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2015年11月 著者インタビュー(1)

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『つれづれ、北野坂探偵舎 トロンプルイユの指先』
インタビュー

角川文庫から10月24日に発売されました『つれづれ北野坂、探偵舎』の最新刊「トロンプルイユの指先」
今回は『つれづれ、北野坂探偵舎』の著者である河野裕にシリーズの魅力についてインタビューしてまいりました。
本作に出てくる小説のあり方は物語の中でも大いに語られていますが、そのあたりをじっくりレポート。
緻密にして狂気的な河野ワールドがいかにして作られたのか……その秘密が今明らかに!

今回インタビュアーは黒田尚吾が務めさせていただきます。
2015年11月
記事作成 黒田尚吾


― はじめに―

――: 本日は、つれづれ北野坂シリーズ5巻目になります『つれづれ、北野坂探偵舎 トロンプルイユの指先』についてお話を聞きたいと思います。
河野 よろしくお願いします。
――: 早速ですが「つれづれ、北野坂探偵舎」1巻目が出た時にボスが河野さんにインタビューをしているんですが、今回このインタビューが初めての方もいらっしゃると思うので本作のざっくりとした概要を説明していただいてもいいですか?
河野 そうですね、大枠のジャンルは日常系ミステリーに入るのかなと思っております。とは言えあまりミステリーを書くぞ、と意識して書いているわけでは無くて、とにかく物語を書こうと思って書き進めたものです。
一番特徴的なのが主人公が2人いるんですが片方は視点人物にもなっている佐々波蓮司という元編集者。今は探偵業と喫茶店のマスターを兼業しています。で、言ってみればその相棒になる小説家雨坂続という男がもう1人の主人公です。
――: その2人が打ち合わせのようにやり取りしながら話が進んでいくという感じでしたよね。
河野 そうですね、作家と編集者という組み合わせですので、事件の真相の様なものを、手がかりを元に探偵みたいに推理してというものではなくて、このいま目に見えている手がかり情報を設定としてとらえた時に、どういったストーリーが考えられるのかってことを2人で話し合って真相に近づくという感じです。
――: そして1、2、3巻の構成とうって変わって前作と今作については構成が大きく変わった印象がありますね。
河野 もともとこのシリーズは職業的な信頼関係を中心に書きたいなという意識がありまして、言ってみれば彼らの日常といいますか、こういう風にこの二人は生きているんだって言うのを見せるのが前半3冊だっていう意識がありました。
後ろ4巻5巻になってくるとじゃあ彼らの日常が変化したときにどういう風な事が起こるんだろうという所に踏み込んでいくのがキモだと思っています。
――: この作品群の1作目である「心理描写が足りてない」を書いている頃からこの物語のゴールや道順を想定して書いてたんですか?
河野 編集さんとの話し合いで6冊ぐらいにしようという話はしてたんですよ。3冊1クールと考えて2クールぐらいを作りましょうかっていう話は早い段階からありました。
すごく突き詰めた作家とすごく突き詰めた編集の会話って中々納得しずらいんじゃないかなと思って、まずはそこに至るまでのグラデーションを作ったほうが良いなという意識があって、頭の方はちょっと感覚的に理解しやすいエピソードから始めてみましょうっていうシリーズでした。
だから、伝わらないんじゃないかっていう恐怖心をもとに作っていったらこういう展開になったという感じです。
――: 僕は前作と今作が特に好きで。どうしてかって言うと登場人物の考え方や行動の描写が狂信じみてる所があるじゃないですか。1,2、3巻の助走があったからでしょうけどそのストイックさに引き込まれた気がしてるんです。
河野 そうそう、だんだん狂気的になっていくんですよ。できるだけ熱くない狂気みたいなものを書けたらなと思っておりまして、淡々と狂っていくといいますか。
――: 特に主人公の蓮司さんがね(笑)。雨坂さんは最初からあんな感じじゃないですか。ただ蓮司さんが前作ぐらいから「お、コイツヤバいんじゃない?」っていうキャラに昇格して。
河野 元々平凡な人間と変人のコンビではないっていう意識はあったんですよ。2人とも変人だっていう意識はあった上で、佐々波蓮司は編集者というものを私がどうとらえているのかっていう所を中心に組んでいるキャラクターなので、表面的に常識人のふりは出来るキャラクターなんですね。
なので、そういう風なあなたたちの隣にいてもおかしくないキャラクターですよっていうのを頭の中で書きながら、だんだん深層というか深い心の部分に入っていったという感じですかね。
――: 佐々波蓮司の内側が徐々に解き明かされたという事ですね。
河野 そういう事になります。


