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 > 安田均のゲーム日記特別版 シュピール‘14 レポート (4)


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10.大手コスモス突入
 ということで3日目
 この日の朝は開門の10時から大手コスモス社での打合わせ。9時半過ぎには開いているので、西の入り口からまっすぐ向かう。コスモスはフランスのゲーム会社連合アスモディと並んで、入り口前なのでどーんと目立つ。例によって「カタン」の新作と、『アンドールの伝説海版、それに今年は意外なアブストラクトゲーム風『7ステップ』を全面に押し出していた。
 ふ〜ん、予想外でおもしろそうだなと思っていると、奥の打合わせ室からおなじみの姿が現れた。イザベル・キャンベル女史だ。2年前の『タルギ』出版相談以来のおつきあい。相変わらず、元気でてきぱきしていて、貫禄も十分。『タルギ』が売り切れたことを報告すると、「おおー」と例の大きな動作と目を見開いて喜んでもらった。


 でも、コスモスクラスの会社になると、刷る規模が大きいので再版がなかなか大変。コスモスで印刷だと、最低でも再版は2000個だねと、両手を開いて大仰な動作。うんうん、それは去年も聞いた、その数だと初版もあわせて、ちょっと日本市場ではリスキーだ。こちらで少しは自由に印刷個数を決めて自分たちで刷らせてもらえるとか言ってたよね、と伝えて----後は、ごにょごにょ、こんな感じ。要するに、今回こちらからコスモスの第2弾『アサンテ』が出るから、それが好調なら即続編の『ジャンボ』とあわせて、こちらで『タルギ』も刷らせてもらうという形でオーケーしてもらえた。ちなみに『アサンテ』の箱の厚味が深いのは、続編『ジャンボ』を考えてのことです。ユーザーのみなさん、そういうことなので、ぜひとも今回の『アサンテ』をよろしく。これ『ベガス』や『イスタンブール』など、最近はゲーム大賞候補常連ドルン2人用名作、絶対おもしろいと思うよ。
 コスモス社ではその後もいろんな過去の名作や新作について、これはどうか?という感じで相談できたが、いまはまだ発表できない。でも、とても友好的にいくつかの作品については聞いてもらえた。

アサンテ
『アサンテ』
ジャンボ
『ジャンボ』

 新作については『アンドールの伝説』の続編が大型のボックスで登場して、今回のウリになっていたのが頼もしい(アークライトさん、早く出してね)が、こちらはやはり完全な新作に興味がある。そうしたぼくの顔を察してか、ほらどうぞと見せてくれたのが『7ステップ』。これは7色のコマを積み上げていって得点を競うわかりやすいゲームだが、特殊な行為のカードが20種ほどあって、そのスパイスが効いている。パズル風味(『サンスーシ』)が得意なキースリングと、久方ぶりにぼくの大好きな(『バザーリ』『ダビデとゴリアテ』の)シュタウペとが組んで作っているだけに興味は津々。持って帰って即遊ぶと、アブストラクト風味とはいいながら、じつに遊びやすくていい作品だった。アブストラクト系はドイツでは優先されるので、来年のゲーム大賞候補に入ってくるのじゃないだろうか。

アンドール 7ステップ

 他にも2人用ゲームの新作『狩人+斥候』や、人狼風コミュニケーションゲーム『ノスフェラトゥ』(フランス作品の新版)といった新作がおもしろそうだった。そういえば、コスモス社はドイツ大手では池田康隆の『夜の狩人(シャドウハンター)』を早くに出した日本ゲーム紹介のパイオニアでもあり、昨今の日本ゲームが好調なのはすごく気になっている様子。ぼくたちのゲームも見せてくれとなって、大いにありがたかった。今年は日本作品では菅沼正夫の『街コロ』が出ていた。他にもアメリカの『ドラゴンホード』の新版も出すということで、先の仏作品も含め、世界に目を向けだしているのが非常によくわかる会見だった。ちなみにイザベルさんのさんは日本のコミックの大ファン秋口ぎぐるが『進撃の巨人』のノベライズをしていると聞くと、大きな目を見開いて大喜びだった。


