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ボードゲームインタビュー(2017年11月)


ボードゲームインタビュー
『テストプレイなんてしてないよ』
『キルDr.ラッキー 19.5周年完全版』

 10月、11月とアメリカ人デザイナーによるボード・カードゲームが2点出ました。
 名前からしてギャグのようなパーティカードゲーム
『テストプレイなんてしてないよ』
 そして、あの名作の完全版
『キルDr.ラッキー 19.5周年完全版』
 これらのゲームをいち早く見つけてきて紹介した、グループSNE代表
安田均に話を聞きました。
2017年11月
記事作成:石野力


安田 ボードゲームファンのみなさん、こんにちは。安田均です。
―― 今回はグループSNEから出たばかりの日本語版ボードゲームについて伺います。
安田 よろしく。今回はちょっと違った切り口から始めてみようか。インタビュアーさん、どうでしたかエッセンは?
―― おおっと、予想外の始まりです。(笑) 毎年のことながら、出展側も参加者側もすごい熱気でした。あれからまだ、2週間しか経ってないんですね……。
安田 まだ興奮も抜けていないでしょう。念願のクニツィアさんにも会えたことだし。
―― ドイツ3年目にして、とうとうお会いできて! 緊張で何を喋ったか覚えていないです。
安田 うむ。さて、実はアメリカにもエッセンシュピールと同じくらい大きくて熱気のある大会(参加者20万人超え)があります。ジェンコン(GenCon)と言います。
―― アメリカもゲーム文化が色々あります。
安田 ボード・カードゲームは元々盛んだし、RPGやTCGも発祥の地です。それらを一斉に展示している大きな大会なんです。ここではドイツのゲームとはまた違う、いろいろ面白いものが出ています。今回話す『テストプレイなんてしてないよ』と『キルDr.ラッキー 19.5周年完全版』の2点のようにね。
【グループSNE】エッセンシュピール2017 現地レポート
ニコニコ動画 / ユーチューブ
GENCON49レポート
GENCON50の様子はTRPG専門誌『Role&Roll VOL.156』
「ゲームを斬るNEXT」で紹介しています


◆『テストプレイなんてしてないよ』
―― では、発売日順に聞かせてください。まずは『テストプレイなんてしてないよ』について。このゲーム、見たことも聞いたこともありませんでした
安田 そうでしょ。実はエッセンには来ていないアズマディゲーム(Asmadi Games)という会社のブースに隠れてたんです。アメリカではこういうタイプのゲームが多くてですね。まず『ブラックストーリーズ』のようなブラックなパーティゲームの流れがあります。ブラックストーリーズは水平思考型ゲームですけど、アメリカでは『Cards Against Humanity』という人間の尊厳をからかうようなお下品なパーティゲームが出ました。他のプレイヤーに人前では言えないようなことを尋ねるゲームです。そして一方では後から話す『キルDr.ラッキー』のような、これまでの発想とは逆を行くメタ的ゲームの流れ。これら2つの流れの最先端を走っているのが『テストプレイなんてしてないよ』というわけです。アメリカで10万個以上売り上げています。
―― パーティゲーム、コミュニケーションゲームということでしょうか。
安田 いえ、ちゃんと論理もあります。といっても、たまらないバカバカしさと面白さを備えた論理です。
―― デザイナーのクリス・シェスリクさんについて聞かせてください。
安田 まだ30代ぐらいの若いデザイナーです。『ローマに栄光あれ』『イノベーション』を作ったカール・チャデクと共作で『レッド7』というゲームを作ったことがあります。『レッド7』は初めてやったとき「何だこれ!?」と頭が混乱するようなゲームでね。クドさとはまた違う、異質な論理感覚のゲームを作れるデザイナーです。
―― いつ見つけられて、紹介することになったのでしょう。
安田 2年前の夏だったかな、ジェンコンへ行ってブースの前を偶然通ったとき、真っ白な箱に白黒の印刷で『We Didn't Playtest This at All』、つまり「テストプレイなんてしてないよ」とだけ書いて置かれているのが妙に心をくすぐりましてね。ゲームを作られる方ならわかると思うんですが、まるで試作品が置かれているような感じだったんですよ。「?」と疑問符を浮かべながらやってみると、とてつもなく面白い! 勝ったと思っていたら負けるし、負けても勝っていることもあって、はちゃめちゃなカードに驚きました。
―― 岡山のOGAさんへも持っていかれましたよね。
安田 持ち込んで遊んでもらったら、面白いと評判で。こんなに楽しんでもらえるならと版権交渉してみると、まったく無名のゲーム会社なのに10万個も売れていることがわかりまして。こりゃ間違いないぞと思いました。
―― いろんな方が面白いと言ってくださったおかげで、日本へも紹介されたわけですね。
   
