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TOP > ユーザーコンテンツ > エッセイ > 安田均の「ゲーム日記」第5回
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安田均の「ゲーム日記」 第5回 (1998年11月30日版)


 ということで、思わぬ収穫のあったラフェンズブルクを後にして、ぼくたちはエッセンへと向かった。
 これも列車での1日の旅。 実にいい。
 特にライン川を横目に見ながらの車窓は最高。
 と、思っていたら、町のそばに巨大な円形の建物を発見。なんと、あれは原発じゃないのか。ライン川という絶景と町のすぐ近くにこんなものがあるとは−−まあね、

原発がいいというのなら、あなたの家のそばに建てますか

 という意見があったけど、ホント、こりゃ、すぐそばだわな。ドイツって、妙に合理的で不思議な国だ(原発はなくしていくらしいけど)。

 そういえば、町並みには自動販売機はほとんど見られない。かわりに何があるかというと、きれいに分別されたごみ箱。そして、ちゃんと灰皿がついている。ヨーロッパは概して喫煙には緩いので、ぼくはとってもありがたいのだが(シェラトンみたいなホテルのエレベーターの中に灰皿があるのにはびっくりした。さすがに、そこでは吸いませんけどね)、これだけ灰皿付きごみ箱があるというのは、とっても嬉しい。後で行ったイタリアもタバコは吸い放題だが、ごみ箱がないので、吸い殻がまき散らされていたのにはちょっとねえ。

 つまり、そういった点がドイツ的環境主義や合理主義なのだろう。なんでもかんでも、目の敵のように反対して(あるいは、攻撃して)虱つぶしにするというのは、むしろアメリカ的ヒステリーじゃないのか、と最近ぼくは思っている。




 さて、エッセンのゲーム会場に到着。
 今年は、はじめてだった去年とはちがって、もう少し余裕をもって見て回ることができた。  それにしても、広い。
左はドリス・マテウスさん。
エルフェンランドのマップでお馴染み。
真ん中は旦那のフランク。

 今回は初日の木曜日からの参加だが、木金は比較的すいていることがわかった。それで、今年は入場者がもう一つかなと思って土曜日にも行くと、これが人の海。ほとんど何も買えないくらいだ。入場者数は去年と同じ、13万人くらいだろう。東京ゲームショーと同じ規模か、やっぱりすごいな。

 新作は、今年は去年よりもリキが入っている。
 ドイツでは、大きなボードゲームのショーが二つあって、一つがこのエッセンのゲーム祭SPIEL)、そして、もう一つが、2月に開かれるニュルンベルクの見本市だ。

 ニュルンベルクの方が業界関係の見本市ということもあって、新作はもともと多い。それに抜け目ないメーカーは、ドイツゲーム大賞が間近(6月)に控えていることもあって、印象が強いだろうと、近頃では新作はニュルンベルクの方に力を入れているようなところもある。
 エッセンのゲーム祭は、もともとファンが組織して始まったところもあって、はっきりいって‘お祭。でも、参加者は、このエッセンの方が多い。

 で、去年は思ったほどの新作がなかったので、今年はそう期待せずにざっと見て回ろうと思っていた。

 ところが、ところが。

 6ニムトの別バージョンとか、‘ボナンザ、海に行く’とか、クニーツアの新作2点とか、カタンの新作とか、なんだか新作がえらく多いぞ、という感じ。
 ぼくの性格として、あまりにもいろいろ興味を引かれるものがあると、そのどれかに集中できない(だれでもか)。
 うはー、新作がすごそう、よかった〜と思いながら、ついぶらぶらと回ってしまう。
 おや、ここは去年ホステトラーというおもしろいデザイナーと出会ったところだな、とぼんやり眺めていた。
 このデザイナー、スイス人で、かつては『クレムリン』(屈指の名作。ぼくは高く評価する)や『シュラウメン』(おもろい!)という傑作を作っていたのだけれど、最近はスモウと演劇に凝って、ゲームはときたましか作らないという困った人だ。
 ほう、今年はなんだかおもしろそうなカードゲームを作っているぞ、と思って手にとっていると、前にいた売り手の外人が目をきらめかせて話しかけてきたではないか。
 はあ、どんなゲームだって? なんだかゲームの説明がよくわからないぞ、と思ったら、そばにいた息子が、

‘父さん、この人、ホステトラーさんだよ。去年会ったって、言ってるんだけど……’