―物語の行く末―

――: 今作はシリーズ共通の謎であった「紫色の指先」がかなり詳細にクローズアップされてるじゃないですか。これって物語が終焉に向かってるのかなって読者的には思っちゃうんですが、次回作でもう終わりという事でよろしいんでしょうか?
河野 次でまとまると信じているんだけど、どうなるか(笑)。
――: お、もしかしたらまだ次の次もあるかもしれないんですか?
河野 いや、でも次の巻が長くなる予感はしてるんですよね。やることを順番に考えていくと。次の話が2巻に分かれちゃうと私の中でちっちゃい汚点をつくってしまうので(笑)。
――: つれづれ次巻について現在執筆はなされてるんですか?
河野 してないです。
――: あははは!
河野 階段島シリーズの3巻を現在絶賛執筆中なので。
――: 頭の中でつれづれの着地点というかゴール地点は明確にあるんですか?
河野 分からないながら書くので分からないです。基本的に私のシリーズはラストの手前までそこそこ見えてるんですがラストは見えてなくって。
――: ええっ!?
河野 そこは自分にとっても分からないことを主題に書いてるのが大きいんです。
――: そう聞くと、自問自答しながら書いているという感じがしますね。
河野 そうです。書いてたら答えが見つかればいいなというか、半ば自分のために書いている所があるので。
――: キャラクターが原稿用紙の上で「ああ考えて」「こう考えて」っていう風にドラマが出来上がっていくんですか? それとはまた違うんでしょうか?
河野 んん~、徹底的にシミュレーションするっていうのが近いですね。こういう舞台設定とこういうキャラクター設定を準備したうえでじゃあこのキャラクターはこういう状況の時にどう行動するかを考えます。
――: ちょっと俯瞰で見る訳ですね。
河野 そうですね、もうひたすら推測する。自分で作るっていうよりはどっかに正解があるはずだからそれを探していく考え方です。
――: パズルや数式みたいな組み立て方ですよね。ロジカルと言いますか。
河野 なのでプロットが出来るときって作れたというより見つかったって感覚に近いですよね。ああ、多分これは正しいだろうって思ったことを書いているので。
――: その論理の組みあがり方と言いますかその過程が読んでて面白いのかなって思うんです。答えとその過程がとても理に適っていて奇麗なので。って思うとプロット出したり書き出すのすごく大変そうですね。
河野 いや~大変でした。トロンプルイユはその辺まとまってるかどうか自信ないですよ(笑)
――: 少なくとも僕はすごくスムーズに読めました。複雑なのにスラスラ読めるってすごいです。
河野 ありがとうございます。相当特殊な作り方をしていると思ってまして5人ぐらいの群像劇の内2つを主点として書いてる作品なんですよねアレって。なので私も書きながら滅茶滅茶だなって思いながらやってる所はあります(笑)。
――: 時間軸を考えつつ複数の物語が同時進行で進んでゆく所は本当に綿密ですよね。
河野 後半で雨坂が「この物語にはプレイヤーが多すぎる」って言うんですけど全く作者の嘆きそのままだったんです(笑)。
――: あははは(笑)。あれ魂の叫びだったんですね。
河野 プロット考えてる時からヤバいとは思ってたんですけどスムーズに読めたのならホントありがたいです。真相知ってる人たちが蠢く中で真相知らない2人の視点で書いているので書き手としてはすごくややこしい構造なんですよね。


