじないまで使うんだよね、この子。変なの。 で、もう1人、これはいかにもの盗賊。やっぱりタチが悪い。この3人を、まあまあとなだめながら、ドワーフのベテランがまとめあげてる。ひじょうに面白い。 |
――: | みなさんのプレイの参考になるといいですね。 |
安田: | そうだね。さて、「ウォーロック・マガジン」創刊号の表紙に戻ろう。「AFF大特集」と銘打ってはいるけれど、やっぱり「TtTマガジン」から来ている雑誌だから、『T&T完全版』も手を抜かないよ。 |
――: | はい、『T&T完全版』にも力が入っているなと思いました。 |
安田: | 『T&T完全版』といえばやっぱりソロアドベンチャー。なので、海外の代表作家であるケン・セント・アンドレの作品を。 日本からは、「T&Tのことなら任せて」という岡和田晃さんによる、腕によりをかけたソロアドベンチャー。これもすごく面白い。なんと無敵の万太郎という、昔の人にはおなじみのサンプルキャラクターと、『傭兵剣士』という代表的なソロアドベンチャーに出てくるシックス・パック――ビール狂いの岩悪魔――というコンビの珍道中。 そして最後の目玉の1つが、やっぱり「ウォーロック」と言えばゲームブック。ならばゲームブックにも触れておきたい。ということで今回、あのパズル作家のフーゴ・ハルさんに当時の思い出話を書いてもらったんだ。ブレナンのビッグシリーズ、「グレイルクエスト」を担当していた人だよ。面白いので、ぜひご一読を。 ゲームブックについても、今までにないような形のものをやっていきたい、と監修者は思ってる。 |
――: | 楽しみです。 |
安田: | それとね、海外からの祝辞がまたすごい! 創刊号の序文なんて、普通は「おめでとう」の一言くらいなのに、スティーブ・ジャクソンとケン・セント・アンドレの両方が、まるまる1つの記事として書いてくれたんだ。すごくいい話なので、ぜひ読んでほしい。 |
4.今後の展望 | |
――: | 「ウォーロック・マガジン」でこれからやっていこう、という企画はありますか? |
安田: | もちろん。まずは創刊号を楽しんでほしいけど、第2号にはひょっとしたら…… |
――: | ひょっとしたら? |
安田: | ボードゲームがつくかも!(笑) |
――: | えっ! |
安田: | ゲームブック的な、簡単なものだけどね。期待しておいてください。じつは「ウォーロック」日本語版の創刊号にも、ボードゲームが載っているんだよ。けっこう人気があったので覚えている人も多いと思う。 |
――: | おおっ。 |
安田: | それから……『モンスター事典』や『モンスター! モンスター!』も出ることだし、モンスターの特集をやりたいかな。そんな感じで、『T&T完全版』と『AFF2e』の両方でいろいろやりたいと思ってるよ。 |
――: | こうしてお聞きしていると、昔を見つつ、基本的には2つのTRPGを新しく育てていこう、という姿勢ですね。 |
安田: | 古いものをやっているじゃないか、と言われるかもしれないけど、『T&T完全版』は第9版にあたるんだよ。『AFF2e』も第2版だから、ずっと進化をしてきたんだ。 進化といっても、難しくなっているというわけじゃなくて、すごく遊びやすい、新しい形のオールドスクール、ニューオールド。だからこそ、新しく入ってきたい人たちにも手に取ってほしいな。決して古い本ばかりを懐かしがる、というふうにはしたくない。 |
――: | なるほど、新たな展開からも目が離せませんね。 |
安田: | 面白くしようとするなら、それなりに時間もかけなきゃいけない。年に3冊、好評だったら季刊ぐらいにしたいけど、とにかくいろいろ企画して、新しいもの、面白いものを取り入れていきたいと思ってる。 昔の「ウォーロック」も、読者交流とかやってたし。とくに近藤功司率いる冒険企画局は、変なことばっかりしてたなあ(苦笑)。どこかに行く探検隊とか。まあ、そこまでは無理かもしれないけど。 |
――: | 交流については、今ならインターネットもありますものね。それよりは、深くて質のよいものを提供していきたい、と。 |
安田: | はい。まずはこの創刊号を楽しんでください。昔の人にも今の人にも読んでほしい。『ソード・ワールド2.0』の好きな人も、キーパーをやっている人も(笑)。 |
――: | 今日は長い時間、どうもありがとうございました! |
安田: | お疲れさまでした。 |
『AFF2e』と「ウォーロック・マガジン」に関するインタビュー記事、いかがでしたでしょうか。ぼく自身はこれまで、『AFF2e』に「懐かしさ」ばかり感じていましたが、それだけのゲームではない、というある種当たり前のことを確認できました。昔を懐かしむよすがではなく、遊んで楽しむ「生きた」ゲームなのです。みなさんも、気の合う仲間たちと、新たなタイタン世界を旅してみてはいかがでしょうか。 |
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