III.導入 |
☆導入1:地中海に面するアレクサンドリアへ |
●「きみたちの心霊調査機関に、ある依頼が舞い込んだ。つい先日、別のメンバーがとある幽霊屋敷を探索し、そこに迷い込んでいた男を救い出した。そしてきみたちの心霊調査機関は、その幽霊屋敷を造り出したというタテルベ・タカアキなる人物の調査に、本腰を入れることにしたのだ。
そこで件の幽霊屋敷を調査していたところ、タテルベのものと思しき手記をみつけた。それによるとヤツの次なる目的地は、合衆国から遠く離れたエジプトのアレクサンドリア近辺であることまで掴むことができた」
●「幸運なことに、きみたちの心霊調査機関のスポンサーをしている富豪のひとりが、エジプトへ長期滞在している。そして、きみたちもその富豪へ同伴して海外での長期休暇を楽しむ機会を得た。
富豪の名はエドワード・ハミルトン。ハミルトン氏はきみたちに1週間ほど先行して、アレクサンドリアで遺跡調査にご執心とのことだ。
彼は考古学と心霊現象に強い興味を持つ好事家で、現地でも惜しみなく支援をしてくれることだろう。大事なスポンサーだから、きみたちも何かあればハミルトン氏に助力してもらいたい」
▼〈知覚力+30%〉ロールに成功すれば、ハミルトンについてわかります。彼は造船業で一代で富を築き上げた、アメリカの富豪です。
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☆導入2:ハミルトン氏の急病 |
●「きみたちは先に現地入りしていたハミルトン氏と合流するべく、彼の逗留する高級ホテルへと向かった。そして、彼が病床にあることを知る。
ハミルトン氏の秘書トーマス(男/38歳)によると、ハミルトン氏は3日前にとある遺跡の調査へ向かったとたん倒れ、それ以来、病床に臥せっているというのだ」
●ハミルトンは医者がつきっきりの状態で、ホテルで寝込んでいます。トーマスは「ハミルトンはまともに口のきける病状ではありませんが」と言いつつも、ハミルトンの部屋へ通してくれます。
●【ハミルトンの状態】ハミルトンは高熱を出して意識を失っています。息は荒く、脂汗が出ていて、素人目にもただごとでないことはわかります。
彼はチョビ髭を生やした少しやせ形の壮年の男(56歳)です。優しげな下がった眉と、横になってもわかる立派な長身が特徴的です。
彼は熱にうなされながら、たまにモゴモゴとはっきり聞き取れないうわ言をつぶやいています。
彼が寝込んでから、すでに3日が経過しています。10年以上も秘書を務めているトーマスによると、彼が熱を出して倒れるのはこれが初めてということです。
●【医師の見立て】医師の名はバルク(男/43歳)といい、イギリスに留学して西洋医学も身に着けているといいます。バルクによると、発熱の原因は不明とのことです。
ハミルトンは意識不明のためスープ程度しか口にしておらず、さらにこの高熱が続けば、命に危険があるかもしれないとバルクは言います。
PCが〈医療手当〉に成功すれば、医者の言うとおり、一般的に知られる高熱の出る病状ではないことがわかります。
バルクは、ハミルトンに似た病状を診た先輩医師がいるといいます。バルクがそれを思い出し、その治療法を先輩医師に聞いたところ、極めて非科学的なことを言い出したとのことです。そのためバルクは、そこで会話を止めたといいます。
PCたちが先輩医師について尋ねると、「彼はまともではないから、相手せぬ方が良いと思うが……」と言いながら、しぶしぶ「医師サアド」の連絡先を教えてくれます。
●【倒れた経緯】ハミルトンが倒れたのは、遺跡調査へ向かった3日前のこと。トーマスはアレクサンドリアへ来て以来、ハミルトンの会社の書類整理をしており、遺跡へ同行したことはありません。遺跡の場所についても知りません。
遺跡へ同行していたのは、現地の案内人と作業員が数名とのことです。トーマスが彼らから聞き出した話によると、ハミルトンは遺跡へ踏み込んだ瞬間に倒れたため、その場で引き返してきたということです。
案内人と作業員たちは、1923年のカーナヴォン卿(ツタンカーメンの発掘者)の急死を思い出し、「呪い」が怖くなって引き返してきたといいます。
そもそもハミルトンが今回の遺跡探索に乗り出したのは、彼が留学時代に知り合った友人の助言によるものだと言います。
友人は「バーデン卿」といい、趣味で考古学者をやっている貴族だそうです。バーデン卿は現在ちょうどアレクサンドリアに滞在しているということです。トーマスに頼めば、アポイントメントをとってくれます。
トーマスは、現地の案内人についても把握しています。よく、海外からやってくる遺跡調査団を手伝っている「案内人アムル」という男です。 |
☆導入3:聞き込み調査 |