上:『狩人+斥候』
下:『ノスフェラトゥ』

『ドラゴンホード』



『進撃の巨人 隔絶都市の女王(上)』
 原作:諫山創 著:川上亮  講談社ラノベ文庫
 (※「川上亮」=「秋口ぎぐる」)

11.フランス登場
 それから偶然見つけたGEN−X社との打合わせをはさんで、昼からは今度はフランスマタゴー社。ここは先の池田君が最初に『シャドウハンター』の仏版を出してもらい、仏ゲーム大賞の候補になったつながりもある。マタゴー社の作品も初期の『クロノス』からぼくは好きで、最近は『人類の発展(オリジン)』『コルト』『カプチーノ』など意欲的な作品が続出している会社だ。フランスは近年、イスタリデイズ・オブ・ワンダーハリカンボンビクスイエロなど特徴あるゲーム会社が続出して活気があるが、そうした多くはアスモディ社の傘下連合という形をとっている。マタゴー社はそのなかで珍しく独立系ともいえるタイプだ。

人類の発展
『人類の発展(オリジン)』
コルト
『コルト』
カプチーノ
『カプチーノ』

 はじめてお会いするのは海外担当のヤン・バーテルハイマー氏。元グループSNEの池田君からの紹介もあるが、会ったとたん新作ゲーム嬉々として紹介する彼の姿に、思わずこちらも熱中してしまった。上記3つの作品はもう遊んだ(そのうちの1つはグループSNEとして日本版の交渉をしたけれど)と言うと、それならと闘技場の戦いを模した新作やシュピール合わせの2人用ゲーム『孫子』を熱心に説明してくれる。『孫子』はスピーディに片のつく心地よい陣取りゲームだった。こうして見ると2人用ゲームも結構人気があるようで、嬉しい。ただ、2人用はコスモス社のも他に何作か予定しているので、申し訳ないと言うと、さらにこの先の、フランスのカンヌ・ゲーム祭(毎年2月末からの3日間)用に進行中の作品も見せてくれる。


 なんと一つは今年『スプレンダー』で話題になった、M・アンドレ新作だった。これは題名『バロニー』といい、一種独特の陣取りゲームで遊びやすそうだし、かなりおもしろそう。


 ことのついでに、最近規模が大きくなって話題のカンヌ・ゲーム祭についても聞いてみたが、彼によるとエッセンに比べてまだまだ3分の1くらいの規模だよ、ということだった。参加人員が多いと聞いたが、と言うと、夜を徹してホテルなどでも遊ぶから、そうした人数を含めての数字だろうと、あくまで彼は謙虚だった。それはともかく、フランスのボードゲーム界に活気があるのはたしかで、それは彼の食いつくようにゲームを紹介してくれる姿にも映し出されているような気がした。『シャドウハンター』もリメイクが進められているようで、再登場することになれば喜ばしいことだ。

シャドウハンター
『シャドウハンター』

 契約も1件成立して、バーテルハイマーさんと気持ちよく別れたが、さすがに3件続けて打ち合わせると息が切れる。こうしたとき一服できるのは南入り口から入った上階にあるカフェテリア。込んではいるが、たいてい数人の席は確保できるし、テーブルでゲームをしても何の違和感もない。そこで打ち合わせたりしてる人たちもざらにいる。
12.気分転換
 こうした店で休憩するか、元気な旧友と仕事を抜きでしゃべれるなら、それが気分転換となる。つぎに向かったZ-MAN社ゼブ・シュレジンガー氏は、ぼくにとってそうした一人だ。


