安田 |
で、考え出したらどんどんアイデアが固まって、2012年の夏頃には『GH13TG』のプロトタイプができていた。 |
柘植 |
6月か7月頃のある日、突然ボスがカードやシステムを一式作っていらしたんですよね、たしか。 |
―― |
実はこの作品、制作現場を横目で見ていた感じ、開発期間はかなり短かった、というか唐突に始まった企画だった印象があって、企画会議とかしてる風景が思い出せないなーって思ってたんですけど、そもそもそれ自体がなかった、と。 |
安田 |
ぼくは原稿など定例的になると遅いけど、新しいことを思いついたら実は速い(笑)。 |
柘植 |
そう、本当に突然のことでした。それで急遽デモプレイ版を作ってJGCやSNEコンベンションにも持って行って。付属シナリオは13本にしたい、というのもこの段階で提案されていたので、みんなでシナリオを作ってテストプレイをして、実は2012年の10月頃にはほぼ出来ていましたよね。 |
安田 |
だけどそこから紆余曲折があってね。
この作品をどこから出してもらうかいくつかの出版社やゲーム会社に打診して、一時はもう出せるかな、という段階まで進んでいたんだけど、今の日本では商業的な形で本格的なボードゲームを出すのはまだマーケット的には難しい、と言われてしまって。 |
―― |
主にコスト面の部分ですね。 |
安田 |
そう、どうしても5000円を超える。それで、海外のボードゲームと遜色のない本格的なものは、日本では出版社を頼んでいてもなかなかできない。
ゲームマーケットも年々広がってはいるけど、カードゲームがメインだったり限界1000個くらいの小さな形でしか今はまだ成立していない部分がある。
欧米のようにしっかりしたボードゲームの市場を日本に作るためには、まずユーザーさんに本格的なボードゲームをリーズナブルな価格で遊んでおもしろいと思ってもらうこと。そうすればもっと広がっていくだろう、ということで自社で出そう、という結論に至ったんだ。 |
柘植 |
それが2012年の暮れ頃でしたね。 |
安田 |
cosaicさんにも協力してもらって自社で出すことが決まって、そこから仕切り直したんだけど、それなら出版社と交渉している時に削ったコンポーネントを元に戻せるんじゃないか、もっとちゃんとした素材にできるんじゃないか、シナリオやシステムだってもっともっとおもしろくできるんじゃないか、と調整しているうちに時間がかかってしまって、発売が2013年10月1日まで延びてしまった。皆さんお待たせして申し訳ありませんでした。 |
―― |
すべてを自社で出すことになって、大変だったのはどういったところですか? |
安田 |
今回、製造や流通まですべて自分たちでやってみて痛感したのは、物を作るのはいろんな人が関わっているので、それぞれの役目が大事なんだなということ。 |
―― |
というと? |
安田 |
今まではクリエイターとして作品を仕上げるところまでがぼくらの仕事だったけど、作品を作って売るためにはその先が想像以上に大事で大変なんだな、というのが今の偽らざる気持ちです。
作品を作りあげたら終わりじゃなく、そこから始まる。作品が完成したら印刷をして、輸送して在庫の管理、流通経路の確保といった、今まで考えなくていいところまでやらないといけないから、すごくいろんなことが勉強になったね。昔、商社勤めをしていたからいくらかはわかってたけど、実際久しぶりだと大変。 |
―― |
何よりもまずぱっと目につく箱イラストがめちゃめちゃカッコイイですよね! |
安田 |
グラフィックアートはボードゲームではすごく重要で魅力のひとつなので、SNEと懇意にしていただいている方々にご協力いただきました。
箱やキャラクターは『GH』シリーズ初期の頃からずっとお世話になっている弘司さん、モンスターカードはモンコレTCGなどで活躍していただいている槻城ゆう子さん、アイテムカードは石在君のつてでマンガ家のあわじひめじさん、そしてスペシャルカードは『ウォーロック』というゲームブック雑誌時代からお付き合いのある米田仁士さんに描いていただきました。 |
柘植 |
槻城さんは『02』の時にもご協力していただいたこともあって今回お願いしたんですけど、初期からの弘司さんも槻城さんも、ほんとに『GH』を好きでいてくださるので二つ返事で引きうけてくださいました。
この後話をする『タルギ』も、箱絵を秋津たいらさんに描いていただいて、海外でも見た人たち、特にデザイナーから好評をいただいていますね。 |
―― |
そうですね。ボードゲームだけに限らないですけど、ぱっとイラストを見た時にいいなって思うと、それだけで興味をひくし欲しいなって思いますよね。 |
安田 |
以前、Role&Roll誌でSNE関連の記事を担当してくれている編集の刈谷君が「ボードゲームはとにかく写真映えするから、それだけでカタログなどになりやすい」と言ってたね。
最近でこそ、友野君がRPGのセッションをニコニコ動画の企画に出演しておもしろいものだと紹介してくれたけど、ぼくが広めた頃はボードゲームを映したらみんな喜ぶけど、RPGを外から映しても暗くてまったく楽しくない。 |
柘植 |
本とキャラクターシートと筆記用具で、サイコロくらいしか彩がないですものね。 |
安田 |
そう。だからグラフィックの魅力を活用して全面に押し出していくべき。まあ、もちろん中身が伴ってこそだけどね。
デザインに関しては、これはゲームを自社で製作もされているTANSANさんにいろいろと助けていただきました。無茶振りもいっぱいしたけど(苦笑)。 |
安田 |
このゲームは、ゲームを進行させていくGM的な役割の人がいてもいなくても遊べるようになっています。
