■ 目指したのはド直球少年マンガ!! ■ |
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えっと、これはわたしの個人的なイメージなんですけど……。 |
秋口 |
はい。 |
―― |
秋口さんって、HPのエッセイとかこれまでの著作を拝見する限りでは、わりと奇を衒った作品が多いイメージがあるんですよね。
でも『代表監督』は児童書で、児童書っていうのは奇を衒うよりも直球を狙うイメージじゃないですか。 |
秋口 |
そうですね。 |
―― |
だから、児童書と秋口さんって、最初はとっさにイメージ繋がらなくてびっくりした、というか……。
秋口さんとしては、今回児童書を執筆してどうでした? いつもと違うなって感じたこととか、気をつけたことなどありますか? |
秋口 |
そうですね、たしかに僕は普段、小説を書く時も読む時も……、奇を衒った作品が大好きですね(笑)。
でもマンガを読む時は、そういったものよりもド直球ストレートな、伝統的少年マンガ系のスポーツマンガやバトルマンガが大好きなんですよ。 |
―― |
ええ〜、そうなんですか? なんか意外です。 |
秋口 |
最近は『カイジ』とか『LIAR GAME』(※)みたいな駆け引きのあるマンガも面白くて好きなんですけどね。
でも、そもそもマンガってどんどん絵で頭の中に入ってくるじゃないですか。だから、もしかすると小難しいストーリーに向いた媒体ではないのかもしれない、という気持ちがあって。 |
※『カイジ』(福本伸行/講談社)
週刊ヤングマガジン掲載のギャンブルマンガ『賭博黙示録カイジ』を始めとする4編のシリーズの総称。
『LIAR GAME』(甲斐谷忍/集英社)
週刊ヤングジャンプ掲載の、こちらもギャンブルマンガ。タイトルの『LIAR GAME』(ライアーゲーム)というのは、作品に登場するゲームトーナメントの名称でもある。
いずれもかなーり濃い駆け引き要素が詰まっている作品だそうです。 |
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―― |
ふむふむ。 |
秋口 |
今回は小学生向けの作品ということで、どちらかというとマンガに近い感覚の方がいいかなと思って、普段の奇を衒った嗜好は若干封印し、ド直球少年マンガの路線を意識してみたんです。 |
―― |
なるほど〜。 |
秋口 |
だから、特に何に気をつけるとかはなくて、結局のところ自分の好きなことしかやってないんです(笑)。好きなことを好きなように、非常に楽しく書かせていただきました。 |
■ 「大好き」という気持ちを大切にすること ■ |
―― |
それでは次は作品について触れていきたいと思います。
このお話、主人公のポジションは「選手」ではなく「監督」なんですよね。 |
秋口 |
はい。主人公はできるだけ読者に近い立場にしたいなっていうのが一番にあって。
僕は小学校の時にサッカー部だったんですけど、明らかにプロになれる子とそうでない子っていうのはもちろんいて、その中で自分がそんな神懸った選手じゃないっていうのもわかってしまうんですよね。 |
―― |
ふむ。 |
秋口 |
でも、サッカーが好き! っていう気持ちは、プロになれる子もなれない子も同じように持っているし、例えばサッカーの試合なんかを観てる時に、なんでここでこの選手に変えないんだ! みたいことをすごい思ったりするんですよ。 |
―― |
サッカーが好きってことと、実際にサッカーが上手いとか下手だとかは関係ないですもんね。 |
秋口 |
そう、サッカーを好きな気持ちを持っているならどんな人でも世界に出られるんだ、っていう希望を持てるような作品にしたいな、と思ってこういう形になりました。 |
―― |
なるほど。 |
秋口 |
実際に、世界で活躍する監督の中には選手出身じゃない方もけっこういらっしゃって、今一番年俸もらってるだろうモウリーニョ監督(※)も、選手出身じゃないんですよ。 |
―― |
ほほう。 |
※ジョゼ・モウリーニョ
ポルトガル・セトゥーバル出身。
2010-2011シーズンからレアル・マドリード監督。
列挙すると大変なことになるくらいたくさんの記録とかタイトルを獲得しているすごい人。 |
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秋口 |
もとは監督の通訳スタッフだったのが、今や世界一の監督になってるんです。いろんなチームで1位とかカップとか獲りまくってて、頭おかしいんちゃうかって思うような無敗記録を樹立してたり、UEFAチーム・オブ・ザ・イヤー(※)に監督としては唯一4度も選ばれているんですよ。 |