 以前『トレインレイダー』を日本で出したときにバネストの中野君らが推薦してくれ、彼は気に入ってくたが、ペンでの書き込みが時代遅れなのでちがう形にしてくれと頼まれた。その修正に手間取っている間に、次作の『マーメイドレイン』も気に入ってくれ、出版してくれた。ちょうどこの頃からZ-MAN社は『パンデミック』がヒットして軌道に乗り、同時に日本のゲームをアメリカから世界に紹介しようとしてくれていたこともある。
 ところが、そのうちZ-MAN社は厳しい状態になり、カナダの会社に買い取られた。ゼブはゲーム出版の責任者という地位は保ったものの、従来ほど自由が利きにくくなり、ようやくこちらが『トレインレイダー』を修正し直したときには、とても出せない状態になっていたようだ(こちらはそうしたことも知らず、費用のかかるマグネット方式など考えていたからのんきなものだ)。
 もっとも、状態がわかってからはこちらも無理は言えないので、エッセンに行っては「どうだい、元気?」と世間話を続けていたのだが、去年くらいから建て直しがうまく行ったような雰囲気なので安心していた。
 今年も「どうだい、景気は?」と聞くと、喜色満面「見てみろよ、わかるだろう?」と人だらけのブースを指す。『パンデミック』の続編人気や、ドイツの新作をうまく紹介したり、新作も好調なようだ。もともと陽気なタイプなので、こうなると元気がいい。ぼくたちの作品もどうだい、また見せてくれないかと聞ける余裕も出てきていたし、住まいもニューヨークからフロリダに移して健康そうだ。


 新作を見かけないので、どうしたのかと聞くと、トリックテイキングの『キメラ』やコンピュータゲームのキャラを扱ったコミカルな『The Battle at Kenble’s Cascade』、それに『卿と貴婦人』と言った自社タイトルは翌月出るそうだ。Z-MANはアメリカの会社なので、新作シーズンはオリジンジェンコンの7〜8月と、クリスマス休暇の11月下旬頃がメインになる。シュピールではむしろドイツゲーム新作のアメリカ版がメインになるということだった。
 フロリダのでかいワニのこと(カール・ハイアセンのミステリみたい)や、日本のゲームマーケットにも行きたいが、女社長が先に行ってくれないと、自分が先に行くとやばいんだよとか、おもしろおかしく語る姿には、3年くらい前の元気のなさとはうってかわって、こちらも気持ちがよくなった。

13.ペガススとスティーブ・ジャクソン
 さて、元気をいれなおしての、最後の2つの打合わせ。
 これらにはつながりがある。スティーブ・ジャクソンつながりなのだ。ドイツのペガスス社は、いまでこそドイツゲーム大賞を本賞で『キャメルアップ』、上級部門で『イスタンブール』と双方受賞して日の出の勢いだが、元々はRPG風のボード/カードゲームをアメリカから輸入販売し、それがメインだった。『マンチキン』がその代表だ。だから、スティーブ・ジャクソン・ゲームズとのつながりは深い(いやあ、ジャクソンも時代を見切ってますねえ。昔からペガスス社とつながってるなんて)。今回SJゲームズとも『ゾンビダイス』や『ナヌーク』の件でメールのやりとりをしていると、ジャクソンからはシュピールには行かない(彼は最近オリジンやジェンコンにも顔を出していないらしい。講演旅行などは行ってるみたいだが)が、なんならペガスス社の担当者を紹介しようと言ってくれたのだ。