―小説とは何か?―

――: 最初にも話したんですが1~3巻はミステリーっていう枠組みでって話してたじゃないですか。僕、前作と今作は小説がテーマの小説って気がしてるんですよ。何ていうか、小説への向き合い方というか色んな見方、価値観があるんだなって。
僕は今まで小説って何も考えずに読んでたんで特にそれが衝撃だったんです。河野さんからのメッセージと言いますかそれを受け取ったみたいな感覚を覚えました。
河野 そうですか(笑)。ありがとうございます。メッセージというより自分の考え方を確かなものにするために書いている意識が強いので、そう受け取ってもらえたのは面白いですね。
――: 作中に出てくるキャラクターのほとんどが小説に対する違った価値観を持ってて、そのどれもが正しいと思ったんです。だからこそ、そのキャラの行動に納得できるし、さらにそれがぶつかることで物語が動くってのが読んでてワクワクしましたね。
河野 「小説ってなんだろう?」という命題に対して間違った回答って基本的には無いはずなので。
――: 作中でも同じようなニュアンスがありますよね。
河野 考えれば考えるほど深みにはまっていく事ではあるんですよ。たいていの物がそうだとは思うんですが、パン屋さんだって「至高のパンとは」って考えた時に絶対深みにはまるとはおもうんですよね。
――: 小麦の質がどうだとかイーストがどうだとかね(笑)
河野 そうそうそう(笑)。じゃあ1万円の美味しいパンが本当に至高のパンなのかって思うんですよ。パンの歴史とはみたいなことも考え始めて。その辺の人が気軽に買える所から逸脱してそれは至高のパンなのかみたいなところにいくとそれはそれで面白い気がするんですけど。
――: 評価基準の話なってきますもんね。どこに重きを置くかというか。
河野 なので何でもいいこと、というか一般的な部分を私の中では小説が一番真剣に考えられるタイトルなので小説でやっていますということですね。


―小暮井ユキの話―

――: 今回はキャラクター数が多いという事なんですが特に主要人物である小暮井ユキにスポットをあてられている作品だと思うんです。
河野 そうですね。
――: シリーズを通して一番色んな経験をして成長してるのがユキな気がしてて。
河野 じゃあ、良かったです(笑)ユキには深いエピソードがありまして、元々1巻だけ出そうと思ってたキャラクターなんですよ。編集さんが「この娘レギュラーにしましょうよ」と言いまして。じゃあちょっと考えてみましょうかって言って、考えてみたら物語のパーツとして成立しそうな気がするんで、じゃあそれでいきましょうという形でシリーズを進めていったんです。この作品って本当は純粋に小説の話を書くつもりだったんですよ。作家と編集者という2点の話を書こうとしたはずだったんです。
でも小暮井ユキの立ち位置はその外なんですね。なのでそこでリアルとフィクションの対立項が生まれたんですよ。もともと小説内だけである小説の正解と別の小説の正解の対立項で書くはずだったのがより外側で現実とフィクションの対立もさせなきゃいけなくなったんですね。担当さんがユキをレギュラー化しましょうと言ったがために。それにより話が複雑化してる所があるんですよ。
――: 今作では特に現実とフィクションの構図がより明確化していますね。
河野 ようやくこのシリーズにおける小暮井ユキの立ち位置をちゃんと書けたというか、なんかようやく踏み込めたなというのがありまして1、2、3巻で勿論登場はしているんですが、巻き込まれた娘として書いている所があって、そのころから一貫してより引いた視点で見ているキャラクターではあるんですよ。もちろん1番と言っていいくらい作中では感情的なキャラクターではあるんですけど、一方であの感情は小説にどっぷりつかっている人たちの特殊な感情とは違うんですよね。
――: 俗に言う一般ピープル的な視点って話ですよね。
河野 で、その一般ピープル的目線の人がどんどん周りが狂気化していく中でポツンと入れられることによって物事の対比が際立つといいますか、小暮井ユキが重要にならざるを得ない立場になったんですよね。
――: 普通が異常になってるといいますか、周りがみんなおかしくなっちゃってますからね。
河野 色んな事と対比するキャラクターとしてしっかり仕事してくれてます、彼女は(笑)