安田 製作にもいろいろ苦労話があるんです。元版のゲームカードに書かれているのは、効果とフレーバーテキストだけなんですけど、フレーバーテキストの半分以上の意味がわかんない
―― ええっ?!
安田 アメリカンジョークやら、むこうのゲーマー用語・オタク用語が混ぜ合わされた凝ったフレーバーでね。当時アメリカに在住していた秋口ぎぐる君にルールは訳してもらったんだけど、フレーバーはそれでもわからない。現地の知り合いに聞いてもらっても、ゲーマーじゃないから意味がわからないと。これには参りました。
―― それは困りますね。
安田 困ってシェスリク本人に聞いてみたら「わかったよ!」と言って一晩で全部解説してくれました。(笑) ところがそこまでしてもらっても、まだ日本語にならないのがいくつか。アメリカンジョークみたいなものだとか、向こうの作品や製品をネタにしたものだとか。ここらへんは相談しながら変えていきました。むかし訳した『ドラゴンはダメよ』からとってきたりね。監修として、この部分はこあらだまりとしっかり見ました。納得のいくフレーバーになったと思います。
―― そして、元版にはなかったイラストです。
安田 はい。ゲーマーやデザイナーの方なら、元の試作品っぷりに込められた文章だけのギャグに気が付いてくれると思います。しかし日本でのゲームの広がり方を考えるに「字だけのゲームなんて」と思われてしまい、一般層へ訴えかけるにはちょっと弱いだろうと。そこでイラストを入れることにしました。ただ、ドイツゲームのようなどっしりした絵、きれいな絵というのは、このゲームに似合わない気がするんです。落書きみたいなイラストがいいだろうということで、グラフィック・デザイン担当松田実愛がゲームを楽しみつつサラサラっと描いてくれました。
   
―― 先程も仰っていた、このゲームの論理を教えてください。
安田 テストプレイをしてないという触れ込みだけど、ただのギャグゲーではないところがそこかしこに見えます。ゲームの導入からして3段階。はじめは簡単なカード・負けてもなるほどで終わるようなカードで遊んでもらいます。次にそれを過激化させる強力な星カードを入れます。カードの背面デザインも違うのでゲーム的に誰が強いカードを持っているかわかります。さらに何度も遊んで理解が深まったら、ゲーム全体にカオスをもたらす混沌カードを混ぜなさいというように。しかも、望むなら何枚も混沌を引いて効果を重ね掛けしてもいい。勝利方法も堅実に論理的にポイントを溜めて勝つこともできるし、トンデモカードで勝ったり負けたりもあります。ちょっとみただけでも、ただのバカゲーじゃないところが見て取れます。
―― カードにもセンスがたっぷりです。
安田 3種類のじゃんけんに、指の数プレゼント勝ったら負け道連れとかね。僕が何といっても好きなのは架空のプレイヤーを作り出してプレイさせるカード。負けたら架空プレイヤーのカードを引き継いで遊ぶんだけど、何といってもフレーバーが秀逸。「これでひとりでも遊べるね」。もう、センスの塊でしょ(笑)
   
―― 発売から大好評をいただいて増刷も決定しました。今後の展開はありますか。
安田 日本のゲーム好きな方々にこの面白さを理解してもらえて、本当にうれしいです。いつでもどこでもできるし、ちょっとした空き時間にも遊べます。粘っても10分ぐらいで終わりますし。アメリカでは続編が3つほど出てまして。普通の続編もありますが、名前からして笑えるのが『レガシー編』というもの。『パンデミック:レガシー』や『リスク・レガシー』のパロディです。と言っても本当に1回しか遊べないわけではなく、何回でも遊べますチェックマークをつけて、出たカードを見るための書き込みなので、消してしまえばまた使えます。本来のレガシーとはちょっと違う、レガシー「風」ですよというギャグの効いた続編です。Twitterでアンケートを取ってみたところ、普通の続編を望む方が多そうなので、ちょっと後になるかもしれませんが。なんらかの続編を出そうとは考えています。
―― GMマガジンとも何か企画を考えておられるとか。
安田 ブランクカードコンテストです! 自分で自由にカードを作れるように、何枚か白紙のカードが付属しているんですが、実際作るとなるとどういうのを作ればいいかわからない人が多い。そこで、読者の方々から様々なカード案を募ろうと思います。実際に遊んでみて面白かった優秀作は、イラストを入れて次号の付録としてつけようかなと。まだ企画段階なので確定はしていませんが、今のうちからいろいろ考えていただければと思います。