▼ここまでに「医師サアド」と「バーデン卿」と「案内人アムル」の名前と所在を、PCたちに伝えておいてください。
●【医師サアド(男/66歳)】バルクによればサアドという人物は、西洋医学の知識も持っていますが、昔ながらの呪術的な治療法にも固執している、前世紀的な医師だということです。
サアドはアレクサンドリアの片隅で医院を開いており、その所在はPCたちにもすぐにわかります。そしてすんなりとPCたちを招き入れます。 医院は診療時間のはずですが、患者はひとりもいません。
サアドは1923年にツタンカーメンの墓所から広まった「ファラオの呪い」にかかったといわれる患者を何人か診たことがあり、その治療法を知っていると言います。
それは、遺跡の最も近くにある水源から得た「水」を、その遺跡の最奥にある聖地で清めることで得られるという「生命の水」を、呪われた患者に飲ませることだといいます。
そして「遺跡の最寄りの水源がわかったなら、この壺に水を汲んで行くが良い。ヒヒヒ……」と言って、古代エジプトを髣髴とさせるデザインの、人の姿をした壺をPCたちに貸してくれます。
もしPCがこの壺について知りたければ、〈人文科学〉または〈人文科学「考古学」+30%〉または〈神秘学+30%〉ロールを行うことができます。成功すれば、この容器が「イムセティ」と呼ばれるカノプス壺(内臓のミイラ入れ)にしか見えないことに気づきます。
サアドはハミルトンが死ぬか治るかしたなら、イムセティを返しに来てくれれば良いと言って、PCたちを追い出します。
●【バーデン卿(男/57歳)】バーデン卿は、アレクサンドリアの高級ホテルに滞在しています。トーマスの紹介で訪れれば、すんなりとロビーでPCに会ってくれます。彼は陽気でかっぷくの良い小洒落た男で、ハミルトン氏とは大学で意気投合した考古学研究の同士だと自己紹介します。
バーデン卿が現在アレクサンドリアへ滞在しているのは、ハミルトンとの旧交を温めるためだと言います。バーデン卿自身はこの後、カイロへピラミッドの調査へ向かう予定だそうですが、ハミルトンが心配で逗留し続けています。
PCたちが、バーデン卿がハミルトンに与えた助言について尋ねると、「彼とは17世紀の学者、アタナウシス・キルヒャーの、『バベルの塔』をはじめとする巨大建築について語り合った。今回の遺跡調査は、その説を証明するためだと聞いている」とのことです。
バーデンによると、ハミルトンはキルヒャーの説にある「マレオティス湖畔にある、イスメンディの墓所」についての調査を進めようとしていたといいます。その遺跡についてバーデンは「古さと壮麗さという点ではピラミッドにも勝るとも劣らず、広大さはまさに地下迷宮と呼ぶにふさわしい。その偉大さを模して後世に造られたのが、かのミノタウロスの伝承で知られるクレタ島の迷宮だといわれているのだ! なんでもこの墓所では、神官がなんらかの儀式を執り行っていたというから興味深い!」と、熱っぽく語ります。
アレクサンドリアは、北が地中海、南がマレオティス湖という水運の都市であり、マレオティス湖へはすぐに辿り着けます。
バーデンが知っているのはキルヒャーの説についてだけで、遺跡の場所は知りません。
▼サアドから聞かされた水を汲むべき「遺跡に最も近い水源」とは、マレオティス湖のことです。
●【案内人アムル(男/26歳)】トーマスに聞いた住所へ行くと、アムルは在宅です。彼にハミルトンや遺跡のことを尋ねると、「やめてくれ! あの墓所に近づいたせいで、弟は呪われちまったんだ……」と、拒絶されます。
アムルに口頭で病状を聞くと、弟アーミル(17歳)は、ハミルトンと同じような症状で寝込んでいることがわかります。医者がついていないぶんだけ、症状はハミルトンより深刻なようです。
アムルは「弟の呪いを解く方法でもわからない限り、オレはあの墓所には近づかん!」と頑なで、なかなか話も聞いてくれません。
▼サアドの元で「イムセティ(カノプス壺)」を得ている場合には、アムルの家の奥から、弟アーミルの悲鳴が聞こえます。この場合に限り、以下の処理を行ってください。イムセティを持っていなければ、追い返されるだけです。
▼横たわるアーミルの枕元に、まるで古代エジプトの壁画から抜け出してきたかのような姿をした、杖とアンクを手にした男が立っています。
その人物が吐き出す息はうっすらと紫色で、その吐息がアーミルの顔全体を覆い、アーミルは苦しんでいます。
PCたちが駆けつけてその様子に気づくと、その古代エジプト風の衣装をした男が振り返ります。その肌は乾ききって固くなり、眼は崩れ去って真っ暗な穴となっており、虚空を見つめています。
⇒PC全員は、恐怖判定を行います。
この「動くミイラ」という風体の男は、PCたちに語りかけます。
「それは、いずこの王のイムセティか? 異教徒どもめ、神々の怒りを知るがいい……」