―小説と河野裕―

――: この作品って小説が持つ絶対的な力によって成り立ってるわけですが、河野さんご自身も小説をお書きになっているということで、河野さんの目には小説というものがどう映っているんでしょうか?
河野 小説には相反する2つの想いがあります。1つは毎日小説を書いているので徐々にそれが日常化しつつあるんですね。例えば仕事されてる方とか学校に通ってる方と変わらない場所に小説というものがあるんです。
――: 当たり前にそこにあるという感じですね。
河野 で、それとは違う想いで私が作家になろうと決めて実際作家になれるまで10年ぐらいかかってるんです。その間、私は小説というものに本当に強くあこがれ続けていたので、この世界に正しい小説があるのなら、私には書けないものだという意識が絶対にあるんですよ。なので、私はまだ自分が小説家だって受け入れていないところがありますし、人では行けない所に小説家ってものはいるんだという意識もあります。やっぱり小学校、中学校、高校と色んな人の色んなことが決まっていく時期に私は基本的には小説の事をずっと考えてきたので、ある種の神様みたいなものにはなってますよ。
――: 小説を書きたいと思う動機って何なんでしょう?
河野 どう言っても正確ではないんですけど、私の中で一番本心に近いのは他のだいたいの事が嫌いだったっていう(笑)。小学生の頃が私一番ひねくれてて、1番現実が嫌いだったんだと思うんですよ。何もかも面白くないなと思っていて、現実逃避の1つとして小説というものがすごく好きだったんだと思うんです。唯一自分が安らげる場所という意識があったんじゃないでしょうか。
――: どういった所に魅力を感じたんですか?
河野 自由に思考できるところに魅力を感じました。例えば、これが正しいと言われていることがあるじゃないですか。現実ではそれって口にできないんですよ。割と小学生の頃からその意識があって、本当に正しい事って日常会話の中で本当は求められていないという意識があったんですね。それよりは相手が言ったことに対してその場で合わせる、どの角度で返すのかっていうラリーの方が大事で、でも私はこれが正しいんだってなかなか言葉に出来なくって。大人になったらそういうのは青臭いって言葉でまとめられちゃうじゃないですか。じゃあその青臭い言葉を中高生の時に口にしたかって言うと当時も青臭いと思ってたんですよ。もっと相手に合わせて馬鹿な話をするほうが正しいんだって言うコミュニケーションの意識があって、私の好奇心としては一般的に青臭いと言われていることを突き詰めていくほうが楽しかったんですね。そういう思考が自由なのが小説だったのでそこの居心地が良かったんじゃないかなと思うんですよね。
――: 気持ちや自分なりの正義を原稿用紙にぶつけていったんですね。
河野 書くだけに限らず読んでて何を受け取るかもそうだと思うんですよ。結局読書って半分は作者の文章を読んでいるんですよ、でもう半分は自分の頭で考えてる事だと思うんですよね。思考の手助けとして本を読むっていうのも1つの視点として間違いなくあるので読むにしろ書くにしろ、基本的には自分の事を考える、というか自分の考え方を考えることだと思ってて、それが気持ちよかったんでしょうね。
――: 自分の書いた小説をどう消化してほしいとかっていうのはあるんですか?それとも小説を書くという事は、自分本位でというか自分の為に書いているんでしょうか?
河野 後者ですね。読者の事を考えるようになったのは大学に入ってからで、それまで周りの友達があんまり本を読まない人ばっかりだったんですよ。なので私もあまり周りには小説の事をしゃべらなかったですし、1人孤独にやっていたのであんまり読者ってものを上手く想定出来なかったんです。あんまりそこを想像しないといけないという意識は当時はなかったんじゃないかなって思います。
――: 読者の事を考えるきっかけになった事って何かあるんですか?
河野 明確にこれがきっかけというものはないのですがだんだん真面目にプロになることを考えていって、その時に何が必要なのかって考えたら、もちろん読者がいるんだなって思ってちょっとづつ意識するようになりましたね。