ゾンビダイス ナヌーク

 いまをときめくペガススはどんな感じかなと、打合わせブースに行ってみる。さすがに内部はきれいにデコレートされていて美しい。最新作も見事に豪華にディスプレイされている。10年くらい前の『マンチキン』ばっかり並んでいる小さな輸入ゲーム会社ブースだった頃を知っているので、なにか妙な感じだが大したものである。
 紹介された会見相手アンドレ・ブロンズウィジク氏。話を切り出してから、ちょっとこちらの思惑とはちがうことが判明した。ほくは今回もペガスス社のすばらしい新作ラインナップを見て、そのなかからおもしろいものの日本語化権を交渉できるのかと思っていた。これまでのコスモス社やマタゴー社はそうだったからだ。ところが、ペガスス社の場合、そうした名だたるゲームは販売権だけあって、製造権(ひいては日本語化権)は各ゲームを出した会社と個別に交渉してくれと言うことなのだ。例えば、フェルトのXXはホールゲームズ社、リーネックのXXはエッガート社、などなど。
 もちろん、アンドレさんからの紹介と言うことでそれは可能なのだが、とてもシュピールにいるうちにそうした会社と顔を合わせることは無理だろう。明日には帰国なのだから。逆に氏が担当して、ペガススで開発した自社ゲームはどうかということに話は進んでいった。もちろん、そこでもポルトガル産のおもしろそうな作品があったし、クニツィーアの予定作などはいかにも魅力的だったが、クニツィーアにはもう先に寛大な申し出を受けている。ということで、何作か説明を受けた上で検討させてほしいということで、その場はお開きとなった。これはもちろん、こちらの勘違いなので申し訳ない。もちろんペガスス社の開発ゲームにもすぐれたものはある。去年の受賞作「イスタンブール」がそれだ。一方、同じ受賞作でペガススのマークは付いていても、「キャメルアップ」はエッガート社の作品の販売権を持っているということ。ペガスス社やフランスのアスモディ社は、こうした感じで各社を取りまとめているような感がある。そういえば近藤功司君も、初期にペガスス社に参加しないかと誘われたことがあったと言っていた。


ペガススの新作『フック!』

『イスタンブール』

 そして、最後にアメリカから来ているスティーブ・ジャクソン・ゲームズのお二方。かつてオースティンでも会ったボルセラ氏とジェプソン氏。にぎやかないかにもアメリカ風のブース(ペガスス傘下のメーカーの一画)で、現在進めているゲームの話を軽くすることができた。SJゲームズの新作は『マーズアタックス』。ダイスを使って、アメリカ各地の大都市を火星人がどう陥落させるかを競ういかにものバカゲー。とても遊びやすい。TMG社が出した、SGゲームズの『ゾンビダイス』に対するパロディ『マーシャンダイス』への、意趣返しもあるんだろうか?


マーズアタック
14.最後におまけ
 こうして3日目の打ち合わせ漬けも無事終了した。もちろん、会場には他にもいろんなゲーム、場所があり、めぐったところはとても全部書ききれない。
 最後に印象的だったのは、去ろうとした出口のところで、来春グループSNE/cosaicで出すジェイムズ・アーネスト註3)の『ゲット・ラッキー』(「キル・ドクター・ラッキー」のカードゲーム。非常によくできている)のドイツ語版を見つけたり、同じく今度出るクニツィーアの『ポイズン』のドイツリメイク版(元は米のプレイルーム社。こちらはアミーゴ社から)を見つけたりしたことだ。まさかあるとは思ってなかっただけに、これは何かの暗合だろうか。


『ゲット・ラッキー』

『ポイズン』ドイツリメイク版

 ということで、ここまでが今年のエッセン・シュピールゲーム体験レポートになる。一緒に付き合ってくれたグループSNEの面々、他の方々、どうもありがとうございました。
 この後、いつものユーゴ料理レストランで打ち上げをして、翌日ぼくらは帰国の途についた。行きと同じく、帰りもストライキで列車キャンセルがあったり(ニコ君、予約の取り直しありがとう)、ルフトハンザの荷物計量では、今回からびっくりするほど追加料金をとられたりなど、いろいろあったけれど、総じてすばらしいゲームの旅だったと思う。


ユーゴ料理レストランで打ち上げ

帰りの駅でトム・レーマンとばったり

 なによりすばらしいのは、世界中にボードゲームの波が着実に広がりつつあることで、今後しばらくそれは止まることはないだろう。こうしたゲームは頭を活性化させると同時に、コミュニケーションの大きな一つの道具と考えると、それはすばらしいことではないだろうか。


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