◆『キルDr.ラッキー 19.5周年完全版』
紹介動画
ニコニコ動画版Youtube版
安田 さて、こういう試作品風ゲームの大元となると、ジェームズ・アーネストチーパスゲームズは外せません。
―― チーパス、「安っぽい」という意味ですね。
安田 安っぽいけど、面白いゲームがいっぱい。ゲームマーケットでいうところの500円ゲームみたいなもので。ワンコインで買える、チャック袋に入ったようなゲームを出してます。で、その第1作目『キルDr.ラッキー』です。それまでのミステリーゲームをひっくり返してしまうようなゲームでした。
―― あれが1作目! 鮮烈なデビューですね。
安田 『死ぬ前にひとこと言ってやろう、ボンド君……』という、007のジェームズ・ボンドがモチーフの捨て台詞を吐くコミュニケーションゲームもあってね。これもべらぼうに楽しい。ほぼ同時に出たこれら2作で彼はデビューしました。96,7年ごろだからちょうど20年ぐらい前になるわけです。アーネストとの出会いと再会ちょっと前のインタビューでも答えていたので、そちらを見ていただくとして。
―― 19.5周年につながるわけですね。
安田 20ではなく19.5というところがアーネスト流のシャレが効いてます。日本で出すときには、20.5周年になるから変えたほうがいいかと聞いたんですけどね。「いや、やっぱり19.5周年がいいんだ。20周年のぎりぎり手前ってとこが気に入ってるんだ」とね。(笑) そういうアメリカのパロディ・ギャグセンスのある面白いゲームを安く提供しようというのがチーパスとアーネストさんの源流です。
―― サイコロだとかは自分で用意してくれみたいな。
安田 そうそう「何でもいいからコマを用意しよう」だとか「セロテープで張り付けてマップを作ろう」だったんです。ところがあまりにも人気と要望があって、とうとうボードとコマを付けてDX版として出したんです。
―― 元版はジェンコンで展示されていたそうですね。
安田 大会50回記念ということで、アメリカの歴史的なゲームが50作選ばれて博物館的に展示されていたんですが、古典名作として展示されていました。それが今回、きれいなコンポーネントと整理されて遊びやすくなったルールを引っさげて完全版として戻ってきたんです。
   
―― どのような変更がありますか。
安田 まず言わなければならないのは、ゲームが終わりやすくなったということでしょう!
―― これまではけっこう時間がかかっていました。
安田 このゲーム、非常にアイディアも素晴らしいし面白いんですが、ワンプレイに長時間かかりがちだったのがネックだったんです。アメリカゲーム特有の「長く楽しむ」が行き過ぎている面がありました。今のドイツゲームだとかは軽くパッと終わらせて、何度も遊ぼうぜというのが主流になっていますよね。それをアーネストは機敏に感じ取ってルールを整理しました。山札が尽きたらリシャッフルせず、誰が見ていようとも殺害チャレンジができるようになりました。根本から遊びやすくなり、アメリカ流軽いジョークゲームとして間違いのない出来になったと思います。
―― 近年のゲーム事情に合わせてリメイクしたんですね。
安田 さらに言いますと、ゲームが終わった後も継続して遊べます
―― 終わったのにさらに遊べると。
安田 そもそも『キルDr.ラッキー』はミステリー・推理系にある、誰が犯人かを探すという命題をひっくり返したゲームでしょ。誰が殺したかじゃなく、誰がどうやって殺すかを競い合う、倒叙ミステリーの形。それをさらに逆にした「殺されたラッキー博士が蘇って、プレイヤーたちを殺しに来る」というルールが拡張して追加されました! 通常通りラッキー博士を殺すのと、蘇ったラッキー博士から逃げて館から脱出する2ステージ構成メタのメタをはってきたルールなんです。他にも、みんなの眼がそっちに向いてしまう「ペット」という拡張ルールも入っています。
―― ボードも裏がありますね。
安田 そう、ボードも両面になりました。どちらを使うのも自由です。表はこれまで通りのラッキー博士邸裏は実在するホテルをモデルにしたボードです。やろうと思えば、このホテルでライブ的にゲームができちゃいます(笑)
   
―― 社長もこのゲームがかなりお好きと聞いています。
安田 そりゃもう! ベスト10を挙げろと言われたら、絶対入れます。間違いなくアメリカを代表する名作の1つです。何度も言いますがこれまでのアイディアをひっくり返したすごい発想のゲームです。ぜひ遊んでほしいです。
―― 誰がDr.ラッキーを殺せるのか、そして逃げ切れるのか、挑んでいただきたいと思います。
安田 この間のジェンコンでも彼はいろいろ変なゲームを考えていましたよ。例えば『ラッキー博士の島』H・G・ウェルズの『モロー博士の島』のパロディです。そう聞くと、合成されたキメラみたいな動物が襲ってくると思うでしょ。違うんですよ「島」が襲ってくるんです! 今言えるのはここまで! ぜひ、お楽しみに。


―― 最後に一言お願いします。
安田 アーネストがアイディアとして面白いアメリカゲームの流れを作ってきたところに、シェスリクがまたひとつ独特で軽妙なゲームの流れを混ぜこんできました。ドイツゲームは論理的に素晴らしい発展をしてきましたし、脱出ゲームやLARPという新しいゲームも出てきています。そういうのも遊んでほしいんだけども、アメリカゲームの伝統と斬新さが入り混じったこれらのゲームもぜひ、手に取ってください。メタの効き具合なんか日本人のセンスにピッタリだと思います。お正月、これらのゲームを囲んで楽しく遊んでください。
―― ありがとうございました。
安田 今後もさまざまなゲームを出していきます。どうぞお楽しみに!



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