―雨坂続の小説感―

――: 作中の主人公である作家雨坂続は読者をどうとらえているんでしょうか。河野さんとかぶる所があったりするんでしょうか?
河野 あんまりないですね。そもそも雨坂続は読者との距離感がすごく微妙なんですよ。というのは読者の事を考えて書くという言葉の定義が彼はちょっと特殊で、読者に分かるように書こうとか読者が楽しめるように書こうとかが読者の事を考えていることだと彼は思ってないんですね。結局小説って何なのかって言ったら、この世界で数少ないたった1人で作れるものがフィクションなわけですよ。その価値が何かっていったら作者1人がすべて決めてしまえるってことで。雨坂続は……作中で書いてないから言いにくいけどまぁいいや(笑)。
――: いいんですか?
河野 書いちゃっていいです(笑)。雨坂続が読者の事を考えて書くっていうのはどこまで自分をオープンにできるかなんですね。それを小説の価値だと雨坂は信じているので、なので読者に対して誠実であるっていう意図で雨坂は読者を考えて書くって言ってるのでそういう意味では彼は割と最初から誠実なんですよ。ただその読者を考えて書くって一般的な人から見て読者を考えて書いてはないんです。読者がわかるように書いてしまったら私が本当に考えてる事とはずれてしまうという意識が彼にはあるので、そこはもう読者に合わせるよりも自分の価値観で書いたほうが読者のために書いていることなんだという考え方なんですね。
――: なんだかもうそれだけで1本書けそうですね(笑) そういう所を意識して読むとまた違った楽しみ方が出来そうです。
河野 この小説に出てくるキャラクター達は変な哲学をいっぱい持っているので、楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
――: こうなってくると作家雨坂続のデビュー作であり、今作の副題にもなっている『トロンプルイユの指先』という小説を読んでみたくなりますね。あれ、読めないんですか?
河野 読めないですね(笑)。残念ながら雨坂は私よりも文才があるので。
――: 作者がかけないなら書けないっていったら読めないかぁ~。
河野 そうなんですよ、どうしようもないんですよね(笑)。それが主人公が作家である悲しいところで。音楽ならだましだまし演奏シーン書けるんじゃないかっていう意識があるんですが、小説の天才の文章を小説で書くのは無理ですよね。
――: 本編で相当ハードル上がってますしね、天才的な文章だって。
河野 そうそう、なのでもうないです(笑)。


―編集とのやりとりあれこれ―

――: あとひとつ気になったことがあるんですけど、すべての巻の副題って全部10文字じゃないですか。
河野 ええー、そうなんですか!?
――: 意図して書いてたんじゃないんですか?