 はっ、はあ〜? あなた、あの立派なお髭を剃っちゃったんですかあ〜?! そりゃ、全然わかりませんわあ〜。

 こうした再会とか、デザイナーと話のできるのも、エッセンのゲーム祭の大きな魅力だろう。聞けばその新作『コスミック・アイデックス』COSMIC EIDEXは、伝統的なトランプゲームのヤスをホステトラー流にもっとおもしろくしたのだと言う。それともう一つ、お得意のユーモラスなコミュニケーション・ゲーム『アノ・ドミニ』ANNO DOMINIも作ったらしい。
 ほう、がんばってるじゃないと思いつつ話をしたが、興味の中心はやっぱりスモウ。組み手がどうのこうのと、あんた、そりゃオタクだよと思いながらも、ぜひ今度はスイスのゲーム大会に来てくれということで別れることとなった。

 そう、参加者も多いが、どこにデザイナーがいるかわからないと言うのも、このコンベンションの特徴だ。

 クラマー(6ニムト)トイバー(カタン)クニーツア(モダンアート)くらいになると、サイン会があるとどこかに書いてあるので、そこに行けばいいが、他のデザイナーたちになるとどこにいるのかさっぱりわからない。
 そうした彼らを見つけて話を聞くのも楽しいのだが、今回、思いもかけずに出会えてありがたかったのは、ラインハルト・シュタウペ
 でも、シュタウペといっても、まだまだ知られていないと思うので、どんなゲームを作ったか書いておこう。
 2〜3年前から、『スピード』『カムバック』といった、こぶりなカードゲームでゲーム大賞の候補作に続けてなりだした新鋭だ。
 ところが、こうした候補作以上に、他のカードゲーム『シット!』『フィアスコ』『フィニト』などのウケが、日本のファンの間では特にいい。
 そして去年、はじめて作ったボードゲーム『バザーリ』と、無名のメーカーから出た『ダビデとゴリアテ』が、一挙に2作ともゲーム大賞候補作に入るという躍進ぶり。
 要するに、ゲームの切れ味がよくて、バラエティに富み、どれもある程度以上おもしろい。かつてのクラマー、トイバー、クニーツアのような雰囲気を持っている、実に有望なゲームデザイナーなのだ。
若いねぇ、
ラインハルト・シュタウペ

 で、彼のゲームがいくつか並んでいる小さなブースを見つけたので、そこにいる青年にきいてみる。

「あ、それはないんだけど、ぼくの会社で作ったこれはどうですか?」

「ぼくの会社で作ったって? あなた、ひょっとしてシュタウペさん?!」

 若い。どう見ても、22、3歳にしか見えない。
 最初は一瞬目を疑ったが、シュタウペ本人には、きいてみたいこともあったので、これさいわいとインタビューを申し込むことになった(詳細はこちら)。
 あとで判明したのだが、実年齢は30歳ということ。なんとなくほっとしたけれど、彼のようなデザイナーがつぎつぎ出てくれば、ボードゲームも安泰だろう、きっと。




 ところで、エッセンのゲーム祭は、ボードゲームだけではない。ロールプレイング・ゲームRPG)やトレーデイング・カードゲームTCG)もけっこう盛んなのだ。
『マジック:ザ・ギャザリング』は去年ほど派手なブース展開はしていなかったけど、相変わらず目についていたし、今年は、そのマジックを展開しているアミーゴ社が、ウィザード社との関係もあってか、『AD&D』の積極的な展開をしているのが目についた(その点でいくと、日本では『AD&D』は、ホビージャパン社ががんばらねばならないことになりますね、いやいや)。
 後で会ったオーストリアの代表的なゲームショップ<シュピーレライ>クリストフさんに聞くと、ボードゲーム、RPG、TCGの人気の割合はそれぞれ3分の1ずつくらいと考えたらいいそうな−−まあ、これはオーストリアの状況かもしれないが、オーストリアはドイツと同じ文化圏(どちらもドイツ語)だから、ドイツも似たようなものだろう。現に、ここエッセンでもRPGやTCGの別ホールがあって、若い層はどちらかというと、そちらに熱中しているようなところもあるからだ。ぼくなどにとっては、こうしたゲーム配分は理想のゲーム環境だと羨ましくもあるのだけれど……。
 で、後の1割はなんだと聞くと、パズルやアブストラクト・ゲームらしい。むう、これもいいなあ。よくできた、そうしたゲームはおもしろいものなあ。




 さて、今年も古ゲーム屋のコーナーはすごかったが、去年ファースト・コンタクトをすませたから、今年はそれほど驚かなかった(去年は、買って送ったゲームがダンボール箱15、今年はわずか4つだったのを見ても、いかに去年が狂騒状態にあったかが、わかろうというもの)。
 でも、相変わらず、壮観ではある。数えてみたら、21軒あった。こうした店のゲームは、実はこの大会のために、ファンが有志で集めたリサイクル的なものも多いそうである。だから、通常のショップさんではない。あまり、安いからといって、大量に買うのはちょっと問題があるなあと反省もした次第(でも、去年、ぼくの買った量なんて、たかがしれてます。どれだけたくさん並んでいるかは、じっさいに見ればわかるはず)。