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―― |
え、その賞2001年からってことはまだ10回ですよね? その中で4回はすごいですね! |
秋口 |
でしょう。そんなすごいモウリーニョに、誰だってなれる可能性があるんだ! ていう希望をこめてこの話を書きました。 |
■ 個性豊かなメンバーたち ■ |
―― |
モウリーニョ監督になる可能性を秘めた今回の主人公、篠崎ヒロト君は小学5年生の男の子。サッカーが大好きで、特に戦術を考えたり戦況を読むのが得意で、それに関するある特殊な能力を持っている。 |
秋口 |
最初はただ戦術を考えるのが得意なだけの普通の子だったんですけど、編集さんとの打ち合わせ時に、やっぱり夢のある設定にしたいよね、主人公はもっと特別な存在がいいよね、ということで特殊能力が付加されました。 |
―― |
なるほど〜。そしてこの能力を持っていたが故に代表監督に抜擢されるわけですが……。 |
秋口 |
普通に監督になるんじゃなくて、怪我をして降板したイタリア人監督の身代わりとして、顔中に包帯を巻いて指揮をとることになるんです。 |
―― |
わたしはナナメなオトナなので「いやいや、小学生ってすぐばれるやろ」って思わずツッコミいれちゃったりなんかもするんですけど。 |
秋口 |
(力強く)ええ、普通なら100%ばれますよね。 |
―― |
ばれる要素いっぱいありますもんね。でもそう思っていても、いつばれるかな、ばれたらどうなるのかな?! ってハラハラドキドキはしましたね〜。
身代わりでいることがだんだん苦しくなっていくなか、選手や観客に対してまっすぐ誠実に向き合おうとするヒロト君は、ものすごく主人公らしい主人公で応援したくなるいい子ですね。 |
秋口 |
ありがとうございます。 |
―― |
他のキャラクターもみんな個性的で、セリフとかも読んでいてすごく楽しかったです。 |
秋口 |
そう言っていただけるとありがたいですね。実はキャラのセリフに関して言えば、共著の八田祥治君の力も大きくてですね。 |
―― |
あとがきに書かれていた、戦術を担当してくださった方ですね。 |
秋口 |
はい。僕の個人的な友人で、SNEと繋がりがあるわけじゃないんですけどサッカーに詳しい人なので協力をお願いしました。
この作品は、キャラとストーリーは僕が考えて、戦術面全般と初稿の文章は八田君が担当してくれたんです。それを僕が直していくっていう形で仕上げていきました。 |
―― |
そうだったんですか。 |
秋口 |
なのでセリフのセンスなんかは彼のテイストが元になっていて、彼のおかげで普段の僕の作品よりもずっと元気のいい感じに仕上がりました。
キャラの名前もほとんどは彼がつけてくれて、実は僕が名前を考えたのは主人公のヒロトと戸田選手……(しばらく考えて)だけですね! |
―― |
ええっ?! |
秋口 |
ちなみに、ヒロトっていうのは僕が大好きなヴィッセル神戸の茂木弘人選手(※)の名前からつけてですね、戸田選手はちょっと前の日本代表だった戸田和幸(※)選手から。この方も大好きで、そこからつけました。 |
※茂木弘人(もぎひろと)
ヴィッセル神戸所属。ポジションはフォワード、ディフェンダー(サイドバック)。
抜群の身体能力で攻守ともに優秀、なかでも優れたスピードを生かした突破と巧みなポストプレーが得意。
戸田和幸(とだかずゆき)
ザスパ草津所属。ポジションはディフェンダー、ミッドフィールダー。
過激なプレースタイルに賛否両論あるものの、判断力の速さと左右両足の正確なキックが素晴らしい。 |
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―― |
なるほど〜。八田さんが命名した他の選手にも、元ネタになった人がいるのかな? 今度実在のサッカー選手の名前とか調べてみようかしら。 |
秋口 |
そういう楽しみ方もありですよね。 |
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それから、この作品はイラストもすごく素敵なんですよね! 試合のシーンとかめちゃめちゃカッコイイ! |
秋口 |
マンガ家さんだからなのか、一枚一枚の絵に非常に躍動感があってすごくいいですよね。ブロッコリー子さん大感謝ですよ。 |
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キャラの特徴なんかもものすごくわかりやすく描いてくださってるので、絵を見るだけでどんなキャラか想像できて楽しいですよね。 |
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