その言葉を残し、男はふっと姿を消します。
▼ミイラ男の姿を見た後、PCは〈人文科学〉または〈人文科学「考古学」+30%〉または〈神秘学+30%〉ロールを行うことができます。成功すれば、消えた男が古代エジプトの時代でも、かなり古い時代の神官位の衣装であったとわかります。
●ミイラ男が去ったあと、弟アーミルの息はさらに荒くなり、病状が悪化しているように見えます。アムルはPCたちに、イムセティについて説明を求めます。
サアドの「生命の水」についての話を聞かせたなら、アムルは弟にも「生命の水」を分けてくれるならばと、墓所について次のことを語り、墓所へ案内してくれる決心を固めます。
●アムルによると、くだんの遺跡はつい10日ほど前の日暮れ前、隣町からの仕事帰りに見つけたのだと言います。
街道のそばにあるマレオティス湖畔のとある崖で、遠目に先ほどのミイラ男が見え、奇妙に感じたアムルが翌日に男の立っていた場所を調べると、崩れた岩場に隠された遺跡の入り口があったというのです。
偶然は重なるもので、遺跡の入り口を見つけたその日のうちにアムルはハミルトンと出会い、遺跡に興味を持ったハミルトンに雇われたのだといいます。
●遺跡の調査を進め、ついにハミルトンと弟アーミルが先頭になって遺跡の扉を開くと「暗い紫色の煙のようなもの」が内側から吹き出したといいます。それは先ほど、ミイラ男がアーミルに吐きかけていた息と同じようなものだったといいます。
ハミルトンと弟が恐怖に満ちた叫びをあげて倒れ、それ以降は意識不明になりました。アムルと作業員たちは呪いを恐れ、それ以降は遺跡に近づいていません。
●ただ、2人が倒れて騒いでいる間に、作業員のひとりが遺跡へ入って行ったと言います。その男は日雇いで参加していた東洋人で、声をかけても振り返らず遺跡の闇へと消えてしまったということです。
●アムルと作業員たち(遺跡に消えた東洋人含む)は、ハミルトンに「遺跡の所在を他人に漏らさない」という契約を結ばされているため、案内する前に契約の確認が必要ではないかという疑問を、PCたちに投げかけます。
ハミルトンのホテルへ戻ると、慌ててトーマスがPCたちを迎え入れます。
「ハミルトンの容体が急変したのです。急に苦しみだし、『神官に首を絞められる』などと、わけのわからぬことを叫びだしまして」
その後、ハミルトンはさらなる高熱を出しており、このままでは数日もつかどうかという病状になっているといいます。
秘書のトーマスに経緯を話すと、「ハミルトンが危急のときなので、守秘義務については問題ありません」と許してくれます。
もし作業員の契約書まで見たいと望むなら、見せてもらえます。遺跡奥へ入って行ったという東洋人の契約書には、「タテルベ・タカアキ」とサインされています。 |
☆導入4: |
●アムルに「イスメンディの墓所」へ案内してもらうことになります。
「イスメンディの墓所」は、アレクサンドリアからマレオティス湖畔を馬車で3時間ほど進んだ場所にあります。馬車はトーマスとアムルが手配してくれます。
墓所の入り口は、街道から少し離れた湖畔の崖の一角にあります。その入り口は石扉で固く閉ざされており、それを見たアムルが怪しみます。というのも、東洋人が中に入り込んだことと、ハミルトンとアーミルが倒れた際に急いで引き上げたため、墓所の入り口は開かれたままになっていたはずだというのです。
入口までPCたちを案内したアムルは、遺跡の中には入りたがりません。明らかに呪いを恐れています。
もしPCがまだイムセティに水を汲んでいない場合、その旨を指摘してあげてください。入り口の目の前には、広大なマレオティス湖があります。
●PCたちは石扉を力ずくでこじ開けることによってのみ、墓所の中へ入ることができます。特に判定は必要ありませんが、全員が力を合わせることによってようやく開くことができる重さです。
重い石扉ですが、一度開き始めると、ゴゴゴと音を立ててひとりでに開き始めます。
そして真っ暗な遺跡の中から、紫色の煙が吹き出してきます。――しかしそれはただの煙ではなく、ミイラのような虚ろな眼を持つ、無数の人型のかたまりだったのです!
⇒PC全員は、恐怖判定を行います。
さらに、この煙には毒性があります。恐怖判定の結果とは関係なく、PC全員は、まずは問答無用でMPに1ダメージを受け、次に〈体力の能力値〉ロールを行います。失敗するとHPに1D6のダメージを受け、成功ならその半分(端数切り上げ)を受けます。
紫の煙は見る間にPCたちを取り囲み、猛烈な力で遺跡内部へPCたちを引きずり込みます!
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目次 |
4.「イスメンディの墓所」タイルMAP完成図/ 5..神々のキーカード |