心理描写が足りてない
著者には書けない物語
ゴーストフィクション
感情を売る非常な職業
トロンプルイユの指先

って並べるときれいに10文字なんですよ。
河野 ホントだ(笑)。今知りました、偶然ってあるんですね。
――: 流石に5巻続けてなので、何かあるんだって思いましたよ。じゃあ次の副題も10文字で(笑)。
河野 それを聞いちゃったら意地でも変えたくなっちゃいましたね、2文字とかにしちゃいそう。
――: 副題も勿論河野さんが考えてるんですよね?
河野 考えてます、考えてます。むしろメインタイトルに関して私考えてないんですよ。『つれづれ、北野坂探偵舎』は編集さんから出てきた単語で私はそれを並べなおしただけで、オリジナリティーは読点を打っただけです。このシリーズ編集さんのいう事を結構聞いてるシリーズで、ユキの話にしてもそうですし。「ちょっと編集さんのいう事きかないといけないぞ」サクラダが終わったころに思ってたんですよ。なので結構いうことを素直に聞いて書いてるんですけど、この間編集さんとお話したら私はどうやら言う事を聞かない作家らしくって、すれ違いがあるなーと思いました(笑)。
――: 最後の引きで毎回ドキドキするんですが今作の「トロンプルイユの指先」の引きは鳥肌立ちました。詳しくネタバレになるのでは言えませんがゾクッとして、凄く先が気になります。
河野 ありがとうございます。そこもね、1巻で編集さんに引けって言われたんですよ。1巻で引いちゃったから全部引こうみたいな感じで。ちゃんと終わるんですかね?
――: 作者が読者に聞かないでください(笑)。
河野 今作もわりと書けないだろっていう意識はあったんですよね。結構佐々波が天才の定義について考えてるじゃないですか。アレだって書くって決めてから考えましたからね、常々考えていたわけではなくって。ちょっと旧知の編集さんと飲みながら天才的な作家って何だと思いますみたいな話をしつつ色々と自分の中で煮詰めていった天才感みたいなのが書けてたらいいなと思います。
――: 今回天才が2タイプ出てきますよね。
河野 どっちが本当に正しいのか、どっちが本物の天才と呼べるのかみたいなことを話してるんですけど、作家の天才ってはたから見ればそこまで飛びぬけていないイメージがあるんですよね。一般から見てどこが天才なのか分からないと思っているんですよ。本当にフィクションでファンタジーでやってしまうなら、書いた本を読んだ人たちが順次自殺していく作家を出してしまえば天才性としてすごく描写は楽なんですけど、それはより正しい作家の天才性ではないと思うので、私が納得できる作家の天才性を割と真剣に考えましたね。
――: 今作でそれが語られているという感じでしょうか。
河野 正確に言えば出題というべきでしょうか。
――: ではその答えが最終巻で語られるわけですね。僕キャラクターがどうなるかも気になるんですが、小説というものの答えが作中でどう表現されるのかが個人的にすごく気になってるんです。
河野 私には恐怖しかないですね(笑)。プロット的には頑張って考えましょうですから。
――: 今作で天才って単語何回出てきたかって話ですよ(笑)。
河野 私が天才大好きなんですよね。ずっと作家にあこがれてきたので天才的な作家って大好きなんです。
――: 作中でその愛をひしひしと感じました。この作品を読んだ後、自分が書評家になったような気分になれる作品なんですよね。普通では深く考えない小説の事について深く掘り下げているので。
河野 おお、それはありがたい。
――: という感じで、そろそろお開きの時間ですね。
河野 中々くどい話だったんじゃないかと思います(笑)。


―最後に―

――: では最後に何か一言お願いいたします。
河野 1巻から恐れ恐れ進めてきたのがようやく本題に差し掛かってきたところはありますので。「本当に書きたかったのはこういう話だったんだな」ってことを考えていただけたら。「1巻からこれでも良かったよ」っていう読者がいるとすごくありがたいですし、「助走があって良かった」という読者がいたら助走つけといてよかったって思いますし、「助走をつけてもついていけません」って読者がいたらごめんなさいこれがやりたかったんです、って感じです。
――: 僕は1、2、3巻の流れがあっての4、5巻だと思いましたし是非、通しで読んでほしいですね。
河野 最終巻はもっともっと狂気的に書けたらと思いますね。もう本当にそれだけです。
――: ああーいいですねー! ぜひぜひ狂っちゃってください。今よりも尖るとなるとゾクゾクしますね。
河野 ちゃんとその価値観を突き詰めているのかということを自問自答しながら書いていきたいと思っております。最終巻に向けて、徐々に加速していく狂気と小説への想いをぜひ感じてください!



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