 もっとも、その分、こんどは珍しいゲームに目がいくことになる。まあ、こんなものかな、今年は落ち穂拾いみたいなもんだと思って、ある店の上に飾ってあるゲームを見て愕然。
スクェア・マイル
SQUARE MILE


 あっ、あれは『スクェア・マイル』! 1960年代初頭に、アメリカミルトン・ブラッドレー社が出した、土地を買って、開発して、売ってという経済ゲームのクラシックじゃないか。内容も当時、斬新だったけど、中のコンポーネントも豪華で、アメリカでもなかなか見つけられないのに……どうして、ここ、ドイツなんかにあるんじゃあ!

 以前、イギリスのボードゲーム雑誌の<いまは絶版となったあの名作>コーナーで読んで、気になっていた現物がここにある。
 おそるおそる、あれは買えるのかと聞いてみる。売場の兄ちゃんは、おお、わかってるじゃないかというようににこにこすると、ちょっと高いけど、という感じで価格を言ってくれた。日本円で5桁か、なるほど他の古ゲームより1ケタ上だな。そりゃ、アメリカの貴重なゲームだもんなあ。
 だけど、ここで買い逃すと、一生買えない(つまり、遊べない)かもしれない……古本でもそうだが、この感覚が、じつはぼくは好きなのである。後でも一生懸命探すと、たいてい手に入るんだけれど、そのときにはもっと高くなっていたりして、くそ〜、あのとき買っていれば、と思うことになる。
 そこで、迷わず買ったのだが、なにしろ、昔のアメリカゲームは箱がでかい。壊れるのがこわくて送れず、持ち帰るのにえらく苦労した。アメリカのゲームをドイツで買って、日本に持ち帰る……江戸の仇を長崎で討つ、とはちょっと例えがちがうが、なんだか妙な気もした。




 エッセンのゲーム祭では、また各国のいろんな人と出会うことにもなる。今回は、アメリカのショップさんでボードゲームの普及に力を入れている<ファンアゲイン・ゲームズ>ハーパーさんや、さっきも書いたオーストリア<シュピーレライ>というショップのクリストフさんらと(たまたまいっしょに)出会うことができた。各国の生の状況を聞けるというのも嬉しい。
左がクリストフさん
真ん中の背の高いのがハーパーさん
真ん中で大きな顔をしているのが、カイ


 オーストリアの状況は、ほぼドイツと一緒ということらしい。他のヨーロッパ諸国では、フランス、イタリア、オランダなどはそんなに目立ってはいないが、このところスウェーデンの動きが活発になっているらしい。イギリスウォーハンマーのフィギュアゲーム以外は、長期低落傾向のままみたいだ。

 そして、なんといってもアメリカ
 ボードゲームは、かつてはアメリカやイギリスで黄金時代を迎えたのだけれど、70年代に入る頃から、まずウォーシミュレーション、ついでRPG、そして、コンピュータゲーム、そして、いまはTCGと、チャンピオンになるゲーム形式が登場して、やはりボードゲームはもう一つという感じだ。
 特に今年は、ウォーシミュレーション以外に、ボードゲームでも代表格だったアバロンヒル社が業績不振で、ハスブロ社に買収されるという大きな動きがあったばかり。
 これについては、ハーパーさんは、たぶんハスブロ社アバロンヒル社のコンピュータゲームにメリットを見出して買収したのだろう、という意見だった。ぼくらにとって、いちばん印象の強いアバロンヒル社のボードゲーム資産については、もともとハスブロ社は極端に一般向けの製品(つまり、『モノポリ−』のように、これまで定評のあるメジャータイトルか、原作ゲームのようなもの)しか出さないので、さして興味はないだろう、という悲観的な見方だった。

 ただ、アメリカでも、最近のドイツボードゲームがおもしろいというのは、少しずつ認識されつつあって、そういった方面へのシフトは今後起こっていくかもしれない、と言う。
 確かに、一般ゲーム誌であるゲームズ・マガジンのベスト100などには、このところやけにドイツゲームの英訳版が目につく。ここ、エッセンでもリオグランデ・ゲームスというところが中心になって、ドイツの新作をすぐに英訳版で出版する動きが見られた。甦ったメイフェア・ゲームズ(スポンサーは指輪物語RPGを出しているICE社)や、アミーゴ社と仲のいいウィザード社などもボード/カードゲームをアメリカで出し続けているし、ラベンスFXなどもあることから、流れは徐々に変わっていくのでは、というのは正論だろう。

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