制作中、それがきちんと機能するかどうかを制作に関わっていないメンバーに全シナリオ通してやってもらうテストをしたり。 |
―― |
わたしも参加して一通り遊ばせていただきましたね。もともと『GH』シリーズが大好きなので入りやすいのもあったと思いますけど、『GH13TG』はすごく簡単にさくさく遊べる印象がありました。 |
安田 |
他にも、ゲームストアバネストさんにも初期にテストプレイしてもらって、ずいぶん参考になりました、ありがとう。ユーザーの皆さんもそうだとありがたいですね。 |
―― |
最初に話に出た『ビトレイアル』もかなり昔に遊んだことあるんですが、ルールとかシステムがよくわかってない状態だったからかもしれないですけど、なんか裏切り者になった時が難しそうな気がして。 |
安田 |
『ビトレイアル』をアイデアのひとつに使ったから説明するけど、あれは誰かが絶対裏切り者になる。途中までは同じようにわあわあ言っていても、敵側に寝返ったらその時点で完全にボードゲーム的なやりとりになって1対多数の勝ち負けのゲームになるから難しく感じるんじゃないかな。 |
―― |
そうかもしれないですね。 |
安田 |
でも『GH13TG』はあくまでもみんなで協力してシナリオをクリアしようという協調型ゲームなんだ。1回意識を失うか一時的発狂をしてエネミー(敵側)へついても、協力して回復させることもできる。
ただ、これが不思議なんだけど、協力型ゲームだしエネミーになってもプレイヤーを勝たせてあげよう、という考えの人もいるだろうから、こちらでは本気でなってくれるかなと思ったんだけど、実際に遊んでみるとエネミーになった人はみんな本気でプレイヤーをやっつけようとするんだよね。あれ人間の不思議な心理でね(笑)。 |
―― |
狂気カードでロールプレイを織り込んでいる下地があるからかも? |
安田 |
RPG寄りな人は特にやりやすいかもしれないね。で、必死になってプレイヤー側をいじめるんだけど、そのくせ治してもらったら、はっとしてありがとう、とかしれっと言う。
そのへんは実際にプレイしてみて、思ったよりもうまくいったかな、と思ってます。そもそも、あんまりエネミーに回っても罪悪感がないよね? |
―― |
まったくないですね(断言)。 |
柘植 |
エネミーに回ったとしても、お互いにいやな感じにならないんですよね。 |
安田 |
判定とかで、プレイヤーをやっつけちゃっても、あ、ごめーんとか言いながら喜んでる。
必死にエネミーやってても戻る時は戻るし、全滅する時は全滅する。これはそこからもう一回挑戦する、という最近のボードストーリーゲームの流れのひとつでもある。
プレイ時間を約1時間と短くしたことで繰り返しがきくようにもなっているし、2回目はシナリオを知っているから楽になるかと思いきや、マップやイベントがランダムだからどんな展開になるかはわからない。 |
柘植 |
本当に、驚くような展開になることもよくあります。 |
―― |
シナリオが13本入って盛りだくさんですし、何度でも遊べますね。 |
安田 |
13本全部やって物足りなくなったら、自作シナリオも簡単に作れるよ。ストーリーのネタになる基本の最初の設定と結末と間の手がかりを出すだけ。 |
柘植 |
それだけでゲームができるのがお手軽でいいですよね。 |
安田 |
昔の、一番はじめの頃のRPGもそんな感じだったはずなんだよ。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とか『トンネルズ&トロールズ』とか、シナリオすぐできて、キャラクターがすぐ死ぬ。でもまたすぐ作れるから繰り返せた。それに近い感触があるのかもしれないね。 |
―― |
たしかにそうかも! |
安田 |
ただ『GH13TG』はボードゲームだから、RPGみたいに濃いロールプレイをして遊ぶ必要まではない。ロールプレイは向き不向きもあるけど、慣れていない普通の人でも楽しめるような形ですぐ作れて遊べる、というのがぼくの理想というか新しいRPGなんだ。
キャラクター性も狂気カードのやりとりで自然にできるようになっているしね。この部分はもともとの『GHRPG』のカードシステムがうまく機能してると思う。 |
―― |
『GH』の狂気カードって、他では見ない独特のシステムですよね。わたしRPGの時からすごく好きです、あれ。 |
安田 |
怖いもの見たさを表現するために作ったけど、ぼくもあれは会心の出来だと思ってる。
カードを引くと大変なことになるけど、引かないと救済もされない。最初はわかんないから引くの嫌だと思うかもしれないけど、引いてうまいこといくのが快感なんだよね。
それでうまくいかなくて狂っても仕方ない。そういうのがホラーだろうな、と思う。そこは『GH13TG』でもばっちり引き継がれているので、ぜひ楽しんでほしい。 |
―― |
はい。 |
安田 |
本心をいうとRPGとかボードゲームとか考えずに、おもしろいゲームをみんなでわあわあ簡単に楽しめて何回も遊べる、という形のものにしたかった。
シナリオもみんなで作ったおかげで、バラエティ豊かな作品がそろったと思う。 |
―― |
シナリオごとにまったく雰囲気が変わるので、どれをやっても新鮮でおもしろいです。 |
安田 |
たとえば友野君のはめちゃおもしろいんだけど、ストーリー的に懲ってるから後ろの方に並んだりとか、SNEのメンバーそれぞれの特徴が出ていると思うよ。
誰がシナリオ制作に携わったかは書いてるけど、どのシナリオを誰が作ったというのは書いてないので、ぜひ推測してみてください。 |
―― |
あと、もし遊び方に不安がある場合は同日発売のリプレイ『ゴーストハンター13タイルゲームリプレイ 1000の部屋を持つ館』や、HPで遊び方を詳しく紹介しているので、ぜひそちらを参考にしてみてくださいね。 |