|
ある日、SNE本社の隅っこで。
ピザまんをほおばる河野の背中を蹴り倒し、秋口先輩は言いました。 |
秋口 |
「今からお前には、T&T紹介用のプレイレポートを書いてもらう」 |
河野 |
「な、なぜっ! T&Tの紹介記事は先輩方へのインタビューだって決まってたじゃないですか。いまさら僕みたいなペーペーのプレイレポートなんて……」 |
秋口 |
「えぇいうるせぇ、オレはカゼ気味で機嫌悪いんだ。いいからさっさと書きやがれ」 |
河野 |
「ムチャクチャだー」 |
ムチャクチャです。
でも河野に、秋口先輩と戦う術なんてありません。
ということで、誰がなんと言おうと河野のT&Tプレイレポートが掲載せられてしまうのでした。
|
『河野によるT&Tプレイレポート』 |
T&T――トンネルズ・アンド・トロールズ。
プレイして、衝撃を受けました。……こ、これはTRPGなのか?!
いえ、プレイ感覚は明らかにTRPGです。プレイヤーが行動を宣言して、サイコロで判定したりモンスターと戦ったりして冒険します。戦闘システムなんかも分かりやすくスピーディーで、かなり優れているんじゃないかと。
しかしただ一点、どうしようもなく飛びぬけた特長が。
なんだかやたらとキャラが死ぬのです。
ノブを握っただけで、扉に吸い込まれて死にました。角を曲がると鉄球が飛んできて死にました。友達はクマになって、みんなから袋叩きに合って死にました。聞くところによると、頭の中がビールになって死んだりもするそうです。なんていうか、もう意味がわかりません。
この飛びぬけた死にやすさ。予備(死んだ時用)のPCを2、3体作ってからゲームを始めるべきだとアドバイスを受けるほどのアバウトさが、ある種T&Tの魅力になっているのかも。それはマリオなんかのアクションゲームに近い感覚かもしれません。この穴は跳び越せるかな? 無理かもしれない。でも、いってみよう!……前提として、死んでもいい。それは圧倒的な開放感です。
T&Tにおいて、宝箱の5割程度はトラップです。扉を開けるだけで、あるいは部屋の端から端まで歩くだけで――常にトラップの危機がつきまといます。そしてその大半は、ダメージを食らうなんて生易しいものじゃなく、そのまま死に直結する種類のトラップです。落とし穴は50メートルも掘っているし、魔法のトラップに引っ掛かるとPCの身体がグッピーになったりするし。せめて哺乳類のまま死なせてほしいものです。
どこまでもオーバーで、バカバカしくって、面白い。それを大勢のプレイヤーで体験していると、心底楽しくなってきます。本当は不条理で、とっても酷い目に合わされているはずなのに、次に何が起こるのか期待してしまう。そしてT&Tは、次々に無茶で笑えるシーンを演出して、見事に期待に答えてくれる。
面白ければそれでいいじゃない!
と胸を張って言えるのが、T&Tなのです。
おしまい。 |
さて、とにもかくにもレポートが出来上がりました。
河野はできたてほやほやのレポートを持って走ります。
さながらメロスのように。つまりは、死刑台に向かう気分で。
|
河野 |
「秋口先輩、書きましたっ!」 |
秋口 |
「ん、ナニを?」 |
河野 |
「何って……T&Tのレポートです」 |
秋口 |
「なんでそんなの書いたのさ?」 |
河野 |
「秋口先輩の指示、ですよね?」 |
秋口 |
「そんなのしらね。――あぁ、でもちょうどよかったよ」 |
秋口先輩は河野のレポートを手に取ると、それでチーンとハナをかみました。
|
秋口 |
「今年の風邪って、しつこいよね。なんかハナつまって息しにくいし」 |
河野 |
「くっそーっ!」 |
迷走するT&Tの紹介記事。
次の展開は――秋口先輩のみ、知るのです。 |
|